LV1魔王に転生したおっさん絵師の異世界スローライフ~世界征服は完了してたので二次嫁そっくりの女騎士さんと平和な世界を満喫します~

東雲飛鶴

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第一巻

第3話 女騎士さんゲッツ

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 数日後のある晴れた午後のこと。

 魔王・晶が供を連れ、城下で物見遊山をしていると、大きな建物の中から騎士の一団が出て来てぞろぞろと目の前を通り過ぎていく。

「モギナス、あれは?」
「隣国の騎士団のようですね、陛下。人間の国の大使館まで、新任の大使を護衛してきたものと思われます」
「大使館か……。そんなものがあるってのは、やっぱここは平和なんだな」

 戦争中に連れて来られなくて、本当に良かったと胸をなで下ろす。

 ――ん?

 んんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんん!!!!

 あれに見ゆるは!!!!

 り、立体化したら正に、こ、こうなのか!?
 というか、現実にそんなことがあり得るのか!?

 晶は己の目を疑った。

「あ、あああ、あの、あの女の騎士は!?」
「あの者がどうかされましたか? 陛下……」
「あ、あ、あ、あ、あのあのあのあの、お、女騎士、騎士が、ああああ、本物が、本物があああ」
「落ち着いてください、どうされました」
「ああああああああ」

 あたふたする晶をモギナスがガッチリとハグする。

「どうどうどう」

 晶の背中をパンパン叩く。

「あ―っ、離せ! 離せよモギナス! あああ……行っちゃう……行っちゃうよお……俺のぉぉぉ!」

 ますます激しく暴れ出す晶。

「ま、魔王様がご乱心ですううう!」

 ジタバタする晶。
 必死に押さえつけるモギナスと護衛の兵士。
 訝しげな表情で通り過ぎていく騎士団。

(い、いかないでええええ!!!!)

 あー……、とその場で手を伸ばし、どんどん小さくなっていく女騎士の後ろ姿を見送る晶。

「え? いま、なんと?」
「俺の嫁があ――」

 この世界に彼の嫁などいるはずもない。
 彼の嫁は、元の世界。それも、二次元にいるのだから。

 じゃあ、あの女騎士は一体?

 その時、サークレットから電流のようなものが流れだし、魔王・晶の全身を駆け巡った。

「うわあああああああッ」
「陛下!? しっかり!」

 薄れゆく意識の中で、モギナスの呼ぶ声だけが何度も聞こえた。


 ☆ ☆ ☆


 晶が意識を取り戻したのは、王宮のベッドの上だった。
 そのまま自室で不貞腐れていると、数時間後モギナスがやってきた。

「陛下、お目覚めですか。ご気分はいかがですか?」
「まあまあ……」
「なにかお召し上がりになりますか?」
「そうだな。軽いものでも、ここに持ってきてくれるか」
「かしこまりました」

 しばらくして、メイドが軽食を運んできた。
 スープ、サラダ、そして魚介のオープンサンド。
 乗っかってるトレーも皿もさすが王族仕様、スイートルームに宿泊した気分だ。
 これで隣に愛しい女性でもいればハネムーン……。

「ああ……みささちゃん……」

 さきほど見失った女騎士を思い出し、胸が苦しくなる。
 それでも腹は空いてるので、出されたものは綺麗さっぱり平らげた。

 食後を見計らってモギナスがやってきた。

「陛下、スイーツはいかがですか?」
「いらない……」
「まだご機嫌直らないんですか? せっかくよいモノをお持ちしたのに……」
「そーゆー気分じゃないし」

 せつなさで、これ以上なにかを口に入れる気が失せている。

「まあまあ、ご覧になるだけでも。こちらにお持ちなさい」

 モギナスが部屋の外に声をかけた。
 廊下の衛兵がドアを開けると、大きなワゴンに乗せられた人のようなものが現れた。

「さあ、召し上がって下さい、魔王陛下」
「え――――。ま、魔族は人間を喰うのか!?」

 ふふふ、と意味深な含み笑いをするモギナスに戦慄を覚える晶。
 ゴロゴロと侍女の押すワゴンが室内に入ってくる。
 晶はこの世界に来て、初めて心底後悔した。

 ――そんな、共食いだと!? いや今の俺は魔族で……でも中身は人間なんだから、やっぱ共食いで……。しかし今は和平が結ばれて、人間を喰らうなんて御法度じゃねえのか? 俺は、人間辞めないとダメなのか????

(絶対ムリ! ムリムリムリムリ! 人間の活き作りとかムリだから!)

 おいしく調理された人間なんて、今の自分には、とても正視出来はしない。
 晶は両の手で顔を覆った。

「んーッ、んーッ」

 運ばれてきたのは、声からすると女のようだ。

(え? まだ、生きてる?)

 こわごわ、顔を覆った手の隙間から向こうを覗くと――

「ちょ! な、なんで!? なに拉致ってんの!!」

 手足をワゴンに固定され、猿ぐつわをされて呻いていたその人こそ。

「あの……、お気に召されませんでしたか? 陛下」
「そういう問題じゃねえ!」

 モギナスにそう吐き捨てると、晶はワゴンに駆け寄り、猿ぐつわをほどいた。

「大丈夫ですかッ、女騎士さん!」
「ふざけるな! さっさと解放しろ!!」
「そうだ、解放しろ!」

 城中に轟くほどの怒号を発したその女性は、つい数時間前、晶が城下で見たあの女騎士だったのだ。

 あれえ~? と首を傾げるモギナス。

「陛下、先程この者のことを俺の嫁、と仰っていたではありませんか?」
「私が魔王の嫁!? 何の冗談だ!」
「いやあのその……嫁というのは……そうじゃなくて……あうう……」

 急に及び腰になる晶。

「どういう事なのだ!?」
「どういう事ですか?」

 どうもこうもない。
 こちらの世界の人間に説明して理解出来るわけがないのだから。
 いくらモギナスと彼女に詰め寄られても、彼等が納得のいく説明など……。

 彼女が二次元の嫁と瓜二つだなんて。

「陛下がこの者に隷属の魔法をお掛けになったので、探して急ぎ連れて参ったのですが」
「そういう話じゃなくて、いやでもそういう話でもあるし……えーっと……え? 隷属の魔法?」
「はい」
「俺が?」
「左様でございますよ」
「は???????????????????????????」
「あの……もしかして、自覚なさっていない……とか?」
「左様も左様、俺、魔法の使い方なんかわかんねーよ。っていうかさっき頭の輪っかからものすごい電流が流れて……あー……雷な。そんでショックで気を失ったんだが……どういうこと?」
「あらら……なんとまあ……」

「おい! そこの二人! ごちゃごちゃ言ってないで解放しろ! 一体何の権利があってこんなことをする?!」
「ああ……そうですよねえ、ご、ごめんなさいごめんなさい、すぐ解放しますから……おい、モギナス」
「陛下はこの者がお気に召したのではないのですか? 本気で解放されるのですか? ……まあそれには少々問題がございますが」
「何? 陛下? って誰?」
「こちらにおわすは、魔王陛下にあらせられますぞ。汚い言葉遣いは慎みなさい」
「……ま、おう? ええええええええええええええ!?」
「あああああ、ま、魔王です、なんかすみません……俺も何が起こってるのかよくわかんなくて」
「いいですか。貴女は陛下に供するため、ここにお連れしたのですよ。いいから大人しくなさい」
「ちょ――――っといいかな、俺、連れて来いとか言ってないんだが」
「じゃあ私は勝手に誘拐されて魔王の供物にされちゃうところなわけ? はああああ????」
「申し訳ない……。おい、彼女の拘束を解けよ」
「しょうがないですねえ。おい、外して差し上げなさい」

 モギナスが使用人に命じる。
 女騎士の戒めはあっさりと解かれた。

「それで……どういう理由で私はここにいる?」
「な、なんでだろう……あはは……」
「私は王族に見初められたとか、そういうのじゃないのか?」
「ま、まさか、めっそうもない。魔法がうんぬんとか言ってたよな、モギナス」
「そもそも陛下がこの者をお求めになられたじゃないですか」
「いやその、ああ……えっとだな、それはちょっと……違うというか……」
「私を見初めた? 一目惚れ、では、ないのか?」

 かなり面倒臭いことになりそうな予感の晶、なんとかその場を流そうと誤魔化すことにした。

「あーもう、それでいいよ。うん。……そう。一目惚れです。俺は彼女に一目惚れしました。そういうことですー。でも連れて来いなんて言ってませんー。こいつが勝手にやったことですー。だからさっさと解放しなさい」
「なら、さっさと解放しろ! い、いくら一目惚れでも誘拐するような男と仲良く出来るわけないだろ!」
「ですよねえ……おい、」
「申し訳ございません、陛下。実はそうもいきませんで……」
「何でだよ。お前がフライングしたから悪いんでしょ」

 モギナスは、己の気配りが徒労に終わったことを悔やむように、深く深くため息をつくと、もったいつけたように話し始めた。

「――その者に、陛下が『隷属の魔法』を掛けてしまいました」
「なん……だと? この私に……隷属の魔法を掛けただと?」

 女騎士の声は震えていた。

「いやそれ……事故なんだ、事故。掛けようと思ってやったんじゃない。無意識で……やらかしちまったんだ。済まない」
「事故とはなんだ! 私は望まれてここに来たんじゃないのか! 納得できんが、せめてそうでもなければ耐えられない!」
「お静かに!」
「――で、隷属の魔法ってなんだ?」

 晶は尋ねた。

「なにぶんにも相手が人間の女ですので、いつ逃げ出すか分かりません。そこで陛下は、城下より外に出られないよう、隷属の魔法を掛けられたのかと……」
「は? いや俺、特にそういう魔法かけた覚えないんだけど。っていうか自分がどんな魔法使えるか知らないし」
「ううむ……。手放したくない、という強いお気持ちが、無意識的に魔法を発動させてしまったのかと存じます」
「じゃあ、やっぱり一目惚れなのか?」
「お静かになさい。今は陛下とお話し中ですよ」
「うっ……」
「で、それどういう効果なんだ?」
「まず、結界の外に出られなくなります。この場合、魔王都の城壁の外、ですね」
「そ、それから?」
「宝具を用いて命じれば、この者は陛下のご命令に従います」
「え……マジで」
「うわああああああああッ、此の世の終わりだあああああッ!」

 女騎士は絶望の叫びを上げ、床の上でジタバタしはじめた。

「とにかく、魔法を解いて解放しろよ、モギナス。俺、やり方なんか分からないぞ」
「それが……出来ません」
「えええええええええ」
「うわあああああんっ」

 ガチ泣きする女騎士。

 モギナスは晶の傍らに近づき、渋い顔で耳打ちした。

(いま魔法を解けるのは、本物の魔王様だけなんです)

「うそおおおおお――ッ!」

 晶は頭を抱えた。

「おま、これ完璧に誘拐じゃんか! どーすんだよモギナス!」
「も、申し訳ございませんッ!」
 
 床の上で土下座をするモギナス。
 そして、拘束を解かれ、ワゴンの上で手首をさすりながら、モギナスに侮蔑の眼差しを投げる女騎士さん。
 まるで何かのプレイのようである。

「私にこんなことをしてタダで済むと思ってんのか? 国際問題だぞ! なんとかしろ!」
「だよなあ。とはいえ、現状で魔法を解く手段がない。どーすんだこれ……」

 ひょこりと頭を上げると、モギナスが言った。

「その点については抜かりありません。陛下の命により王宮にお招きしたことになっております。もちろん、彼女に快諾頂いたという前提で……」
「な……ッ! 私に断りもなく……。サイテーだな!」
「たしかに」

 モギナスに刺さる女騎士さんの侮蔑の眼差しに、殺意がプラスされた。

「……とにかくだ。彼女が拉致された原因は俺にもある。現状でだれにも解呪出来ないから、ジタバタしても始まらない。つーわけで、次善の策として国庫から必要な補償をし、先方の騎士団やご家族にも詫び入れて、今度こそ本当に丁重におもてなしするんだ。いいな? モギナス」
「御意」

 はあ、と大きなため息をつく、女騎士さん。
 頭を抱えている。

「安心してください。貴女の安全はこの俺が保証します。ところでお名前は?」
「サー・ロイン・テンダー。ロインと呼べばいい」
「俺はアキラ」
「……聞いている魔王の名とは違うようだが……、愛称のようなものか?」
「ま、まあ、そんなもんだ。よろしく」
「………………なにがよろしくだあああああああああああああ!!!!」
「や、やめて、叩かないで、やめ、いた、いたたたたたたたたたっ(泣)」

 女騎士・ロインは絶叫すると、全力で魔王をボッコボコにした。
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