【完結】偽り神官様は恋をする

すみ 小桜(sumitan)

文字の大きさ
7 / 71

第6話 静かなお茶会

しおりを挟む
 まったく。何が天気がいいから庭でお茶でもって、本気で彼女を迎え入れるつもりなのか。

 戻った二人にラルーが言ったのだった。出掛け際にマカリーに言われたからと、ちゃんとセッティングされていた。
 ルナードは、ため息しか出ない状況の中、目の前に座るディアルディを見つめた。女性としては大柄だが、目を引く容姿。声が出ない事は特段マイナスにはならないだろう。とすれば傷だ。

 どれほどの傷なんだ? 何でついた傷? いつついた傷? 見せろと言ったら見せてくれるのか?

 ルナードが結婚相手に興味がないと知って傷の事も言ったのなら傷は本当にあるのだろう。しかし、見えない場所だから気にしない相手もいただろうにとも思うとやはり、不思議でならない。

 「本当にどうして、嫁の貰い手がなかったのか……」

 ぼそりと呟く。

 行ける訳ないだろう。それにしても彼は、本当に女性に興味がないのか? 神に人生を捧げたというのか?

 マカリーに言われて半信半疑で来たディアルディだが、まったく自分に興味を示さないので驚いたのだ。これなら襲われる心配はないだろう。だが腑に落ちないのだ。
 誰からも好かれ、マカリーの孫。嫁の候補ならいくらでもいるだろう。それよりももっとわからないのは、関係を持たなくてもいいって事だった。つまり、子孫を残さないと言っている事になる。
 孫が男子なのだから神官にしたのだろう。だったら孫の子も神官にと思うはずだ。ルナードが神官を嫌々やっているとか、または神官ではなければ話はわかる。
 ディアルディは、ルナードもそうだが、マカリーの考えている事もわからなかった。

 ディアルディがふと顔を上げると、ルナードが険しい顔で自分を見ているのに気がついた。ニッコリして返すと、ふんと紅茶を口に運ぶ。

 そう言えば、ルナードは母親とあまりうまく行っていない様に見えた。

 ディアルディは、昨日のルナードの態度を思い出していた。ラルーの事を『彼女』と言っていた。神官であるルナードなら普通は、母親を敬うだろう。だがそうではないらしい。
 家と外では、態度が違うのだ。そして、それをディアルディに隠そうともしていない。

 いてもいいけど、歓迎はしていないって事か。

 ある意味、居心地が悪い場所に来てしまったと思うも行くあてもないので、身を置くしかない。
 この話を逃せば、後は国を出るしかないのだ。しかし、それはディアルディにはできない。

 「今更ですが、字は書けますか?」

 ルナードが、ディアルディに問う。ディアルディは、書けると頷いた。

 「よかった。意思の疎通は出来ますね。……読み書きまで教えなくてはいけないかと思いました」

 付け加える様にルナードは言った。
 ディアルディも無理して言わなくてもいいのにと思うのだった。

 はぁ。普段しない事をすると疲れる。

 ルナードは、自分の態度にため息をついたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

誰でもイイけど、お前は無いわw

猫枕
恋愛
ラウラ25歳。真面目に勉強や仕事に取り組んでいたら、いつの間にか嫁き遅れになっていた。 同い年の幼馴染みランディーとは昔から犬猿の仲なのだが、ランディーの母に拝み倒されて見合いをすることに。 見合いの場でランディーは予想通りの失礼な発言を連発した挙げ句、 「結婚相手に夢なんて持ってないけど、いくら誰でも良いったってオマエは無いわww」 と言われてしまう。

【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

【完結】好きでもない私とは婚約解消してください

里音
恋愛
騎士団にいる彼はとても一途で誠実な人物だ。初恋で恋人だった幼なじみが家のために他家へ嫁いで行ってもまだ彼女を思い新たな恋人を作ることをしないと有名だ。私も憧れていた1人だった。 そんな彼との婚約が成立した。それは彼の行動で私が傷を負ったからだ。傷は残らないのに責任感からの婚約ではあるが、彼はプロポーズをしてくれた。その瞬間憧れが好きになっていた。 婚約して6ヶ月、接点のほとんどない2人だが少しずつ距離も縮まり幸せな日々を送っていた。と思っていたのに、彼の元恋人が離婚をして帰ってくる話を聞いて彼が私との婚約を「最悪だ」と後悔しているのを聞いてしまった。

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

離婚寸前で人生をやり直したら、冷徹だったはずの夫が私を溺愛し始めています

腐ったバナナ
恋愛
侯爵夫人セシルは、冷徹な夫アークライトとの愛のない契約結婚に疲れ果て、離婚を決意した矢先に孤独な死を迎えた。 「もしやり直せるなら、二度と愛のない人生は選ばない」 そう願って目覚めると、そこは結婚直前の18歳の自分だった! 今世こそ平穏な人生を歩もうとするセシルだったが、なぜか夫の「感情の色」が見えるようになった。 冷徹だと思っていた夫の無表情の下に、深い孤独と不器用で一途な愛が隠されていたことを知る。 彼の愛をすべて誤解していたと気づいたセシルは、今度こそ彼の愛を掴むと決意。積極的に寄り添い、感情をぶつけると――

恋人の気持ちを試す方法

山田ランチ
恋愛
あらすじ 死んだふりをしたら、即恋人に逃げられました。 ベルタは恋人の素性をほとんど知らぬまま二年の月日を過ごしていた。自分の事が本当に好きなのか不安を抱えていたある日、友人の助言により恋人の気持ちを試す事を決意する。しかしそれは最愛の恋人との別れへと続いていた。 登場人物 ベルタ 宿屋で働く平民 ニルス・パイン・ヘイデンスタム 城勤めの貴族 カミラ オーア歌劇団の団員 クヌート オーア歌劇団の団長でカミラの夫

【完結】探さないでください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
私は、貴方と共にした一夜を後悔した事はない。 貴方は私に尊いこの子を与えてくれた。 あの一夜を境に、私の環境は正反対に変わってしまった。 冷たく厳しい人々の中から、温かく優しい人々の中へ私は飛び込んだ。 複雑で高級な物に囲まれる暮らしから、質素で簡素な物に囲まれる暮らしへ移ろいだ。 無関心で疎遠な沢山の親族を捨てて、誰よりも私を必要としてくれる尊いこの子だけを選んだ。 風の噂で貴方が私を探しているという話を聞く。 だけど、誰も私が貴方が探している人物とは思わないはず。 今、私は幸せを感じている。 貴方が側にいなくても、私はこの子と生きていける。 だから、、、 もう、、、 私を、、、 探さないでください。

処理中です...