上 下
12 / 34

確信と決心

しおりを挟む
 憲一けんいちは、一か月ぶりにパソコンを立ち上げていた。
 今日一日、細谷ほそたにが座っていたない席を見つめ、ずっと考えていた。

 火事は事件として扱われている。つまり犯人がいる。だが犯人はまだ捕まっていない。今までは、自分が犯人だったら? 共犯だったら? と怖くて火事から逃げていた。
 だが細谷は、その犯人が捕まらなかったら気持ちのやり場もない。火事で苦しんでいるのは、自分だけではない。

 まずは、亡くなったのは細谷の弟か確かめてみる事にした。
 自分の事を伏せていても、亡くなった人物は公開されているはず。記事を探し出し名前を確認する。

 そこにあった名前は――細谷めぐむさん(15)――そうあった!

 憲一の手は、ガタガタと震えていた。
 細谷の弟が火事で亡くなった人だった! ――そうかもしれないとは思っていたものの事実を目にし、恐怖心が彼の心を覆う。
 もう逃げられない! 現実から目をそらしたらダメだ! ――そう奮い立たせ、記憶を取り戻す決心を憲一はするのだった。

 今度の休日に火事があった旅館に行ってみる事にする。


 ○ ○


 次の日は、細谷は学校に来た。
 昨日は病院に行って、安静にしていたらしい。

 そして放課後、日誌を持って職員室に向かった。今日は憲一が担当だった。それに細谷も同行していた。

 「はい。日誌です」

 「あぁ、ご苦労」

 「それ……」

 三好が見ていた分厚いカタログをジッと見つめ、細谷が呟く。
 憲一が覗き込むとそれは、時計のカタログだった。イチズンの腕時計がずらりと並んでいる。

 「これ! ねえ、先生って時計好きなの?」

 何故か細谷が食いついた。

 「え? あぁ。まあ学校にはブランド物はつけてこれないが持っているよ。これなんか新作で、三月に出たばかりなんだ。今の一番のお気に入り。って、これ見ていたの内緒にすれよ」

 そう三好はおどけて見せる。

 「これも?」

 三好が指差した近くの時計を細谷は指差す。

 「そう。これの最低ランクのだけど……。時計に興味あるのか?」

 「え? いや、見た事があるだけ……」

 細谷が自分から何かに食いつく姿を始めて見た憲一は、ぽかんとして見ていた。

 「あ……。すみません」

 はっとしたように、細谷は軽く頭を下げる。

 「驚きだ。細谷って時計に興味あったんだな」

 細谷は、学校には時計はしてきていなかった。驚いた憲一はそう聞いた。

 「いやそうじゃなくて、家に時計があって……。ずっと気になっていたから」

 もしかして形見? ――ふとそう思った。だからあんなに必死になったんじゃないだろうかと。

 「土曜でも、一緒に街の時計屋とかに行ってみる?」

 何となく提案すると、細谷はこくんと頷いた。よっぽど時計の事を知りたいようだった。

 二人はお辞儀をして、職員室を出た。

 土曜日に火事の話をしよう。――自分が火事の関係者だと打ち明けようと思った。
 記憶はいつ戻るかわからない。話せば関係が壊れるかもしれない。かたきとして敵視されるかもしれない。でも伝えるべきだと憲一は思ったのである。
しおりを挟む

処理中です...