【完結】煙にまかれた記憶

すみ 小桜(sumitan)

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両親の告白

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 ドーン!
 音というよりは、振動だった。そして、火災報知器がけたたましく鳴り響く!

 細谷ほそたにの両親は、顔を見合わせた。
 周りもざわついている。
 そこに、玄関から入って来た人が叫んだ。

 「なんか、上の階から煙が上がっているぞ!」

 それからは、皆、パニックになる。
 荷物を取りに戻ろうとする人。
 玄関から外へ逃げようと殺到する人々。
 従業員も誘導を始めていた。

 「速やかに駐車場の方へ避難をお願いします!」

 両親は、ハッとして子供たちがいる四階へ行こうと皆が進む方向と逆行るすと止められた!

 「お待ちください! 危険です! 避難してください!」

 「息子達が四階にいるんだ!」

 「従業員の者が確認に言ってますから!」

 「息子は、喘息をもっているんです!」

 止める従業員に、懇願する二人だが従業員になだめられ上に行くのはやめて、ここで待つ事にした。
 外に出て待っていてほしいと言われたが、息子と一緒に出ると聞かなかったのだ!

 暫くすると、男の人に支えられながらめぐむが降りて来た。

 「愛! 大丈夫?」

 「薬! そっか、部屋か!」

 父親がそう言うと、細谷は崩れ落ちる様に倒れ込んだ。

 「今、消防車と救急車が到着しますから……」

 「あの! この子と同じ格好の息子がもう一人いるのですが……」

 母親が言うと、細谷と一緒に来た男性はすまなそうな顔つきになった。

 「す、すみません。止める暇もなく部屋に何かを取りに戻ったようで……」

 「俺が行って来る」

 「何を言ってますか! 無理ですよ! 火災現場は四階のようなのです! 煙が凄くて、お願いですから消防車が来るまで……」

 それを聞いた両親は、青ざめる。

 「なら尚更行かなくては!」

 「お願いです! 今、消防車と救急車も来ますから!」

 「だから発作を起こしたのかもしれないと言っているんだ!」

 押し問答が始まった。
 救急車と消防車、それにパトカーのサイレンが聞こえ始める。

 「来ました! だからここで待っていて下さい! お願いします!」

 父親は、母親に抱きかかえられぐったりしている愛を見つめる。めぐみも同じ状態なのは、間違いないだろう。歯がゆかった。

 「こっちです! 煙を吸ったみたいで!」

 玄関から救急隊が入って来た。

 「あの、喘息持ちで……」

 「息子がいないんです!」

 細谷の母親が説明していると、そう言って従業員に駆け寄る女性がいた。憲一の母親だ。

 「先に部屋に行っていて、四階の真倉まくらです!」

 「四階だと! 俺の息子も四階で戻って来てないんだ!」

 話が聞こえ、驚いて細谷の父親が声を掛けた。

 「そ、そんな……」

 「お、お待ちください! 今、消防の人が行きましたから!」

 奥に行こうとする憲一の母親を従業員が引き留める。
 こちらも押し問答が始まった。

 「俺は、ここで恵を待ってる」

 「お願いね」

 救急車に運ばれる愛に付き添って、母親も救急車に乗り込んだ。その救急車のサイレンが遠ざかっていく。

 「あ……」

 一人の男の子が、救急隊によって救出されてきた。

 「め、めぐ……じゃない」

 「憲一! 息子は?!」

 「まだ息があります! お母さんですか?」

 「はい! 母です」

 そのやり取りを細谷の父親はジッと見つめていた。

 「あの! もう一人いるはずなんですが!」

 「大丈夫です。今、順々に確認もしてますから!」

 そうしていると、もう一人助け出されて来た。
 見れば、恵だ!

 「あぁ!! 恵!」

 「お父さんですか?」

 「はい」

 「危険な状態です。あとこれを……」

 小さな箱を渡された。直ぐに腕時計だとわかった。

 「それ握りしめていたんです……」

 そう言われて、父親は驚く。
 愛が腕時計を注文していたのを知っていたからだ。発送されて家に届いた。受け取ったのは母親だ。
 だから愛の物だと思った。だとしたら、目の前にいるのは愛なのか?

 普通なら絶対に間違わないだろう。
 だがこんな状況だ。父親もパニックになっていた。
 服装も髪型も同じ。
 違うとすれば、性格が違った。

 二人は同じ市立病院に運ばれた。
 母親に腕時計の事を話し、どっちだ? となった。
 父親と一緒に病院に運ばれた、恵は救急車内で息を引き取った。
 病院側からも名前を聞かれている。
 そして、先に助け出されたのが、恵だと伝えてしまった。

 パニックになっていた両親は、目をさましたら確認が出来ると思っていた。
 だが三日ほど眠っていて目を覚ました愛は、記憶を失っていたのだ。
 両親は、話しをしていて目を覚ましたのが愛だとわかっが、どうしていいかわからなかった。
 死亡届はもう出してしまっていた!

 両親は、後悔していた。
 いつもしない事をして、子供の未来を奪ってしまったと。
 暫くは、ご飯も喉を通らなかった。

 その後、憲一の両親が頭を下げに来た。

 「本当に申し訳ない!」

 「……本当に記憶を失って?」

 話を聞いた二人は驚いた。
 息子と同じく記憶を失っているというのだ。

 「息子が、爆発した部屋に入ったのは間違いないだろう。もしかしたら……」

 「謝るのは、わかってからでいいですよ。気持ちはわかりますから……。ただ事実がわかったら隠さず教えて欲しいのです」

 「勿論です!」

 細谷の母親が言うと、憲一の父親は大きく頷いた。
 二人の親は、顔見知りだったのだ。
 こうして不安な日々を二家族は過ごしたのだった――。


 ○ ○


 泣きながら細谷の両親は、愛に話した。愛も涙を流していた。

 「ごめんな」

 父親の言葉に、愛は首を横に振った。
 両親もずっと苦しんでいたのだ。責められるわけがない。

 「名前の事は、こちらで手続きを手伝わせてください」

 憲一の母親もハンカチで涙を拭きつつ言った。それに、細谷の両親は頷いた。
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