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勇気の告白は――

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 憲一けんいちは明日、一人で行ってみるつもりだった。
 そこにも行くのは怖かったが、行かないと始まらない。記憶を取り戻す為だ。

 「そう。だったら僕も付き合うよ。着いてきてもらったし」

 「え……」

 憲一は、戸惑った。行く場所は火事が起きた現場だ! 嫌でも火事の事を思い出す。

 「……北里旅館って言うところなんだけど」

 一応聞いてみる。どうせ後で火事の事を話すのだからと。

 「うん」

 細谷ほそたには、あっけない程普通に頷いた。驚いたり戸惑ったりは一切なかった。

 あれ? 火事の旅館の名前は覚えてない? ――どっと憲一は体の力が抜けるのだった。

 二人はバスに乗り、北里旅館を目指す。そこは山奥だった。近づくにつれ、建物が減り、その代わり木々が増えて行く。ドンドン森深くなっていった。

 森の旅館前というバス停で二人は降りる。
 そこは旅館街。北里旅館が在った場所へ歩いて行く。

 確かここら辺なんだけど。――調べてあった住所を頼りに十分程歩くとあった!
 名前を確認しなくてもわかった。火事の跡がそのままだった。駐車場に車もない。

 「ここだ……」

 憲一は建物を見上げた。
 建物はさほど大きくなかった。火事の跡は、非常階段の近くにあった。
 ここに来れば何か思い出すかと思ったが、何も思い出さない。もやもやも消えない!

 チラッと細谷を憲一は見た。
 彼は何も言わず、ジッと建物を見つめていた。

 火事の事を言わないと――憲一は、ジッと建物を見つめる細谷に振り向いた。

 「……ごめん。こんな所に連れて来て。細谷の弟が亡くなった火事の現場なのに」

 「……なんで、火事で亡くなった事を?」

 「俺もその日ここにいて……それで……俺は―――――なんだ」

 ボォーン!!
 つい声が小さくなる。重要参考人という所が、うるさく通り去ったバイクの音でかき消された。

 「え? 何? よく聞こえなかった」

 「………」

 勇気を持って言った言葉は、無情にも音で消されてしまい、もう一度口にする勇気が憲一にはなかった。

 「ねえ、僕の家にこない?」

 青ざめ固まっている憲一に、そう優しく細谷は言った。憲一は驚いて、ジッと細谷を見た。何故か彼は、ジッと何も言わずに憲一を見つめ返してきた。

 本当は聞こえていたんじゃないのか? ――ふとそう思うも、それも聞けない憲一だった。
 なので憲一は、こくりと頷くことしか出来なかった。


 ○ ○


 「麦茶でいい?」

 前来た時と同じ質問を細谷は憲一にした。

 「うん。あのさ、手を合わせていい?」

 憲一の問いに細谷は、静かに頷いた。
 正座して仏壇の前に憲一は座り手を合わせる。

 ごめんなさい。やっぱり言えません。でも思い出したら必ず細谷に、一番に伝えますので許して下さい! ――憲一は、メグムにそう約束するのだった。

 その後細谷の部屋に入った。
 四畳半の部屋。そこには、机と畳んだ布団。それと段ボールがあった。
 折りたたみのテーブルを置いて、その上に麦茶が入ったコップを置いた。

 「ねえ、なんで僕の事調べたの?」

 突然細谷が、核心をついた質問をしてきた。憲一は、固まった。

 「さっき言っていたのって本当? あの旅館に泊まっていたって……」

 その質問には、素直に憲一は頷いた。

 「そっか。じゃ気になるかな……。僕ね。記憶がないんだ……」

 細谷が驚く事を告白した!
 あまりの事に憲一は、固まったまま何も返せなかった――。
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