222 / 255
第二部 最終章 one more camp!
ゴえもんの不調
しおりを挟む
「おい! アンタ……大丈夫なのか?」
「へへっ、こう見えてね…若い娘さんに心配される歳でも…ねぇのさ…」
空を舞う飯綱が並行して声を掛けた。
言葉でどれだけ強がったとしても、尋常ではない量の汗と小刻みに震える肩が彼の不調を物語る。
「初音、岸に着いたら少し休もう」
「分かっておる。
ワシも――聞きたい事が山ほどあるんじゃ」
初音が言っているのは、ゴえもんに関する事ではないのだろう。
今回の騒動は不明な点が多すぎる。
俺も話をしなければならない。
黙秘を貫く飯綱とゴえもんにな――。
「……まぁ、いい頃合いか…ねぇ」
「………………」
達観した様子の大泥棒と修験者。
ボートがようやく岸へと着岸すると、彼の体調は一人では歩けない程になっていた。
肩を貸すと同時に、ずっと心に引っ掛かっていた疑問を口にする。
「千代女とやりあった傷が原因か。
アンタ、何故そこまでして俺を助けた?
二見興玉神社の一件だってそうだろ。澄隆公の指示を受けたアンタは俺達を追って賓日館の天井に隠れ、いざって時に助けに入るつもりだったんだ。違うか?」
「…よく、御存知で…。
処刑…を免れる為の…裏取引って…奴でさぁ…」
息も絶え絶えに経緯を話すゴえもん。
その最中、いつになく毅然とした表情の飯綱が話に割り込む。
「アンタはちょい休んでろよ。
アタシにも聞きたい事があンじゃねェのか?」
「質問嫌いは――治ったらしいな。
やっと思い出したんだよ、俺はアンタ達をよく知ってる。異世界に来るずっと前から…」
気を失うたびに見ていた夢は記憶の断片だ。
声の主はゴえもんと飯綱。
その頃から二人は何か――目的があって協力し、行動を共にしていた。
「そうだ。このフザけた世界でゴえもんと知り合い、とある協力を持ち掛けられ…話に乗ったのさ」
「やっぱりな。俺達が伊勢を離れた時も、ゴえもんの所へ行ってたんだろ?」
「ああ、その間もお前らをモニタリングしてた。
流石に全滅しかけた時は焦ったがな…」
一瞬で熊野から関宿まで移動したのか。
未来人である飯綱は未知の道具をまだ隠し持っているのかもしれない。
だとするなら危機を知った直後、リアルタイムで駆けつけられたのも納得だ。
事の真相が明らかになりつつある中、それまで沈黙を守ってきた初音が口を開く。
「よかろう。
三者とも存分に話をするがよい。
父上、ワシも貴方様に聞きたい事があります」
「うむ、少し見ぬ間に大きくなったのう。
今なら…全てを打ち明けられる」
初音は俺の方に視線を向け、小さく頷くと少し距離を取って澄隆公と話を始めた。
あの親子にも色々あるのだろう。
この機会に双方のわだかまりを解くといい。
「ここからは私に話させてください」
驚くほどに落ち着いた声が響く。
見れば僅かに体調が回復したゴえもんが傍に立ち、襟を正して会話を加わろうとしていた。
先程までの飄々とした雰囲気は微塵もなく、サラリーマンじみた生真面目さが滲み出る。
「それが本来のアンタなのかい?
随分とまぁ――お堅いじゃないか」
散々に気を揉まされた為なのか、自分でも意外な程に嫌味っぽい台詞を口にした。
「へへっ、こう見えてね…若い娘さんに心配される歳でも…ねぇのさ…」
空を舞う飯綱が並行して声を掛けた。
言葉でどれだけ強がったとしても、尋常ではない量の汗と小刻みに震える肩が彼の不調を物語る。
「初音、岸に着いたら少し休もう」
「分かっておる。
ワシも――聞きたい事が山ほどあるんじゃ」
初音が言っているのは、ゴえもんに関する事ではないのだろう。
今回の騒動は不明な点が多すぎる。
俺も話をしなければならない。
黙秘を貫く飯綱とゴえもんにな――。
「……まぁ、いい頃合いか…ねぇ」
「………………」
達観した様子の大泥棒と修験者。
ボートがようやく岸へと着岸すると、彼の体調は一人では歩けない程になっていた。
肩を貸すと同時に、ずっと心に引っ掛かっていた疑問を口にする。
「千代女とやりあった傷が原因か。
アンタ、何故そこまでして俺を助けた?
二見興玉神社の一件だってそうだろ。澄隆公の指示を受けたアンタは俺達を追って賓日館の天井に隠れ、いざって時に助けに入るつもりだったんだ。違うか?」
「…よく、御存知で…。
処刑…を免れる為の…裏取引って…奴でさぁ…」
息も絶え絶えに経緯を話すゴえもん。
その最中、いつになく毅然とした表情の飯綱が話に割り込む。
「アンタはちょい休んでろよ。
アタシにも聞きたい事があンじゃねェのか?」
「質問嫌いは――治ったらしいな。
やっと思い出したんだよ、俺はアンタ達をよく知ってる。異世界に来るずっと前から…」
気を失うたびに見ていた夢は記憶の断片だ。
声の主はゴえもんと飯綱。
その頃から二人は何か――目的があって協力し、行動を共にしていた。
「そうだ。このフザけた世界でゴえもんと知り合い、とある協力を持ち掛けられ…話に乗ったのさ」
「やっぱりな。俺達が伊勢を離れた時も、ゴえもんの所へ行ってたんだろ?」
「ああ、その間もお前らをモニタリングしてた。
流石に全滅しかけた時は焦ったがな…」
一瞬で熊野から関宿まで移動したのか。
未来人である飯綱は未知の道具をまだ隠し持っているのかもしれない。
だとするなら危機を知った直後、リアルタイムで駆けつけられたのも納得だ。
事の真相が明らかになりつつある中、それまで沈黙を守ってきた初音が口を開く。
「よかろう。
三者とも存分に話をするがよい。
父上、ワシも貴方様に聞きたい事があります」
「うむ、少し見ぬ間に大きくなったのう。
今なら…全てを打ち明けられる」
初音は俺の方に視線を向け、小さく頷くと少し距離を取って澄隆公と話を始めた。
あの親子にも色々あるのだろう。
この機会に双方のわだかまりを解くといい。
「ここからは私に話させてください」
驚くほどに落ち着いた声が響く。
見れば僅かに体調が回復したゴえもんが傍に立ち、襟を正して会話を加わろうとしていた。
先程までの飄々とした雰囲気は微塵もなく、サラリーマンじみた生真面目さが滲み出る。
「それが本来のアンタなのかい?
随分とまぁ――お堅いじゃないか」
散々に気を揉まされた為なのか、自分でも意外な程に嫌味っぽい台詞を口にした。
11
あなたにおすすめの小説
狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~
一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。
しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。
流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。
その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。
右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。
この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。
数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。
元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。
根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね?
そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。
色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。
……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!
異世界ハズレモノ英雄譚〜無能ステータスと言われた俺が、ざまぁ見せつけながらのし上がっていくってよ!〜
mitsuzoエンターテインメンツ
ファンタジー
【週三日(月・水・金)投稿 基本12:00〜14:00】
異世界にクラスメートと共に召喚された瑛二。
『ハズレモノ』という聞いたこともない称号を得るが、その低スペックなステータスを見て、皆からハズレ称号とバカにされ、それどころか邪魔者扱いされ殺されそうに⋯⋯。
しかし、実は『超チートな称号』であることがわかった瑛二は、そこから自分をバカにした者や殺そうとした者に対して、圧倒的な力を隠しつつ、ざまぁを展開していく。
そして、そのざまぁは図らずも人類の命運を握るまでのものへと発展していくことに⋯⋯。
異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい?
自重して目立たないようにする?
無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ!
お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は?
主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。
(実践出来るかどうかは別だけど)
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~
さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。
キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。
弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。
偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。
二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。
現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。
はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!
迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜
サイダーボウイ
ファンタジー
アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。
父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。
そんなルイスの危機を救ってくれたのが、400年の時を生きる魔女エメラルドであった。
彼女が操るのは、ルイスがこれまでに目にしたことのない未発見の魔法。
その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。
「今の自分が悔しいなら、生まれ変わるしかないよ」
そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。
これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。
【完結】神様と呼ばれた医師の異世界転生物語 ~胸を張って彼女と再会するために自分磨きの旅へ!~
川原源明
ファンタジー
秋津直人、85歳。
50年前に彼女の進藤茜を亡くして以来ずっと独身を貫いてきた。彼の傍らには彼女がなくなった日に出会った白い小さな子犬?の、ちび助がいた。
嘗ては、救命救急センターや外科で医師として活動し、多くの命を救って来た直人、人々に神様と呼ばれるようになっていたが、定年を迎えると同時に山を買いプライベートキャンプ場をつくり余生はほとんどここで過ごしていた。
彼女がなくなって50年目の命日の夜ちび助とキャンプを楽しんでいると意識が遠のき、気づけば辺りが真っ白な空間にいた。
白い空間では、創造神を名乗るネアという女性と、今までずっとそばに居たちび助が人の子の姿で土下座していた。ちび助の不注意で茜君が命を落とし、謝罪の意味を込めて、創造神ネアの創る世界に、茜君がすでに転移していることを教えてくれた。そして自分もその世界に転生させてもらえることになった。
胸を張って彼女と再会できるようにと、彼女が降り立つより30年前に転生するように創造神ネアに願った。
そして転生した直人は、新しい家庭でナットという名前を与えられ、ネア様と、阿修羅様から貰った加護と学生時代からやっていた格闘技や、仕事にしていた医術、そして趣味の物作りやサバイバル技術を活かし冒険者兼医師として旅にでるのであった。
まずは最強の称号を得よう!
地球では神様と呼ばれた医師の異世界転生物語
※元ヤンナース異世界生活 ヒロイン茜ちゃんの彼氏編
※医療現場の恋物語 馴れ初め編
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる