異世界だろうがソロキャンだろう！？ one more camp！

第一部 ニ章 異世界キャンパー編

鬼属の力 (初音視点)

「あしな……爺じいまでもが……そうか……。
　――よくも…よくもワシの家臣を甚振いたぶってくれたのう？　大方《おおかた》は何処どこぞの忍びじゃろうが…五体満足では帰さぬ故ゆえ、覚悟せい！」

　あしなの胸に刺さっておる針と、変わり果てた皮膚……恐らく、ヒメユリトウロウの毒で間違いなかろう。
　だとすれば――絶対に赦ゆるせぬ！

「馬鹿な…！
　鬼封じの印を施した縄で拘束したわ。
　身動き一つできないはず！」

「ワシだけならな。
　じゃがのう、お前はギンレイを甘く見た。
　ワシの賢かしこ可愛い弟をな！」

　廃屋で爺とはぐれた時、暗がりに乗じて不意を打たれたワシは成なす術すべもなく拘束され、衣服を剥《は》ぎ取られてしもうた。
　一緒に居おったギンレイは相手との力量差を悟ると、敢あえて戦わずに女から逃げ果おおせ、再びワシの元へ戻ってきて縄を解いてくれたのじゃ。

「どうにか谷を降りたものの、辺りは岩ばかり。
　途方に暮れておった所、ギンレイが岩に向かって吠え始めたのでな、物は試しと穴を開けてみれば、中から聞き覚えのある音がしておったわ。
　家主よ、ちくっと邪魔させてもらうぞよ」

「へっ、今なら大歓迎だ。
　後でケーキ奢おごってやンよ」

　けーき…か。
　あしなを手厚く葬ほうむった後、墓前に供えてやるとするかのう……。

「じゃが、お前に墓は要らぬ。
　誰とも分かってもらえぬまま往いね！」

　忍びは奇妙な腕を振り回し、八方から攻撃を仕掛けてきた。
　両の手には短刀が握られておるが、そんな玩具がんぐが鬼に通用するものか！
　握り締めた拳は赤熱すると、周囲の温度から著しく逸脱して蜃気楼しんきろうを浮かせた。

「虚仮威こけおどしが！　たとえ鬼属きぞくであっても、お前のように小さな童わらべに何ができ……っ！？」

　もはや一片の慈悲もなく、確実に殺すつもりで拳を振り抜く！
　極限に圧縮された空気が『ぐーぱん』の軌道上に存在する全てを巻き込み、回避も防御すらも無効にする純粋な暴力の塊をぶつけた！
　真正面から喰らった忍びは渦巻く衝撃によって壁に叩き込まれ、大量の瓦礫がれきが降り注ぐ。

「貴様ァ…………小さい…じゃと？
　これは赦ゆるせんのう…………立て。
　まだ直接殴ってはおらぬ。ワシの拳にお前の骨を砕く音を聞かせてくりゃれ」

　ワシが小さいなどと虚言を弄ろうするとは…。
　よほど躾しつけの悪い飼い主が育てたとみえるな！

「ぐぅっ…！　有り得な……いくら鬼属きぞくでも…！」

「驚嘆には及ばず。
　何故なぜなら、ワシは武勇の誉ほまれ高き将にして伊勢國いせのくに一帯の鬼属きぞくを統べる九鬼くき 澄隆すみたかの子なり！
　其処彼処そこかしこに居おる凡庸ぼんような鬼属きぞくと思うたか！」

　止とどめを刺そうと近寄った時、怒りで我を忘れかけた頭に女の顔が過よぎる。
　この面相……どこかで見た覚えが……。
　だが、この一瞬の隙を満身創痍まんしんそういのクノイチは見逃さなかった！

「さすがね……おひめさま……務めを…はたせなかったのは……いつ以来……かしら…」

「冥府めいふにて、あしなに詫びを入れて…むっ！？」

　会話によって僅かに闘志が緩んだ隙を突き、女が妙な霧を吹き付けよった！
　これは忍びの術――ではない！

「ぐああああ！　目が…！　貴様ッ！」

「ふふっ…ま・た・…有効活用…させてもらった…わ」

　奴が使ったのは以前、クチバシカモノを退けた際、あしなが使っておった『熊撃退すぷれ』！
　不味い…痛みで目が開けられぬ！

「いけどりに…するつもり……だったけど…しかたない…わ…………じゃあ…ね」

　空気を切り裂く音が耳に届く。
　もはや万事ばんじ休きゅうすと思われた矢先、何処いずこから何者かが走り寄る！

「今だ！　当方ごとで構わぬ、撃てぇえ！！」

「ちぃっ！　服の下に鎖帷子くさりかたびらを…！
　爺じじいめ、まだ生きてたか！」

　激しく揉もみ合う音。
　そして――。

「…尊敬リスペクトに値するぜ、アンタ」

「修験者殿！？　なにを……止せぇ！」

　嫌な予感が胸に去来した直後、何かが飛来する音と共に、不気味な静寂が辺りを包む――。

　￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣