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18話

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 「メルティ、今日は、食事を終えたら部屋からでないように」

 ラボランジュ公爵家から手紙が届いた三日目の朝、イヒニオがメルティにそう言った。三人は、着飾っている。

 「お出掛けでもなさるのですか?」

 今日は、イヒニオの仕事は休みの日だ。

 「うふふ。お客様が来るのよ」
 「まさか、ルイス殿下がおいでになるのですか?」
 「バカねぇ。そうだったら今頃、使用人達がバタバタしているわよ」

 驚いてメルティが言うと、上機嫌でクラリサが返す。

 「知りたい? うふふ」
 「クラリサ」
 「いいじゃないの、お父様。私の家庭教師よ」
 「え?」

 なぜにとメルティは疑問に思った。
 この国では、デビュタントをする前に終わらせる。なので、クラリサはもちろん、メルティも、家庭教師に教わる事は終わっている。
 また家庭教師をつけ学ぶとすれば、上位貴族に嫁ぐ時に行ったりもする。
 そこでメルティは、ハッとした。
 クラリサは、ルイス殿下と婚約をしたのだ。だとすれば、家庭教師がついてもおかしくはない。

 「ラボランジュ公爵家から提案があってな。家庭教師を付けようと。ルイス殿下と婚約する為に……ごほん。いや、婚約にあたり、ルイス殿下にもっと相応しい淑女になる為に、わざわざ自ら手配して下さったのだ」
 「うふふ。私も自負してるわ。少し、ルイス殿下の妻になるには足りないところがあるのではないかと」
 「来て下さるのは、あの名高い、リンアールペ侯爵夫人よ。彼女は、依頼されても教えるのに値しないと思えば、断るお方。その彼女に、クラリサは認められたのよ」

 嬉しそうに三人は、メルティに語った。

 (あの手紙は、これを告げる手紙だったのね。喜ぶはずだわ)

 「そうですか……」
 「だから静かに部屋にいてね。絶対に邪魔しないでよ」

 勝ち誇った様に、クラリサが言う。
 メルティは、悔しく思う。何もかもが、クラリサのモノになっていく。
 陛下は、ルイス殿下と婚約したクラリサはまだ彼に相応しくないと思った。だから、発表を控えたのだろう。
 弟のラボランジュ公爵を通し、息子の妻となるクラリサの家庭教師を手配させた。
 それらは本来なら全て、メルティが受けるモノだ。

 「わかった? メルティ」
 「はい……」

 悔しさに俯きながら、クラリサに返事を返すのだった。

 暫くして、リンアールペ侯爵夫人が訪ねて来た。
 銀の髪をきっちりと結い上げ、すっきりとした青いドレスは、眼鏡の奥に光る瞳と同じ色だ。
 細身なのに貫禄がある。気品があって威厳あり、彼女を見たクラリサはこの様になりたいと思った。いや、彼女に習えばなられるのだと、喜んだ。

 「失礼したします。ラボランジュ公爵夫人から紹介を受け参りました、ミリィ・リンアールペと申します」
 「まあ、お待ちしておりました」
 「ささ、どうぞ、中へどうぞ」

 三人は、リンアールペ侯爵夫人を持て成し、応接室へと案内した。

 「ご足労頂きありがとうございます」
 「この度は、娘をご指導頂けるという事で、大変嬉しく思いますわ」
 「私もです。ラボランジュ公爵夫人とは、彼女が結婚する前からの知り合いでして、是非とお願いされまして。気合を入れて参りましたのよ」

 それを聞いた三人は、ラボランジュ公爵家が味方についた事に喜んだ。
 聖女は、レドゼンツ伯爵家の娘で、偽りだった為に祝賀会が中止になったのではないかという、噂も流れていた。これで払拭する事ができる。
 きっと、もっと淑女として立派になってから世間に紹介する事になったのだと、噂が流れるに違いない。
 リンアールペ侯爵夫人が家庭教師につくという事は、みんなに認められるレディーになると言う事なのだから。

 出された紅茶を飲む姿も優雅だ。
 クラリサもこの様になれば、ルイス殿下の横に並んでも、相応しいと称賛される事になるだろう。
 三人は、将来を夢描く。

 王子殿下と聖女が結婚するのだ。
 もしかしたら、屋敷を賜るかもしれない。
 王族の家族だけが参加出来るお茶会があり、それにももちろん参加する事になるのだ。そう、その者達と肩を並べる事が出来、優雅に過ごす事が約束される。

 「今から楽しみですわね。期間は三か月を予定しております」
 「まあ、三か月で夫人の様になれるのですか?」

 クラリサは、嬉しそうに問う。

 「基礎が出来ているのであれば、本人次第ですわ。というか、三か月で無理のようならば、素質なしという事です」

 ビシッと言われ、クラリサは真剣な顔つきで頷く。

 「ですが、ラボランジュ公爵夫人からの紹介ですもの、少しも疑っておりません」
 「ありがとうございます!」

 クラリサは感動したように、目を潤ませる。
 彼女に習うなど、お金の面からしても難しいが、それはラボランジュ公爵家が支払う事になっていた。イヒニオ達にすれば、願ったり叶ったりだった。
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