【完結】ミキって書かせて頂きます

すみ 小桜(sumitan)

文字の大きさ
16 / 47

15話 二年間の事件

しおりを挟む
 俯くミキに、遊佐が声を掛けようとしたその時、遊佐に電話がかかってきた。ポケットからスマホを取り出すと立ち上がり、後ろ向いて会話を始める。

 「潤? あぁ……。そうか……。何! 二年前……」

 遊佐は、ミキを振り返る。

 「わかった。ありがとう」

 電話を切ると、遊佐はミキにそっと話しかける。

 「もしかして二年前って、彼女の恋人が睡眠薬を飲んだ後、車を運転して無理心中した件か?」
 「……そうよ。私、取材したのよ、楠さんを……」

 ミキは、太ももに両肘をつき、その手に額を乗せ俯いたまま、そう言った。

 ――昨日のうちに気づいていれば、殺人事件は防げたかもしれない!

 ミキは、気づけなかった自分に腹が立った!
 気付けば、楠を止められたかもしれない。そうすれば、事件は起きなかった!
 少なくとも一緒について行って、二人で会えば殺されずにすんだはず!

 「もう、私のバカ! なんで、思い出さなかったのよ!」
 「過ぎた事を言っていても仕方がないだろう? で、その時どんな話を? 話せる所でいいから、話してくれないか?」

 遊佐は、ソファーに座り直し、出来るだけ優しく語りかけた。

 「警察は、無理心中で片付けたみただけど、彼女は殺人事件だと思っていたわ。彼が、楠さんを迎えに来る前に、保険外交員の人に会ったって。その人が犯人だと……」
 「その人に、睡眠薬を飲まされたと言うのか? 無理がないか?」

 遊佐の言葉に、ミキは顔を上げ彼を見た。

 「でも、街中で車を運転して無理心中なんて、テロじゃない? それに彼女その時、彼と一緒に婦人科に行く予定だったのよ? 警察は、それが逆に動機だと思ったみたいだけど……」
 「もしかして彼女、妊娠をしていたのか?」

 ミキは頷いた。

 「つわりがあって、確認をしに行くはずだった。でも、事故にあって流産してしまった。私は、彼女の言葉を信じて、調べる事にしたのよ。必ず、その保険外交員を探し出して、記事にするって……」
 「なるほど、探し出せなかったって事か……」

 遊佐の言葉にミキは頷き、また額を手に乗せ俯いた。

 「せめて、調べ上げた事を記事にすればよかった。そうしたら、少しは楠さんの気持ちも晴れたかもしれない……」
 「調べ上げた? もしかして、特定はできなかったけど、その事実はあったのか! それ、警察には?」
 「それで動いてくれるのなら言うわ!」

 ミキは、遊佐を睨み付けながら、そう答えた。

 「そうだな。もう、終わった案件だったな……。その内容、話してくれないか? それと、君が責任を感じる事はない。責任があるとしたら、我々警察側だ」

 遊佐の言葉に、ミキは驚いた顔をする。そして、強く頷いた。

 「………それもそうね。あなたの言う通りだわ! 今度こそ、絶対に逃がさないわ!」
 「その方が、君らしい」

 元気を取り戻し、顔を上げた瞳に力をたぎらせたミキを見て、遊佐は言った。
 切り替えの早さは、ミキの長所である。

 ――自分を責めている時じゃない! まずは犯人を捜すのよ!

 「……私は、その保険外交員の手がかりを探したわ。でも、誰にも話してなかったのか、全然つかめなくて……。それで、どうして睡眠薬を飲ませたのか、色々なパターンを考えて調べてみたのよ……」
 「なるほど。普通、そのつもりがなければ、持ち歩いているものでもないしな」

 遊佐の相槌にミキは頷くと、こう続けた。

 「それで、ある事件に注目したのよ。漏えい事件よ。彼女のファイルにはないけど、その人、無実を訴えたけど信じてもらえず、解雇になったわ」
 「漏えい? もしかして、楠さんの恋人が漏えいに加担していたって事なのか?」
 「いいえ、違うわ」

 ミキは、首を横に振った。

 「私、その解雇になった彼に取材したの。彼が言うには、保険外交員の女に盗まれたんだって。それしか思いつかないって!」
 「保険外交員の女! そこに、繋がるのか!」

 ミキは、そうだと頷く。

 「彼が盗まれたデータは、メールの内容なのよ。彼とその相手しか知らない内容が漏れてしまったのよ。だから、彼は気づいたのよ」
 「しかし、それを盗むとなると、ハッキングか何かなのか?」
 「いいえ。スマホからよ!」
 「何? スマホから?」

 遊佐は、ミキの思わぬ回答に驚いた。

 「どうやって?」
 「彼が言うのには、スマホからは、パスワードなしにメールに接続できるから、スマホのパスワードを知れば、メールの中身を見る事が出来るという主張だったわ」
 「確かに。便利だが、落とし穴だな……」

 ミキは、遊佐の顔を見た。

 「人は、気を許すと意識せず、その人の前でパスワード解除してしまうものよ。まさか、解除されて悪用されるなんて思わないでしょ?」
 「そうだな。だが、どうやってスマホから気づかれずにデータを盗んだんだ?」
 「そこで、睡眠薬よ! 彼は、保険外交員から疲れがとれるからと、特製ジュースを貰って飲んだそうなの。その後、十分ほど寝てしまった」
 「その間にって事か……。しかし、そう上手くいくものか?」

 ミキは、タブレットを指差す。

 「成功した例が、そのタブレットに載っているでしょ? ただ、その事件の人達は、気づいてないだけよ。私が取材した人たちは、全員、保険外交員と接触しているわ」

 遊佐は、驚いた顔をしている。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。 「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく… なお、スピンオフもございます。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

処理中です...