嘘つきは秘めごとのはじまり

茜色

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紅い花びら

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 その辺りから、私の理性は本格的に壊れ始めた。
 陸の少しゴツゴツした指で秘所をいやらしく撫でられ、今まで感じたことのない快楽に眼が回りそうになった。

「あっ、あ、あ・・・っ」
「先生・・・、可愛い。エロい。めちゃくちゃやらしい。すっごい濡れてるよ」
 くちゅくちゅくちゅ。陸の指が探るように掻き回すように、時折円を描きながら私の性器のあらゆるところを弄んでいる。
 自分では怖くて奥まで指を入れたことなんてなかったのに、陸はたいして躊躇もせずに私の膣内に温かい指を差し入れ、中の粘膜をゆっくりと撫で回した。

「うわっ・・・。やらしい感触・・・」
 陸の吐息が熱くなる。内側の秘密を探られる感覚に、私の唇から勝手に湿った声が漏れ出していく。
 陸の指の動きは洗練されてはいないもののとても淫らで、私は無意識に陸の背中に両手を回してしがみついていた。
 腰がベッドから何度も浮き、陸の指の動きに合わせて揺れてしまう。その度に陸が嬉しそうに私にくちづけ、「先生、可愛い」と繰り返し囁いた。

「ねえ・・・。れていい?俺、雛子先生の中に入りたい」 
「なっ・・・、それはダメ・・・っ。そんなことしちゃ、いけない」
「どうして?先生だって、俺のこと欲しがってるじゃん。ぐちゅぐちゅだよ」
「そんなこと、ない・・・。あっ・・・、やだっ・・・」
 陸が私の太腿を大きく割った。
 昼間の明るい部屋の中で、私は誰にも見せたことのない秘密の場所を男の眼にさらしていた。

 こんなふうに恥部を剥き出しにしている自分の姿が信じられなかった。
 羞恥心で泣きたくなる。咄嗟に顔を覆いそうになったけれど、そこでまた「慣れているふりをしなくては」という愚かな強迫観念に駆られた。

「ねえ、陸くん。もういいでしょう?私なんかとしちゃったら、彼女が可哀想だよ・・・」
「・・・先生の彼氏も可哀想だね。俺なんかとこんなことしちゃって」
 陸は何故か責めるような口調で言った。その瞳に何か切羽詰まるような色が見えて、私は余計に混乱してしまった。
 骨ばった太い指が、私の内側からこぼれ出る透明な蜜に浸っていく。
 クリトリスを何度も擦り、私に甘い声を上げさせようとムキになり、陸はまるで子供が意地を張っているみたいに執拗に私を愛撫した。

 一度身体を起こした陸が、デニムパンツをせわしなく脱ぎ始めた。
 ・・・本気なんだ。逃がしてもらえないんだ。私はそう悟った。陸は本当に、私の中に挿入しようとしている。
 今すぐ逃げ出さなければ。こういう場合、陸の頬を叩いたっていいのではないか。
 私はここへ勉強を教えに来ているのだ。お金をもらって。受験に備えて。勉強もしないでこんな行為に耽っていたら、陸の母親にも申し訳ない。私は生徒を相手に処女を捨てるために、この家に通っていたんじゃない・・・。

 それなのに。熱っぽい視線に射すくめられて、私は身動きできないままだった。
 陸がボクサーショーツから屹立した性器を引っ張りだしたとき、私は思わず眼を瞑った。子供の頃にお風呂で見た父親のそれとはまったく違う形と大きさ。私は陸に気づかれないよう、横を向いてゴクリと緊張の唾を飲んだ。

 陸を止めなくちゃと何度も頭で繰り返しているのに、身体の方は既に受け入れる覚悟をしていた。私は深く息を吸って眼を閉じた。私が黙ったままなのを、陸はOKのサインと取ったようだった。

「先生、挿れるよ・・・?」
 陸の先端が、窪みを探すように私の花びらに触れて少し彷徨さまよった。
「あっ・・・」 
 そこ、と言う前に、陸がぐにゅっとペニスを押し込んできた。
「中には出さないから」
 コンドームも着けていない。こんなこと、ありえないと思った。なのに私は受け入れていた。

 荒い息を吐きながら、陸が私の奥へ奥へと腰を押し進めてくる。めり込んでくる圧力に、一瞬内側が引き攣る感覚に襲われる。
「先生・・・」
 陸が汗ばんだ顔で私を見下ろした。陸も少し苦しそうだった。でもそれ以上に、陸は激しく興奮していた。
 頬を紅潮させている陸を見上げながら、私の胸は甘酸っぱい感情でいっぱいになった。

 根元まで挿入された時、パンっと肉が打ち合う音がして妙に滑稽に思えた。それなのに私は心のどこかで喜びを感じていた。陸と最後まで繋がった感覚に、言葉では説明できない感情の昂ぶりを抑えきれなかった。
 自分がほとんど痛みを感じていないことに気づく。初めてだと言うのに、私の身体はこんなにも喜んで陸を受けれ入れていた。


 そこから先のことを、私はやけにくっきりと記憶に刻み込んだ。
 陸が苦しげに喘ぎながら、繰り返し腰を打ち付けていたこと。それになんとかついていけるよう、私も無意識に恥ずかしい声を上げながら陸にすがりついていたこと。
 何度も抜き挿しされ、頭がベッドのヘッドボートにぶつかりそうになった。背中の下でシーツがくしゃくしゃに乱れ、汗がお互いの肌に絡みついてぬるりと滑った。私と陸の繋がっているところが濡れた音を立てているのを耳にし、その淫靡な響きに気が遠くなった。

「あ、出そう・・・!」
 陸が慌てたようにペニスを引き抜いた時、不思議と喪失感のようなものを感じた。
 私が抽送の激しさの余韻に身体をガクガク震わせている上で、陸が大急ぎでティッシュを数枚引き抜いて自分の性器に当てがった。
 うっすら眼を開けて見ていると、陸は私を見つめながら自分の指で数回ペニスをしごき、ティッシュの中に白い液体を放出した。
  
「うっ・・・。ああっ・・・」
 陸が気持ちよさそうに肩を震わせる。私は放心しながらその姿を見つめていた。
 最後の最後で陸が私の身体から離れて自分の手で射精したのを見て、何故かせつない孤独感でいっぱいになった。


 私は脱力しつつ、なんとか身体を起こそうとした。
「あ・・・っ、待って先生」
 陸がまたティッシュを数枚抜き取り、急いで私の性器に当てがった。濡れているそこを、陸が丁寧に拭ってくれる。そうしながら尚も剥き出しの秘部をじっと見つめられ、きっともう気づかれてしまうと私は視線を逸らした。

「あれ・・・。えっ・・・血・・・?」
 私の性器を拭き取ったティッシュを見つめ、陸が戸惑った顔をした。
 その当惑した表情を見て、私は自分が陸にとっての「お荷物」になったことを悟った。ヨロヨロと身を起こし、陸の手からティッシュを取り返して「処女の証」を自分の眼でも確かめた。

「・・・嘘。え?先生、これって・・・?」
 陸が上擦った声を出した。その響きに私は馬鹿みたいに傷ついた。
 ずり上がったブラを下ろしてホックを留め、キャミソールとブラウスも下ろして整える。脱がされてシーツの上に放り投げてあったラベンダー色のショーツを拾い、黙って穿き始めた時になってようやく陸が我に返った声を出した。

「雛子先生、もしかして初めてだったの・・・?ウソだろ、なんで言ってくれなかったの?俺、ひどいこと・・・」
 陸が珍しくうろたえた声を出している。私よりずっと世慣れていて、いつもは大人っぽく余裕に見える陸が、年相応の頼りなさを初めて私の前にさらけ出している。

 シーツに私の長い髪が1本落ちていた。ベッドの上の、陸と私。こんなに近くにいるのに、ふたりとも迷子になったみたいな顔をして。

 陸は動揺し、私をどう扱っていいのか困り果てていた。
 私たちがこの夏一緒に過ごしてきた、伸びやかで幸福な時間はもうここにはないのだと気付かされた。


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