【完結】婚約破談から始まる堅実令息とあきらめ令嬢の予想外な関係

すみ 小桜(sumitan)

文字の大きさ
25 / 58

予想外な来客 1

しおりを挟む
 30分も断たないうちに、椅子師がパレルモと一緒に訪れた。
 赤い髪に白髪が混じっており思ったより年配で少し驚いたが、それよりも持参した椅子の数に三人は驚く。

 「初めまして、聖女様。椅子師のカルピオと申します。誠心誠意務めさせて頂きます」
 「はい、宜しくお願いします」
 「では、こちらに」
 『すごい数の椅子だな』

 持ってきた椅子に座るように促され、ランゼーヌは静かに座った。その周りを興味津々で、ワンちゃんが飛び回る。

 (あ、ワンちゃんが戻ってきた)

 今回は、すぐに戻ってきたとランゼーヌは安堵した。

 「こちらの椅子で疲れない高さを計ります。本来は成長に合わせに一年に数度伺う事もございますが、聖女様はこれ以上あまり背は伸びないと思われますので、しっかりとお計りします」
 「はい……」

 計って用紙にカルピオは、書き込んでいく。

 「次は、素材を選んで頂きます。これも人によって硬い方、柔らかい方がよいなどがありますので、実際に座ってお選びください」
 「はぁ……」

 言われた通り、椅子に色々座ってちょうどよい座り心地の物を選んだ。その後、背もたれやひじ掛けの有無、祈りの時に肘を置くかどうかなど、色々検証する事になりすべてを終える頃にはランゼーヌはへとへとになっていた。

 (椅子選びを侮っていたわ)

 椅子選びをしながらカルピオは、色んな祈り方のパターンを話してくれた。もちろん見たわけではなく、椅子作りの時の注文だ。
 聖女によっては、まるで横になるかのような体勢で祈るという子もいるらしく、背もたれを動かせる椅子を作った事もあった。
 基本、祈る時は胸の前で手を組む。人によっては、背もたれに寄りかかったり、前かがみになったりと違う為、手も疲れないようにひじ掛け以外にも手を置く台を設置する。
 カルピオにあった方がよいと言われ、ランゼーヌも祈りの台を付けてもらう事になった。

 「つ、疲れた」

 カルピオが帰っていき、どさっとソファにランゼーヌは腰を下ろす。

 「思ったより、大がかりでしたね」
 「えぇ、もうへろへろよ。椅子選びがこんなに大変だとは思わなかったわ」

 その後、ディナーの時間になり侍女のジャナが食事を持ってきた。

 「お食事をお持ち致しました。そちらにお並べ致します。それと、リラさんはパレルモ様と一緒に控室に行って、食事と休憩を取るようにと侍女長が言っていました」
 「え、でも……」
 「戻ってくるまでは、私がおりますからご心配はいりません」
 「リラ。大丈夫よ。あなたも休憩するといいわ」
 「はい。わかりました。では、失礼します」

 リラは、パレルモと一緒に部屋を出て行った。
 ディナーは、家では見ない豪勢な物ばかりだ。

 「す、すごいわ……」
 「何か嫌いな物や食べられない物はございますでしょうか?」
 「いえ。一人では食べきれない量だわ。あ、ジャナも食べます?」
 「え?」
 「ごほん。ランゼーヌ様のお茶目なご冗談です」

 ワザと咳ばらいをしてクレイが言えば、ジャナはニコリと微笑んだ。

 「ありがとうございます。お気持ちだけで十分です」
 「あ、はい……」

 (そうだったわ。普通は一緒に食べないのだったわ。でも見られている中、一人で食べるのは食べづらいわ)

 「どうぞ。食べて大丈夫です」

 毒味を終えたクレイが言った。

 「はい。頂きます」

 ぱくりと食べれば、美味しさに幸せな気分になる。

 「お食事時は、これからは私とリラさんが交代させて頂く事になります」
 「え? そうなの……」

 (なんだか寂しいわね。お父様達と食事をする時もリラは傍に控え、部屋で食事をとる時は一緒に食べていたから)

 ランゼーヌは、美味しいのに食が進まない。
 しーんと静まり返った部屋で一人黙々と食べるのは味気なかった。

 「ふう」
 「もう宜しいのですか?」
 「えぇ。出来ればこの半分の量でいいわ。勿体ないですもの」
 「勿体ないですか……承知いたしました。その様にお伝えします」

 ジャナが片付ける中、クレイがランプに触り、食事が終わった事を知らせる。
 程なくして、ティーをワゴンに乗せリラが戻って来た。

 「お嬢様、お時間を頂きありがとうございます。お茶をお持ちしました」
 「リラ」

 リラを見てランゼーヌはホッとする。

 「では、失礼します」
 「クレイ殿、交代しましょう」
 「あぁ、わかった。後を頼む」

 今度は、リラと一緒に来たパレルモとクレイが交代し、クレイが出て行った。

 「あ、そう言えば交代するのでしたね。お食事はどうでした?」
 「それはもう豪勢だったわ。でもやっぱり一人だと寂しいわ……」
 「そう言うと思って、じゃ~ん持って来ちゃいました」

 ティーカップをリラは掲げる。

 「もしかしてそれは……」
 「私達の分です」
 「では、一緒に飲みましょう!」

 ランゼーヌは、嬉しそうに言った。
 リラは、ランゼーヌにティーを入れティーカップを彼女の前に置いた後、自分とパレルモの分もティーを入れる。

 「あの、何をなさっているのですか? 毒味ならちゃんとスプーンを持参しております」
 「あ、そうだったわね。毒味ね。どうぞ」

 ランゼーヌが、忘れてそのまま口にする所だったと、パレルモを促す。

 「失礼します。……お飲みになって結構です」
 「では、パレルモ様もリラの隣に座ってどうぞ」
 「………」

 リラは、当然とばかりに言われる前からランゼーヌ向かい側のソファーに腰を下ろしていた。
 じーっと二人は早くとパレルモを見ている。彼は、二人の視線に耐えきれずに「失礼します」とリラの隣に座った。

 「では、頂きましょう」

 こくんとランゼーヌはティーを一口飲んだ。

 「あぁ、やっぱり一人より皆でよ。ね」
 「はい。お嬢様」
 「………」

 パレルモは、何も言わずにティーを飲んでいた。
 15歳で聖女の儀を受けただけあって、変わった令嬢なのだとなぜか納得するのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「醜い」と婚約破棄された銀鱗の令嬢、氷の悪竜辺境伯に嫁いだら、呪いを癒やす聖女として溺愛されました

黒崎隼人
恋愛
「醜い銀の鱗を持つ呪われた女など、王妃にはふさわしくない!」 衆人環視の夜会で、婚約者の王太子にそう罵られ、アナベルは捨てられた。 実家である公爵家からも疎まれ、孤独に生きてきた彼女に下されたのは、「氷の悪竜」と恐れられる辺境伯・レオニールのもとへ嫁げという非情な王命だった。 彼の体に触れた者は黒い呪いに蝕まれ、死に至るという。それは事実上の死刑宣告。 全てを諦め、死に場所を求めて辺境の地へと赴いたアナベルだったが、そこで待っていたのは冷徹な魔王――ではなく、不器用で誠実な、ひとりの青年だった。 さらに、アナベルが忌み嫌っていた「銀の鱗」には、レオニールの呪いを癒やす聖なる力が秘められていて……?

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~

榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。 ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。 別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら? ー全50話ー

噂の聖女と国王陛下 ―婚約破棄を願った令嬢は、溺愛される

柴田はつみ
恋愛
幼い頃から共に育った国王アランは、私にとって憧れであり、唯一の婚約者だった。 だが、最近になって「陛下は聖女殿と親しいらしい」という噂が宮廷中に広まる。 聖女は誰もが認める美しい女性で、陛下の隣に立つ姿は絵のようにお似合い――私など必要ないのではないか。 胸を締め付ける不安に耐えかねた私は、ついにアランへ婚約破棄を申し出る。 「……私では、陛下の隣に立つ資格がありません」 けれど、返ってきたのは予想外の言葉だった。 「お前は俺の妻になる。誰が何と言おうと、それは変わらない」 噂の裏に隠された真実、幼馴染が密かに抱き続けていた深い愛情―― 一度手放そうとした運命の絆は、より強く絡み合い、私を逃がさなくなる。

王家を追放された落ちこぼれ聖女は、小さな村で鍛冶屋の妻候補になります

cotonoha garden
恋愛
「聖女失格です。王家にも国にも、あなたはもう必要ありません」——そう告げられた日、リーネは王女でいることさえ許されなくなりました。 聖女としても王女としても半人前。婚約者の王太子には冷たく切り捨てられ、居場所を失った彼女がたどり着いたのは、森と鉄の匂いが混ざる辺境の小さな村。 そこで出会ったのは、無骨で無口なくせに、さりげなく怪我の手当てをしてくれる鍛冶屋ユリウス。 村の事情から「書類上の仮妻」として迎えられたリーネは、鍛冶場の雑用や村人の看病をこなしながら、少しずつ「誰かに必要とされる感覚」を取り戻していきます。 かつては「落ちこぼれ聖女」とさげすまれた力が、今度は村の子どもたちの笑顔を守るために使われる。 そんな新しい日々の中で、ぶっきらぼうな鍛冶屋の優しさや、村人たちのさりげない気遣いが、冷え切っていたリーネの心をゆっくりと溶かしていきます。 やがて、国難を前に王都から使者が訪れ、「再び聖女として戻ってこい」と告げられたとき—— リーネが選ぶのは、きらびやかな王宮か、それとも鉄音の響く小さな家か。 理不尽な追放と婚約破棄から始まる物語は、 「大切にされなかった記憶」を持つ読者に寄り添いながら、 自分で選び取った居場所と、静かであたたかな愛へとたどり着く物語です。

【完結】転生したら悪役継母でした

入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。 その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。 しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。 絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。 記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。 夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。 ◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆ *旧題:転生したら悪妻でした

白い結婚に、猶予を。――冷徹公爵と選び続ける夫婦の話

鷹 綾
恋愛
婚約者である王子から「有能すぎる」と切り捨てられた令嬢エテルナ。 彼女が選んだ新たな居場所は、冷徹と噂される公爵セーブルとの白い結婚だった。 干渉しない。触れない。期待しない。 それは、互いを守るための合理的な選択だったはずなのに―― 静かな日常の中で、二人は少しずつ「選び続けている関係」へと変わっていく。 越えない一線に名前を付け、それを“猶予”と呼ぶ二人。 壊すより、急ぐより、今日も隣にいることを選ぶ。 これは、激情ではなく、 確かな意思で育つ夫婦の物語。

処理中です...