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第17話 イワナの串焼きを食べよう!

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「できたぞ……究極であり至高の逸品。
 マダライワナの塩焼き完成だ!」

 串打ちにされたイワナはその身を泳いでいた時と寸分違わぬ姿で再現され、時として激流へと様相を変化させる自然にすら抗う力強さを備えたまま、完璧に調理されていた。

 イワナには独特の香りがあるが、焚き火で炙られた事で実に芳ばしく、嗅覚でも大自然を感じさせてくれる。
 串は水に浸しておいたので燃え尽きる事なく形を保ち、パリッと焼けた飴色の皮から覗く身は雪を思わせる程に白く、立ち上る湯気は食を誘う道標みたいだ。

「もう我慢ならん!頂きますッ!!」

 限界ッ…!遭難以来、口にしていなかった動物性たんぱく質ッ…!
 最も膨らみのある背びれ付近の肉へ目掛け、開け放たれた口角ッ…!
 そして、口一杯に広がる旨味と塩が持ち得る確かなパンチが俺の体を震わせた。

「うめぇ……それしか言えねぇ…」

 どれだけの時間を空腹で過ごしただろうか、久しぶりのまともな食事に舌も胃も、全身が待ち望んだ瞬間を迎えたように感じる。

 特に皮の程よい歯応えが絶妙で、柔らかい身と相まって良いアクセントを効かせていた。
 腹の方は逆に脂肪分が多く、焚き火の熱によって余分な水が抜けた事で、脂身の旨さをより引き立てている。

 一度口にすると次々に手が伸びていき、遂に最後の一本を食べ終えてしまった、なんとも言えない寂しさと未だ満たされない空腹感が残る。
 いや、まだだ。ここからだ。
 俺は頭と骨だけになったイワナを再び焚き火にかけ、次なる一品シシロマミズガニの水煮を手元に引き寄せる。

 水煮とは言えしっかりと岩塩を加えた事で、蟹特有の濃厚なエキスと香りがホームに漂う。
 まずはスープを一口飲むと出汁と塩気が体に染み渡り、漏れ出した吐息にすら幸福を感じてしまう。
 イワナとは違った方向での味わいは水を使った煮炊き料理だからだろうか、ここに野菜やキノコがあれば良い鍋になったな。

 更なる調理法の確立は次回への課題として、今は目前の食い物だ。
 シシロマミズガニは旬から外れていたので親指ほどの大きさしかないが、その身には十分な旨味が含まれており、むしろ缶詰のように小さな容器だったのが幸いしたのかもしれない。

 朝から堪能させてもらった。
 イワナの骨焼きが完成するにはもう少し時間が必要なので、俺はAwazonの通知欄をぼんやりと眺めながら、どうやってこの世界に迷いこんだのか、何故見知らぬアプリと『異世界の歩き方』などという能力を得たのかを考えていた。

 全てが偶然なのだろうか?
 それとも何か超常的な力による意図的なものだろうか?
 先程の岩塩を得た時に表示されていたPVというのはもしや…、そんな事を色々考えていると新たな通知が届く。

『タテガミギンロウを手懐けた
 ――20000ポイント』

 ……何か、作為的なものを感じてしまう。
 気付けばいつの間にか目を覚ました狼が、頻りに俺の腹に顔を擦りつけて甘えていた。
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