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平等とは?公平とは?
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「おーい、すだっちお疲れさん」
電話の相手は須田が若い頃バイトしていたの居酒屋の同僚、田中だった。須田が辞めた後もたまには飲みに行く間柄である。
「はーい、ひろちゃん元気かい?飲みのお誘いならちょっとばかり難しいぜ」
「どこにいるのよ?」
「静岡からは500kmばかり離れてる」
「だから、どこよ?多賀城にいるのは静岡新聞に載ってたってお袋から連絡があったから知ってる」
「んん?ひろちゃん、その感じは近くにいるな?俺は多賀城の文化センターにいる」
「正解だ。今は女川から南下してそっちの方を通る予定だ」
「炊き出しでもしてたのか?」
「洗濯機屋が被災地で洗濯してるなら、食い物屋が炊き出しするのは当たり前のことだぜ」
2人は電話越しに爆笑している。
「女川からなら多賀城は帰り道だよな?一緒に塩釜辺りで晩飯食おうか」
「それがいい、近くまで行ったらまた電話するよ」
日が暮れ、辺りが暗くなる頃、田中が保冷車に乗って多賀城文化センターに現れた。
「お~い、炊き出しご苦労さん」
「そっちこそ、洗濯ご苦労さん。もう片付くの?」
「ああ、もう片付いた。トラックがあるから、ちょっと飲みにという訳にはいかないが、美味い天丼を出す店があるからそこへ行こう」
2人は伊豆ナンバーと沼津ナンバーのトラックを連ねて急坂を下り国道を塩竃方面に走る。観光港を通り過ぎて漁港のそばの定食屋に入った。
「上天丼と温かいそばのセット2つと、マグロのから揚げ2人前お願いします」
須田は田中の分まで勝手に注文した。
「そんで、どこまで行ってきたんだよ?」
「おう、この2tの保冷車いっぱい食材と調理道具を積み込んで陸前山田から南下してきた」
「炊き出しするのに役場の奴らが面倒臭せえこと言ってただろ?」
「ああ、もちろんだ。何人前揃わなきゃダメだとか、弁当容器で配れだとか、腹が減ってる人が目の前にたくさんいるのによ。俺らがやれば全員調理師免許持って衛生面もしっかりしてるのによ」
「やっぱりあいつらアホだな! そんでどうしたのよ? いつも通りの俺たちのスタイルか?」
「押しかけ助っ人、参上!」
「押しかけ助っ人、参上!!」
2人の声が揃う。そして爆笑。
豪勢な料理が運ばれてくる。
「刺身はサービス。あんた多賀城で洗濯してくれてる人だね?新聞見たよ。ありがとね。わざわざ宮城まで来てくれて。この辺りは電気も水道も復旧が早かったけど、東松島あたりの人はまだまだ……、まだまだだよ。ゆっくりしてってね」
2人はしばし食べることに集中した。
東北の海の幸が腹に染みる。これまで須田は毎日避難所で配られた甘いパンばかり食べていた。田中も炊き出しの食材の余りを立ったまま少し食べていただけだった。
「美味いな」
「ああ、元気が湧くなあ」
「あんたたち、野菜も食べなさいよ!」
そう言って女将がサラダを持って来てくれた。
腹が満たされた頃、須田が口を開いた。
「そんで、押しかけ助っ人はどこでどうやって炊き出ししてたのよ?」
田中は岩手の状況を話し始めた。
田中が沼津を出発したのは4月2日のことであった。同業者2人と一緒に取引のある肉屋さんの冷凍車を借りてきたようだ。
三陸のリアス式海岸は故郷である伊豆の地形によく似ていた。
海岸まで山が迫り、山から流れ出た川が谷を作って海に流れ出し、川沿いのわずかな平地と入り江に人口が集中している。それ以外は街と街を繋ぐ峠道の所々に小さな集落がある。
「市街地の避難所は学校の体育館とかあるじゃんか? でも小さい集落なんかだとお寺さんとかで肩を寄せ合って避難してるって感じなんよ。忘れられてるんじゃないかと思うぐらい物資もないし、食料も農家が持ち寄ってみんなで分けてるような感じ。特に民間の支援なんか便利で目立つところにしか来ないじゃん、もちろんテレビなんかも来ないし。まあそんな場所を廻って、地元の人とトークしながら、積んである食材と地元にあった食材使って、火を囲んでみんなで作って食う。まあそんだけの話しだ」
「さすが、押しかけ助っ人のひろちゃんだ。生き死にを賭けた状態で、数が揃わねえとか言ってる場合じゃないもんな。腹が膨れれば元気が出る。腹が満ちればよく眠れる」
「でもよ、汚ねえ話だが腹が膨れれば出るもんが出るけど、トイレがないんだよ。何しろ飲み水はペットボトルの水を大切に飲んでるが、生活用水は沢の水を汲みに行かなきゃならないところもある。仮設の工事現場用のトイレが50人ぐらい暮らしてる集落に1つなんて所もあったし、バキュームカーが来てくれないから使えないって」
「穴掘ってトイレの代わりは最悪パターンだ。深く掘っても臭いはひどいし、虫も湧く」
「それな、トイレに行きたくないから水を飲みたがらない、食事を取りたがらない子どもや若い子もたくさんいたよ」
災害時の避難生活は多くの問題を抱えていた。
決して贅沢を望んでいるわけではない、ただ人間として安全で衛生的な環境を必要としているだけなのに支援には濃淡があり、まだまだ不十分であった。
その晩、2人は須田が泊まっている旅館で缶ビールを1本だけ飲んで眠りについた。
押しかけ助っ人たちの朝は明日も早い。
電話の相手は須田が若い頃バイトしていたの居酒屋の同僚、田中だった。須田が辞めた後もたまには飲みに行く間柄である。
「はーい、ひろちゃん元気かい?飲みのお誘いならちょっとばかり難しいぜ」
「どこにいるのよ?」
「静岡からは500kmばかり離れてる」
「だから、どこよ?多賀城にいるのは静岡新聞に載ってたってお袋から連絡があったから知ってる」
「んん?ひろちゃん、その感じは近くにいるな?俺は多賀城の文化センターにいる」
「正解だ。今は女川から南下してそっちの方を通る予定だ」
「炊き出しでもしてたのか?」
「洗濯機屋が被災地で洗濯してるなら、食い物屋が炊き出しするのは当たり前のことだぜ」
2人は電話越しに爆笑している。
「女川からなら多賀城は帰り道だよな?一緒に塩釜辺りで晩飯食おうか」
「それがいい、近くまで行ったらまた電話するよ」
日が暮れ、辺りが暗くなる頃、田中が保冷車に乗って多賀城文化センターに現れた。
「お~い、炊き出しご苦労さん」
「そっちこそ、洗濯ご苦労さん。もう片付くの?」
「ああ、もう片付いた。トラックがあるから、ちょっと飲みにという訳にはいかないが、美味い天丼を出す店があるからそこへ行こう」
2人は伊豆ナンバーと沼津ナンバーのトラックを連ねて急坂を下り国道を塩竃方面に走る。観光港を通り過ぎて漁港のそばの定食屋に入った。
「上天丼と温かいそばのセット2つと、マグロのから揚げ2人前お願いします」
須田は田中の分まで勝手に注文した。
「そんで、どこまで行ってきたんだよ?」
「おう、この2tの保冷車いっぱい食材と調理道具を積み込んで陸前山田から南下してきた」
「炊き出しするのに役場の奴らが面倒臭せえこと言ってただろ?」
「ああ、もちろんだ。何人前揃わなきゃダメだとか、弁当容器で配れだとか、腹が減ってる人が目の前にたくさんいるのによ。俺らがやれば全員調理師免許持って衛生面もしっかりしてるのによ」
「やっぱりあいつらアホだな! そんでどうしたのよ? いつも通りの俺たちのスタイルか?」
「押しかけ助っ人、参上!」
「押しかけ助っ人、参上!!」
2人の声が揃う。そして爆笑。
豪勢な料理が運ばれてくる。
「刺身はサービス。あんた多賀城で洗濯してくれてる人だね?新聞見たよ。ありがとね。わざわざ宮城まで来てくれて。この辺りは電気も水道も復旧が早かったけど、東松島あたりの人はまだまだ……、まだまだだよ。ゆっくりしてってね」
2人はしばし食べることに集中した。
東北の海の幸が腹に染みる。これまで須田は毎日避難所で配られた甘いパンばかり食べていた。田中も炊き出しの食材の余りを立ったまま少し食べていただけだった。
「美味いな」
「ああ、元気が湧くなあ」
「あんたたち、野菜も食べなさいよ!」
そう言って女将がサラダを持って来てくれた。
腹が満たされた頃、須田が口を開いた。
「そんで、押しかけ助っ人はどこでどうやって炊き出ししてたのよ?」
田中は岩手の状況を話し始めた。
田中が沼津を出発したのは4月2日のことであった。同業者2人と一緒に取引のある肉屋さんの冷凍車を借りてきたようだ。
三陸のリアス式海岸は故郷である伊豆の地形によく似ていた。
海岸まで山が迫り、山から流れ出た川が谷を作って海に流れ出し、川沿いのわずかな平地と入り江に人口が集中している。それ以外は街と街を繋ぐ峠道の所々に小さな集落がある。
「市街地の避難所は学校の体育館とかあるじゃんか? でも小さい集落なんかだとお寺さんとかで肩を寄せ合って避難してるって感じなんよ。忘れられてるんじゃないかと思うぐらい物資もないし、食料も農家が持ち寄ってみんなで分けてるような感じ。特に民間の支援なんか便利で目立つところにしか来ないじゃん、もちろんテレビなんかも来ないし。まあそんな場所を廻って、地元の人とトークしながら、積んである食材と地元にあった食材使って、火を囲んでみんなで作って食う。まあそんだけの話しだ」
「さすが、押しかけ助っ人のひろちゃんだ。生き死にを賭けた状態で、数が揃わねえとか言ってる場合じゃないもんな。腹が膨れれば元気が出る。腹が満ちればよく眠れる」
「でもよ、汚ねえ話だが腹が膨れれば出るもんが出るけど、トイレがないんだよ。何しろ飲み水はペットボトルの水を大切に飲んでるが、生活用水は沢の水を汲みに行かなきゃならないところもある。仮設の工事現場用のトイレが50人ぐらい暮らしてる集落に1つなんて所もあったし、バキュームカーが来てくれないから使えないって」
「穴掘ってトイレの代わりは最悪パターンだ。深く掘っても臭いはひどいし、虫も湧く」
「それな、トイレに行きたくないから水を飲みたがらない、食事を取りたがらない子どもや若い子もたくさんいたよ」
災害時の避難生活は多くの問題を抱えていた。
決して贅沢を望んでいるわけではない、ただ人間として安全で衛生的な環境を必要としているだけなのに支援には濃淡があり、まだまだ不十分であった。
その晩、2人は須田が泊まっている旅館で缶ビールを1本だけ飲んで眠りについた。
押しかけ助っ人たちの朝は明日も早い。
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