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予想外な来客 1

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 30分も断たないうちに、椅子師がパレルモと一緒に訪れた。
 赤い髪に白髪が混じっており思ったより年配で少し驚いたが、それよりも持参した椅子の数に三人は驚く。

 「初めまして、聖女様。椅子師のカルピオと申します。誠心誠意務めさせて頂きます」
 「はい、宜しくお願いします」
 「では、こちらに」
 『すごい数の椅子だな』

 持ってきた椅子に座るように促され、ランゼーヌは静かに座った。その周りを興味津々で、ワンちゃんが飛び回る。

 (あ、ワンちゃんが戻ってきた)

 今回は、すぐに戻ってきたとランゼーヌは安堵した。

 「こちらの椅子で疲れない高さを計ります。本来は成長に合わせに一年に数度伺う事もございますが、聖女様はこれ以上あまり背は伸びないと思われますので、しっかりとお計りします」
 「はい……」

 計って用紙にカルピオは、書き込んでいく。

 「次は、素材を選んで頂きます。これも人によって硬い方、柔らかい方がよいなどがありますので、実際に座ってお選びください」
 「はぁ……」

 言われた通り、椅子に色々座ってちょうどよい座り心地の物を選んだ。その後、背もたれやひじ掛けの有無、祈りの時に肘を置くかどうかなど、色々検証する事になりすべてを終える頃にはランゼーヌはへとへとになっていた。

 (椅子選びを侮っていたわ)

 椅子選びをしながらカルピオは、色んな祈り方のパターンを話してくれた。もちろん見たわけではなく、椅子作りの時の注文だ。
 聖女によっては、まるで横になるかのような体勢で祈るという子もいるらしく、背もたれを動かせる椅子を作った事もあった。
 基本、祈る時は胸の前で手を組む。人によっては、背もたれに寄りかかったり、前かがみになったりと違う為、手も疲れないようにひじ掛け以外にも手を置く台を設置する。
 カルピオにあった方がよいと言われ、ランゼーヌも祈りの台を付けてもらう事になった。

 「つ、疲れた」

 カルピオが帰っていき、どさっとソファにランゼーヌは腰を下ろす。

 「思ったより、大がかりでしたね」
 「えぇ、もうへろへろよ。椅子選びがこんなに大変だとは思わなかったわ」

 その後、ディナーの時間になり侍女のジャナが食事を持ってきた。

 「お食事をお持ち致しました。そちらにお並べ致します。それと、リラさんはパレルモ様と一緒に控室に行って、食事と休憩を取るようにと侍女長が言っていました」
 「え、でも……」
 「戻ってくるまでは、私がおりますからご心配はいりません」
 「リラ。大丈夫よ。あなたも休憩するといいわ」
 「はい。わかりました。では、失礼します」

 リラは、パレルモと一緒に部屋を出て行った。
 ディナーは、家では見ない豪勢な物ばかりだ。

 「す、すごいわ……」
 「何か嫌いな物や食べられない物はございますでしょうか?」
 「いえ。一人では食べきれない量だわ。あ、ジャナも食べます?」
 「え?」
 「ごほん。ランゼーヌ様のお茶目なご冗談です」

 ワザと咳ばらいをしてクレイが言えば、ジャナはニコリと微笑んだ。

 「ありがとうございます。お気持ちだけで十分です」
 「あ、はい……」

 (そうだったわ。普通は一緒に食べないのだったわ。でも見られている中、一人で食べるのは食べづらいわ)

 「どうぞ。食べて大丈夫です」

 毒味を終えたクレイが言った。

 「はい。頂きます」

 ぱくりと食べれば、美味しさに幸せな気分になる。

 「お食事時は、これからは私とリラさんが交代させて頂く事になります」
 「え? そうなの……」

 (なんだか寂しいわね。お父様達と食事をする時もリラは傍に控え、部屋で食事をとる時は一緒に食べていたから)

 ランゼーヌは、美味しいのに食が進まない。
 しーんと静まり返った部屋で一人黙々と食べるのは味気なかった。

 「ふう」
 「もう宜しいのですか?」
 「えぇ。出来ればこの半分の量でいいわ。勿体ないですもの」
 「勿体ないですか……承知いたしました。その様にお伝えします」

 ジャナが片付ける中、クレイがランプに触り、食事が終わった事を知らせる。
 程なくして、ティーをワゴンに乗せリラが戻って来た。

 「お嬢様、お時間を頂きありがとうございます。お茶をお持ちしました」
 「リラ」

 リラを見てランゼーヌはホッとする。

 「では、失礼します」
 「クレイ殿、交代しましょう」
 「あぁ、わかった。後を頼む」

 今度は、リラと一緒に来たパレルモとクレイが交代し、クレイが出て行った。

 「あ、そう言えば交代するのでしたね。お食事はどうでした?」
 「それはもう豪勢だったわ。でもやっぱり一人だと寂しいわ……」
 「そう言うと思って、じゃ~ん持って来ちゃいました」

 ティーカップをリラは掲げる。

 「もしかしてそれは……」
 「私達の分です」
 「では、一緒に飲みましょう!」

 ランゼーヌは、嬉しそうに言った。
 リラは、ランゼーヌにティーを入れティーカップを彼女の前に置いた後、自分とパレルモの分もティーを入れる。

 「あの、何をなさっているのですか? 毒味ならちゃんとスプーンを持参しております」
 「あ、そうだったわね。毒味ね。どうぞ」

 ランゼーヌが、忘れてそのまま口にする所だったと、パレルモを促す。

 「失礼します。……お飲みになって結構です」
 「では、パレルモ様もリラの隣に座ってどうぞ」
 「………」

 リラは、当然とばかりに言われる前からランゼーヌ向かい側のソファーに腰を下ろしていた。
 じーっと二人は早くとパレルモを見ている。彼は、二人の視線に耐えきれずに「失礼します」とリラの隣に座った。

 「では、頂きましょう」

 こくんとランゼーヌはティーを一口飲んだ。

 「あぁ、やっぱり一人より皆でよ。ね」
 「はい。お嬢様」
 「………」

 パレルモは、何も言わずにティーを飲んでいた。
 15歳で聖女の儀を受けただけあって、変わった令嬢なのだとなぜか納得するのだった。
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