異世界だろうがソロキャンだろう!? one more camp!

ちゃりネコ

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第二部 二章 新たな仲間、新たな岐路

大泥棒ゴえもんの実力

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「男が女人にょにんの格好ってなぁ妙な気分でね、ちょいと失礼させてもらいやすぜ」

「指先から…紙切れ?
 なん――なんだ!? どんどん…溢れてくる!」

 こぼれた数枚の白紙は数十枚、数百枚と数を増していき、次第に膨大な紙吹雪となって宿を席巻していく!
 荒れ狂う嵐は階段まで真っ白に埋めつくし、ようやく収まった頃にはゴえもんは昼間と同様の、歌舞伎役者が着ている派手な衣装へと着替えを済ませていた。

「これが噂の忍術か!?
 町役人では歯が立たぬのも納得じゃ」

 初音が驚愕きょうがくするのは無理もない話だ。
 なにせ、現代人の俺から見ても全く仕掛けが分からないのだから!
 加えて、真正面から防衛網を突破されるという想定外の事態に動揺した俺は浮き足立ってしまい、追撃どころか動く事すらできないでいた。
 そんな中、怒り震える万治郎は果敢にもゴえもんへ猛然と突進していく。

手前てめぇ、よりにもよってお江姐こうねぇさんに化けるとは…許せねぇ!」

 勢いのままに打ち抜かれた拳を軽々とかわすゴえもん。
 目標を失った攻撃は付近の柱を粉砕し、人間離れした腕力を見せつける。

「危ねぇ危ねぇ。
 へへっ、怪我はないかい?」

手前てめぇの心配でもしやがれ!」

 万治郎の息をもつかせぬ連続攻撃!
 俺なんかが割り込んでも足手まといになるのがオチの攻防戦を前に、出来る事と言えば屋根に居る飯綱いずなを呼ぶくらいなのが情けない。

飯綱いずなぁ! 聞こえるか!
 済まない、ゴえもんにスマホを盗られた! 
 お前は川沿いに配置された愚連隊の皆を部屋の入口に集めてくれ!」

「ああ!? ったく、なにやってンだ!
 仕方ねぇな、ソイツを逃がすンじゃねェぞ!」

 悪態をつきながらも翼を広げ、川へと向かって飛び立つ飯綱いずな
 そのまま裏庭に控えている愚連隊にも用件を伝え、ここからゴえもんを逃がさないように突貫で布陣を再構築する。

「あしなよ、ワシはどうすればよいのじゃ!
 万治郎に加勢するべきかや?」

「いや、お前の攻撃が万治郎に当たったら…。
 かく、奴を部屋から逃がすな!
 俺が必ず隙を作ってやる!」

 俺の指示に渋々同意する初音。
 鬼属きぞくの力は非常に強力な反面、人間と共闘するとなると、安全確保には細心の注意が必要となる。
 それを証明するかのように、激しく立ち回る万治郎とゴえもん。
 これだけ互いの位置を絶え間なく変えている格闘戦の最中さなか喧嘩ケンカ素人の初音を投入すれば同士討ちの危険が伴う。

「チィッ! どうした、打ってきやがれ!」

「いやぁ~、あっしは平和主義者なもんでね。
 喧嘩ケンカはほとほとニガテなんでさぁ」

 先程から万治郎は一方的に攻め立て、ゴえもんは防戦に回っていた。
 一見して優勢だと思われていた万治郎は、とっくに気づいていたのだ。
 自分が遊ばれているという事実に!

「あれだけのパンチや蹴りが…全然効いてない! 全ての攻撃がいなされ、無効化されてるんだ!」

 時には半歩身をひるがえし、腕や足が伸びきった瞬間に衝撃を流して当たったを演じる。
 所々でクリーンヒットしていたと思われた打撃の数々は、巧みな体術によってことごとくダメージが抑えられ、殆ど無傷の状態であった。

「なんと……見事なり!」

 大泥棒の体術に、思わず称賛を口にする初音。
 これまた悔しいが――認めざるを得ない。
 そして、闘いの中で気づいたのがギンレイの不可解な挙動だ。
 いつもなら、自身の数倍はある敵でも怯む事なく敵意を剥き出しで吠えるのに、今回に限って何故なぜウロウロとするばかりなんだ!?

「ギンレイ、どうしたんだ?
 どこか体の調子でも崩したのか?」

 愛犬に駆け寄って軽い触診を行うが、どこも異常があるようには思えない。
 その一方で、ギンレイは悲しげに鼻を鳴らして甘えてくる。
 本当に…明らかに様子がおかしい!

「ハァ……ハァ……クッソが!」

「おやぁ~、疲れたのかい?
 だったら休むといい。
 あっしはそれまで一服させてもらいやす」

 懐から煙管きせるを取り出して悠長に構えていた所に、岩石を彷彿ほうふつとさせる万治郎の剛拳がうなりをあげて迫る!

「おっとぉ、ははは!
 火まで頂戴しちまって悪いね」

「コイ…ツッ!
 どうやって火なんざつけやがった!?」

 万治郎からは近過ぎて見せなかったのだろう。
 奴は固く握られた拳に紙一重かみひとえでマッチを擦り付け、悠々と火を起こしたのだ!

「初音、俺が合図したら構わず体当たりしてくれ」

 虎の子とも呼べるAwazonを奪われ、更には万治郎を手玉に取る程の圧倒的な力量差を前に、もはや手段を選んではいられなくなっていた。
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