上 下
33 / 34

三好の供述

しおりを挟む
 三好は、素直に供述を始めた――。

 彼は、結婚を約束した彼女がいた。ところが、突然別れを切り出されたのだ。やっぱり普通の会社員がいいという理由だった。
 だが本当は違って、二股をかけられていた事を知った。その相手は、建築家の息子だった。
 傷心でもう一つの趣味でもあるバイクで山道を走っていた時に、偶然二股の相手の会社のロゴが入った車を発見した。火事があった北里旅館の駐車場だ。
 三好は、とっさに旅館に入り予約を入れた。

 旅館に泊まる日には、ロゴが入った車は停車していなかった。そして、この北里旅館は、来週の日曜日閉店すると聞いた。
 部屋でくつろぎながら三好は考えていた。それは、復讐だ!
 自分でもばかげていると思った。それで居ても立っても居られなくて、旅館内をさまよっていると、四階へ続く階段から立入禁止になっているのが目についた。

 無意識に四階へ上がる。
 非常階段に一番近い部屋の扉が開けっ放しになっていて、部屋には工事道具などが置いてあった。
 三好は、非常階段の扉も少し空いているのに気が付く。
 それを見た三好は、直接じゃなくて関節でもいいんじゃないか?
 恐ろしい考えがずっと頭の中をぐるぐるしていた――。

 一泊して帰って来た三好は、結局恐ろしい考えを実行する事を決意する。すぐに旅館に宿泊の予約を入れた。
 後は、復讐の仕方だ。会社が事故を起こしたとしたら?
 そう事故に見せかける! ――三好は、いい案だと思った。

 どんな事故にしようか?
 三好に出来るのは、泊まる事になってる旅館に細工をする事だった。事故だと思わせる為にはどうしたらいいか?
 考えに考え抜いた結果、粉塵爆発を起こす事にした。
 粉塵爆発。細かい粉が舞う事によっておこる爆発だ。条件が厳しいが、起こらなかったらそれでもいい。

 三好は、気分を晴らしたいだけだったのだ。だからこんな事をしても事故は起こらない。でもそうしてやったという、自己満足の為だけに行う。
 ただし、工事現場にないものがあっては、何も起こらなかったとしても不審がられるだろうと、材料はおがくずにした。

 火事当日は、車で旅館に向かった。
 受付をすませる。その時に、工事は何時からか聞くと月曜日からだと返答が帰って来た。なら大丈夫だと、作戦を実行する事にする。

 まず一旦、部屋に行きすぐに外へ出た。車からおがくずを持ち出し、非常階段から四階へ上がった。非常階段の扉は開いていた。ホッと一安心して中へ。
 空きっぱなしの扉から部屋に入り、かなり細かいおがくずを部屋中にまいた。

 このおがくずだって作業をしていないのに、部屋中にまかれていればおかしいと思うなど今の三好には思い浮かばない。勿論、全然関係ない者が足を踏み入れるなど思いもしなかった!
 もし万が一、爆発してその場にあってもおかしくないものを選んだだけだった。

 腕時計は、部屋に入る時に腕につけっぱなしだったのに気が付き、わざわざ外してポケットに入れたのだ。一応、汚れない為に。そして、落としたのも気が付かずに部屋を出た。

 部屋に戻りホッと一息つき、今何時だろうかと腕時計を見ようとして、外したのを思います。だが、入れたはずのポケットに腕時計が無い!
 部屋の中を探したが見当たらず、帰って来た道を探す。

 そして、玄関まで来た時だった!
 ドーンと振動が来て、けたたましく火災報知器が鳴ったのだ!
 驚いた三好は、外に出た。そして、四階を見上げ煙が出ているのを見て驚く。計画では、爆発があったとしても明日のはずだった!

 どういう事だと、非常階段へ向かう。ポケットに突っ込んであった軍手をはめ、非常階段の扉を開けた。
 中は真っ白で、開けると熱風と煙が体を撫でて行く!

 震える足でゆっくりと進むと、倒れた人が目に入った。それは高校生ぐらいの子供だ。その子の手のすぐそばに、探していた腕時計があった!
 慌ててそれを拾う。

 まだ息がある。
 どうしたらいいのだろうか? ――そう思った時だった。

 「――来て!」

 叫び声の様な声が聞こえ、見つかったらまずいと三好はその場を後にした。誰にも見つからない様に駐車場に行くと、旅館から出て来た人でごった返していた。
 そのうち、サイレンが聞こえ出す。
 救急車に乗せられて、高校生ぐらいの子供が運ばれていった。

 ニュースで、旅館の火事の事が取り上げられ、一人亡くなったと知って三好は、愕然とする。
 こんなはずではなかった!
 あの子を見殺しにして……いや、自分は爆弾犯になったのだと気が付いたのだ!

 なんてバカな事をしたと後悔してもすでに遅い。死亡一人に重軽傷が二人。事故と事件の両方で捜査しているとあった。
 その後、火事で記憶を失った細谷の担任になる。

 怖かった。もしかしたらあの時の声は、彼かもしれない。自分が見られていたとしたら……。
 そして、腕時計に興味を示した。あの時、落とした時計を見ているのかもしれない! ――そう思うと気になって仕方がなかった。
 二人が街へ行くと聞いて、こっそりつけた。彼らはバスに乗り旅館へ――。

 恐れていた事が、起きているのでは? ――憲一に時計の事を話しているかもしれない!
 三好は怖くなり、バイクを走らせ自宅へと戻った。

 その後、避難訓練で細谷は、奇妙は行動をした。まだ記憶は戻っていなかった!
 ホッと安心していると、腕時計を持って来てほしいと電話が来る。
 掛けて来たのは、憲一だ。
 その時はまだ、憲一も火事の被害者だと三好は知らずにいた。

 病室で話を聞いていて、何かがおかしいと思っていた。
 戻った記憶の話。時計についた指紋。
 もしかして!? ――そう思っていたら、倒れていた少年は細谷の兄弟ではなく、憲一だったのだ!

 だが憲一は、三好の事を見てはいなかった。拾った腕時計の事を覚えているだけだ。逃げ切れる! ――その考えは甘く、三好は逮捕されたのだった!
しおりを挟む

処理中です...