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第一巻
第8話 女騎士さん、パティシエになる
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「あれから一週間か……」
広い食堂で一人寂しく昼食を取るロイン。
スープの具をスプーンでつつきながら、独りごちた。
「陛下がお部屋に引きこもられてる間、ずっと絵を描いておられるようですが……。食欲があるのだけがせめてもの救いですな」
会食で先にランチを済ませたモギナスは、向かいの席でお茶を啜っている。
「あんなのでも、いないと結構寒々しく感じるな。城の食堂はバカ広いし……」
「元々少人数で使う部屋でもありませんしなあ。当分宴席を設けることもなさそうですし、もう少々狭い別室でも用意させましょうか」
「その方があいつも喜ぶでしょ……何でか知らないけど」
「お茶の間、と陛下が仰っていましたな。庶民向けのダイニングルーム兼リビングのようなものをご所望でしたが、用意する前に引きこもられてしまって――」
「……やっぱ私のせい?」
「原因の一つではありますが……。比率が大きいのは私の方だと思います」
というか、戦犯は本物の魔王なのだが。
ロインとモギナスの不始末は事の発端にしか過ぎず、本当のところは晶のホームシックが原因だった。
「さて……。困りましたねえ……」
☆ ☆ ☆
「お嬢様、どうかなさいましたか?」
ロインが厨房に顔を出すと、料理人たちとお茶を飲んでいたマイセンが出迎えた。
「えっと……。魔王様にお菓子を作ってあげようかな……と思って」
「まあ、お優しいこと。私もお手伝い致しますわ。さて、何をお作りに?」
地味だが清楚な美人のマイセンが、にっこり笑った。
☆
ケーキの土台を焼きながら、ロインは物思いに耽っていた。
よくよく考えれば、誘拐されて魔法をかけられたといっても城の中は自由に歩き回れるし、アキラもとりたてて無茶な要求もしてこない。むしろ客人対応ですらある。
……このまま玉の輿に乗った方が?
いやいや、あんな腑抜けたチャラい男は好みじゃないし。
そもそもいくら相手が国王だからといっても誘拐するような相手となんて……。
しかし和平が結ばれた現在、むしろ世界平和のために……。
いやいや、いやいや……いやいや……。
でも実家には帰りたくないし、ここで贅沢三昧を……いやいや……。
――というか、「誰かの代り」なんて、イヤだし。
うーん……。
――実家に戻らなくていい口実に……。なんて。いやいやそういう問題じゃ……。
「ねえ、マイセン」
「何ですか? お嬢様」
「私、このまま魔王と結婚した方がいいと思う?」
「どちらでも構わないのでは」
「雑な回答ありがとう」
「と申しますのも、」
「と申しますのも?」
「数十年など僅かな時間、いてもいなくても、大きな差などございませんので」
「あ……。そうですか。寿命の差、ねえ……」
そこへモギナスがやって来た。
「おや、こんな所にいらしたんですか、ロイン嬢。食事が足りませんでしたか?」
「ちがうし。そんな食いしん坊じゃないし」
「叔父上、お嬢様はいま、陛下のためにケーキを焼いていらっしゃるのです」
すかさずフォローを入れるマイセン。
厨房なんかでケンカでもされたらたまらない、という思いからである。
「なんと、殊勝な。――あ!」
「なによ」
「閃きました!」
「却下」
「何ですか! 聞きもしないで却下とは!」
「あんたの思いつきは、ろくでもないどころか災厄を招くだけだから」
「同意でございます」
「マイセンまで!(泣)」
じっとりとした眼差しでモギナスを睨むマイセン。
彼は過去にも余罪があるらしい。
「この思いつきは、そうおかしな話ではありませんよ。お二人とも安心して下さい」
「「ふーん……」」
魔王への忠義には篤いものの、女子に信用のない男、モギナス。
彼が思いつきで行動しなくなる日は、果たしていつ来るのか。
☆ ☆ ☆
ケーキが焼き上がり、モギナスとロインとマイセンの三人は、晶の部屋の前で作戦の最終確認をしていた。
「結局この男の企てに乗ってしまった……」
項垂れるロイン。
「でもお嬢様、そのお召し物、よくお似合いですよ。お世辞抜きで」
「お世辞言う人じゃないもんね、マイセンは」
「どういう意味でしょう」
「ロイン嬢に同意同意」
ギロリとモギナスを睨むマイセン。
「ちょっと、こんな場所で空中戦やってる場合じゃないでしょ。で、どうすんのよモギナス」
「ああ、そうでした。ごらんください。陛下の絵では……こう、掲げるように銀の円盤を……」
「ふんふん……なるほど。こう、かな?」
「はあ~、陛下がお描きになった絵、本当にお嬢様そっくりですねえ」
「同意同意」
「……不本意ながら同意だわ。アキラのくせに。こんな極彩色の絵を見るのは初めてだけど、魔族のセンスだとこういうのが流行ってるのかしら?」
ドキリとする、モギナスとマイセン。
一瞬でアイコンタクトを交わす。
「そ、そうですよ。いま一番新しい画風でございますよ、ロイン嬢。ねえ、マイセン?」
「え、ええ。同意でございます、お嬢様。いずれ王都でも流行るのでは。おほほ」
「そーなんだ……。魔族ってやっぱ変わってる」
「準備はよろしいですな? では、始めますぞ!」
「「了解!」」
モギナスがドアをノックする。
「陛下? お茶の時間ですよ」
はーい、と中から返事。
全員がうなづくと、モギナスがドアを開け、マイセンがティーセットとケーキを載せたワゴンを押し、とある衣装を着たロインが銀の円盤を肩の高さで水平に掲げて部屋に入った。
「陛下、昨日港より送られてきた新鮮な茶葉と、焼きたてのケーキをお持ち致しました」とマイセン。
「さっきっから表でなにゴニョゴニョ言って…………え?」
机で作業をしていた晶が振り向いた瞬間、彼は固まった。
「あはは……どもー……ケーキ焼いてきたよー…………」
ただならぬ晶の反応に、引きつった笑いを浮かべるロイン。
「あ、あ、あ、あ、あ、あああ、そ、そそそれ、それそそそそそれは――」
ああ、またあれが――。
イヤな予感MAX。
ロインがそう思った瞬間。
「みぃぃいいいいささちゃあああああああああああああああんんんんんッ!!」
椅子を蹴り倒し、晶が『ウェイトレス姿』のロインにダイブした。
「ぎゃあああああああ!! 来るなああああああああ!!」
バ――――――ンッッッ!!!!
次の瞬間。
銀色に光り輝くトレーが、晶の脳天に炸裂した。
「ああ……、またやってしまいましたね、ロイン嬢」
頭を抱えるモギナス。
「……やっちゃいました。テヘ」
「……テヘ、じゃねえよ。この暴力女騎士め……」
彼女の足下で、悪態を垂れつつもスカートの中身を覗いている晶が転がっていた。
「このエロ魔王!!」
ブギュ。
追加ダメージ発生。
晶の顔面にしっかりとロインの足跡が刻印された。
広い食堂で一人寂しく昼食を取るロイン。
スープの具をスプーンでつつきながら、独りごちた。
「陛下がお部屋に引きこもられてる間、ずっと絵を描いておられるようですが……。食欲があるのだけがせめてもの救いですな」
会食で先にランチを済ませたモギナスは、向かいの席でお茶を啜っている。
「あんなのでも、いないと結構寒々しく感じるな。城の食堂はバカ広いし……」
「元々少人数で使う部屋でもありませんしなあ。当分宴席を設けることもなさそうですし、もう少々狭い別室でも用意させましょうか」
「その方があいつも喜ぶでしょ……何でか知らないけど」
「お茶の間、と陛下が仰っていましたな。庶民向けのダイニングルーム兼リビングのようなものをご所望でしたが、用意する前に引きこもられてしまって――」
「……やっぱ私のせい?」
「原因の一つではありますが……。比率が大きいのは私の方だと思います」
というか、戦犯は本物の魔王なのだが。
ロインとモギナスの不始末は事の発端にしか過ぎず、本当のところは晶のホームシックが原因だった。
「さて……。困りましたねえ……」
☆ ☆ ☆
「お嬢様、どうかなさいましたか?」
ロインが厨房に顔を出すと、料理人たちとお茶を飲んでいたマイセンが出迎えた。
「えっと……。魔王様にお菓子を作ってあげようかな……と思って」
「まあ、お優しいこと。私もお手伝い致しますわ。さて、何をお作りに?」
地味だが清楚な美人のマイセンが、にっこり笑った。
☆
ケーキの土台を焼きながら、ロインは物思いに耽っていた。
よくよく考えれば、誘拐されて魔法をかけられたといっても城の中は自由に歩き回れるし、アキラもとりたてて無茶な要求もしてこない。むしろ客人対応ですらある。
……このまま玉の輿に乗った方が?
いやいや、あんな腑抜けたチャラい男は好みじゃないし。
そもそもいくら相手が国王だからといっても誘拐するような相手となんて……。
しかし和平が結ばれた現在、むしろ世界平和のために……。
いやいや、いやいや……いやいや……。
でも実家には帰りたくないし、ここで贅沢三昧を……いやいや……。
――というか、「誰かの代り」なんて、イヤだし。
うーん……。
――実家に戻らなくていい口実に……。なんて。いやいやそういう問題じゃ……。
「ねえ、マイセン」
「何ですか? お嬢様」
「私、このまま魔王と結婚した方がいいと思う?」
「どちらでも構わないのでは」
「雑な回答ありがとう」
「と申しますのも、」
「と申しますのも?」
「数十年など僅かな時間、いてもいなくても、大きな差などございませんので」
「あ……。そうですか。寿命の差、ねえ……」
そこへモギナスがやって来た。
「おや、こんな所にいらしたんですか、ロイン嬢。食事が足りませんでしたか?」
「ちがうし。そんな食いしん坊じゃないし」
「叔父上、お嬢様はいま、陛下のためにケーキを焼いていらっしゃるのです」
すかさずフォローを入れるマイセン。
厨房なんかでケンカでもされたらたまらない、という思いからである。
「なんと、殊勝な。――あ!」
「なによ」
「閃きました!」
「却下」
「何ですか! 聞きもしないで却下とは!」
「あんたの思いつきは、ろくでもないどころか災厄を招くだけだから」
「同意でございます」
「マイセンまで!(泣)」
じっとりとした眼差しでモギナスを睨むマイセン。
彼は過去にも余罪があるらしい。
「この思いつきは、そうおかしな話ではありませんよ。お二人とも安心して下さい」
「「ふーん……」」
魔王への忠義には篤いものの、女子に信用のない男、モギナス。
彼が思いつきで行動しなくなる日は、果たしていつ来るのか。
☆ ☆ ☆
ケーキが焼き上がり、モギナスとロインとマイセンの三人は、晶の部屋の前で作戦の最終確認をしていた。
「結局この男の企てに乗ってしまった……」
項垂れるロイン。
「でもお嬢様、そのお召し物、よくお似合いですよ。お世辞抜きで」
「お世辞言う人じゃないもんね、マイセンは」
「どういう意味でしょう」
「ロイン嬢に同意同意」
ギロリとモギナスを睨むマイセン。
「ちょっと、こんな場所で空中戦やってる場合じゃないでしょ。で、どうすんのよモギナス」
「ああ、そうでした。ごらんください。陛下の絵では……こう、掲げるように銀の円盤を……」
「ふんふん……なるほど。こう、かな?」
「はあ~、陛下がお描きになった絵、本当にお嬢様そっくりですねえ」
「同意同意」
「……不本意ながら同意だわ。アキラのくせに。こんな極彩色の絵を見るのは初めてだけど、魔族のセンスだとこういうのが流行ってるのかしら?」
ドキリとする、モギナスとマイセン。
一瞬でアイコンタクトを交わす。
「そ、そうですよ。いま一番新しい画風でございますよ、ロイン嬢。ねえ、マイセン?」
「え、ええ。同意でございます、お嬢様。いずれ王都でも流行るのでは。おほほ」
「そーなんだ……。魔族ってやっぱ変わってる」
「準備はよろしいですな? では、始めますぞ!」
「「了解!」」
モギナスがドアをノックする。
「陛下? お茶の時間ですよ」
はーい、と中から返事。
全員がうなづくと、モギナスがドアを開け、マイセンがティーセットとケーキを載せたワゴンを押し、とある衣装を着たロインが銀の円盤を肩の高さで水平に掲げて部屋に入った。
「陛下、昨日港より送られてきた新鮮な茶葉と、焼きたてのケーキをお持ち致しました」とマイセン。
「さっきっから表でなにゴニョゴニョ言って…………え?」
机で作業をしていた晶が振り向いた瞬間、彼は固まった。
「あはは……どもー……ケーキ焼いてきたよー…………」
ただならぬ晶の反応に、引きつった笑いを浮かべるロイン。
「あ、あ、あ、あ、あ、あああ、そ、そそそれ、それそそそそそれは――」
ああ、またあれが――。
イヤな予感MAX。
ロインがそう思った瞬間。
「みぃぃいいいいささちゃあああああああああああああああんんんんんッ!!」
椅子を蹴り倒し、晶が『ウェイトレス姿』のロインにダイブした。
「ぎゃあああああああ!! 来るなああああああああ!!」
バ――――――ンッッッ!!!!
次の瞬間。
銀色に光り輝くトレーが、晶の脳天に炸裂した。
「ああ……、またやってしまいましたね、ロイン嬢」
頭を抱えるモギナス。
「……やっちゃいました。テヘ」
「……テヘ、じゃねえよ。この暴力女騎士め……」
彼女の足下で、悪態を垂れつつもスカートの中身を覗いている晶が転がっていた。
「このエロ魔王!!」
ブギュ。
追加ダメージ発生。
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