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取引

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 「観念した? どうしてあんな事したの? 三好先生!」

 「あんな事? 何の事だ?」

 ずっと憲一けんいちが話していたが、細谷ほそたにが聞くと三好は睨む様に見て言った。

 「火事を起こすような細工をしたって事だよ!」

 「どうして俺がそんな事をしなくてはならない?」

 憲一が言った言葉に、ムッとして三好は返す。

 「じゃ腕時計の件はどう説明するんだよ! 俺の血がついているんだから言い逃れは出来ないだろう!」

 「何を言っている? ついていたら火事を起こす様な細工をしたって事になるのか? 確かに腕時計がない事に気が付いて、こっそり取りに行った。だが非常階段の扉を開けた所に落ちていた」

 三好の言葉に、憲一は目を丸くする。
 嘘だ! 俺の近くまで来た人物がいるのは確かなんだから! ――三好以外の人物がいて、憲一に近づいたとは考えづらい。そう思うも三好を見たわけではないから憲一は何も言えない!

 「三好さん、申し訳ありませんが署で詳しいお話を……」

 「断る! そうなると思っていたから黙っていたんだ! だいたい記憶を思い出したなんて嘘までついて、俺を陥れようとしているのはそっちだろう!」

 「嘘じゃない! 俺も記憶を失っていたんだ。その火事の事をすっぽりと! 確かに腕時計は、非常階段の近くで拾ったかもしれないけど、落ちていたのは火事が起きた部屋だ!」

 「そう言う事か。やっとわかったよ。火事を起こしたのは、真倉まくらだったって事か。責任転換する為に、今更腕時計の事を持ち出したんだろう?」

 「………」

 三好の言葉に憲一は愕然とする。
 憲一は、記憶を失っていなくて言い逃れを考えていた。そして、腕時計を拾った事を思い出し、その腕時計の持ち主に擦り付けようとしている。そう言われたのだ。

 「ちがう!」

 「ねえ、先生! 犯人じゃないって言うのなら証拠見せてよ」

 「普通逆だろう? 犯人だと言うのならその証拠を示すものだろう?」

 「そうですね。三好さんの言い分も一理あります。どうでしょう? もう少し彼らに付き合って頂けませんか?」

 山本が二人の気持ちを汲んだのかそう言った。
 三好は、チラッと山本を見てからボソッと呟く。

 「完全に犯人扱いか……」

 呟き通り憲一達は、三好以外あり得ないと思っていた。だが、三好が言ったように腕時計に血がついているだけでは、犯人だと立証できない。

 「いいですよ。その代わり、ここで俺が犯人だと立証できなかったらさっき渡した腕時計をすぐに返してくれるというなら」

 「わかりました」

 三好の取引にも驚いたが、それを承諾した山本に二人共驚いた。でも裏を返せば、山本は追い詰める自信があるって事になる。
 それは、三好にも言える事だが……。
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