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第二部 二章 新たな仲間、新たな岐路
旅人の交差する町、関宿
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無言で旅に臨むのはいつ以来だろうか。
今では随分と遠い日に感じていたソロキャンの日々を思い出し、懐かしさと息苦しさを感じていた。
初音はバギーの後部座席でずっと景色を眺めていたが、一向に定まらない視線は揺れ動く心情を表しているようだ。
一方の万治郎も終始無言で、時折すれ違う樹木に木刀を叩きつけ、内心の苛つきを抑え込もうとしている。
「…今日は早かったな。
日が落ちる前に到着できて良かったよ」
「…そうじゃな」
噂の発信源となった町は関宿と言い、その名が示す通り大きな関所によって國境の治安を保ち、安定と賑わいに溢れた町だ。
――本来であれば。
「まだ日中だってのに誰も歩いてねぇ…」
町の規模は思っていたより大きく、通りの両側を埋め尽くすように商家や民家が立ち並び、さぞ賑わいがあったのだろう。
今では通行人どころか犬すら姿を消し、まるでゾンビ映画さながらのゴーストタウンを彷彿とさせた。
「宿はやっておるのかのう?
少なくとも関所は息災であろう」
関宿は山の麓に位置する裕福な町という事もあり、國境を根城にする野盗や山賊の被害が絶えないと聞く。
町では行き来する旅人や商人を守る為、金銭で雇われて護衛を務める者も多く、関所に詰める武士も大勢居るはずなのだが――。
「お、おい! マジかよ…」
通りの西端には確かに関所と思われる区画があり、町が定めた独自のルールともいうべき高札も掲げられていた。
しかし、肝心の関所には武士など一人として居らず、もぬけの殻となったまま放置されていたのだ。
「武士が治めるべき町の勤めを放棄するなど、切腹を申し付けられても仕方のない話じゃ。それが……こうも――」
思わず言葉に詰まる程の衝撃を受ける初音。
地方豪族の一人娘として、支配階級である武士の態度には厳しく、それに見合った重責を担うべきと普段から口にしていた。
表にこそ出さなかったが、内心では反発する矜持を抑え込んでいるのだろう。
「これ様子だと通行人から話を聞くのは無理そうだな。そろそろ日が落ちる頃合いだし、近くの廃屋で一泊させてもらおう」
「宿まで閉まっておる。
旅人の往来が途絶えて久しいようじゃ」
これだけ大きな町に宿泊施設が一件もないというのは異様な話で、普通なら絶好の稼ぎ場となるはず。
だが、かなりの歴史を持っていたであろう名物宿の数々は、軒並み閉店状態である。
若干の心苦しさを感じながらも、近くにあった木工店にお邪魔させてもらう。
「すいませーん、誰か……いないっすね…」
中は真っ暗で家財なども放置され、住民は殆ど身一つで逃げ出したらしい。
歩くたびに床がギシギシと鳴り、不気味な雰囲気を一層強めていく。
ギンレイはしきりに鼻を動かして周囲を警戒し、唸り声まであげ始めていた。
「あー…おー…その、あしなよ。
別に無理して町に泊まる必要は――」
「あるぜ。
この町にはよ…あるんだ」
心霊系に対して怖がりを発動させた初音の言葉を遮り、万治郎が毅然とした口調で驚くべき事柄を告げた。
「ここはよ……親父殿が住んでた宿場町。
あの男が……撫斬り八兵衛と呼ばれるようになった町だ」
今では随分と遠い日に感じていたソロキャンの日々を思い出し、懐かしさと息苦しさを感じていた。
初音はバギーの後部座席でずっと景色を眺めていたが、一向に定まらない視線は揺れ動く心情を表しているようだ。
一方の万治郎も終始無言で、時折すれ違う樹木に木刀を叩きつけ、内心の苛つきを抑え込もうとしている。
「…今日は早かったな。
日が落ちる前に到着できて良かったよ」
「…そうじゃな」
噂の発信源となった町は関宿と言い、その名が示す通り大きな関所によって國境の治安を保ち、安定と賑わいに溢れた町だ。
――本来であれば。
「まだ日中だってのに誰も歩いてねぇ…」
町の規模は思っていたより大きく、通りの両側を埋め尽くすように商家や民家が立ち並び、さぞ賑わいがあったのだろう。
今では通行人どころか犬すら姿を消し、まるでゾンビ映画さながらのゴーストタウンを彷彿とさせた。
「宿はやっておるのかのう?
少なくとも関所は息災であろう」
関宿は山の麓に位置する裕福な町という事もあり、國境を根城にする野盗や山賊の被害が絶えないと聞く。
町では行き来する旅人や商人を守る為、金銭で雇われて護衛を務める者も多く、関所に詰める武士も大勢居るはずなのだが――。
「お、おい! マジかよ…」
通りの西端には確かに関所と思われる区画があり、町が定めた独自のルールともいうべき高札も掲げられていた。
しかし、肝心の関所には武士など一人として居らず、もぬけの殻となったまま放置されていたのだ。
「武士が治めるべき町の勤めを放棄するなど、切腹を申し付けられても仕方のない話じゃ。それが……こうも――」
思わず言葉に詰まる程の衝撃を受ける初音。
地方豪族の一人娘として、支配階級である武士の態度には厳しく、それに見合った重責を担うべきと普段から口にしていた。
表にこそ出さなかったが、内心では反発する矜持を抑え込んでいるのだろう。
「これ様子だと通行人から話を聞くのは無理そうだな。そろそろ日が落ちる頃合いだし、近くの廃屋で一泊させてもらおう」
「宿まで閉まっておる。
旅人の往来が途絶えて久しいようじゃ」
これだけ大きな町に宿泊施設が一件もないというのは異様な話で、普通なら絶好の稼ぎ場となるはず。
だが、かなりの歴史を持っていたであろう名物宿の数々は、軒並み閉店状態である。
若干の心苦しさを感じながらも、近くにあった木工店にお邪魔させてもらう。
「すいませーん、誰か……いないっすね…」
中は真っ暗で家財なども放置され、住民は殆ど身一つで逃げ出したらしい。
歩くたびに床がギシギシと鳴り、不気味な雰囲気を一層強めていく。
ギンレイはしきりに鼻を動かして周囲を警戒し、唸り声まであげ始めていた。
「あー…おー…その、あしなよ。
別に無理して町に泊まる必要は――」
「あるぜ。
この町にはよ…あるんだ」
心霊系に対して怖がりを発動させた初音の言葉を遮り、万治郎が毅然とした口調で驚くべき事柄を告げた。
「ここはよ……親父殿が住んでた宿場町。
あの男が……撫斬り八兵衛と呼ばれるようになった町だ」
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