居候と婚約者が手を組んでいた！

第20話

　「一年間は、あなたの母親を務めるわ。甘えていいわよ」

　って、馬車に乗り込むとエルダ夫人がにっこりとして言う。
　一体何を考えているのだろう。

　「じゃ私達は姉妹よね？」
　「い、一年間だけね」
　「なんか凄い事になったが、誓約書がなくとも頼ってもらうつもりだった。彼も反省している様子だし、皆で仲良くやろう」
　「は、はい。宜しくお願いします」

　ふう。疲れる。
　ウルミーシュ子爵は、悪い人ではないのだけど、エルダ夫人の尻に敷かれているのよね。

　役所に着いて馬車を降り、七人の大所帯で誓約書を出しに行けば、役所の人に驚かれた。
　そして、四枚の誓約書は受理された。

　役所の人が、困惑していたなぁ。
　内容が特殊だものね。
　誓約書として、一般的な内容はガストン様のだけだろうし。
　私のなんて、意味不明でしょう。

　まあ誓約書は、普通に生活していて守れる範囲だと聞いた事がある。だから全て受理されたのだろうけどね。

　「レネット。この後、甘いモノでもどうかね」
　「はい。叔父様、喜んで」

　プロンテヌ侯爵の言葉に、頷いた。
　聞きたい事が山ほどありますもの。

　「今更撤回なんてできないからね」

　ボソッと、エルダ夫人が私に囁いた。

　「もちろん、存じておりますわ」

　私が撤回したいものなんて、別にないけどね。
　どちらかというと、ガストン様でしょうね。まあ誓を守る気があるのなら別に苦でもない内容だけど。

　「彼女は、私が後で送る」
　「そうですか。では、私達はこれで」

　五人は、それぞれの馬車で去っていく。

　「さあ、私達も場所を移動しよう」
　「はい」

　馬車に乗り込むと、プロンテヌ侯爵が頭を下げた。
　一体何事？

　「あ、あの……」
　「すまなかった。彼らの証言を確実なものにする為にも誓約書が必要だった」
　「え？」
　「少しの間だけ耐えてくれないか」
　「それってどういう事でしょうか」
　「今は言えぬ。だが、ガストンには気を付ける様に」
　「え……？」

　それって襲われない様に、貞操を守れと言う事でしょうか。そんなに遊び人だったの？

　「出来るだけ早く、適任者を送る」
　「わかりました」
　「本当にすまないな」
　「叔父様……」

　なんだか思いつめた顔つきだわ。
　証言を確実にってさっき言ったわよね。という事は、婚約に賛成ではなくて、破棄させる為に言質を取るという事かしら。
　きっとガストン様のしりぬぐいをルトルン伯爵が今までしていたのでしょうね。

　そういえば、どうしても私と結婚させたがっていたわよね、ルトルン伯爵は。
　まさか、色々とやらかしていて、その後始末を私に押し付けようとしていたのではないでしょうね。

　でも五年あるからなぁ。
　婚約者だからと、彼が起こしたいざこざの責任を押し付ける事は、あの誓約書がある限りできないでしょうし。
　やっぱり息子を更生させ、私と結婚させたいのね。

　けどプロンテヌ侯爵は、今までの色んないざこざを知っていて、彼とは結婚させたくない。
　侯爵家だといえ、領地持ちの伯爵家を脅してまで別れさせれば、外聞が悪いでしょう。
　それに、そんな事をすれば、私の婿選びにも影響がある。そう考えてなのでしょうけど。
　彼が、改心したのならこのまま結婚まっしぐらなのですけど。

　うん。まあ、改心したのならいいのかな？
　今までの事は私は知らないわけだし。
　それよりも本当に一年でウルミーシュ子爵家は出て行くのかしらね。

　「さあ、ここの甘未は美味しいと聞いた。ここで心を潤わそう」

　馬車の前には、マスティラン領の随一の甘味処だった。
　予約制なので、予約を入れていたのね。

　マスティラン領に住んでいる私だけど、来たのは初めてだわ。

　結局、プロンテヌ侯爵には何も聞けないままになった。
　ただ何か危ないと思ったら、ここに逃げて来いと言われたのだけど。
　甘味処に逃げろって言われてもねぇ。