厄災の魔女と疫病神と呼ばれた英雄

ケイ

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5話 英雄と魔王-1

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ーーー我は8柱の魔王の1柱。魔王フロメテスである。


 8柱といっても仲良く手を取り合っている訳でもない。
 我ら魔王は最も神に近き存在。
 どの魔王も我先に神格化しようと常に他の魔王を警戒しておる。
 故に我ら魔王は他の魔王を蹴り落とし罠に嵌る事はあっても、協力し合うことはない。

 その魔王の中でも現在最も神に近き存在。それが我だ。

 我ら魔王としての力を高める為に必要な物は、人間の魂。
 故に我らは人間を襲う。

 そして最も人間の魂を喰らった魔王が我という事だ。
 魔王の力は喰らった人間の魂に比例する。
 故に我は最強の魔王なり。

 此度も人間の魂を喰らうべく、万の兵を引き連れカルロリア大国へと赴いた。
 赴いたはいいが、やはり詰まらん。退屈だ。

 自我を持ち我が我となってから実に300年余り。

 その頃は人族にも数多く手練れがおった。
 だが時が経つにつれ、我が苦戦する程の人族が居なくなってきておる。

 我が強くなり過ぎたのもあるのだろう。
 我が出張る事なく、配下のロデオに任せたが、既にカルロリア大国の壊滅は間近。
 実に詰まらん。
 何処かに我を脅かす人族は現れぬだろうか。

 否、今の時代にそれ程の力を持った強者は居るはずもなし。

 かつては古代魔法と呼ばれる災害魔法や、次元魔法の使い手が数多く居たというが、我は生まれる時代を間違えたのだろう。
 今でも英雄と呼ばれる輩は少なからずいるが、どれも我の名を聞けば逃げ惑う弱者よ。
 我の敵とはなりえん。

 この時代では、我が最強。我が絶対の強者。


 我を脅かす存在など、既にこの世に居りはせぬのだ。


「ま、魔王様!た、大変で御座います!」
「むっ。何だ、もう彼奴等の殲滅は終わったのか?」


 配下の1人が慌てた様子で我の元に駆け付ける。
 何だ。戦の最中にこの様に慌てる此奴を見るのは、100年振りくらいか。


「い、いえ。そ、それが壊滅状態なのは我ら魔王軍の方です。殆どの兵がやられました」
「な、何だと。我ら魔族は人族よりも数倍の身体能力を有しておる。その万の兵が壊滅状態だと?さては彼奴等が10万の援軍でも呼び付けたか」


 たかがカルロリア大国の数万の兵に我ら魔王軍が壊滅状態まで追い込まれるなぞ俄かには信じられん話だが、援軍を呼び付けたのなら話は分かる。
 幾ら我ら魔族が人族よりも優れていようと、万の戦をすれば数の前に敗れる事も、一度はあるやもしれん。
 それでもカルロリア大国にまだその様な援軍を呼ぶ力が有ろうとは、少々人族を侮り過ぎておったか。


「い、いえ。その様な援軍は来ておりませぬ」
「なに?なればどの様な手段で我ら魔王軍を壊滅まで追い込んだというのだ!」


 援軍ではないと?
 となれば余程姑息な策でも弄したか。
 下劣な人族めが。


「そ、そうでもありませぬ。誠に言いにくい事ですが、気奴は正面から我ら魔族を壊滅まで追い込んだのです」
「ま、待て。今何と言ったのだ?」
「は、はい?ですから、気奴は正面から‥‥‥」
「気奴?という事は、お前はたった1人の人族に万の魔族がやられたというのか!世迷言も大概にするのだ!」


 馬鹿馬鹿しい。1人の人族に万の魔族が敗れるなど、太古の勇者でも無ければ出来ぬ所業だ。

 この時代に太古の勇者が現れる筈もない。

 実に下らん世迷言よ!


 我が配下の奇行に頭を抱えたその時、気奴は現れた。


「いんや、そいつの言ってる事は正しいぜ」


 我は目を疑った。
 勇者と言われる者たちと同じ黒髪黒目。
 それだけならば唯の勇者と斬り捨てるだけ。

 だが気奴は青白い閃光を体に纏っていた。

 馬鹿な。
 あれは古代魔法の1つ、雷魔法ではないのか。
 カルロリア大国は本当に古代の勇者を連れて来たというのか。


「お前が魔王か。さぁ、殺し合いをしようか」


 気奴の残忍な笑みを浮かべる様に、我は戦慄し背中には冷汗が流れる。
 そして我は思う。

 この様な笑みを浮かべる奴が勇者なものか。



 まるで、魔王ではないか。




 ^o^╹◡╹^o^




 将軍との謁見は終わり。
 再び剣を片手に戦に舞い戻る。


「さて、これからどうするか」


 選択肢は2つ。
 1つ、魔族の兵を皆殺しにして、魔王を討つ。
 2つ、魔族の兵は素通りして、魔王を討つ。

 後者を選べば、人間側の兵が今以上に殺される事だろう。
 だがそこはどうでもいい。
 こいつらが死のうが俺の知った事ではない。

 万はいるであろう魔族を全て相手にするのは骨が折れるだろうしな。


「だけどなぁ、いけそうな気はするんだよなぁ」


 そうなのだ。
 この異世界に来てから、何故か疲れを全く感じない。
 これならば、例え万だろうと相手取る事は出来るかもしれない。

 だが問題は時間だ。


「ん~ん?待てよ?アレを試してみるか」


 身体能力 能力増幅 雷付与ライトニングブーストと共に、ナタリシアから教わった魔法。

 この2つを使えば大幅な時間短縮が出来るかもしれない。


「よし、やってみるか。魔法の練習にもなるしな」


 そうと決まれば行動あるのみ。
 身体能力 能力増幅 雷付与ライトニングブーストを発動し、戦中の渦に自ら足を運ぶ。


「死ねぇ!!」


 魔族の1人が叫び声と共に、剣を振り上げ突っ込んでくる。
 だが俺は動かない。
 そして呟く。


「雷駆移動エクレアステップ」


 その瞬間俺の体は閃光の如き速さで移動し、瞬きする暇もなく魔族の1人を両断する。


「よし、いけるな。それじゃ殲滅戦、行きますか!」


 俺の体は再び誰の目にも捕られぬ速度で地を駆けていった。




 
ーーー






 俺の名前はグレッゴル。唯の氏がない一兵卒さ。
 だが心には古代の勇者顔負けの正義のハートを飼っている。
 老若男女、困っている者がいれば駆け付けずにはいられない。
 我ながら難儀な性格だぜ。

 ある日の朝、何時もと同じように正義の活動に勤しもうとした折、衝撃な情報が流れてきたのさ。
 なんと魔王軍が我が国カルロリア大国に、攻め入ろうとしているらしい。
 しかもその魔王が残虐で非道な魔王で有名な魔王フロメテスだというから大変だ。
 奴は子供だろうと容赦なく殺し、生き残った女は慰み者として飼い飽きたら手柄を挙げた配下の魔族の恩賞とするような悪党だ。

 なんて事だ。

 この国が落とされれば、俺の癒しである冒険者ギルドの受付嬢、レティアちゃんが真っ先に奴の毒牙にかかっちまうじゃねえか。
 何故真っ先になのかって?
 馬鹿野郎!レティアちゃんは天使の様に可愛いんだ!
 奴がレティアちゃんの存在を知れば必ず手に入れようとする筈だ。

 そんな事はこの正義のハートが許さねえ。
 魔族だろうが魔王だろうがこの俺が成敗してやらぁ!
 そして俺は自他共に認める英雄となり、行く行くはレティアちゃんと‥‥‥

 よっしゃぁ!魔族でも魔王でも掛かって来いやぁ!!




 だが現実はそんなに甘くなかった。


「‥‥‥あ、あぁ‥‥‥う、嘘だろ‥‥‥も、もう嫌だぁ‥‥‥」


 カルロリア大国が誇る数万の兵は、魔族の万の兵に為すすべもなく次々と殺されていった。
 魔族はただの雑兵であっても1人1人が俺達人族10人分はあろうかってくらいの身体能力を持っていやがったんだ。

 こんなの、大人と子供が殺し合うもんじゃねぇか‥‥‥‥


「何だ人間。へっ、俺とやろうってのか?」


 だがここを通すわけには行かねぇんだ。
 俺達が負ければ、レティアちゃんが魔王の慰み者になっちまう。

 それだけは許さねぇ!


「う、うるせぇ!お、お前らは俺の正義のハートで成敗してやらぁ!」
「何意味わからねぇ事言ってやがる!おらぁ!」


 魔族に斬りかかるが、それを苦もなく受け止められ、魔族の剣が腹に深々と突き刺さる。


「ぎゃあぁぁ!」
「雑魚がっ。今楽にしてやるよ!」


 あぁ。俺の人生は此処で終わるのか。
 英雄に憧れ、だがその力が俺には無い事に気付き、それならばと心だけでも英雄になろうとした。

 分かっていたんだ。英雄なんて何処にもいやしねぇ。
 英雄はいねぇ。
 分かってんだよ、そんな事は。

 だがよぉ、もし、本当にいるのなら。


「‥‥‥助けてくれよぉ‥‥‥」


 俺の頬には、いつの間にか溢れんばかりの雫が溢れ落ちていた。

 我ながら情けない最後だ。


「おらぁ!死ねぇ!」


 魔族が振り上げた剣を勢い良く下ろす。

 そして振り下ろされた剣は俺の体を斬りさ‥‥‥くことはなかった。


 驚く事に魔族の頭が空を舞っていたのだ。

 ‥‥‥どういう事なんだ?


「ふぅ。こいつで最後の魔族だったみたいだな。思ったより時間かかったな。1時間くらいか?」


 魔族の背後には、青白い光を纏った黒髪黒目の男前の兄ちゃんが気の抜けた声を出していた。
 青白い光‥‥‥もしかして、雷か!?
 この兄ちゃんは古代魔法の使い手って事なのか!?

 状況をみるに魔族の男はこの兄ちゃんが倒したらしい。


 というより、こいつで最後?


 辺りを見渡すと魔族の首が飛ぶよりも、驚く光景が視界に入ってきた。

 何と万はいた魔族が残らず死んでいるのだ。
 全員首を切られ胴体だけが転がっている。

 こんなあり得ない光景を、何故か俺はすんなりと受け入れる事が出来た。

 思っちまったんだ。

 この兄ちゃんならこのくらい出来ちまっても可笑しくねぇ、ってさ。
 古代魔法を使い、閃光の様な太刀筋で魔族の首を刎ねたこの兄ちゃんなら。


「ん~さて、最後の仕事に行きますか」


 黒髪の兄ちゃんが気怠そうに背伸びをし、何処かへ行こうとする。
 俺はこの兄ちゃんが何処へ行こうとしているのか気になって、つい聞いちまった。


「ま、待ってくれ!ど、何処に!何処に行くんだ!?」



 俺はいつか、この時の自分を目一杯褒める事だろう。


 よくぞ勇気を出して聞いたなってよ。


 だってよ


「何処って、魔王の所に決まってんだろ」



 あぁ。神様。本当にいたんだな。


 俺はこの時の出来事を生涯、酒の席での自慢にするだろう。



 俺は魔王を倒した英雄に助けられたんだぜ!ってな。
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