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9話 英雄と王都
しおりを挟む「見てください、あなた!今この子笑いましたよ!」
「ああ、見てるって。ははっ、大袈裟だなぁ。笑ったくらいで」
「何言ってるんですか!私とあなたの大事な子供なんですよ?何をしても大袈裟なんて事はありません!」
これは夢、なのか?
仲睦まじい夫婦が、恐らくその子供を囲んで戯れ合っている。そんな様子だ。
女の方は腰まで切り整えられた艶やかな金髪が特徴的で、とんでもない美人だ。
だが、俺はこの女を知らない。
男の方は俺と同じ黒髪黒目で、やんちゃなガキ大将がそのまま大人になったような笑みを浮かべている
この男は何処かで見た気がするが、思い出せない。
「ああ、そうだな。この子は俺とお前の大事な子供だ。大きくなれよ、馬鹿息子!」
「まあ、あなた。我が子に向かって馬鹿とは何ですか。怒りますよ?」
「えぇ、今のは良いだろぉぉ」
「ふふっ、冗談です。でも、私はこの子の事を本当に守れるでしょうか?」
不意に、幸せそうな笑みを浮かべていた金髪の女の表情が曇り、悲しげに俯く。
「おいおい、急にどうしたんだ?」
「だってこの子には必ず辛い未来が来る筈です。私の所為で……ぐすんっ」
女は急に手で顔を覆い泣き出すと、男はオロオロと慌てる。
やんちゃな見た目なだけに、余計に情けなく見える。
「お、おい、泣くなよぉ!俺は女の涙にゃ弱いんだ。大丈夫さ、こいつは俺が命を懸けて守ってやらぁ。何たって俺は、この世界を救った英雄様だぜ?お前は安心して子育てしてりゃいいんだよ」
「あなた……そうですね。それに、この子はきっと強い子に育ってくれます。だって、あなたの子供ですもの」
男がそう言って女の肩に手を置くと、再び女は幸せそうに微笑む。
そして、此方に顔を向けると、俺と女の目が合い俺の頬に女の手が優しく触れる。
そして、女は告げる。
「愛してますよ。葉真」
慈愛に満ちた微笑みを浮かべて。
ああ、そうか。これはーーー
ここはどこだ。俺は何をしている?意識が霞み頭がぼーっとして、思考がまとまらない。
確か、そうだ。
俺は先程までフロメテスと戦っていた。そして、心臓を刺され死んだ筈だ。
ーーーあなたは死んでいませんよ
不意に、透き通るように綺麗な女の声が聞こえてくる。
俺はこの声を、何処かで聞いた気がする。
だが、いったい何処で……
ーーーあなたは心臓を刺された程度では死にません
ーーーあなたは腕を失った程度では止まりません
ーーーあなたは魔王程度には負けたりしません
ーーーだってあなたはあの人と私のーーー
ぼんやりとした俺の頭は、きっとこの鈴の音の様な声の言っている事を微塵も理解していないだろう。
だが、何だろう。心にすーっと入り込んでくるこの声を、頭では何を言っているのか分からなくても、俺の魂が強制的に理解させられている、そんな感覚がする。
そして、鈴の音の様な声の持ち主は、再びその声音を鳴らす。
ーーーあなたには力がある筈です
ーーーあなたはその力を知っている筈です
ーーーあなたはその力で今まで沢山の不幸を背負ってきた筈です
ーーーでもその力はあなたを不幸にするものではありません
ーーーあなたはまだ力を上手く扱えていないだけです
ーーーでも、もうきっと大丈夫
ーーー私はどんな時でもあなたの側にいます
ーーーあなたを何時も、いつまでも見守っています
ーーーさぁ、起きて
ーーー愛してますよ。葉真ーーー
そうだ。この声はーーー
(^o^)(╹◡╹)(^o^)
「お、おい。どうなってるんだ?」
「何か光ってるぞ?」
「馬鹿っ。あれは魔方陣だよ」
「何で魔方陣が展開されてるんだ?」
「あれは映像化の魔道具だろ?」
「何か映し出されるのか?」
カルロリア王国の将軍マルコが国王との謁見を終えた頃、王都の広間では多くの民が困惑の声を上げ、その視線がある一点に集まっていた。
それもその筈で、王の間とこの場である王都の広間にしか無い映像化の魔道具が起動し始めたのだ。
通常、王族に関連する特別な式や御布令がある場合にしか使用される事のない魔道具が、何の知らせも無しに使用される事は今までに無かった事だ。
それだけで多くの民が驚きと困惑に包まれるに充分であったが、それに加え現在戦争中という事もありより一層、騒ぎは大きくなっていった。
加速する騒ぎは、より多くの民の耳に入る事となり魔道具が起動し始めてから僅かな時間で広間には王都に暮らす民の端から端、つまりは王都住民全てが集まる事態まで発展していった。
そして、映像が映し出される。
「な、何だこれ?」
「瓦礫の山しか写ってないな」
「お、おい。瓦礫の上に誰かいないか?」
映し出されたのは角を生やした屈強な大男と、その大男と比べると遥かに小さな黒髪の少年であった。
「あの大きな男は魔族か?」
「強そうだな。あのちっこい坊主が戦ってるのか?」
「まさか。あんな大きな魔族は軍でも引っ張り出さなきゃ勝てっこねぇよ」
魔族は残虐非道、冷酷無比な存在として知られており、人族にとって魔族とは例外なく討つべき敵とされている。
故に魔族と人族の少年が相対している光景が映し出されれば、それは殺し合い、もしくは魔族による一方的な蹂躙しかないと映像を見た者達は即座に判断したのだ。
そして、それは正しく映像を見た者達が騒ぎ出した次の瞬間には、魔族が何かしらの魔法を発動する光景が映し出された。
「きゅ、急に暗くなったぞ!どうなっているんだ!?」
「こ、これは闇魔法!?」
「闇魔法?も、もしかして魔族は魔王フロメテスじゃないか!?」
使い手の少ない闇魔法、魔族でも珍しい程の巨体、魔族の身から放たれる威圧感から、その場にいた感の鋭い冒険者や、ある程度の実力を持った者達が魔族の正体に気付き始めた。
魔族が魔王だという事実は瞬く間にその場にいた全ての者に広まり、それと同時に皆、絶望を抱きカルロリア王国の終わりを悟った。
魔王とは、そしてフロメテスとはそれ程までに絶対的存在、人の身では敵わぬ化物として認識されているのだ。
「も、もうこの国は、俺達は終わりだ」
「はは、こんな事なら受付のレティアちゃんに玉砕覚悟で告っとけばよかったぜ」
「お前、それ言ったら本当に終わりだぞ?」
「あの男の子は何故1人で魔王に?」
「私、見てられないわ。あの子が殺される所なんて」
そして皆、様々な絶望を抱きながらも、今から魔王に惨殺されるであろう黒髪の少年に悲しみや哀れみを抱く者達も居た。
だが、皆が想像する残酷な結末は、起きる事はなかった。
あろう事か、強力な魔法を駆使する魔王に対し、黒髪の少年も見た事も無い魔法ー魔法であるかどうかすら分からない者も多くいるだろうーで魔王に拮抗、いや押している様にさえみえるのだ。
「う、嘘だろ…」
「あ、あの魔族は本当に魔王なのか?」
「それは間違いねぇ筈…何だよな?」
「あの少年の体を覆ってる青白い光はなんだ?」
「あ、あれは雷だ!あの坊主は雷魔法の使い手なのか!!」
「か、雷だと!?それは古代魔法の1つじゃないか!?」
「あの少年は一体何者なんだ!?」
魔王と黒髪の少年の戦いに、場は騒然となり驚愕と困惑の声を上げる者達が増え始めた。
その中で、何処からか黒髪の少年の魔法の1つに勘付く者が現れ、その場の関心が黒髪の少年ただ1人に向けられる事となった。
そして、ある民の言葉により、その関心はより加速する事となる。
「……あれは、勇者だ」
「ゆ、勇者だって!?」
「そ、そうだ!勇者だ!それ以外に考えられねぇよ!」
「勇者様がこの国を助けて下さるんだわ!これで私達は救われるわ!」
「おぉー!勇者ぁー!」
黒髪の少年は勇者である。それは稲妻の如き速さで広まり、絶望一色であった王都は勇者の登場により歓喜に変わっていった。
だが、それは束の間の喜びであった。
歓声の中で映し出されたのは、勇者とされた黒髪の少年が魔王により両腕を切断され心臓を貫かれる光景であった。
「あ、あぁ…。勇者でも駄目なのかよ……」
「も、もう終わりだ!魔王に勝てる奴はもういねえ!」
「い、嫌だぁ!私まだ死にたくないわぁ!」
一度は助かると歓喜した者達には、その光景は先程よりも、より一層絶望感を濃くするものであった。
涙を流し嗚咽する者、大声で泣き叫ぶ者、恨み憎しみの矛先を黒髪の少年に向け睨みつける者、十人十色ではあったが共通しているのは、皆自身の終わりを悟った反応だという事である。
「ん?お、おい、勇者の体が光ってないか?」
「ほ、本当だ!どうなってるんだ!?」
「死んだんじゃねぇのかよ!?」
「き、きっと、まだ生きてるんだわ!」
心臓を貫かれ死んだと思われた黒髪の少年の体が突如光り始め、場は再び困惑の声が広がっていく。
だが、その奇跡の様な光景は2度の絶望に叩き落とされた者達にとっては、その奇跡に依り縋るしか道は残されていなかった。
そして、王都中の、いや国中の民の思いが1つとなる。
「この国を救ってください。勇者、いや英雄様」
黒髪の少年が絶望の中でも光り輝きその窮地を颯爽と救う勇者でありますように。
我々の英雄でありますように、と。
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