燃えよドワーフ!(エンター・ザ・ドワーフ)

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第三章

決戦 その2

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「――確かに俺の剣には炎の加護があるファイヤエンチャント。レーヴァティンと名づけているが」

「それがまず、勝利への第一の鍵となります」

 次にエクセは、ふりかえって守備隊長を見た。

「コートオアさん、狼煙に使う特殊な土がありますね」

「ああ、燃える土ネフトザグ、のことか。あれと乾燥した動物の糞、別の薬品などを混ぜ合わせ、特殊な色をつけて狼煙をあげている。その色で、何が来たのか判断することとなっている」

「その燃える土ネフトザグが大量に必要なのです。用意できますか」

「大量には無理だが、在庫のすべては提供しよう」

「ありがとうございます。それを、あらかじめ敵が布陣するであろうこの位置より、やや後方に撒いていただきたい。――これも図に記しております」

 手渡された羊皮紙に目線を落とし、コートオアは首をかしげた。

「おかしなことを考える。本陣ではなく、後方? 敵の主力を焼くのではないのか」

「こちらは燃える土が大量に用意できない場合、として考えていたアイディアですので。あくまでピンポイントで、ある場所を狙いたいのです」

「ふむ、なるほど、この位置は―――」


―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―


 ヒュベルガーは瞑目し、その時の様子を思い出していた。
 彼らは人馬ともにすっぽりおさまる穴に身を隠し、待機している。
 頭上には薄い板を張り、そこに砂をかぶせてカムフラージュしていた。

「――エクセが、出番だと言っている」

『フォー・ポインツ』のひとりが告げた。
 彼らは数名ずつに分かれ、別々の場所で待機していた。
『フォー・ポインツ』のメンバーは、各部隊に分散してもらっていた。
 エクセの指示を魔法思念で受信し、伝えるため、どうしても必要な措置であった。
 ヒュベルガー分隊は6名。それぞれに果たすべき役割があるため、同じチーム同士という形はとっていない。
 連携面では練習が足りぬが、おのおの自分がなすべき役目を、しっかりと事前に叩き込んでいる。もし誰かが失敗したときは、破滅が待っているだけに過ぎない。

「よし、出るぞ!!」

 何もない大地から、突如として砂煙が上がった。
 雄たけびと共に穴から這い出た男は、愛剣レーヴァティンを抜いた。
 灼熱の気配が剣に殺到する。
 
「どうりゃああああっ!!」

 ヒュベルガーは振りぬいた。
 その剣先から、炎の弾が発射された。
 狙い通り、それは後方に位置する、ある場所へと着弾する。
 その場に位置していたのは、しずしずと移動しつつある、敵の輜重隊だった。
 周囲の地面には溝が掘られており、そこに通常のものとは違う土が埋め込まれている。ネフトザグだ。輜重隊がその箇所を通過するジャストのタイミングであった。
 それが静かに、やがて一気に燃え上がった。
 敵の兵糧とともに。

――空気が乾いている。
 植物が育つには過酷な環境過ぎて、大きな樹木は数えるほどしかない。
 乾燥した空気――それがザラマの特色だ。
 たちまち炎は貪欲に燃え広がった。

 燃える土の効果は絶大だった。
 その炎はまたたくまに輜重隊を飲み込んだ。
 しかし、ヒュベルガーの炎の乱射は止まる事がない。
 灼熱に燃える剣を振りおろすたびに、火の玉が飛び、地が炎上した。悲鳴があがり、ぶすぶすと広がる黒煙が、輜重隊を護衛していた敵兵の目を容赦なく燻す。
 
 これに驚愕したのは本隊だ。
 開戦前にいきなり後方が燃えているのだから、その混乱ぶりは並大抵ではない。

「き、きさまら謀ったな! こんな仕掛けを――」

「大将の貴様が勇敢で助かったな。もし後方で安閑としていれば、今ごろ火だるまになっていただろうに」

 市壁の歩廊上からうそぶくコートオア。魔将ンシモナは怒りに満ちた目を向けるが、コートオアはことさら見せびらかすように赤い珠を前方で揺らしてみせる。これではうかつに手が出せない。
 相手の躊躇を見て取ったか、もう片手を天に突き上げ、命令を下した。

「構えい! 撃て―――っ!」

 市壁の上から、矢と呪文の炎が飛来する。
 ンシモナはかろうじて盾で防いだものの、両側に控えた親衛隊は声もなく落馬した。
 
「ぬう、こうしてはおれん」

 あわてた敵将、ンシモナは騎馬の向きを変えて駆け出した。
 背後からは嘲弄の響きが聞こえるが、構ってはいられない。

「きさまら何をしている、敵は少数だ、さっさと片付けろ」

 命令を飛ばすが、後方部隊が炎上しているのだ。
 完全に敵のワナに陥った。その焦燥は全軍に波及しつつある。一度広がった動揺は、炎と同様、そう簡単に収まらない。

「輜重隊が燃えています。われらの食料は、消し炭になってしまいました」

「兵糧がないと、戦にもならねえですぜ、これはもう負け戦だ」

「ば、ばか者、くだらないことを言うな!!」

 ンシモナは剣を抜き、その発言者の首を跳ね飛ばした。
 それを見せしめのために、高々と天に掲げる。したたる血が大地と彼を汚した。

「いいか、逆らうものはこうだ! 早く邪魔者を始末しろ!」

 そう命令をくだしたものの、それを実行するのは容易なことではなかった。
 ヒュベルガーは馬から降りて火から遠ざけ、燃える剣レーヴァティンを振るいつづけていた。
 彼自身は、火中に身を投じながら、平然としている。
 そのタネは、彼が常に身に着けている、その蒼き鎧にあった。
 これには冷却効果のある、氷の加護が付与されているのだ。
 常に彼が、むし暑いザラマで鎧を着たままうろうろできるのは、こうした理由がある。
 抜群の武勇に加え、炎の剣と、身を冷却する鎧。
 この装備を整えるのに、どれだけの冒険をクリアしなければならなかったのだろう。途方もない数の修羅場をくぐりぬけた結果、このザラマ最高の剣士が誕生したのだ。
 
 ヒュベルガーは、ただ、斬った。
 猛火の中だろうとおかまいなしに、逃げ惑うオークを燃やす。
 ダークエルフを、ゴブリンを斬る。猛火がまるでマントのように、彼の周囲でおどった。
 軽いトランス状態に陥っているのか、彼は嗤った。さながら炎の化身、イフリートの如きありさまである。
 彼の前に立つものは、ことごとく炎と化していく。
 対照的に敵の戦意は急速に下がり続けている。

「ほ、炎の悪魔だ、とてもこんなのとやれるか!」

 やがて敵は正面から倒すのを諦め、矢で射殺そうと考えたようだ。
 ヒュベルガーから距離を開いた位置から、弓箭部隊が矢を構える。

「よし、はな―――ぎゃっ!」

 号令をかけようとした小隊長の首が飛んだ。
 部下の弓隊も次々と血を流し、切り裂かれていく。
 やがてぼんやりと、一体の人馬が姿をあらわした。

「あれだ、あれを目掛けて射ろ!」

 号令がかかり、弓矢が彼女の背中に狙いを定めた瞬間。泡が弾けるように、ふっと再びその姿は消えた。

「――ハイド・アンド・シーク」

『ミラージュ』リーダー、ベスリオスが持っている護符に宿った加護だ。
 周囲の景色と同化して、姿を消す。
 そして次に現われたときは、その命を盗る。
 本来は、厳重に守られた宝石の奪取、あるいは暗殺と、多岐に渡って彼女のシーフとしての活動を支え続けた――まさに、チーム名にふさわしい能力である。
 しかしそれは冒険者としてではなく、このような戦場においても、それは圧倒的な力をはなった。

 次々と弓部隊が倒れていく。姿も見えぬ敵に殺られていくというのは、これ以上ない恐怖だろう。
 やがて戦意を失い、次々と弓兵は逃げ去っていく。
 だが。ベスリオスにそれを追っている余裕はない。
 サポートについた『フォーポインツ』の魔法使いが、エクセの指示を伝えたからだ。

「やれやれ。人使いの粗い魔法使いだね。絶対に後でデートの約束をとりつけてやるんだから」

 そう断言すると、ふたたび彼女はすっと姿を消した。

  
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