【完結】煙にまかれた記憶

すみ 小桜(sumitan)

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彼は重要参考人

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 少年は緊張した趣で、背広を着た男性の後ろを歩いていた。その少年の名は真倉まくら憲一けんいち。高校一年生。前を歩くのは担任の三好だ。

 ホームルームが始まる時間なので、廊下には生徒の姿がない。だが、声は教室から漏れ出していた。そこからは可愛い声は聞こえてこない。そうここは男子校である。そして憲一は、転校生ではなかった。

 三好が教室のドアを開け入って行く。憲一もやや遅れて入った。
 見事に黒一色だな。――男子校で学ランの為、圧迫感がある。

 「怪我で入院していた、真倉だ。仲良くするように」

 憲一は、やや緊張気味に紹介の後、軽くお辞儀をする。今日はゴールデンウィーク明け。つまり一か月ほど、遅れてのスタートである。

 「席は、そこのどっちか好きな方座って」

 三好に言われ、空いている席を憲一は、目をぱちくりとして見た。そこは、教壇の真ん前とその後ろ。つまりは、中央の前とその次の二席だった。
 偶然にしては、凄く当たりがいい席だ。皆が座りたくない席、ナンバーワンとツーだろう。勿論、前から二つ目の席に座るが、前の席が空いているので、一番前と大して変わらなかった。

 ホームルームが終わると、後ろの席の太田が憲一に声を掛けて来た。眼鏡を掛けいかにも勉強が出来ますっという感じだ。それもそうだ、ここは進学校の私立校。

 「ゴールデンウィーク前にさ、席替えしたんだ。くじ引いて一番から好きな席に座ったからそこが開いたわけさ」

 質問をした訳ではないが、そう太田は教えてくれた。

 っと、いう事は、俺以外にもずっと来ていない奴がもう一人いるのか? ――そうでなければ、どっちか好きな方をとは言わないだろう。

 「なあ、もう一人いるんだよな? 何で休んでいるんだ?」

 「病気らしいけど、一度も来てないし、よくわかんないな」

 「へえ……」

 やっぱり俺と一緒で最初から休んでいるのか――奇遇な事もあるもんだと憲一は思うも、周りを見てため息が出た。

 男しかいねぇ――男子校だから当たり前だ。だが、中学は共学だった為、華がないと思うのだった。

 むさ苦しい中、午前中の授業が終わり、憲一は身支度をする。

 「あれ? 帰るのか?」

 午後も授業があるというのに、帰る支度を始めた憲一に不思議そうに太田は声を掛けた。

 「あぁ俺、怪我で体育出来ないし、弁当も持って来てないし。だから今日は午前で帰るって事になってるんだ。じゃ、また明日」

 「おぉ。気を付けて帰れよ。寄り道すんなよ」

 まるで先生が掛けるような言葉を太田は憲一に掛け、憲一は手を振って教室を後にした。
 今日の午後は体育のみ。ジャージすら持って来ていなかった。

 憲一は、足が悪いわけではない。怪我をしたのは背中だった。打撲はあったものの骨折とかではなく火傷だ。
 春休みに高校進学祝いを兼ね、家族三人で一泊二日だが旅行に行った。母親の知り合いの旅館で、その次の日を最後に畳む事になっていた。
 だがそこで、火事にあったはずなのである。

 『はず』と言うのは、憲一にとってはだ。その日一日の記憶がすっぽりと抜け落ちていた。記憶喪失というものだ。彼の場合は、精神的なモノだろうと診察されていた。

 一日ぐらいなら本来抜け落ちても問題はない。だが、憲一の場合は違った。発見されたのが火元の近くだった。しかもそこは、爆発して発火したと思われる。つまりは、憲一は重要参考人なのである。

 憲一には、旅行の前日に自分のベットに寝たはずなのに、目を覚ましたら病院のベットの上で、背中は痛いし警察は来るしで散々だった。しかも警察は、憲一が嘘をついているかもしれないと思っている節がある。つまり記憶喪失のフリをしているのではないかと疑われていた。

 憲一もまた、なぜ自分がそんな場所にいたかわからなかった。記憶を無くしているのだから当然だが、前日に寝るまでは何か事を起こそうなど微塵にも思っていなかった。何らかのトラブルに巻き込まれた可能性が高い。警察もその線で事件を追ってはいた。

 憲一は家に帰るのが憂鬱だった。それは刑事がいるかもしれないからだ。退院してからは、毎日のように見張られている。足取りは重い。
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