【完結】婚約破談から始まる堅実令息とあきらめ令嬢の予想外な関係

すみ 小桜(sumitan)

文字の大きさ
26 / 58

予想外な来客 2

しおりを挟む
 「ねぇ、リラ。お食事を一緒にできないかしら。一人だと寂しいし食べづらいわ」
 「そうですよね。でもここ、一応王宮ですし許可がでるかどうか」

 ランゼーヌは、リラの返答にティーカップを置くと、うーんと考え込む。
 別々の料理だとしても、侍女が主人と一緒に食事はやはり無理だ。男爵家の娘だとはいえ、聖女なのだから。

 「でしたらクレイに一緒に食べてもらったらどうです?」

 意外な事をパレルモが発言し、二人は「え!」と振り向いた。

 「あ、一緒にと言っても彼は、立って食べられる食べ物です。ただ同じ時間、同じ場所で食事をするという事です。騎士ですので、馬に乗って移動中でも食べる訓練を受けているので、苦ではないと思いますよ。夕飯時以外は了承が得られるのではないかと思いますが」
 「それって、一緒に仲良くではないけど、一人寂しくでもないわね。そうね。私がそう望んでるって伝えてもらえるかしら?」
 「はい。戻り次第お伝えしておきます」
 「あ、そうだわ! ティーも自由に飲めるようにここにカップや茶葉を置いておけるようにできないかしら?」
 「では、それもお伝えしておきましょう」

 くすりとパレルモが笑うと頷く。

 「ありがとう。一人だとティーを飲んでも全然落ち着けないもの」

 もちろん、三人分のティーセットだとパレルモはわかっていた。

 「変わってますね」
 「え? そうですか?」
 「真逆です。普通の令嬢は、厚かましいと罵りますよ。仲良くしていただく分には、私は構いませんが」

 パレルモがニッコリと微笑むと、ランゼーヌは少し頬を染める。

 (真逆って……罵るのね。あぁ、あの女のような態度って事ね)

 ランゼーヌは、リラに対するアーブリーの態度を思い出す。
 パレルモが言う様に、侍女が口出しするなといつも言っていた。

 ふと、パレルモが立ち上がる。壁のランプが灯ったのだ。
 慌ててリラも立ち上がり、自分とパレルモのカップを片付ける。

 「早いな……」

 ボソッとパレルモが呟くと、ランプに触れた。そのままそこに立ち、クレイを待つ。
 トントントン。

 「ク、クレイです」

 やや、緊張気味な声に聞こえる。
 パレルモは、声音の違いの為かドアの外を伺う様に開けるが、クレイを確認するとドアを開けきり片膝を付き首を垂れる。
 クレイの後ろには、なぜか枢機卿のアルデンと見知らぬ男性がいた。
 慌ててランゼーヌは立ち上がり、頭を下げる。リラも一緒に下げた。
 枢機卿の横に立つ男性は、高貴な雰囲気が漂っていた。

 「頭を上げよ」

 そう述べたのは、枢機卿ではなく隣の男性だ。彼は、枢機卿と同じ髪と瞳だったので、ランゼーヌは枢機卿の親族でも連れて来たのかと思ったが、声を発したのが枢機卿ではなかったので驚いた。

 「ごほん。こんな時間に訪ねて申し訳ない」
 「陛下、そう思われるのなら私が申し上げたように明日になされば宜しかったのですは?」
 『こいつって偉いやつなのか?』

 (陛下ですって~!!)

 ランゼーヌもリラもびっくりして硬直する。

 「下がってよい」
 「っは」

 アルデンの言葉に、ちらっとイグナシオが彼を見るもその言葉をスルーした。
 パレルモは、立ち上がるとドアを閉めて立ち去っていく。

 「「………」」

 一体何しに来たのだと、ランゼーヌとリラは顔を見合わせた。
 クレイが、一礼してランゼーヌの後ろへと回る。その移動中にランゼーヌは、どうして二人がと目で訴えるもクレイは、わからないと軽く首を振るだけだ。

 「立ち話もなんですから座りしましょう」
 「そうだな」

 アルデンの提案にイグナシオが頷き、ランゼーヌが立つ目の前のソファーに二人は腰を下ろした。

 「さあ聖女様も座りなさい」
 「は、はい」

 すとんと、緊張気味にランゼーヌはソファーに座る。

 「あ、お茶!」

 リラは、どうしようとオドオドするが、アルデンが手で制す。

 「お茶は結構です。飲めませんので」
 「し、失礼しました」

 ガバッと90度のお辞儀をリラはした。
 イグナシオは、ここで出されたお茶など口にしない。毒など入っていないとわかっていてもだ。

 「気にしなくていいですよ。勝手に訪ねてきたのですから」
 「そんな言い方はないだろう。私は、二人を祝福に来たのだから」

 イグナシオはにっこりと微笑んでそう言った。だが、三人はなぜ二人と首を傾げる。
 聖女になったランゼーヌを祝うならまだわかる。なろうとしてなれるものではないからだ。
 もう一人が、聖女の騎士になったクレイの事だとしても、どうして王であるイグナシオが祝うのかがわからない。
 確かになかなかなれないかもしれないが、王であるイグナシオが直接祝うほどでもない。

 「ランゼーヌ・ネビューラ」
 「は、はい」
 「そして、クレイ・パラキード」
 「はい」
 「婚約おめでとう」
 「「ありがとうございます……えぇ!!」」

 イグナシオの祝いの言葉に素直にお礼を言ってから、祝いの内容に二人は驚きの声を上げた。

 「あ、あの……まだというか」

 どこで婚約の顔合わせの最中だったと言うのを聞いたのだろうかと、ランゼーヌは慌てる。どちらかと言えば、破談になる話だ。

 「祝って頂いたのですが、正式には成立しておりません」

 クレイは、頭を下げそう述べた。
 ランゼーヌもそうだと、うんうんと頷く。

 「それを許可したから成立した。よかったな」
 「……え?」

 ランゼーヌは、なぜにと目を丸くする。

 「は?」

 クレイは、聞いた事がない間抜けな声が口から出て、そろりと顔を上げた。

 「話はネビューラ男爵から聞いた。彼が、婚約誓約書をわざわざ持参して来たので受理しておいた」
 「「………」」
 『はあ? あのやろう、何考えてるんだ? まあ、クレイと結婚は悪くはないだろうけど。あついつのする事だ。何か裏があるに違いない』

 ワンちゃんの言葉に、ランゼーヌは青ざめる。だとしても、この国で一番偉い人が許可してしまったのだ。今更取り下げるわけにも行かないだろう。

 「でも、なんで陛下がじきじきに……」

 ぼそっとランゼーヌが呟く。

 「あぁ、それは、あなたが聖女だからですよ。聖女だと判明する前でしたら、許可など必要なく届け出だけで済みますが、聖女の結婚は王族の許可が必要なのです」

 ランゼーヌのつぶやきを拾い、アルデンがたんたんと答えた。

 (なんですって~。お父様、一体何やらかしてるのよ~)

 ランゼーヌは、軽くめまいを覚えるのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「醜い」と婚約破棄された銀鱗の令嬢、氷の悪竜辺境伯に嫁いだら、呪いを癒やす聖女として溺愛されました

黒崎隼人
恋愛
「醜い銀の鱗を持つ呪われた女など、王妃にはふさわしくない!」 衆人環視の夜会で、婚約者の王太子にそう罵られ、アナベルは捨てられた。 実家である公爵家からも疎まれ、孤独に生きてきた彼女に下されたのは、「氷の悪竜」と恐れられる辺境伯・レオニールのもとへ嫁げという非情な王命だった。 彼の体に触れた者は黒い呪いに蝕まれ、死に至るという。それは事実上の死刑宣告。 全てを諦め、死に場所を求めて辺境の地へと赴いたアナベルだったが、そこで待っていたのは冷徹な魔王――ではなく、不器用で誠実な、ひとりの青年だった。 さらに、アナベルが忌み嫌っていた「銀の鱗」には、レオニールの呪いを癒やす聖なる力が秘められていて……?

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~

榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。 ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。 別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら? ー全50話ー

噂の聖女と国王陛下 ―婚約破棄を願った令嬢は、溺愛される

柴田はつみ
恋愛
幼い頃から共に育った国王アランは、私にとって憧れであり、唯一の婚約者だった。 だが、最近になって「陛下は聖女殿と親しいらしい」という噂が宮廷中に広まる。 聖女は誰もが認める美しい女性で、陛下の隣に立つ姿は絵のようにお似合い――私など必要ないのではないか。 胸を締め付ける不安に耐えかねた私は、ついにアランへ婚約破棄を申し出る。 「……私では、陛下の隣に立つ資格がありません」 けれど、返ってきたのは予想外の言葉だった。 「お前は俺の妻になる。誰が何と言おうと、それは変わらない」 噂の裏に隠された真実、幼馴染が密かに抱き続けていた深い愛情―― 一度手放そうとした運命の絆は、より強く絡み合い、私を逃がさなくなる。

王家を追放された落ちこぼれ聖女は、小さな村で鍛冶屋の妻候補になります

cotonoha garden
恋愛
「聖女失格です。王家にも国にも、あなたはもう必要ありません」——そう告げられた日、リーネは王女でいることさえ許されなくなりました。 聖女としても王女としても半人前。婚約者の王太子には冷たく切り捨てられ、居場所を失った彼女がたどり着いたのは、森と鉄の匂いが混ざる辺境の小さな村。 そこで出会ったのは、無骨で無口なくせに、さりげなく怪我の手当てをしてくれる鍛冶屋ユリウス。 村の事情から「書類上の仮妻」として迎えられたリーネは、鍛冶場の雑用や村人の看病をこなしながら、少しずつ「誰かに必要とされる感覚」を取り戻していきます。 かつては「落ちこぼれ聖女」とさげすまれた力が、今度は村の子どもたちの笑顔を守るために使われる。 そんな新しい日々の中で、ぶっきらぼうな鍛冶屋の優しさや、村人たちのさりげない気遣いが、冷え切っていたリーネの心をゆっくりと溶かしていきます。 やがて、国難を前に王都から使者が訪れ、「再び聖女として戻ってこい」と告げられたとき—— リーネが選ぶのは、きらびやかな王宮か、それとも鉄音の響く小さな家か。 理不尽な追放と婚約破棄から始まる物語は、 「大切にされなかった記憶」を持つ読者に寄り添いながら、 自分で選び取った居場所と、静かであたたかな愛へとたどり着く物語です。

【完結】転生したら悪役継母でした

入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。 その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。 しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。 絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。 記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。 夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。 ◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆ *旧題:転生したら悪妻でした

白い結婚に、猶予を。――冷徹公爵と選び続ける夫婦の話

鷹 綾
恋愛
婚約者である王子から「有能すぎる」と切り捨てられた令嬢エテルナ。 彼女が選んだ新たな居場所は、冷徹と噂される公爵セーブルとの白い結婚だった。 干渉しない。触れない。期待しない。 それは、互いを守るための合理的な選択だったはずなのに―― 静かな日常の中で、二人は少しずつ「選び続けている関係」へと変わっていく。 越えない一線に名前を付け、それを“猶予”と呼ぶ二人。 壊すより、急ぐより、今日も隣にいることを選ぶ。 これは、激情ではなく、 確かな意思で育つ夫婦の物語。

処理中です...