居候と婚約者が手を組んでいた！

第44話

　「これお願いしますわ」
　「はい。え……」

　私は驚く職員ににっこりとほほ笑む。

　「どれくらいかかるかしら？」
　「えーと。内容も検討しないといけませんし、今日はもう遅いので四日はかかると思います」
　「そう。書類に書いてある通り、伝え方が悪くて抗議文にあるような、偽造はないのよ。判を押す前に気がせって持ち出してしまっただけなのよ」
　「はい。わかりました。誓約書が解消になりましても、ならなくてもご連絡致します。数日で届くと思います」
　「では宜しくお願いしますね」

　こんなにうまく行くとは思わなかったわ。

　兄が亡くなった後すぐに私は、グリンマトル伯爵家の財産がどうなっているか確認しに行けば、レネットに自動的にグリンマトル家の権限などが移っていて、グリンマトル伯爵家ではない私では確認すらできなかった。

　どうやら薬師であるレネットは大人として認められている為に、後見人など必要ないらしい。
　なので、一緒に住んでいても後見人として認められなかった。

　でもチャンスが巡って来た。
　プロンテヌ侯爵が提案してきた誓約書を使ってグリンマトル家の一員になれたのよ。
　なのに、財産などを確認が出来ない！
　だからこっそりレネットとして書類を提出すれば、レリーフの押し忘れと押し戻された。

　これでは、何も手に入らないじゃない！
　うまくルトルン伯爵を丸め込んだというのに！

　でも、権利は執行できたのよね。だから使用人の総入れ替えを行った。ただ、執事長だけはレネットの許可がいたのでそのままに。けど、彼が報告者に選ばれるのは確実。彼だけに目を光らせばいいものね。
　そう思っていれば、驚く事にマスティラン子息だった。まあ追い出してやったけどね。

　上手く行くと思っていた矢先に、馬鹿ども二人がやらかした。
　マスティラン子息が屋敷に来ている間は、二人は外でデートしていたのよ。だから人目に付かないようにしなさいと言えば、なんとクラブに行ったのよ！
　しかもその一度の行為を見られて、噂になった。
　幸い、レネット達という事になったようだけど。

　でもバレたらまずい。
　だから、ダマレドゴ嬢に二人の姿を見せ、レネット達ではないとさせる事にしたのよ。
　顔を見られないようにして、馬車で誤解させる。
　そう作戦を立てた途端、グリンマトル家の新しい馬車が来た。

　領主の息子が手配すれば、そりゃ速攻作るわよね。
　おかげで計算がくるってしまって、見張りを始める初日に発見させなくてはいけなくなった。
　まあでも、レネットでもアンナでもないという結果にちゃんとなったのだから結果オーライよね。

　後は、経営権も今のうちに手中に収めないとね。
　まずは、経営家をルトルン伯爵家の息のかかったものに替える。その為に、ガストンに書類を書かせてレネットにレリーフを押す様に言わせた。

　まあ押さないでしょうけど。けど、レリーフの存在を知ったという事は、偽造して書類を提出したと思うはず。そうなれば、プロンテヌ侯爵に手紙で伝えるかもしれない。そして、抗議文が送られてくるかもしれない。

　その賭けに勝った。
　抗議文の内容を確認しても、書類をガストンが持っていた証拠など出て来ない。だって、彼は書類を書いてレリーフを押せとレネットに言っただけだもの。
　サインを偽造した疑惑は、勘違いだった。
　そうなれば、提出した誓約書無効の書類は必ず通る！

　二人目の薬師も送り込んだ。
　ガストンと薬師が一緒に行って、次の日にレネットの分を持っていくと言えば受理されるかもと思って行かせてみれば、通ったのよね。
　お陰で、レネットに書類を書かせるのがスムーズよ。

　先に受理されてしまえば、それに合わせて書類を書くしかないでしょう。
　プロンテヌ侯爵に相談するにしても、時間が掛かり問題を長らく放置する事になる。
　だから、一旦は書類を提出すると言う手段しかなくなるのよ。
　後は、ルトルン伯爵にレネットを説得させるだけ。

　学園に通っている間は、ルトルン伯爵が手配した経営家に一時的に任せるとね。
　レネットが卒業しても、もちろん戻す気などないわ。
　ガストンがいづれ経営家になるのだから、その時に移せばいいと。
　レネットは雇い主ではあるけど、薬師として手中に収める事ができる。

　書類が受理されるのが待ち遠しいわ。