塵の涙。

青太郎

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第1章

Ⅱ,波に揺られて

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 意識が覚醒した。

ザーッ……ザーッ……。

波の音が、私の耳に触れる。
水が私の足に触れて、冷たい。
潮の香りが、私の鼻をくすぐる。
ここは海なのだろうか。

ゆっくりと瞼を開ける。

最初に目に飛び込んできたのは満点の星々だった。
生まれて初めてこんなにも綺麗な夜空を見たのではないだろうか、息が止まるほどの美しさだった。
いや、これは現実なのだろうか。
まるで絵に描いたような美しさ、夢なのではないだろうか。
次に身体を起こしてみる。
周囲を見渡すと、私は海の砂浜に仰向けになっていたようだった。
服に、髪に、ついた砂を払い落とす。
足だけは穏やかな波に呑まれ、濡れている。

海のずっと向こう、水平線の向こう側では大きな満月が沈もうとしている。
私の記憶にある月よりも、何十倍も大きい。
どうしてなのだろう、でもそんな疑問よりも遥かに「美しい」と思う気持ちのほうが強かった。
太陽とは違う明るさ、優しい光を放っていた。

「……綺麗ね」
夢でもなんでもいい、夢なら醒めないで欲しい。
宝石箱のような景色だった。
「綺麗でしょ!」
「!」
私がそうぼやくと背後から元気な声が聞こえた。
「フレイ、驚いてしまうわ」
「そうなのかい?」
「そうなのよ」
振り向くと、そこには少年と少女がいる。
元気そうな男の子と、大人しそうな女の子だ。

「あ、なた達、は?」
私以外に人がいるとは思わなかった。
さっき軽く見渡したときも見当たらなかった、おそらく見落としたのだろう。
彼らは観光目的に来たカップルか何かだろうか。
「僕はフレイ」
「私はフレイヤよ」
似たような名前、兄妹だろうか。
「あなたのお名前は?さっきはいきなり話しかけてごめんなさいね」
「あ、いえ」
フレイヤと名乗った少女が私に手を差し伸べてくれる。

私はその手を取って立ち上がる。
そして名乗った。
「私は、リン。リンと申します」

「リン!よろしくね」
フレイと名乗った少年が手を取り、握手をしてきた。
笑顔が、眩しかった。
「よ、よろしくお願いします。フレイさん」
彼は元気が良すぎるのだろう、私はあまり得意な子ではないかもしれない。
「さん、はいらないわ。気楽にお互い話しましょう」
一方フレイヤは大人しい、落ち着いている子で、好感が持てた。
ただ、彼女は無表情だった。
「わかりました。フレイヤ」
出会って数分だがわかったことがある。
この2人の性格は、鏡を思わせるほどに正反対だった。
面白いほどに真逆だったのだ。
フレイは笑顔が眩しいが、フレイヤは全く表情を変えない。
フレイヤはかなり落ち着いているが、フレイは元気で騒がしい。
極端すぎるのだ。
これを鏡と言わずになんというのだろうか。
その2人の温度差に、私は耐えられるだろうか。

「さて、リン。早速聞きたいのだけれど」
「あ、はい」
「あなた、悩みはある?」
「な、悩み……ですか?」
唐突な質問に思考が止まった。
初対面の人に悩みを相談、厚かましいことこの上ないだろう。
「特にないです」

「嘘だぁ」
フレイが大袈裟に驚いている。
大きなその目が、溢れそうなくらいに見開いていた。
「嘘じゃないですよ?」
「だってここに来る人間って悩みがあるらしいよ?ね、フレイヤ」
「えぇ、フレイ。だから悩みがないなんてことはないはず。神様も、間違った人間を送りこんでくるはずがないわ」
「か、神様?」
私は今の2人のやりとりに違和感を覚えた。
「神様って?」

2人は神を信じているのだろうか。
いや、私も信じていないことはないし、神頼みだってする。
でも2人のやりとりはまるで、神様がいるような、神様となんらかのやりとりでもしたかのような、そんな気がした。
「神様は……神様だよ!」
「そうね」
「そ、そう」
案の定私が求めていた答えが返ってくるわけもなかった。
フレイヤには期待していたが、手応えはイマイチだ。

その前にこの2人は何者なのだろう。
そしてここはどこなのか。
頭が冴えてきて、疑問がポンポンッと頭上に生えてくる。
「あの、ここはどこなんですか?そしてフレイヤとフレイは、どうしてここにいるのですか?全然、わからないです」
不安が迫り上がってきて、情けないことに歳下であろう彼らに質問攻めをしてしまった。

しかしフレイはそんな私の気持ちなど構いなしに、笑顔で答えた。
「ここは星の海。僕とフレイヤは……うぅん、なんでここにいるんだろう?」
「神様に星の涙を守るように言われたからよ」
「そう!でもその星の涙も俺たちこぼしちゃったんだ」
「それで今は、この島に流れ着く【悩みを持った人間達】の悩みを解決するように神様から言われているの」
「あなた達は、神様に会ったことがあるの?」
「あるに決まっているわ。素晴らしいお方よ」
「リンも会いたい?」
「え?」

神様に、会う?
神なんて信じたこともなかった。
だっていくら祈っても私の願いを叶えてくれないから。
会えるものなら、是非会ってみたいものだ。
そして、

思いっきり、文句を言ってやりたい。
そう思った。

「会いたいです、神様に」

私は、神様に、会いたい。
そして私の、私のこの願いを叶えてもらいたい。
直接頼めばさすがに聞き入れてくれるだろう。
毎日のように祈っている、夢見ているこの【願い】を。
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