LV1魔王に転生したおっさん絵師の異世界スローライフ~世界征服は完了してたので二次嫁そっくりの女騎士さんと平和な世界を満喫します~

東雲飛鶴

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第一巻

第4話 女騎士さんと事後処理

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 女騎士さんは、魔王の居室でひとしきり暴れた後、自室と侍女をあてがわれた。

 騎士の鎧と制服を脱いだ彼女は、すっぴんの「みささちゃん」であった。
 着替えの場に魔王・晶がいたらまた騒動になっていただろう。
 ボリュームのあるロングの金髪、澄んだ蒼い瞳。白い肌にほんのり赤い頬。
 まるで人形のような形容詞が連続する異世界の美少女は、残念なことに、あまりにもがさつであった。
 装備品は脱ぎ散らかすは、風呂場の床はビチャビチャにするは、侍女が顔をしかめるのに半日も要さなかった。

 身支度後、侍女が夕食を提供するも、女騎士・ロインは出された料理に手をつけず、人の作った料理を出せとの一点張り。仕方なく城下にある大使館から夕食をデリバリーすることになった。

「いくら客人扱いだからといって、あまり手間を掛けさせないで頂けますか?」

 と、侍女に文句を言われる始末だ。

「もぐもぐ……魔族の料理とか……もぐもぐ……食べても平気かわかんないし……」
「貴女もご覧になったでしょう。城下には人間も多く住み、互いの飲食店の利用も盛んですが」

 ごっくん、と口の中身を飲み込む女騎士さん。

「……私のことがめんどくさくなって、毒殺でもされて、でも表向きは食中毒とか心臓発作とか適当な理由で発表されてうやむやになるんじゃないか……とかふつー考えるでしょ?」
「ご冗談を。そもそも魔王陛下の命でお連れしたことになってるのですよ。不慮の事故を装って抹殺するなどありえない。陛下の信用問題にかかわることです。……つまらない勘ぐりはやめて、普通にお世話されてください、お嬢様」
「お、お嬢様……。なんか、懐かしい響き……」

 侍女は、はー、と大きなため息をつくと、食器を片付けはじめた。


                   ☆


 ロインは侍女が部屋から出て行くのを確認すると、ベランダから脱走を試みた。
 ベランダから左右上下を見回すと、案外イケそうな気がしてきた。
 彼女にあてがわれた部屋は、地上約4階ほど。最上階の魔王の居室に比べれば格段に地上に近い。

「こんだけゴチャゴチャと飾りがついてるなら、伝って降りられそうじゃないの。ふふふ」

 ロインは手すりを乗り越え、壁から張り出した装飾部分に足を掛け、ゆっくりと降り始めた。

「ま、まあ、ちょっと手探り? いや足探りなカンジだけど……だいじょうぶ……だいじょ――?」

 今まで彼女が外壁の装飾品だと思っていた彫刻が次々と身を起こし、彼女の足や腕を掴みはじめた。

「ぎゃ、ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ」

                  ☆

「ったく、何してんだよ。危ないじゃないか。どのみち城の外に出たって、「隷属の魔法」のせいで城下からは出られないんだ。そんな、女の子が着の身着のまま外国で迷子になって……。犯罪に巻き込まれてからじゃ遅いんだぞ? わかってる?」
「……」

 石像たちに捕まった女騎士さんは、衛兵に保護されたのち魔王にこっぴどく怒られた。
 そしてモギナスにお説教係がバトンタッチする。

「いいですか、ロインさん。この城には多数のゴーレムや魔獣、そしてトラップや魔導兵器が配備された、最新最強の砦でもあるのですよ。私だって立ち入れない場所もございます。うかつに出歩かれては、お嬢さんの命にも関わるのです。これに懲りて二度と勝手な振る舞いをなさらないように。明日ちゃんと城内を御案内しますから。いいですね?」
「わかったわよ」

                  ☆

 お説教から解放されたロインは、自室に戻るとベランダから魔都の景色をぼんやり眺めていた。

「はあ……。なんでこんなことになっちゃったんだろ……。逃げ出すのもムリ、か……。それにしても、あんなヤバいものが壁一面に生えてるなんて……ううう、思い出しただけでも恐ろしい。絶対今晩夢に出て来る……うう」

 ロインは女学校を卒業後、実家に居づらかったこともあり、たまたま「戦後の賑やかし要員に」と、女性を募集していた騎士団に入った。
 戦乱の長かった自国では、貴族の子女は男女問わず武術を身に付けている。そのためロインは難なく入団試験をパス。
 訓練過程を終えた彼女の初任務――安全な護衛任務に就いて……このザマである。

「はー……。私もしかして魔王のお后にされちゃうのかな。魔王が私のこと気に入ってるみたいだし……。いやいや、補償はするって言ってたから、じゃあもしかして魔王国の貴族になったりとか? うーんそれもないか……。
 でもやっぱなんとしてでも逃げないと……」

 曲がりなりにも貴族の生まれではあるが、政略結婚に利用されるほど身分が高いわけでもない。むしろ子供が全員男児でなかったために、実家は家督問題でモメている有様だ。これがまだ人間の国の国王なら、場合によっては喜んで結婚相手になってもよかったのだが……。

「でも、もしいい人なら魔族でも……いいかな、なんて……。いやいやそういう問題じゃ」

 急にいろんな事がありすぎて、ロインの頭はグチャグチャになってきた。
 このままではパンクしてしまいそうだ。

 ロインは侍女の用意したお茶菓子をベランダに持ち込むと、景色を見ながらつまんで気分を落ち着けた。

「それにしても――。なんでこんなに文明違うのかしら……」

 日の落ちたばかりの城下町には、家々にもれなく灯りが点り、通りはどこも明るく照らされていた。商業施設の多い区画では、良く言えばカラフルな、有り体に言えば色的に悪趣味な広告灯が輝いている。
 何らかの魔法を使ってあるのだろうが、一番進んだ王都でも見られない、美しくも禍々しい光景である。

 魔都も母国の王都も、いずれも戦火に巻き込まれてはおらず、戦前より原型を止めている。
 しかし、元々魔力が高く長命な種族でもある魔族と、ただの人間を比較して、どちらの方がより文明を発展させることが出来るかと言えば、明白だった。

「こーんな進んだ国と戦争して、よくドローに持ち込めたものね。……ま、人間側は数カ国の連合だったけど。あの人の良さそうな魔王を見てると、去年まで戦争してたなんて、とても思えない……」
「あの戦争、さっさとやめてもよかったのです、お嬢様」

 ロインの背後からストールを掛けながら、侍女が言った。いつのまにか部屋にいたらしい。

「お気づきでしょうが、我が国は人間の国の一つや二つ、いつでも滅ぼすことは容易でした」
「でしょう……ね」

「ケンカを売られた魔王様にとって、ただの暇つぶしだったのですが、売った方は相手の力量も分からず、止めどきも逸して数十年。昨年には言い出しっぺの王族も亡くなり、魔王様の暇つぶしに付き合うには国庫の負担もバカにならず、魔王様に黙って水面下で特使を送り、こちら主導で和平交渉に持ち込んだのです」

 あの男を見る限り、面白半分に何十年も戦争を続けるようには思えなかったが。

「はあ……」

 結局は、魔族の手のひらの上、だったってことか――。
 今の自分も、魔族の手のひらの上……。
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