燃えよドワーフ!(エンター・ザ・ドワーフ)

チャンスに賭けろ

文字の大きさ
30 / 146
第三章

決戦 その3

しおりを挟む
 炎をまとった矢が、魔王軍の兵のこめかみを、眼球をつらぬく。
 その正確かつ迅速な矢は、主にふたりの射手から放たれている。
 
 コニンの矢が、敵を射抜いた。
 負けじとアルガスが続く。

「腕をあげたようだね、いつのまにか」

「男子、三日たてば超一流ですよ、フフフ」

「なにそれ、誰が言った言葉?」

「私です。いま考えました――うわッ!」

「動くな、狙いがそれる!」

「私を狙ってはいけません、敵はあっち!」

「――オイ、遊んでる場合か、囲まれてるぞ」

『アイアンナイツ』のリーダーであるウェクアルムが、苦々しく横槍を入れた。
 彼らの眼からは、ふたりは戦場のまっただなかで、イチャイチャしてるように見えたことだろう。
『アイアンナイツ』はその名とは裏腹に、それほど重装備の冒険者はいない。どちらかといえばリーダーのウエクアルムをはじめ、弓矢使いが圧倒的に多い。
 エクセは弓矢使いを一定の場所に集結させ、弓箭隊として火矢を放たせ、敵の混乱を大きなものとする作戦を立てていた。その一方で、近寄ろうとする敵兵を射すくめるのが、コニンとアルガスふたりの主な役割であった。

「おまえらの射撃が止まったせいで、面倒なことになったぞ」

 ウエクアルムはぼやいた。ここからは彼らの仕事ではない。

「――それ、面倒なやつらを片付けろ」

 敵の小隊長の命令がくだる。
 それにしたがい、オークの集団が、彼らを一気に包囲殲滅しようとしたときだった。

「残念ながら、それはまかりならん!!」

 颯爽と現われた三体の影がある。
 ダーと二体の重装備の戦士が、彼らの護衛にあたっていた。
 重装備の戦士はチーム『ミラージュ』のカイと、バーンドだ。
 カイとバーンドは主に盾や装甲で射手たちをブロックし、ダーは攻撃役として敵をなぎ倒す。

「受けてみるか、ワシの | 地摺り旋風斧(ローリングアックス)を」 

 バトルアックスを構え、ダーは突進する。
 独特の低い位置からダーは斧を撥ね上げ、装備の薄い敵の足を斬って落とした。
 さらに踏み込みつつ旋回し、次の敵を横殴りに斬って落とす。
 怒声をあげて敵が斬り返してくると、ダーは回転力を落とすことなく、足払いで相手を転倒させる。
 ぶざまに脚をすくわれ、そこから顔をあげたオークの顔面に。
 旋回してきた非情な斧が、容赦なく炸裂する。
 
「――グ、ゴログゴアアゴ!!」

 脳漿を地に撒き散らしながら横転する死体に見向きもせず、ダーは次の敵に斧を叩き込んでいた。
 自分よりもはるかに大きいオークを、次々となぎ倒していく。
 そのさまは、『|血まみれの木こり(ランバージャック)』の二つ名がふさわしい。
 強靭な足腰、そして瞬発力によって生み出される、ダー独特の戦法。
 下段の攻防という概念がない魔王軍の剣術では、打開策すらなかった。

「かっこいいよねえ……」

 コニンがうっとりとつぶやいた。
 
「いーえ全っ然! それよりも、我々も援護しましょう」

 アルガスは憮然として火矢を放った。
 後方ではいまだに糧食がぶすぶすと黒煙を吐いて燃え続け、地の炎も消えていない。
 そして炎をまとった戦士が、次々と魔王軍の兵士を火に沈めていく。
 もはや、火を見るだけで、敵は恐怖を覚えるありさまになっていた。

「ええい面倒な――よし、ブラギドンを使え」

 敵将ンシモナが命じる。ついに黒魔獣が動き始めた。
 黒魔獣の山のような巨体に、ちょろちょろと頭や背に、ゴブリンが張り付いている。
 これだけの大型怪物を軍隊に組み込むとなると、うっかり味方を踏み潰さないように、後方を確認する者、足許を確認する者などが必要になる。
 その魔獣の上を敏捷に這いまわっていたゴブリンたちが、短い悲鳴を発した。ことごとく首から血を流して、ごろごろと黒魔獣の背からころがり落ちる。何が起こったのかわからない。そんな疑問の表情を浮かべたまま。
 
「ハイド・アンド・シーク、解除」

 姿を現したのは、『ミラージュ』のリーダー、ベスリオスだ。
 彼女は誰にも悟られぬまま、黒魔獣の背に乗っていたゴブリンどもを一掃し終えると、機敏に怪物の首へと駆けのぼる。そして、腰に巻きつけていたロープを、大きな角にしっかりと巻きつけた。
 作業を終えると、すぐさま残った部分を地に投げ落とした。
 そのロープを伝って、這い上がってくる者がある。

「あとはアンタの出番だよ」

「ああ、任せろ」

 全身だぶだぶのローブで覆われ、本当の姿を誰も見たことがないという謎の男。彼こそ『フォーポインツ』のリーダー、コスティニルだ。
 彼は這いずるように魔獣の首筋に張り付くと、呪文を唱えた。

「大いなる四神が一、玄武との盟により――」

 呪文が完成すると、黒魔獣の動きが止まった。
 脳に、意思と相反する思考が割り込んできた。そう感じた。
 それはやがて黒魔獣に、明確な指示を伝えはじめる。
 
――おまえの右後方にいる巨大な怪物は敵だ。

――あれは敵だ、おまえの敵だ。

 ひたすらその言葉がこだまする。黒魔獣はあらがう。

 チガウ、アレハナカマダ……。

――いいや、あれは敵だ。

 アレハナカマダ……。
 
――いいや、あれは敵だ。

 チガウアレハ――

――敵だ。

 ソウダ、アレハテキダ――


『ウォーター・ウィスパー』
 頭脳に直接暗示をかけ、その通りに行動させる呪文である。
 思考が単純な生物ほどかかりやすいとされている。

「相変わらず、えっぐい呪文だね」

 そのようすを見守っていたベスリオスが、ちょっと震える声でつぶやく。
 脳内に静かに浸透していく言葉。
 操り手、コスティニルの指示が、いまや黒魔獣の意思そのものである。

「方向はもうすこし右、位置は――そうだ、それでいい」

 巨体をのそのそと旋回し、黒魔獣はもう一体の黒魔獣を見た。
 その目は完全に意思を失った、うつろな孔のようだ。

「よし、成功した、逃げるぞ」

 コスティニルがそう告げると、ふたりはロープを伝って地へと降り立った。
 ベスはそのまま、フッと背景と同化するように姿を消す。コスティニルは待機させていた馬に飛び乗り、いそぎその場を駆け去った。
 いまや、誰の目から見ても、黒魔獣の意図はあきらかだった。 
 角から光が放出され始めたからだ。

「な、なにをとち狂ったか、誰かあれを止めい!!」

 ンシモナの叫びは虚しかった。
 両角から放出された電流は鼻の角に集中した。
 やがて、白濁化した電流――雷撃砲が、びりびりと大気を震撼させて放出された。
 その圧倒的な破壊力を、彼は証明して見せた。
 一直線に進行し、目の前のあらゆるものをなぎはらいつつ放たれた雷撃は、もう一体の黒魔獣の、首から上めがけて炸裂した。
 それでもしばらく、ふらふらと立っていたもう一体の黒魔獣だったが、やがてすさまじい轟音をたてて横転した。
 誰も目からも、この大怪物が二度と立ち上がることはできない事はわかった。
 首から上の部分が、完全に消失していたからだ。

「――ブラギドン、一体死亡!!」

「阿呆が、そんな報告は見ればわかるわ!」

 部下にあたりちらすしか術がないンシモナ。
 まず間違いなく、あの魔獣はなんらかの細工をされたのだろう。敵の攻撃は神出鬼没だった。こちらは大軍であるがゆえ、小回りがきかず、叩き潰す有効な手立てがない。
 こうなれば、混乱状態にある魔獣をどうにか正気に戻すしか、この劣勢をくつがえす方法がないように思えた。
 そのとき、異変が起こった。ザラマの方角からだ。
 すばやく魔将ルシモナは視線を転じる。
 ゴゴゴと大きなきしみ音をたてて、固く閉ざされていたザラマの市壁の門扉が開かれようとしている。
 
「この機に、討って出る気か、そうはいかん――」

 ンシモナも、流石にこれだけの大軍を任される将である。
 彼は即座に伝令を飛ばし、兵を左翼と右翼に展開させた。城内から突進してくるであろう、敵兵を包囲殲滅しようという構えであった。
 とはいえ、まともに行動できる部隊はそれほど多くはない。ほとんどの隊が混乱の極地にあり、正常に機能してはいないからだ。

「とはいえ、城兵は寡兵と聞く。なんとでもなる」
 
 彼らはかたずをのんで、完全に開門したザラマから、敵の一団が飛び出すのを待った。
 すると、ふたたび、ゴゴゴと大きな音がした。
 ザラマの門が、またも閉ざされていく。

「……なにも出てこんのかい!!!」
 
 完全に肩透かしを食らって、思わずつっこんでしまうンシモナ。
 
 だが、かれはすっかり敵の策にはまっていた事に気付かなかった。
――背後に気配がある。
 振り向くと、黒い装備に身をつつんだ、大きな女戦士が、静かに闘志をみなぎらせて佇立している。
 完全にひっかかった。
 あれはわれらの注意を、ザラマに向けさせるだけのトリックだったのだ。
 左右に展開させた兵は、簡単にはもどって来れない。
 その隙に、総大将の自分は、敵を目の前に迎えている。
 護衛もすでに倒されてしまったようだ。
 目の前の女戦士は、天に黒いバスタードソードを掲げ、叫んだ。

「………われこそ『フェニックス』の戦士、クロノトール!」

 つっと剣先を、ンシモナにむける。

「……総大将、あなたに一騎打ちを申しこむ……!」

 
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~

草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。 レアらしくて、成長が異常に早いよ。 せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。 出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

平凡なサラリーマンが異世界に行ったら魔術師になりました~科学者に投資したら異世界への扉が開発されたので、スローライフを満喫しようと思います~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家
ファンタジー
夏井カナタはどこにでもいるような平凡なサラリーマン。 そんな彼が資金援助した研究者が異世界に通じる装置=扉の開発に成功して、援助の見返りとして異世界に行けることになった。 カナタは準備のために会社を辞めて、異世界の言語を学んだりして準備を進める。 やがて、扉を通過して異世界に着いたカナタは魔術学校に興味をもって入学する。 魔術の適性があったカナタはエルフに弟子入りして、魔術師として成長を遂げる。 これは文化も風習も違う異世界で戦ったり、旅をしたりする男の物語。 エルフやドワーフが出てきたり、国同士の争いやモンスターとの戦いがあったりします。 第二章からシリアスな展開、やや残酷な描写が増えていきます。 旅と冒険、バトル、成長などの要素がメインです。 ノベルピア、カクヨム、小説家になろうにも掲載

【完結】うさぎ転生 〜女子高生の私、交通事故で死んだと思ったら、気づけば現代ダンジョンの最弱モンスターに!?最強目指して生き延びる〜

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
 女子高生の篠崎カレンは、交通事故に遭って命を落とした……はずが、目覚めるとそこはモンスターあふれる現代ダンジョン。しかも身体はウサギになっていた!  HPはわずか5、攻撃力もゼロに等しい「最弱モンスター」扱いの白うさぎ。それでもスライムやコボルトにおびえながら、なんとか生き延びる日々。唯一の救いは、ダンジョン特有の“スキル”を磨けば強くなれるということ。  跳躍蹴りでスライムを倒し、小動物の悲鳴でコボルトを怯ませ、少しずつ経験値を積んでいくうちに、カレンは手応えを感じ始める。 「このままじゃ終わらない。私、もっと強くなっていつか……」  最弱からの“首刈りウサギ”進化を目指して、ウサギの身体で奮闘するカレン。彼女はこの危険だらけのダンジョンで、生き延びるだけでなく“人間へ戻る術(すべ)”を探し当てられるのか? それとも新たなモンスターとしての道を歩むのか?最弱うさぎの成り上がりサバイバルが、いま幕を開ける!

勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。

克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

処理中です...