【完結】煙にまかれた記憶

すみ 小桜(sumitan)

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仏壇の中の彼は――

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 「座らないの?」

 バスの前の席の方に座った細谷ほそたにが、憲一けんいちに聞いて来た。
 憲一は座ったとしても、後ろにもたれ掛かる事が出来ない為、混雑するなら座っていた方がいいが、どちらかというと立っている方がよかった。

 「いやいい」

 細谷が座る横に、憲一は立った。

 バスを降りると、更に違うバスに乗り継いだ。三好が言っていたように遠い様だ。バスから降り十分程歩いて、アパートに着いた。

 「ここ。君の家と違って狭いけど……寄ってく?」

 「おう」

 何となく憲一は寄ってみる事にした。

 「お邪魔します」

 「あ、誰もいないから。えっと、僕の部屋行く?」

 「あぁ……」

 何故か憲一はドキドキしていた。
 別に授業をサボった訳じゃないが、具合が悪いわけではないのに早退。しかも親がいない家に上がるのは初めてだった。

 玄関に入ってドアの向こうは、台所と居間が一緒になった空間。
 テーブルに椅子が四つ。冷蔵庫に食器棚。小さなテレビ。それに仏壇。
 それ以外に何故か、段ボール箱があった。

 引っ越し? あ、してきたんだっけ。――まだ片付けられていない段ボールをチラッと見て、憲一はそう思った。

 「麦茶しかないけどいい?」

 「あぁ。ありがとう……」

 そう言ってフッと仏壇を見て固まった。そこには、細谷の写真が置かれていた!

 「え……」

 何だよこれ。あり得ないだろう……。ネグレスト!? あ、いや違うか。それって放棄って意味だもんな……。――生きているのに仏壇に置かれた写真を見て、憲一は固まっていた。

 「どうしたの? あ、それか……」

 憲一が何に驚いているかわかった細谷は、泣きそうな笑顔を向ける。

 「その写真の人物は、僕の弟。弟と言っても双子なんだ」

 「双子?!」

 細谷の返答に驚いた声を上げた憲一に、彼は頷く。

 写真は、今の細谷とそっくりだった。つまりつい最近亡くなった事を示していた。

 「ここに引っ越して直ぐに……」

 「それって、春休みにって事?」

 細谷は、こくんと頷く。

 「本当は僕が死んだ方がよかったんだろうね」

 「え?」

 泣きそうな顔で、細谷はそう言ったのだった。

 「いや、何でそうなる? 双子だろう? 同じ顔だし二人にそんな差ないだろう?」

 何て言ってわからないが、そう憲一が言うと、細谷は首を横に振る。

 「たまに僕の顔を辛そうに見るんだ。そっくりだから見るのもつらいのかも」

 「いや、まあ、そうだろうけど。だからって……」

 「昨日の夜、お母さんが寝ている僕に言っていたんだ。メグムごめんねって。俺がぐっすり寝ていると思ったんだろうね……」

 細谷は俯いて涙声で、そう言った。もう憲一は何も言えなかった。
 メグム……。それが弟の名前なんだろう。細谷に向かって弟の名前を呼んだ。だからと言って細谷が死んだ方がよかったなんて事はないだろう。親としたら両方生きていて欲しかったに違いない。
 でも憲一には、どう言ってやったらいいかわからなかった。

 「ごめん。こんな話するつもりなかったんだけど……」

 「つい同じ顔だから、弟の名を呼んだだけじゃないか? えっと、上手く言えないけど……細谷がいらないって事はないと思う」

 「ありがとう」

 その後、憲一は麦茶を飲んで直ぐに帰った。
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