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第二部 最終章 one more camp!
諦めを踏破した男
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ゴえもんは初音に顔を見られないように、注意深く背を向けたまま岩に腰掛けた。
小さな皺が無数に刻まれ、僅かに白髪が混じり始めた顔は真っ直ぐに俺へと注がれ、隣に立つ飯綱は緊張した面持ちで固唾を飲む。
「貴方を造った理由、それは初音を救う事。
一言で言ってしまえば、その一点に尽きます」
「初音を……救うだと?」
意味が分からない。
分からないが――確かに記憶の断片で聞いた覚えがある。
あれはどういう意味だ?
「言葉の通り、と言っても理解し難いでしょう。
簡単に説明しますと、この異世界はある種のプログラムに則って運営され、定められたストーリーの中でプレイヤーが自由に行動できるのです。まるで……仮想現実みたいにね。つまり、そこで登場する人物がどのような運命を辿るのか、あらかじめ決められているのです」
「ゲーム……遊びだったとでも言うのか!?
今までの旅も、出会ってきた人達も……全部、作り物だったとでも!?」
駄目だ、頭が混乱して…得られた情報を処理しきれない!
ゴえもんは一際大きく息を吐くと、言うべきか迷っているようにも見えたが、意を決した彼はとうとう口にする。
「この世界は本来、別の形で存在していました。それを未来人は自分達が楽しむ為、好きなように改変した結果、刺激的で都合の良い世界を誕生させたのです。本来は…鬼属も実在する種族ではありません」
急に耳が遠くなった感覚に襲われ、不快な耳鳴りが絶え間ない反響を繰り返す。
異世界も初音も全て、造り物のプログラム…。
脳内を支配する音を振り払い、同じ顔を持つ男の話に耳を傾ける。
「こんな不条理、納得出来ませんよね…。
全ては未来人達が楽しみたいが為、ただ…それだけの為に、過去の時間軸から無作為に人の意識を取り出し、この改変された世界に送り込み、その様子を視聴するのです。プレイヤーは侍やガンマン、科学者や探偵等々…。様々なキャラクターが苦労しながら知恵を絞り、時には協力したり裏切ったりして――死んでいく。展開の予想がつかない、極めて刺激的な娯楽といったところでしょうか」
「ふざけんなぁぁぁあああああ!!!
畜生! テメェら、人をなんだと思ってやがる! 未来人だと!? 俺みたいな奴を見て楽しむだと!? ふざけやがって畜生!!」
今日まで死ぬ思いで生き抜いてきた。
それなのに、命懸けの日々がワケの分からん連中の娯楽だっただなんて…。
楽しむ為だけに世界を丸ごと改変するだと?
「どいつもこいつも……イカレてやがる!」
息が荒い、駄目だ!
興奮して自分を抑えられない!
未だ座ったままのゴえもんに掴み掛かろうとしたが、寸でのところで飯綱が止めに入る。
「頼む、納得できねェだろうが…聞いてくれ」
いつもの小馬鹿にした微笑みは影を潜め、必死の表情で俺を押さえつける飯綱。
白く、細い指から伝わる震えは彼女の心情を強く刻み、祈りにも似た言葉が俺の理性を引き留める。
「異世界に来て、ずっと見られていると…。
俺の…心の弱さや、精神疾患の前兆なのかと思っていたのに、誰かの娯楽だっただと!?」
今まで感じていた膨大な数の視線、ずっと見られているような感覚、最初は気のせいだと思っていた…。
女媧様にヘンショウヒキガエル、それに千代女まで目をつけられていたからだと――だが、そうじゃなかった!
「葦拿さんの居た時代から150年後、時間と空間の法則を解明した偉大な科学者は、人類に対して計り知れない恩恵をもたらしました。生命活動の停止や病気、老いやちょっとした悩みすら超越するに至ったのです。しかし、その代価として人類は肉体を捨てた。それが未来の世界なのです」
「その超絶偉大な科学者サマがアタシって訳よ。
暇潰しって感じで手伝ってやってンのさ」
妙に赤い顔で自慢げに話す飯綱。
只者ではないと思ってはいたが…。
ヘタレ泣き虫のコイツが人類に貢献した科学者だったなんて――あり得ねぇわ。
「貴方が異世界で体験した出来事はAwazonが提供するPrice Videoとして放映され、何十万という人が視聴しています。視聴人数が多いプレイヤーはその分、多くの特典を得る事に繋がるんです。
たとえば――バギーとか…」
飯綱と初めて会った時、俺を有名人だと言っていたが…それが言葉の通りだったと分かるはずもなく、当時はスルーしたのを思い出す。
更に思い返してみれば関宿で危うく全滅しかけた翌朝に駆けつけたのも、Price Videoなる番組で逐一、俺達を見守っていたお陰だろう。
そして、特別イベントと称して初音と出会う特典を得たというワケか。
やっぱり、あれは偶然じゃなかったんだ。
「初音を救うと言ったな。
この世界の住人は運命が決まっていると…。
――だとすると初音は…!」
静かに、そして異論を許さない力強さをもって彼は頷く。
その話が本当なら初音は…いや、冗談や憶測でここまで手の込んだ仕掛けはしないだろう。
「い、いつだ!? どこで初音は…」
「落ち着いて。
本来のストーリーなら今夜、彼女はとある理由で自ら井戸へ飛び込み、その生涯を終えるはずでした。けれど、女媧や飯綱さんの協力でプログラムの一部を改竄する事に成功したのです」
初音から聞いた女媧様の最後。
殆ど理解が及ばなかったそうだけど、見たこともない文字の渦が体から溢れてきたと聞いたが…。
「女媧は元々、異世界への不法アクセスを監視する端末に過ぎなかったのですが、飯綱さんの助力を得て、私が手を加えた特殊プログラムの集合体です」
「不……俺の…体……不死身だから…?
お前、そこまでして……自分のクローンを造ってまで…助けたかったのか!? 初音を!」
ゴえもんは静かに聞いていた。
頷きながら、目を逸らさずに。
「私は20年前から初音を助ける為に準備を進めてきたのです。Awazonの用意したストーリーをクリアし、多くの視聴者を満足させた私は職員として招かれ、数え切れない程の別世界を渡り、時空を超えても尚、初音を救う事を諦めませんでした。異世界で出会って――死んでしまった日から…ずっと!」
同じ。
俺と同じようにゴえもんはAwazonによって異世界へ送られ、この下らないストーリーを生き抜いただけでなく、20年間もAwazonの職員という立場を隠れ蓑にして、計画を練っていたというのか…。
小さな皺が無数に刻まれ、僅かに白髪が混じり始めた顔は真っ直ぐに俺へと注がれ、隣に立つ飯綱は緊張した面持ちで固唾を飲む。
「貴方を造った理由、それは初音を救う事。
一言で言ってしまえば、その一点に尽きます」
「初音を……救うだと?」
意味が分からない。
分からないが――確かに記憶の断片で聞いた覚えがある。
あれはどういう意味だ?
「言葉の通り、と言っても理解し難いでしょう。
簡単に説明しますと、この異世界はある種のプログラムに則って運営され、定められたストーリーの中でプレイヤーが自由に行動できるのです。まるで……仮想現実みたいにね。つまり、そこで登場する人物がどのような運命を辿るのか、あらかじめ決められているのです」
「ゲーム……遊びだったとでも言うのか!?
今までの旅も、出会ってきた人達も……全部、作り物だったとでも!?」
駄目だ、頭が混乱して…得られた情報を処理しきれない!
ゴえもんは一際大きく息を吐くと、言うべきか迷っているようにも見えたが、意を決した彼はとうとう口にする。
「この世界は本来、別の形で存在していました。それを未来人は自分達が楽しむ為、好きなように改変した結果、刺激的で都合の良い世界を誕生させたのです。本来は…鬼属も実在する種族ではありません」
急に耳が遠くなった感覚に襲われ、不快な耳鳴りが絶え間ない反響を繰り返す。
異世界も初音も全て、造り物のプログラム…。
脳内を支配する音を振り払い、同じ顔を持つ男の話に耳を傾ける。
「こんな不条理、納得出来ませんよね…。
全ては未来人達が楽しみたいが為、ただ…それだけの為に、過去の時間軸から無作為に人の意識を取り出し、この改変された世界に送り込み、その様子を視聴するのです。プレイヤーは侍やガンマン、科学者や探偵等々…。様々なキャラクターが苦労しながら知恵を絞り、時には協力したり裏切ったりして――死んでいく。展開の予想がつかない、極めて刺激的な娯楽といったところでしょうか」
「ふざけんなぁぁぁあああああ!!!
畜生! テメェら、人をなんだと思ってやがる! 未来人だと!? 俺みたいな奴を見て楽しむだと!? ふざけやがって畜生!!」
今日まで死ぬ思いで生き抜いてきた。
それなのに、命懸けの日々がワケの分からん連中の娯楽だっただなんて…。
楽しむ為だけに世界を丸ごと改変するだと?
「どいつもこいつも……イカレてやがる!」
息が荒い、駄目だ!
興奮して自分を抑えられない!
未だ座ったままのゴえもんに掴み掛かろうとしたが、寸でのところで飯綱が止めに入る。
「頼む、納得できねェだろうが…聞いてくれ」
いつもの小馬鹿にした微笑みは影を潜め、必死の表情で俺を押さえつける飯綱。
白く、細い指から伝わる震えは彼女の心情を強く刻み、祈りにも似た言葉が俺の理性を引き留める。
「異世界に来て、ずっと見られていると…。
俺の…心の弱さや、精神疾患の前兆なのかと思っていたのに、誰かの娯楽だっただと!?」
今まで感じていた膨大な数の視線、ずっと見られているような感覚、最初は気のせいだと思っていた…。
女媧様にヘンショウヒキガエル、それに千代女まで目をつけられていたからだと――だが、そうじゃなかった!
「葦拿さんの居た時代から150年後、時間と空間の法則を解明した偉大な科学者は、人類に対して計り知れない恩恵をもたらしました。生命活動の停止や病気、老いやちょっとした悩みすら超越するに至ったのです。しかし、その代価として人類は肉体を捨てた。それが未来の世界なのです」
「その超絶偉大な科学者サマがアタシって訳よ。
暇潰しって感じで手伝ってやってンのさ」
妙に赤い顔で自慢げに話す飯綱。
只者ではないと思ってはいたが…。
ヘタレ泣き虫のコイツが人類に貢献した科学者だったなんて――あり得ねぇわ。
「貴方が異世界で体験した出来事はAwazonが提供するPrice Videoとして放映され、何十万という人が視聴しています。視聴人数が多いプレイヤーはその分、多くの特典を得る事に繋がるんです。
たとえば――バギーとか…」
飯綱と初めて会った時、俺を有名人だと言っていたが…それが言葉の通りだったと分かるはずもなく、当時はスルーしたのを思い出す。
更に思い返してみれば関宿で危うく全滅しかけた翌朝に駆けつけたのも、Price Videoなる番組で逐一、俺達を見守っていたお陰だろう。
そして、特別イベントと称して初音と出会う特典を得たというワケか。
やっぱり、あれは偶然じゃなかったんだ。
「初音を救うと言ったな。
この世界の住人は運命が決まっていると…。
――だとすると初音は…!」
静かに、そして異論を許さない力強さをもって彼は頷く。
その話が本当なら初音は…いや、冗談や憶測でここまで手の込んだ仕掛けはしないだろう。
「い、いつだ!? どこで初音は…」
「落ち着いて。
本来のストーリーなら今夜、彼女はとある理由で自ら井戸へ飛び込み、その生涯を終えるはずでした。けれど、女媧や飯綱さんの協力でプログラムの一部を改竄する事に成功したのです」
初音から聞いた女媧様の最後。
殆ど理解が及ばなかったそうだけど、見たこともない文字の渦が体から溢れてきたと聞いたが…。
「女媧は元々、異世界への不法アクセスを監視する端末に過ぎなかったのですが、飯綱さんの助力を得て、私が手を加えた特殊プログラムの集合体です」
「不……俺の…体……不死身だから…?
お前、そこまでして……自分のクローンを造ってまで…助けたかったのか!? 初音を!」
ゴえもんは静かに聞いていた。
頷きながら、目を逸らさずに。
「私は20年前から初音を助ける為に準備を進めてきたのです。Awazonの用意したストーリーをクリアし、多くの視聴者を満足させた私は職員として招かれ、数え切れない程の別世界を渡り、時空を超えても尚、初音を救う事を諦めませんでした。異世界で出会って――死んでしまった日から…ずっと!」
同じ。
俺と同じようにゴえもんはAwazonによって異世界へ送られ、この下らないストーリーを生き抜いただけでなく、20年間もAwazonの職員という立場を隠れ蓑にして、計画を練っていたというのか…。
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