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4話 英雄と将軍

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ーーー俺は夢でも見ているのだろうか


 1300年の歴史を誇るカルロリア大国は、その長い歴史に終わりを迎えようとしていた。
 魔王フロメテス軍という魔王の中でも特に戦を好む魔王フロメテスを頭に据えた集団に攻め入られ、カルロリア大国の軍は劣勢を強いられ、現在は壊滅寸前まで追い込まれている。
 魔王フロメテス軍の中でも特に戦闘能力が高い事で名を馳せた第2軍団長ロデオが最前線まで出て来ている。
 この戦は我々カルロリア軍の負けが既に確定しているようなものだった。
 だが俺とてこのままで終わる訳にはいかない。


「マルコ将軍!どうかお下がりください!貴方が死んでしまえば、我々の負けが決まってしまいます!」
「俺が死なずともこのままでは我々大国側の敗北だ!既に軍も壊滅状態。もはや俺がロデオを討ち取る以外に戦況をひっくり返す手立てはないのだ!」


 あのロデオに生きて勝てるとは思っていない。
 大国の将軍としてせめて第2軍団長ロデオと相打ち覚悟で一騎打ちに持ち込めれば、そう考え最前線に赴こうとしていた。

 だがそこで信じられない光景が目に入った。

 2mはあろうかという巨体に背丈と同じ程の大剣を振り回すロデオと、あろう事か互角に斬り合っている者が居たのだ。
 その者が何者なのかと目を凝らし観察すると、まだ成人したばかり程に見える少年ではないか。
 この世界では珍しい黒髪黒目、背丈は180程で、かなり整った容姿をしているがあのロデオと斬り合いながらも残忍に笑っているのだ。
 ロデオの大剣を何処にでもあるような長剣で受け止める姿に、その細腕の何処にそのような力が秘められているのかと不思議でたまらない。
 ロデオと少年の一騎打ちに目が離せなくなっていると、少年が魔法を発動させた。
 あれだけの剣技を身に付けていながら魔法まで使えるのか。
 よほど名のある冒険者か傭兵だろうか。
 しかしその少年が発動させた魔法は、見た事もないものだった。
 当たり前だ。雷を纏ったその姿。
 あれは現代では使い手がいないとされた古代魔法の1つである雷魔法だ。
 古代魔法はどれを取っても強力で、古代では災害魔法とまで呼ばれていた程だ。
 雷を纏った少年は、目で追う事の出来ない速さでロデオに迫り一瞬のうちにその巨体を真っ二つに切り裂いた。
 かつてはSSランクまで登りつめ国内最強と謳われたこの俺ですら目で追えないだと!?

 少年の戦いを目にした俺は、何があっても敵対だけはしない事を心に誓う。
 果たしてこの少年は我々の味方なのだろうか。
 味方だとすれば、敗戦一色のこの戦をひっくり返す事が出来るかもしれない。


 ああ、神よ。


 この戦の間だけでも、どうかこの少年が我々の味方になるよう我々をお導き下さい。



 ^o^╹◡╹^o^



 魔族の団長と言っていた男の亡骸を担ぎ、それを手土産に総大将に謁見するべく人間側の拠点へと赴いていた。


「なあ。ここに総大将はいるか?会わせて欲しいんだけど」
「ふん。誰だお前は。貴様のような餓鬼に将軍が拝謁の時間をお作りになるわけないだろう。我々は忙しいのだ。さっさと帰れ!」


 赴いたはいいが、この通り碌に話も聞いて貰えず門前払いを食らってしまう。
 そりゃ日本人は若く見られるっていうし、そんな子供が突然現れ将軍に会わせろなんて言ってもこうなるのは当たり前だよな。

 まぁだからこその手土産なのだが。


「ほら、敵の団長を討ってきた。第2軍団長ロデオって言ってたっけ?その事も将軍に伝えたいしさ、話だけでも伝えてくれないか」


 そう言って将軍の亡骸を無造作に警兵の足元へ投げ捨てる。


「ん?なんだこの魔族は。第2軍団長だと?貴様程度で討てる奴がか?はっ。なら俺は魔王を一撃だな。これ以上虚妄を並び立てるならこの場で斬り捨てるぞ!帰れ帰れ!」


 おいおいマジかよ。
 こいつら敵の団長すら知らないのか。
 こうなると、将軍に会う手段はもうないぞ。
 どうするか。


「おい、何をしている」


 将軍に会う為の次の策を考えていると、背後から声を掛けられ振り返る。
 そこには俺より少し背丈の高い男が何人かの兵を引き連れていた。

 こいつは相当強いな。
 ロデオ程ではないだろうが、これ程の実力なら軍でも上の者だろう。


「しょ、将軍様!い、いえ、この餓鬼が魔族の第2軍団長を討ったから将軍に会わせろなどと虚言を吐いておりましたので追い払っておりました」


 ‥‥‥こいつが将軍かよ。


「ふむ。そこの上半身だけの魔族か?」
「はっ。恐らくは我が兵が切り捨てた魔族を拾ってきたか、雑兵の魔族を運良く倒せたのをいい事に魔王軍の幹部だと偽って武勲を上げようとしたのだと思われます。なんて下劣な奴だ。この卑しい餓鬼が!ここで斬り捨ててくれる!」


 警兵は剣を抜きそのまま俺の喉元に剣先を突き立てる。
 ‥‥‥こいつそこまでいうか。
 将軍に会う為にと我慢していたが、いくら寛大な俺でもそろそろ限界だ。
 未だ剣先を突き立てる警兵に、剣を構えるべきかと考える。

 だが剣を構えるよりも早く、将軍と呼ばれた男が、スッと俺の前に出る。

「この馬鹿者が!貴様は敵の団長の顔も知らんのか!この魔族は第2軍団長ロデオで間違いない。俺が保証しよう。この少年の戦いも間近で見ていたのだからな」
「え、ええ!?そ、そんな、じゃあこの餓鬼が本当に?」


 ‥‥‥ロデオとの斬り合いを見られていたのか。
 久々の殺し合いに興奮しすぎたか、全く気付かなかった。
 俺もまだまだだな。


「貴様は敵の団長クラスを倒す者を、あろう事か追い返そうしたのだ。俺ですらロデオには敵わぬだろう。そんな男をお前の勝手な判断で失う所だった。分かるか?俺がこの場を通らなければ、この国は多大な損失を被っていたのだぞ!」
「ひ、ひぃぃ!も、申し訳ありませんでしたぁ!!」


 将軍は俺を追い返そうとした兵を散々怒鳴りつけた後、向きを変え頭を下げる。


「兵士の勝手な判断とはいえ、済まなかった。将軍である俺がこの国を代表して謝ろう」


 参ったな。
 軍のトップが国を代表して頭を下げたのだ。
 これを突っぱねれば、それはこの国に喧嘩を売ったのと同義だ。
 これでは何も言えないではないか。

 国を敵に回そうと負ける気はないが、この場は穏便に済まそう。


「もういい、気にするな」
「そうか、助かる」


 将軍は頭を上げホッと安心するように息を吐く。
 この場で悠長に話している時間もないので、さっさと本題に入る。


「それで、将軍様。あんた俺を雇う気はあるか?」
「貴様ぁ!先程から聞いていれば、将軍に対して何という口の聞き方だ!」
「馬鹿者!やめろ!」


 将軍に対して話し掛けると、将軍の背後にいた兵の1人が、噛み付くように突っかかる。
 それを将軍は必死で止めようとしているが、この国にはこんなのしかいないのだろうか。

 将軍は相当苦労しているんだろうな‥‥‥


「す、済まない。それで、ええっと‥‥‥」
「ああ、葉真だ」
「ヨーマか。改めて俺はマルコという。この国の将軍だ。ヨーマは元々戦場に参加していた冒険者や傭兵ではないのか?」
「違う。この国に来たら偶々戦争が起きていたのでな。参加させて貰おうと思って将軍を尋ねてきたら追い返させる所だった訳だ」 
「た、偶々?そ、そうか、先程の事は本当に済まなかった」


 将軍はまたも頭を下げ、何故此処にいるのかと問うが、それに対しての返答に首を傾げる。
 戦に参加する目的以外で戦争中の国を訪れるなど可笑しなことだが、これは本当の事だからな。

 文句ならナタリシアに言ってほしい。

「それで、ヨーマはこの国の為に共に戦ってくれるのか?」
「国の為になんぞ働かん」
「な、なに?」

 余程予想外だったのか将軍が目を白黒させて聞き返してくるが、この国を全く知らないのだ。
 知らない国の為に、誰が命を懸けるというのか。


「で、では何故、戦争に参加しようと?」
「面白そうだからだ。あと、そうだな。力試しといった所か」
「お、面白そうだから?‥‥‥は、はははっ!そうか!面白そうだからか!だが、力試しはお前には必要無さそうだが?お前は既に人類最強と言ってもいい実力持っているだろう」
「そうでもない。魔王とかがいるだろう?それに、あの女もいるしな。まぁ、上には上がいるってことだ」


 将軍の動きが一瞬止まるが、その後何がツボに入ったのかは分からないが大声で笑い始める。


「どうやらお前さんの目指す場所は、俺なんぞでは想像もつかん高みにあるようだな」 


 将軍はそう言うが、こいつも相当強い筈だ。
 数々の修羅場を潜り抜けてきた歴戦の強者が纏う覇気を感じる。
 いつか手合わせ願いたいものだ。


「それで?俺は戦争に参加させてもらえるのか?」
「勿論だ。報酬もきちんと払おう。というよりヨーマは既に魔王軍の幹部を討つという計り知れない武勲を挙げている。それだけで王から直接恩賞が手渡される事は間違いないだろう」



 どうやらロデオは相当大物だったようだ。
 魔王軍幹部と言っていたしな。
 魔族は人間よりも身体能力が高いのだろうから、幹部といってもロデオは人間の将軍以上の実力を持っていたしな。
 全ての魔王軍幹部がロデオと同等の実力なのかは分からないが。


「幹部など唯の下っ端だ。1番強い訳ではない。俺の標的は魔王だけだ」
「はははっ!それは頼もしいな。いや、お前なら本当に魔王を討つかもしれんな。期待しているぞ」
「ああ、期待して待ってろ」


 何とか将軍からの質言も取れた事だし、後は俺の得意分野だ。



 魔王がどれ程の強さなのか試してやる。
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