燃えよドワーフ!(エンター・ザ・ドワーフ)

チャンスに賭けろ

文字の大きさ
55 / 146
第六章

カッスターダンジョン その1

しおりを挟む
 ベールアシュから馬車で一刻ほど。さらに徒歩で半刻ほどで、一行は目的地に到達した。山の斜面が間抜けな口を、ぽっかり開いたかのようなその洞穴は、長身のクロノトールでも身をかがめずとも良いほどに広闊だった。
――通称、カッスター・ダンジョン。
 最初にここを発見した、冒険者の名にちなんで名付けられた。
 少し内部へと歩を進めると、行く先を完璧な漆黒が遮断している。
 頭上からぽたりと、ときおり滴りおちる雫は、彼らの兜に弾かれ、透明な水音の響きだけを残した。
 
 光が暗闇を打破した。ダーが松明に火をともしたのだ。
 ここから慎重に、彼らは隊列を組んで歩く。
 前衛はダーとクロノ、中央にルカとエクセが並び、しんがりをコニンが務める。
 壁面はごつごつした自然な形から、徐々に直線的になっていく。
 誰かの手が加えられた証しであろう。

「ダンジョンって独特の雰囲気があるよね、どきどきする」

 コニンが自らの緊張をほぐすように、ぼそっとつぶやく。

「うむ、どきどきするわい。見てみるがいい、この壁面の掘り具合、これは相当古い時代のものと見える。しかし彫ったのはドワーフではなさそうじゃ。そこは残念じゃが、やはり地下というものはいいのう」

「……コニンのどきどきと、あなたのどきどきは、おそらく質が違うものだと思いますよ」

 エクセが冷静に指摘する。 
 松明の光は内部で不思議な反射をし、洞窟の奥まで届きそうなほど、光が浸透していく。
 壁面に特殊な塗料が塗られているのだろうか、それともこの洞窟の鉱物の作用によるものか。ダーのいう古い時代の技術によるものかもしれなかった。
 おかげでこの階では、敵からの奇襲の心配はなさそうだ。 
 
 二層へ降りる階段は、大きな円形の広間にあった。
 ぽつんと灯りが見える。
 誰かを待っていると思しき、2人の冒険者が片隅に座っていた。
 彼らがにこやかに会釈したので、こちらも会釈を返す。
 お先に失礼とダーたちが階段を下ると、これまた円形の部屋に出た。
 前方と左右にそれぞれ穴が続いている。

「さて、何もかもが初めてじゃ。適当に進むしかないのう」

「じゃ、まっすぐ行こうよ」

 特に反対することもない。前方の通路を選択し、まっすぐに進む。
 路は、長方形の広い部屋に直通していた。ぞわりと暗闇が蠢く。

「――なにか、いますね」

 さすがに闘いになれた『フェニックス』メンバーは、すぐにその気配を察した。
 独特のうなり声で、コニンが正体を見破る。

「気をつけて、ダンジョンウルフだ!」

 地下で異常な進化を遂げた狼に似た魔物、それがダンジョンウルフだ。
 目は退化して存在せず、代わりに聴覚が異様に発達している。
 異常に大きいその口は、人間の頭部など一口で齧りとることができる。

 ダーとクロノが前進すると、4体の異形の狼はすぐに臨戦態勢に入った。
「グェア」という奇怪な咆哮とともに、2体が飛びかかってってきた。
 
 クロノはタートルシールドで、ダーはバックラーで、その牙を防ぐ。
 他の2匹は、左右の側面から回り込もうとしている。
 敏捷なだけに、厄介な戦法である。
 
「大いなる天の四神が一、玄武との盟により顕現せよ――」

――そのとき、すでにエクセの詠唱は完成していた。

「ウォーター・ドルフィン!」

 空中に描かれた魔法陣から、水の塊のドルフィンが飛び出した。
 ドルフィンはエコーロケーションと呼ばれる、高密度の周波音を発し、周囲の状況を把握する。
 通常の人間には可聴域外であるが、発動した術者のみ、おのれの目で確認できない周囲の位置情報が手に取るように把握できるという、どちらかといえば戦闘向きではない呪文である。
 だがそれを恣意的に、特定の相手へ向けて音波を照射してみたら、どうなるか。
 
 動物――特に耳の良い怪物にはたまらない。
 音の爆発のようなダメージを受け、ダンジョンウルフはたちまち大混乱に陥った。
 あとは造作もない。
 ダーたちは、まるで草を刈るように容易く、4つの化け物の首を刎ねた。
 
「まずは、こんなものじゃの」

 ダーはふう、と額の汗をぬぐった。
 部屋を探索してみたが、ろくなものは落ちていない。
 左右に路がつづいている。
 一向は2つのうちの左側の道を選択した。
 しかし、すぐに袋小路につきあたり、次は右の路を選択した。
 
 右の道はゆったりとしたカーブを描き、先程よりも小さな正方形の部屋に続いていた。
 警戒しつつ中を覗くと、そこにもダンジョンウルフが3体いた。
 ダーは指先で合図をおくり、エクセが頷く。互いに無言のまま。
 機先を制し、エクセがウォーター・ドルフィンを唱えた。
 
「よし、今じゃ!」

 悲鳴をあげるダンジョンウルフを、前衛のふたりが先ほどと同じ要領で退治する。3つの血だまりが戦闘の終わりを告げた。
 この部屋にはいろいろな物が部屋隅に落ちている。がらくた。空の木箱。剣。人間。

――――人間?
 
「だ……誰かが、死んでるよ……」

 コニンがかすれ声でささやいた。
 あわててルカが倒れている人間に近寄り、生きているか確認する。

「―――生きています……」

 安堵の吐息とともに、ルカが言った。
 続けざまに他のメンバーからも吐息が漏れる。
 ルカが回復呪文を唱える。倒れていた人物は、もぞもぞと動き出した。 
 粗末な革鎧に数打ちの剣。見るからに駆け出しの若者のようだ。

「………ううん……僕は一体?」

「気がついたかのう」

 ダーが話しかけると、若者はひどく怯えて後じさる。
 
「おいおい、せっかく助けたのに、その塩対応はなかろう」

「ああ、すいません。そんなつもりはなかったのです」

 若者はイエカイと名乗った。
 8級冒険者で、同じ階級の仲間5人と共に探索に来たが、敵があまりに強くて5人は逃走。彼だけがここに取り残されたという事情らしかった。
 
「よいかな、地下の敵は地上の敵よりも強いのが常道じゃ。――魔は、闇にひそむものであるからな」

「は、はい。肝に命じます」

「だが、もう敵も退治したことじゃし、さいわいなことに、向こうにある階段を昇ればすぐに一層じゃ。次からは気をつけるんじゃぞ」

「――そんな、一人で帰れと?」

「そんなもどんなもマドンナもないわい。ワシらはこれから下の階層へ降りるところじゃ。ワシらが通った路を歩けば敵も出まいし、一人でも大丈夫じゃろう」

「嫌です、私も連れて行ってください! 一人にならないためなら。どの階層でもついて行きますよ」

「む……そうは言ってものう」

 一行は顔を見合わせた。
 言いにくいが、はっきり言って足手まといだ。
 しかし見捨てていくのも後味がわるい。

 何ができるのかイエカイに聞いてみたが、彼は前衛職だったそうで、魔法はさっぱりだった。武器はいかにも質の悪い数打ちの剣で、二、三体ほど敵を倒せば、すぐに使い物にならなくなるだろう。
 いよいよ本格的に足手まといである。
 
「仕方ないのう、怪我をせぬようついてきなさい」

 しかし、ダーはOKを出した。
 苦虫を噛み潰したような顔ながら。

「あ、ありがとうございます!」

「――ダーさん、いいの?」

「……ひとりぼっちは、つらいじゃろう」 

 こうして一行は、急遽隊列の変更を余儀なくされた。
 話し合いの結果、ダーとクロノが前衛は変わらず。
 イエカイとルカが中央に、エクセとコニンがしんがりとなった。
 
 さて、この部屋には、まだちょっとしたものが残っていた。

「ダーさん! ちょっとこっち来て!」

「……へんなのがいる……」

 ダーたちは、ふたりの方へと近寄る。
 隅のほうできらきらとうごめくものがある。
 
「驚いた。これは宝石蟲ですよ!」

 思わぬ発見に、エクセの声も弾んでいる。本物の宝石のように美しいきらめきを発するので、生死を問わず人気がある生物だ。
 これはお金になるので、採取してエクセが持参した木造りの小さな収納箱へ収める。
 
 部屋には北と右に、道が続いている。
 ダーたちは右の道を選択した、あまり代わり映えのしない路を注意深く歩く。やがて、かろうじて6人が入れる程度の小さな部屋につきあたる。
 部屋には、下へとつづく階段があった。

「よし、降りるぞ」

「……うん……」

――さて、地下3層だ。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~

草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。 レアらしくて、成長が異常に早いよ。 せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。 出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

平凡なサラリーマンが異世界に行ったら魔術師になりました~科学者に投資したら異世界への扉が開発されたので、スローライフを満喫しようと思います~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家
ファンタジー
夏井カナタはどこにでもいるような平凡なサラリーマン。 そんな彼が資金援助した研究者が異世界に通じる装置=扉の開発に成功して、援助の見返りとして異世界に行けることになった。 カナタは準備のために会社を辞めて、異世界の言語を学んだりして準備を進める。 やがて、扉を通過して異世界に着いたカナタは魔術学校に興味をもって入学する。 魔術の適性があったカナタはエルフに弟子入りして、魔術師として成長を遂げる。 これは文化も風習も違う異世界で戦ったり、旅をしたりする男の物語。 エルフやドワーフが出てきたり、国同士の争いやモンスターとの戦いがあったりします。 第二章からシリアスな展開、やや残酷な描写が増えていきます。 旅と冒険、バトル、成長などの要素がメインです。 ノベルピア、カクヨム、小説家になろうにも掲載

【完結】うさぎ転生 〜女子高生の私、交通事故で死んだと思ったら、気づけば現代ダンジョンの最弱モンスターに!?最強目指して生き延びる〜

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
 女子高生の篠崎カレンは、交通事故に遭って命を落とした……はずが、目覚めるとそこはモンスターあふれる現代ダンジョン。しかも身体はウサギになっていた!  HPはわずか5、攻撃力もゼロに等しい「最弱モンスター」扱いの白うさぎ。それでもスライムやコボルトにおびえながら、なんとか生き延びる日々。唯一の救いは、ダンジョン特有の“スキル”を磨けば強くなれるということ。  跳躍蹴りでスライムを倒し、小動物の悲鳴でコボルトを怯ませ、少しずつ経験値を積んでいくうちに、カレンは手応えを感じ始める。 「このままじゃ終わらない。私、もっと強くなっていつか……」  最弱からの“首刈りウサギ”進化を目指して、ウサギの身体で奮闘するカレン。彼女はこの危険だらけのダンジョンで、生き延びるだけでなく“人間へ戻る術(すべ)”を探し当てられるのか? それとも新たなモンスターとしての道を歩むのか?最弱うさぎの成り上がりサバイバルが、いま幕を開ける!

勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。

克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

処理中です...