【完結】魔女を守るのも楽じゃない

すみ 小桜(sumitan)

文字の大きさ
15 / 36
古の魔女の願い

第15話~レネの苦悩

しおりを挟む
 祠の前に座り込む三人とその横に立つソイニは、ぐったりと横たわるレネの頭を優しくなでるマティアスクを見ていた。

 「上手くいってよかったわ」

 「成功した事ないのにここ一番って時に決めるって、やっぱりレネは流石だよ。僕には真似出来ない……」

 「オレなんて、そんな術がある事さえ知らなかった……」

 「本来は、すべての魔力を放出などという風に使う術ではありません。マジックアイテムに魔力を注ぎ込む為の術です」

 知らないというディルクに、ソイニが説明をした。

 「私達も知らないでやって、しこたまマティアスクさんに叱られたわ。昔話をしていけば通じると思って。勿論妖鬼に悟られない為にね。まさか、私達がこんな事していたなんて妖鬼も知らなかっただろうし」

 「あなたには驚かされました。あんな目にあっているというのに……」

 「荒治療? もう一度同じ体験をしたら治るかもって……」

 ソイニが呆れた様に言うと、てへっと、リズは笑って見せた。

 「う、う~ん……」

 「レネ!」

 マティアスクが呼びかける声で、四人は二人に近づいた。

 「気が付いたか、レネ。事は収まった。安心するといい」

 マティアスクがそう声を掛けると、レネは静かに頷き、妖鬼は? と聞いて来た。

 「リズアルが、約束通り封印してくれましたよ。もう、安心です」

 それには、ソイニが答えた。

 「そう……。リズありがとう」

 リズは首を横に振る。

 「レネが頑張ったから封印出来たのよ。ありがとう。お疲れさま」

 「さて、村に戻ろう」

 マティアスクがそう言って、レネを抱きかかえたまま立ち上がろうとするが、彼女は大きく首を振った。

 「村になんて帰れない!」

 レネは突然泣き出した。

 「大丈夫だ。心配するな」

 「大丈夫じゃないわ! 私、おじいちゃんに術を掛けたのよ! リズを殺そうとしたの!」

 「いや、リズを殺そうとしたのは妖鬼だろう? レネが止めてくれたじゃん」

 レネは、泣きながらディルクの言葉に顔を横に振る。

 「ジェスだって傷つけたわ! 私、妖鬼に付け入られたのよ!」

 そう言うと、レネは力が入らない手でマティアスクから逃れようとする。

 「レネ、落ち着いて。そんな事ないわ。妖鬼はもうあなたから出て行ったのよ」

 「リズの言う通りだよ。皆で一緒に帰ろう」

 リズとジェスも必死に説得するが、レネは泣きながら首を振るばかり。

 「では、こうしましょうか。ちょうどここには、聖なる魔女の力を宿すリズもおり、真実の祠の前です。ここで全てを話し、邪を払いましょう」

 ソイニがそういうと、レネはリズに振り返る。

 「そ、そんな事できるの?」

 「で、出来るわ!」

 不安げに聞くレネに、リズは嘘も方便と思いっきり頭を縦に何度も振った。

 「レネは混乱しているようですし、無理やり連れて帰っても罪の意識で心が壊れてしまう可能性があります。ここは彼女に懺悔させ、気持ちを楽にして差し上げてはいかかでしょうか?」

 ソイニは、マティアクスにそう耳打ちをする。それに彼は、そうだなと頷いた。

 「レネ、話せる事だけでよい。もしリズにだけというならそれでもいいぞ」

 「ううん。皆にも聞いてほしい……」

 先ほどとは違い、ゆっくりと首を振った。

 「そうか」

 マティアスクは、優しく微笑む。

 「私ね、ずっと苦しかったの。どんなに頑張ってもおじいちゃんの孫だからって言われて。あ、おじいちゃんの事は大好きよ」

 マティアスクは、うんうんと頷く。

 「それで一年ほど前に夢を見たの」

 「夢?」

 リズの問いにこくんと頷くとレネは詳しく話始めた。


 ☆―☆ ☆―☆ ☆―☆


 それは、大きな木が話しかけてくる夢だった――

 レネは、自分自身を認めて貰えず、悔しい気持ちを抱えていた。そして、それを誰にも気づいてもらえず寂しかった。

 そんな時、大きな木が「痛い。助けて」とレネに助けを求めて来たのである。
 彼女は、助けを呼ぶ木に近づいた。

 『私の声が聞こえるなら私を助けて! このナイフを抜いて!』

 見ると、大きな木にナイフが根元までザックリと刺さっていた。

 『誰にも気づいてもらえなくて寂しかった! レネ、君ならこの気持ちわかるよね?』

 驚いてレネは、木を見つめた。

 『君がナイフを抜いてくれれば、私は自由になる。助かるんだ。勿論、助けてくれれば、君の力にもなれる』

 レネは助けてあげたいと思った。ただ、ナイフを抜くだけだと……。
 そうして、ナイフをゆっくりと抜いた――


 ☆―☆ ☆―☆ ☆―☆


 「私、ただの夢だと思っていたの。その後しばらくは何も起こらなかったし。でもある日、自分の心の声が聞こえるようになった。ミスをした時に誤魔化してしまえとか、足を引っ張る仕事仲間を置いて行ってしまえなどと」

 レネは辛そうな顔つきになっていた。

 「そんな自分が嫌になってきた時、その声が心の声じゃない事に気が付いたの。ジェスと一緒に仕事をした時だったわ。彼がいるから自分の評価が下がって正しく評価されてないって……」

 「え!」

 驚いて声を出すジェスに、慌ててレネは首を振った。

 「私は今まで一度もそんな事思った事なんてなかった!」

 今度は、ジェスが縦に首を振る。

 「もしかして、この声は私の心の声ではなくて、あの大きな木の主の声じゃないかって。少し部屋を探したら、夢で見たナイフが出て来たの。そうしたら、今度は怖くなってきて。助け出したのは妖鬼で、今、私の中にいるんじゃないかって。でも、確かめようがなかった。そんな時だったの……」

 レネがリズを見た。

 「リズに妖鬼憑きの疑いがかけられたって。驚いたわ。その話は信じはしなかったけど、私の中にいるのは何? ってもうわからなくなったの。散々悩んだ挙句、おじいちゃんに話す事に決めたの。そう思って泊まる事にしたのよ……」

 今度はマティアクスを彼女は見つめる。

 「本当は昨日話そうと思ったの。でも、すごく眠くなって。次の日早く起きるって言っていたし、明日の朝話そうと思って寝てしまった。でも、起きてみたらおじいちゃんがあんな事になっていて……」

 そこでレネは、また泣き出した。

 「そうか。それはつらかったな」

 「わ、私、自分が寝ている時に何かしているんじゃないかって思い始めて……。でも、これも確かめようがなくて。だけど、眠りから一時的におじいちゃんが目を覚まして私を見た顔でわかったの。今、私何かしたんだって。ううん、私の中にいる何者かが何かしたんだって……」

 「そうだ。あの時、レネに手を握られ術を強められたのがわかった。レネの中にいると気が付いたものの、そのまま眠りについた。皆に知らせる事が出来なかった。すまない」

 マティアスクが、軽く皆に頭を下げた。

 「そんなのマティアスクさんのせいじゃありません。それに僕達だって最後まで気づけなかった。妖鬼はうまく隠れていたんです」

 「っていうかさ、なんで術が弱まったんだ? やっぱ鈴のお蔭?」

 ディルクの質問にマティアスクは神妙な顔で頷く。

 「たぶんな。私も身に着けて寝ていたのだが。三つ傍に集まった事によって術が弱まったのだろう。目の前に妖鬼がいたとしても鈴にはそれだけの力があった……」

 「やっぱりそうだったんだ。ディルクに見せられた時、もしかしてと思ったよ。戻ったら試そうとも思っていた」

 「え? そうなの?」

 リズはすごいとジェスを見た。

 「リズごめんね」

 「え? もう何度も謝らなくてもいいわよ」

 リズがほほ笑むと、レネもほほ笑んで頷いた。そして、また話を再開する。

 「私ね。リズの疑いだけは晴らさないとって思って、祠に行くことを決めたの。でも、そこでやっと妖鬼が私の中にいるって確信したの。……でも、トラの出現には驚いたわ。妖鬼の仕業だと思って、やめてって何度も言ったんだけど返事はなかった。そして、リズじゃなく私を助けたディルクにも当たってしまったわ」

 「それで、あの時、あんな事言ったのかよ」

 「ごめんなさい」

 「別にいいけどさ」

 「ジェスもごめんなさい。私、あの時咄嗟にやめてって口にだして叫んでたわ。そして、消えてって強く思ったの。そうしたら、消えてしまった。あの時はまだ、妖鬼じゃないかもって気持ちもあったけど、ジェスを傷つけたのは、私の中にいる何かにはかわりなかった……」

 「ううん。君がそう強く願ってくれたから僕達は今、ここに無事にいるんだよ」

 そう、優しくジェスは語った。

 「私、一生懸命平静を装ったわ。でも、洞窟でトラとリズの邪気が一緒だって聞いて、もう平常心でいられなくなって。恐怖心と罪悪感でいっぱいになって、出て行ってって言ったら、やっと向こうが口を開いたの。無理だ、もう自分たちは一体なんだって……」

 「妖鬼の言う通り、僕が追い詰めて……」

 レネの言葉に暗い顔をすると、

 「ジェスが落ち込んでどうすんだよ。大体、レネ本人も知らない所でやった事じゃん」

 ディルクは、彼なりの励まし方で元気つけようとした。

 「そうね。私の知らないところでやったのなら、おじいちゃんに掛けた術も絶対そう。だから、私、洞窟で言ったの。おじいちゃんの術を解かない限り、ここに一人残って死んでやるって。とうとう、妖鬼は術を解いたわ。そして、皆について行くように言ったの」

 「あの時、返答がなくなったのって、妖鬼と話していたからだったんだ」

 「そうよ。でも、気が付いたら二人が喧嘩していて、焦ったわ」

 「私もよ。ディルクが言う事聞いてくれないし」

 「え? オレだけ悪いのかよ!」

 そこで、少し笑いが起きる。
 そしてレネが、大きな木を指差した。

 「それで、ここに来て驚いたわ。夢の中の大きな木があって……」

 「え! レネ、ここに来た事があったの!」

 「どうやって来たかなんて覚えてないわ。それよりも、祠があってもっと驚いたわ。妖鬼は最初から祠がここにある事を知っていた……。今思えば、おじいちゃんに術を掛けたのも私をここに向かわせてここを見せる為だわ。早く私の体を手に入れる為に。だから、術を解いたのよ。私の体が手に入れば、その事はどうでもよかったのかもしれない……」

 「なるほど。それは一理あるかもしれません。私達は、祠に行くのを邪魔されていると思っておりましたが、その逆で誘導されていた。その方がしっくりきます。妖鬼は、結界を破った時、私達より能力が上だと断言していましたし……」

 レネの意見にソイニも賛成の意見を述べた。

 「って、いうかさ、なんでリズを殺さなかったんだ? あ、ごめん、リズ。勿論、殺されなくてよかったって思ってるからな!」

 「わかってるわよ」

 「レネの話からすると、心の隙、つまり不安や恐怖などの感情が影響あるようだな。体に入れたとしても隙がないと術が使えない。そして、それを煽りどん底へ落とし最終的に体を手に入れる。なんともまあ、いやな術であるな」

 マティアスクのその言葉に、皆頷いた。

 「私、本当に怖かったわ。妖鬼が自分の中にいてそれが周りを傷つけるのが、そして、その事がバレてしまうのが……」

 「それ、よ~くわかるよ」

 「え? なんで君が?」

 わかると賛同したのがディルクであった為、ジェスは驚きの声を上げた。

 「なんだよ、オレがわかっちゃ変か? オレにだって……」

 「ディルク!」

 何故か強めにリズが、ディルクを止めに入った。
 皆は悟った。ディルクは山火事の事を言っているのだと。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

無能令嬢、『雑役係』として辺境送りされたけど、世界樹の加護を受けて規格外に成長する

タマ マコト
ファンタジー
名門エルフォルト家の長女クレアは、生まれつきの“虚弱体質”と誤解され、家族から無能扱いされ続けてきた。 社交界デビュー目前、突然「役立たず」と決めつけられ、王都で雑役係として働く名目で辺境へ追放される。 孤独と諦めを抱えたまま向かった辺境の村フィルナで、クレアは自分の体調がなぜか安定し、壊れた道具や荒れた土地が彼女の手に触れるだけで少しずつ息を吹き返す“奇妙な変化”に気づく。 そしてある夜、瘴気に満ちた森の奥から呼び寄せられるように、一人で足を踏み入れた彼女は、朽ちた“世界樹の分枝”と出会い、自分が世界樹の血を引く“末裔”であることを知る——。 追放されたはずの少女が、世界を動かす存在へ覚醒する始まりの物語。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

『魔力ゼロの欠陥品』と蔑まれた伯爵令嬢、卒業パーティーで婚約破棄された瞬間に古代魔法が覚醒する ~虐げられ続けた三年間、倍返しでは足りない~

スカッと文庫
恋愛
「貴様のような無能、我が国の王妃には相応しくない。婚約を破棄し、学園から追放する!」 王立魔道学園の卒業パーティー。きらびやかなシャンデリアの下、王太子エドワードの声が冷酷に響いた。彼の隣には、愛くるしい表情で私を嵌めた男爵令嬢、ミナが勝ち誇ったように寄り添っている。 伯爵令嬢のリリアーヌは、入学以来三年間、「魔力ゼロの欠陥品」として学園中の嘲笑を浴び続けてきた。 婚約者であるエドワードからは一度も顧みられず、同級生からはゴミのように扱われ、ミナの自作自演による「いじめ」の濡れ衣まで着せられ……。 それでも、父との「力を隠せ」という約束を守るため、泥を啜るような屈辱に耐え抜いてきた。 ――だが、国からも学園からも捨てられた今、もうその約束を守る必要はない。 「さようなら、皆様。……私が消えた後、この国がどうなろうと知ったことではありませんわ」 リリアーヌが身につけていた「魔力封印の首飾り」を自ら引き千切った瞬間、会場は漆黒の魔力に包まれた。 彼女は無能などではない。失われた「古代魔法」をその身に宿す、真の魔道の主だったのだ。 絶望する王太子たちを余目に、隣国の伝説の魔術師アルベルトに拾われたリリアーヌ。 彼女の、残酷で、甘美な復讐劇が今、幕を開ける――。

完結·婚約破棄された氷の令嬢は、嫁がされた枯れおじのもとで花開く

恋愛
ティリアは辺境にある伯爵の娘であり、第三王子ガフタの婚約者であった。 だが、この婚約が気に入らないガフタは学園生活でティリアを冷遇し、卒業パーティーで婚約破棄をする。 しかも、このまま実家に帰ろうとするティリアにガフタは一回り以上年上の冴えないおっさん男爵のところへ嫁ぐように命令する。 こうしてティリアは男爵の屋敷へと向かうのだが、そこにいたのは…… ※完結まで毎日投稿します ※小説家になろう、Nolaノベルにも投稿中

『お前を愛する事はない』なんて言ってないでしょうね?

あんど もあ
ファンタジー
政略結婚で妻を娶った息子に、母親は穏やかに、だが厳しく訊ねる。 「『お前を愛する事は無い』なんて言ってないでしょうね?」

処理中です...