異世界だろうがソロキャンだろう!? one more camp!

ちゃりネコ

文字の大きさ
100 / 255
第一部 ニ章 異世界キャンパー編

休日は異世界ウナギを釣ろう!

しおりを挟む
 俺とギンレイはタープテントから少し歩いた場所にある小川を訪れた。
 ここはキャンプをする上で非常に重要な水源があり、泥沼地と違って綺麗な水が手に入る貴重な場所。
 テントを設置する場合、考えなければならないのは水場との距離である。
 遠すぎても不便だし、近すぎると水害に巻き込まれる恐れがある為だ。

「元の世界だと水場に近い場所は人の出入りが気になってね、ひとりの空間を大事にしたい人には向かないんだよ」

 ギンレイにソロキャンで培った知識を伝授するが、彼はそんな事よりも小川を住む小さな魚やカニ御執心ごしゅうしんな様子。
 どこまでも食い気が最優先なのは、初音譲りってトコなのかねぇ。

「さて、川の中には何が居るのかな?
 あー…小魚ばっかりだな」

 これではとり尽くしたとしても鬼っ娘の腹は満たされず、間違いなくゴネるのは明白だ。
 そもそも無闇に成長前の生き物をとるのは、魚であれ植物であれ俺は推奨しない。
 何故なら、それらの資源は人間が思っているよりも簡単に枯渇してしまい、一度とり尽くしてしまうと再び繁栄するまでに長い時間を必要とするからだ。

「ここは魚影も薄いし、少しポイントを変えようか。他に生き物がいそうな場所は…」

 視線を動かすと、泥沼と小川が重なる場所が目につく。
 周囲には魚が身を隠すのに最適な茂みや岩が点在しており、釣りをする上では見るからに好立地だ。
 既にギンレイの五感は生物の気配を捉えたらしく、先程まで元気に吠えていたのに、今では鳴き声どころか足音すら立てずにいる。
 本当に俺の犬はかしこ可愛いだろ?

 忍び足で慎重にポイントへ入り、確保しておいた生き餌を投げ込む。
 すると僅か一分もしない内に、あっさりと一匹目が釣れてくれた。

「コイツは知ってるぞ。
『ヒノモトオオウナギ』という名前の超高級魚。
 貧乏学生の俺には縁遠いうなぎの王様だな」

 時間があったので可能な限り『異世界の歩き方』を読んでいる間、とても興味を惹かれた魚種だったので覚えていたのだ。
 かなり好戦的な性格をしており、巣に近づく生物は全て敵と見なして襲ってくるらしい。
 逆に言えば、巣を見つけてしまえば簡単に釣ってしまえるという事。

「そうと分かれば――ギンレイ、任せたぞ!」

 主人の意図を理解した愛犬は低い姿勢で草むらを掻き分け、素早い動きで次々とポイントを探っていく。
 程なくして水底の色が変化している岩場で足を止め、『おすわり』の状態でこちらを見つめている。
 どうやら早くも巣を発見したようだ。
 俺はギンレイの鼻先が向いているポイントへ静かに針を沈めると、ガツンとした手応えと共に激しい振動が手元に伝わってきた。

「へへっ、コイツは……デカいぞぉ!」

 濁りのある水面から顔を出したのは体長60cmのヒノモトオオウナギ!
 先程は30cm程だったので大幅に記録更新だ。
 仕掛けに絡み付いて抵抗するうなぎをスカリに入れ、功労者のギンレイを誉めてあげると、気を良くした彼はその後も優れた感覚で大物を見つけてくれた。

「気晴らしのつもりだったけど、つい楽しくてガッツリ釣ってしまったな」

 スカリの中は15匹ものうなぎがひしめき合い、思わず涎が垂れそうな光景を生み出している。
 そこから40cm以下の個体を逃がしても8匹が残る結果となり、大満足の釣果と言えるだろう。

「よく頑張ったなギンレイ。
 ほら、御褒美をあげるよ」

 ヒメゴトミツバチのハチミツを竹皿に入れると飛び掛かる勢いで食べ尽くし、もうないのかと悲しい声で鳴く。
 いつも思うが、もう少し味わって食べてくれよ。
 残念ながらハチミツのストックは…なくはない。
 初音がくすねた分があるはずなのだが、どこに隠し持ってるんだ?

「そこは後日探すとして、今日は帰ろうか」

 異世界での休暇を存分に満喫した俺達は、今夜の夕食という土産を手に帰路につく。

  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ

天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。 ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。 そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。 よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。 そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。 こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

商人でいこう!

八神
ファンタジー
「ようこそ。異世界『バルガルド』へ」

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

『ひまりのスローライフ便り 〜異世界でもふもふに囲まれて〜』

チャチャ
ファンタジー
孤児院育ちの23歳女子・葛西ひまりは、ある日、不思議な本に導かれて異世界へ。 そこでは、アレルギー体質がウソのように治り、もふもふたちとふれあえる夢の生活が待っていた! 畑と料理、ちょっと不思議な魔法とあったかい人々——のんびりスローな新しい毎日が、今始まる。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

神々の間では異世界転移がブームらしいです。

はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》 楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。 理由は『最近流行ってるから』 数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。 優しくて単純な少女の異世界冒険譚。 第2部 《精霊の紋章》 ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。 それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。 第3部 《交錯する戦場》 各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。 人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。 第4部 《新たなる神話》 戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。 連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。 それは、この世界で最も新しい神話。

処理中です...