異世界だろうがソロキャンだろう!? one more camp!

ちゃりネコ

文字の大きさ
105 / 255
第一部 ニ章 異世界キャンパー編

修験者への道

しおりを挟む
 翌朝の泥沼地は一層濃い霧に包まれ、静か過ぎる水面の空気も相まって、不気味な雰囲気が漂っていた。
 昨夜も女媧ジョカは俺達の前に姿を現さず、意味ありげな沈黙を保ったままだ。
 相手の考えが読めないというのは不安だが、俺としては逆に都合が良い。

「このまま修験者の所へ一気に向かおう」

 実は昨夜も初音と八兵衛との間で意見の衝突があり、こちらも不確定要素として大きな懸念を抱えていた。
 八兵衛さんは危険な泥沼を渡るのはしとせず、帰宅を促したのだが当の初音が一切聞き入れなかったのだ。

「目的の地は目前ぞ!
 ここまで来たら最後までやるんじゃ!」

 そう言って聞かず、とうとう八兵衛さんが折れて渋々着いてくる形となった。

「ウォーターバルーンをもう一つ買います。
 八兵衛さんはそちらを使ってください」

斯様かように得体の知れぬ物になど乗れるか!
 当方の心配などせずともよい」

「慣れるとめっちゃ楽しいんじゃがのう」

 透明なウォーターバルーンがよほど奇妙に見えたらしく、彼は絶対に中へ入ろうとはしなかった。
 それどころか触るのも躊躇ためらっていた事から、水の上を歩ける(転がる?)理屈が理解できなかったのだろう。
 ――初音は相変わらず楽しんでたけどな。

「ふん、そんな物に頼らなくとも田下駄たげたがあれば事足りるのだ。見よ!」

 彼は落ちていた木片とひもを組み合わせ、雪の多い地域で使われる『かんじき』に似た履物を即席で作り、器用に泥沼の上を歩いてみせた。

「まるで忍者みたいっすね。
 その履物は初めて見ましたよ」

「そうかのう?
 よく庶子が田んぼで履いておるぞよ」

 どうやら日ノ本では一般的な農機具らしく、トラクター位しか知らない俺からすれば、泥の上を歩ける田下駄たげたの方がよっぽど珍しい。
 深い霧の中をゆっくりと進む巨大なウォーターバルーンと、水上を歩く老侍。
 ミスマッチな光景は二時間も続き、途中で休憩を挟みながら終点を目指す。
 終止警戒体制を解かなかったのは、足場である泥沼は洞窟の時よりも更に柔らかく、再びツチナマズのような水棲生物に襲われた場合、相応の被害は避けられない為だ。

「いつまで続くのかのう~~。
 ワシ、もう飽きてきたんじゃが」

「いや、もうゴールっぽいぞ」

 沼の終わりが見えた頃、視界を覆っていた霧が徐々に晴れ、俺達の前に姿を現したのは、一本の朽ちた吊り橋だった。
 しかも、橋を渡りきった先には家屋らしき物が見え、あそこに噂の修験者が居る可能性は非常に高いと思われる。
 だが、古い木造の橋は今にも崩れそうで、断崖に囲まれた谷底は日の光も届かない程の暗闇に覆われていた。
 ここを渡りきるには、相応の度胸と覚悟が必要だろう。
 不吉な未来を想起させる吊り橋を前に、しばし立ち尽くす俺達に対して、八兵衛さんが毅然きぜんと口火を切った。

「……当方が最初に渡りまする。万が一の時は捜索などせず、真っ直ぐに熊野へ御戻りくださりませ」
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

商人でいこう!

八神
ファンタジー
「ようこそ。異世界『バルガルド』へ」

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ

天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。 ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。 そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。 よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。 そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。 こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~

さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。 キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。 弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。 偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。 二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。 現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。 はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

神々の間では異世界転移がブームらしいです。

はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》 楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。 理由は『最近流行ってるから』 数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。 優しくて単純な少女の異世界冒険譚。 第2部 《精霊の紋章》 ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。 それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。 第3部 《交錯する戦場》 各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。 人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。 第4部 《新たなる神話》 戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。 連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。 それは、この世界で最も新しい神話。

処理中です...