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第六章 真実と魔術師組織

第六十話

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 「な! 何言ってやがる!」

 ダグが、トンマーゾを睨んで否定する。

 「仲間とは、どういう仲間なのですか?」

 ダグの抗議は無視し、レオナールは話を進めた。

 「勿論、エール草の栽培さ。配達の時に外に持ち出すって寸法だったのさ」
 「はぁ! そんな事してません!」
 「ではそうだったと仮定して、なぜ彼は裏切ったと思いますか?」

 またもやダグの否定は無視され、レオナールはトンマーゾに質問した。

 「さあ、なぁ。王宮専属薬師の仕事が惜しくなったんじゃないか?」
 「どうですか? ダグ」

 やっと、ダグに弁解のチャンスが与えられ、ダグはホッとするもトンマーゾを睨みつつ話し出す。

 「俺は、仲間じゃない! そもそもあの場所に行ったのは、ルーファス王子に連れられて行ったんです! って、レオナール王子の作戦で、俺はあそこに行ったんですよね?!」
 「そうですね。ですがそれは、あなたが彼の仲間ではないという証拠にはなりません。そうなったからこそ、トンマーゾがあなたが裏切って連れて来たと思ったという、彼の言い分には矛盾は生じませんからね」

 その言葉に、ダグは青ざめる。仲間じゃないという証拠を違う方法で示せという事になるが、そんなものはない。

 「そもそも専属薬師になる事自体難しいのに、そんな事する訳ないじゃないですか……。そんなの割に合わない……」

 もう正論で乗り切るしかないダグはそう言った。それには、レオナールも納得したのか真面目な顔で頷く。

 「では、なぜあの時、トンマーゾの首を絞めようとしたのでしょうか?」
 「絞めようとしたんじゃない!」

 ダグは、即座に否定した。

 (首を絞めた! そうだ! そう言えば、あの時そんな事を言っていた……)

 ティモシーには、ダグが何をしたか見えていなかった。思い返せば、ルーファス王子が止めた時、ダグは『首を絞めているのではないので』と言った。それは、そう見えるから言った言葉だとティモシーは今更気づいた。
 ダグは違うと言っているが、あの襲ってきた男たちにもそうしていた。……殺そうとしていた。

 (でもなぜ、ルーファス王子の前でも首を絞めたんだろう?)

 あの時は、魔術師だとバレないようにという工作だったとしたら、今回はその必要はない。何せ、すでに魔術師だとバレているのだから魔術を使えばいい。攻撃の魔術が使えなかったとしても前回と同じ方法を取る必要はない。自分が殺したとバレる可能性がある方法をなぜ、彼は取ったのだろうか?
 ティモシーは、不思議に思った。彼が思ったのだからレオナールも気づいているはずである。だが、あえて質問をしていた。

 「では、どんな目的で首に手を?」

 ジッとレオナールはダグを見て質問をするも、ダグは彼の視線を外し顔を伏せ黙り込んだ。

 「答えられませんか? では、質問を変えましょう。あの時あなたは、トンマーゾに『昨日襲った奴の仲間か?』という、質問をしていましたね。なぜ彼が、他国の男たちと繋がっているかも知れないと思ったのでしょうか? 接点は無いように思われますが?」

 接点はある。相手が魔術師だったかもしれないからだ。だがあの時、ダグがレジストしたという事になれば、彼らがあぁなった経緯を話さなければならない。
 魔術師だったとしても、レジスト出来ずティモシー達と一緒に寝てしまった事にしなければならないのである。

 「俺達は眠らされたようだからあいつ等が魔術師だったのではと思って……」
 「彼らは二人も亡くなっておりますが? あなたが眠らされる程の者を誰が殺したのでしょうか? あなたの術はトンマーゾはすぐに解いてしまいましたよね? その彼より強い魔術を使ってあなたを眠らせた事になりますが?」

 つまりは、ダグの術を解除出来るほどのトンマーゾの術をレジストしたのだから、あの三人はトンマーゾより能力が上の魔術師という事になり、その者達を殺した第三者は、かなりの者となるとレオナールは言ったのである。
 ここでやっとダグは気づいた。ここまでの一連の質問は、この質問をする為だったのではないか。つまり、あの男たちを殺したのは自分ではないかと疑われていると。
 ダグは、チラッとティモシーを見た。彼は、ティモシーが魔術師だとは知らない。だから、両方とも起きて事を見ていた事も知らない。
 ダグはティモシーなら今の話の流れでも、自分が魔術師だと言われている事に気づいていないだろうと思っていた。つまりは、ダグはティモシーに魔術師だと知られたくなかった。だがもう、そう言ってはいられなかい流れになっていたのである。

 「首を絞めたのではなく、魔力を奪おうと思っての行為です。直接触れる事で奪う事が出来るから……。別にどこでもいいが、首に手を置く事で相手を脅す事も出来ると思っただけで、殺そうとした訳じゃない……」

 ダグは、観念してそう答えた。
 その答えに満足そうにレオナールはほほ笑んだ。
 ダグは、彼の欲しい答えを語らされたのである。
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