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第一部 ニ章 異世界キャンパー編
手ずから振る舞う老臣の鰻料理
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正直、鰻の蒲焼きを見て感動する日が来るとは思わなかった。
艶を帯びた純白の炊き立て白米。
60cmという圧倒的ボリュームを誇る鰻!
奇跡の出会いを果たす事で生み出されるのは、野趣溢れる豪快な戦国料理。
これだけの大物ならば並みの器などに収まるはずもなく、丸々と太った身は縦横に規格を外れる横綱サイズ。
八兵衛さんは焼き上げた身を敢えて分割せず、竹の形を活かした縦長の器に盛りつけていた。
この発想はまさに脱帽せざるを得ない効果を生み出し、主役である鰻の存在を存分に引き立たせた上で、料理を前にした人は悦に入ること請け合いだ。
「すっげぇ……一年分の鰻だろ…マジで!」
それが一度に味わえるとは感無量の極みである。
焼き目のついたサンシュウショウ味噌の香りは爽やかな酸味を鼻孔へと運び、腹の底から食欲を誘う。
更にはそれを縁の下で支える白米の存在も見逃せない。
日本酒も素晴らしかったが、やはり日本人ならば米は食卓に欠かす事の出来ない主食なのだ。
「ギンレイには白焼きを用意しておいた。
お前はこちらを食すがよい」
しかも気配りまで完璧!
尊敬と感謝の眼差しを向けていると、赤くなった顔を隠すようにして酒を注ぎ始める。
「姫様もどうぞ御賞味くださいませ」
「う、うむ…」
震える指先に注目が集まる。
何故なら、他の者が初音に先んじて食事を口にするなど八兵衛さんが許すはずもなく、彼女が食べてくれないと皆が食事を始められないのだ。
動かない箸を後押しするように、ギンレイが待ちきれないといった風に吠えて急かす。
「言わずとも分かっておる!
分かってはおるんじゃ……――えぇい!」
ようやく覚悟を決めた初音は初めてプールで泳ぐ子供みたいに、目を閉じて料理を口にした。
さて、その味や如何に?
「う……うん、あー……ほぉ、う……旨い…かも」
どんだけ勿体振るんだよ。
それでも八兵衛さんにとっては自身の働きが報われた瞬間なのか、かなり改まった言葉で感謝の意を表す。
「姫様より勿体無き御言葉を賜り、老骨の痩身は感激の極みに御座いまする」
確かに、こりゃ本物の堅物だわ。
初音姫サマが万感の思いで食わず嫌いを克服なされたのを皮切りに、各々の前に出された御膳に箸を進める。
「久しぶりの白米…!
鰻の方は――入学以来かもな」
真っ白な身は絶妙なバランスで弾力と柔らかさを両立させ、味噌の穏やかな風味にサンシュウショウのピリッとした刺激が加わって、食べ応えも抜群!
それにしても王道の醤油タレではなく、味噌を使って焼き上げるとは意外だった。
「世界が違えば味付けも変わるんですね」
「いや、今では醤油を煮詰めた物を表面に塗る方が主流だ。味噌で焼くのは古い手法なのだが……亡くなった当方の母や、妻がこの味付けをよく用いていたのでな」
更に意外――と言ってしまうのは失礼か。
かつての母と妻を想いながら調理するなんて、俺が思っていた以上に人情家なのだろう。
今は亡き母の味と聞いて、初音も感じ入った様子で蒲焼きを口にする。
「どうだ?
見た目からは想像できない旨さだったろ?」
「ま、まぁのう。
ところで、そちらの串焼きは食せるのか?」
実は俺も気になっていた。
俺が知ってる鰻料理とは全く異なる串焼きというスタイル。
見た感じでは焼き鳥とも違い、酒と醤油のみというシンプルな味付けは、いかにも古来から伝わる庶民料理といった風情だ。
「葦拿の世界では見た事がないと言っていたな。一度食してみるがよい」
手渡された鰻の串焼き。
かぶりつくと香ばしい皮の歯応えに次いで、僅かに甘い醤油とジューシーな脂身が口内で交わり、新感覚の衝撃を受けた。
時折遭遇する内臓の苦味は、単調になりがちな味わいに巧みなアクセントを刻む。
「旨ぁ~~! けど、どうして開きばかりを見掛けるようになったんだろう。こんなにも旨いのに…」
「当方が思うに、恐らく中まで火を通すのは相応の技術と経験が必要な為であろう。鰻の血は十分に加熱せねば死に至る事もあるからな」
そう、鰻の血には毒があるのだ。
刺身が存在しない最たる理由であり、開きが主流となったのも頷ける。
「ど、毒とな!?」
満面の笑みで両手に串焼きを持っていた初音の動きがピタリと止まった。
その後、八兵衛さんと俺が延々と問題ない事を説明する破目になったのは言うまでもない。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
ここまでのAwazonポイント収支
『ヒノモトオオウナギを釣り上げた――1000P』
現在のAwazonポイント――150,290P
艶を帯びた純白の炊き立て白米。
60cmという圧倒的ボリュームを誇る鰻!
奇跡の出会いを果たす事で生み出されるのは、野趣溢れる豪快な戦国料理。
これだけの大物ならば並みの器などに収まるはずもなく、丸々と太った身は縦横に規格を外れる横綱サイズ。
八兵衛さんは焼き上げた身を敢えて分割せず、竹の形を活かした縦長の器に盛りつけていた。
この発想はまさに脱帽せざるを得ない効果を生み出し、主役である鰻の存在を存分に引き立たせた上で、料理を前にした人は悦に入ること請け合いだ。
「すっげぇ……一年分の鰻だろ…マジで!」
それが一度に味わえるとは感無量の極みである。
焼き目のついたサンシュウショウ味噌の香りは爽やかな酸味を鼻孔へと運び、腹の底から食欲を誘う。
更にはそれを縁の下で支える白米の存在も見逃せない。
日本酒も素晴らしかったが、やはり日本人ならば米は食卓に欠かす事の出来ない主食なのだ。
「ギンレイには白焼きを用意しておいた。
お前はこちらを食すがよい」
しかも気配りまで完璧!
尊敬と感謝の眼差しを向けていると、赤くなった顔を隠すようにして酒を注ぎ始める。
「姫様もどうぞ御賞味くださいませ」
「う、うむ…」
震える指先に注目が集まる。
何故なら、他の者が初音に先んじて食事を口にするなど八兵衛さんが許すはずもなく、彼女が食べてくれないと皆が食事を始められないのだ。
動かない箸を後押しするように、ギンレイが待ちきれないといった風に吠えて急かす。
「言わずとも分かっておる!
分かってはおるんじゃ……――えぇい!」
ようやく覚悟を決めた初音は初めてプールで泳ぐ子供みたいに、目を閉じて料理を口にした。
さて、その味や如何に?
「う……うん、あー……ほぉ、う……旨い…かも」
どんだけ勿体振るんだよ。
それでも八兵衛さんにとっては自身の働きが報われた瞬間なのか、かなり改まった言葉で感謝の意を表す。
「姫様より勿体無き御言葉を賜り、老骨の痩身は感激の極みに御座いまする」
確かに、こりゃ本物の堅物だわ。
初音姫サマが万感の思いで食わず嫌いを克服なされたのを皮切りに、各々の前に出された御膳に箸を進める。
「久しぶりの白米…!
鰻の方は――入学以来かもな」
真っ白な身は絶妙なバランスで弾力と柔らかさを両立させ、味噌の穏やかな風味にサンシュウショウのピリッとした刺激が加わって、食べ応えも抜群!
それにしても王道の醤油タレではなく、味噌を使って焼き上げるとは意外だった。
「世界が違えば味付けも変わるんですね」
「いや、今では醤油を煮詰めた物を表面に塗る方が主流だ。味噌で焼くのは古い手法なのだが……亡くなった当方の母や、妻がこの味付けをよく用いていたのでな」
更に意外――と言ってしまうのは失礼か。
かつての母と妻を想いながら調理するなんて、俺が思っていた以上に人情家なのだろう。
今は亡き母の味と聞いて、初音も感じ入った様子で蒲焼きを口にする。
「どうだ?
見た目からは想像できない旨さだったろ?」
「ま、まぁのう。
ところで、そちらの串焼きは食せるのか?」
実は俺も気になっていた。
俺が知ってる鰻料理とは全く異なる串焼きというスタイル。
見た感じでは焼き鳥とも違い、酒と醤油のみというシンプルな味付けは、いかにも古来から伝わる庶民料理といった風情だ。
「葦拿の世界では見た事がないと言っていたな。一度食してみるがよい」
手渡された鰻の串焼き。
かぶりつくと香ばしい皮の歯応えに次いで、僅かに甘い醤油とジューシーな脂身が口内で交わり、新感覚の衝撃を受けた。
時折遭遇する内臓の苦味は、単調になりがちな味わいに巧みなアクセントを刻む。
「旨ぁ~~! けど、どうして開きばかりを見掛けるようになったんだろう。こんなにも旨いのに…」
「当方が思うに、恐らく中まで火を通すのは相応の技術と経験が必要な為であろう。鰻の血は十分に加熱せねば死に至る事もあるからな」
そう、鰻の血には毒があるのだ。
刺身が存在しない最たる理由であり、開きが主流となったのも頷ける。
「ど、毒とな!?」
満面の笑みで両手に串焼きを持っていた初音の動きがピタリと止まった。
その後、八兵衛さんと俺が延々と問題ない事を説明する破目になったのは言うまでもない。
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ここまでのAwazonポイント収支
『ヒノモトオオウナギを釣り上げた――1000P』
現在のAwazonポイント――150,290P
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