【完結】婚約破談から始まる堅実令息とあきらめ令嬢の予想外な関係

すみ 小桜(sumitan)

文字の大きさ
42 / 58

なぜこうなった 2

しおりを挟む
(契約ってどういう事!?)

 ランゼーヌは、混乱していた。
 意味は何となくわかる。精霊についての本に書いてあったのだ。精霊は、認めた人間と契約を結ぶ事があると。それは、聖女とはまた違うとも。ただ認められる為の条件は、いまだにわかってないとも書いてあった。

 「いや、待て。なぜ本人ランゼーヌも驚いている?」

 イグナシオが、一緒に驚いているランゼーヌに問う。

 「え? わ、私も今聞いたものですから……」

 そうしか答えようがない。

 「おや、では勝手に契約をしたと?」

 ランゼーヌの返事にアルデンは、そう言いながらピュラーアを見た。

 『いいえ。ちゃんと手順を踏んでおります』
 『俺っちとも契約を結んでいるぞ』
 「え? いつ?」

 まさかのワンちゃんの言葉にランゼーヌは、叫んだ。
 ピュラーアとの契約の事は一旦置いておくとして、ワンちゃんとの契約は嫌ではない。本には、契約した精霊とその人間は、生涯を共にすると記載されていた。
 生涯と言っても人間が死ぬまでの間の事だろう。
 ランゼーヌには、ワンちゃんと契約した記憶がない。いやそう言われたのが今だ。

 『いつってお願いを聞いてくれただろう?』
 「お、お願い!?」

 それが、契約を結ぶ手順だったのかと驚く。

 「あ、この結界を解くってやつ?」
 『違うよ。名前を付けてくれただろう』
 「名前!? 確かに考えてって言われたけど……」
 『俺っち嬉しかったんだぁ。ランゼとずっと一緒に居られるし、次期精霊王ほぼ確定になったし』

 まさかそんな事で契約が成り立つとは思ってなかったランゼーヌは、ポカーンと喜んで彼女の周りを飛ぶワンちゃんを見つめた。

 「いや待て。今、なんと言った? 次期精霊王になると言ったか?」
 『そうだ。俺っちこれでも上位精霊なんだ。だから名前を貰うと、次期精霊王候補になるんだ。今のところ俺っちだけだからさ』

 イグナシオの問いに、凄く嬉しそうにそして自慢げにワンちゃんは言う。

 「はぁ? では何か、彼女は現精霊王と未来の精霊王の加護を受けると言う事になるのか!?」
 「それもそうですが、ならば、ランゼーヌ様を通してですが精霊王であるピュラーア様のお願いを実行した私達とも契約を結んだ事にはなりませんか!?」
 『なりません』

 アルデンが、興奮気味に問うがあっさりとピュラーアが否定して返すと、その場がしーんと静まり返った。

 「な、なぜです……」

 アルデンが、納得が行かないという顔つきで問う。

 『人間の王と枢機卿は、義務だからです。本来ならランゼーヌを見つけた時点で、私を通さず共行う行為なのです。ですので、こうなる事もあるだろうと取った策が功を奏しただけです』
 「………」

 ピュラーアの言う通りだった。
 祖先とそういう約束を行っていたのだから。

 「あの、だったら私も契約にならないのでは?」
 『いいえ。あなたは、私のお願いを聞いて下さいました。言いましたよね? あなたに拒否権はあると』

 確かに言われたと思うランゼーヌだが、断れる状況ではなかった。けど、イグナシオとアルデンとは違い、ただ条件を持った者なだけ。他が居れば、その者が行う事も可能だ。
 そして、あのピュラーアが命じなくとも、ワンちゃんがランゼーヌを守るはずというのは、契約した人間だったからとランゼーヌは気づく。

 「ねえ、ワンちゃん。もしかして、名前を貰ったらとかピュラーア様から言われた?」
 『うん? あぁ、助言を貰った。ランゼは、俺っちが傍に居たいと思った人間だからな。だから契約した』
 (やっぱり!?)

 ランゼーヌは、グルンとピュラーアに向いた。
 ピュラーアと目が合うと、にっこりとほほ笑んだ。
 精霊王ピュラーアの作戦は、ワンちゃんが名前を貰うところからすでに始まっていた。ただ五年ほど時期がズレたが、精霊にとっては些細な時間。
 もうあの時からランゼーヌは、ロックオンされていたのだ。

 (思いっきり嵌めておいて、何涼しい顔をしているのよ、この精霊王はぁ!!)

 でもそのおかげで、ワンちゃんとずっと傍に居れるのだが。

 「それで、契約した人間にはどんな加護があるんだ?」
 『望むことの手助けです。彼女は謙虚なようで、ワンによれば、ほとんど頼まれた事はないと言ってますね』

 それはそうだろうと、人間側は思う。
 契約を結んでいるなどと思ってないかったのだから。

 「話はわかりました。しかし参りましたね」

 アルデンは困り顔で言うも、イグナシオはそれをジトーっと見ていた。

 「そうなると彼女をこのまま放置はできません」
 「え!?」
 「お、お待ちください。彼女は、力を得たからとそれを悪用するような者ではありません」

 アルデンが何を言いたいのか察したクレイが、ランゼーヌの前に立ちそう言った。
 精霊と契約する事すら珍しい事なのに、それが複数と結び――いや、一番重要なのは、現精霊王と次期精霊王との契約という事だ。一番力がある精霊。もし自身も精霊と契約を結んだとしても、対等にはならないのだ。それに彼女に悪意がなくとも、他の者に知れれば悪用される可能性がある。
 精霊は、人間の善悪で物事を判断しない。なので、ランゼーヌが望めば世界が滅びる事ではない限り聞くだろう。
 しかもピュラーアは、アルデン達から見れば厄介モノだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「醜い」と婚約破棄された銀鱗の令嬢、氷の悪竜辺境伯に嫁いだら、呪いを癒やす聖女として溺愛されました

黒崎隼人
恋愛
「醜い銀の鱗を持つ呪われた女など、王妃にはふさわしくない!」 衆人環視の夜会で、婚約者の王太子にそう罵られ、アナベルは捨てられた。 実家である公爵家からも疎まれ、孤独に生きてきた彼女に下されたのは、「氷の悪竜」と恐れられる辺境伯・レオニールのもとへ嫁げという非情な王命だった。 彼の体に触れた者は黒い呪いに蝕まれ、死に至るという。それは事実上の死刑宣告。 全てを諦め、死に場所を求めて辺境の地へと赴いたアナベルだったが、そこで待っていたのは冷徹な魔王――ではなく、不器用で誠実な、ひとりの青年だった。 さらに、アナベルが忌み嫌っていた「銀の鱗」には、レオニールの呪いを癒やす聖なる力が秘められていて……?

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~

榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。 ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。 別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら? ー全50話ー

噂の聖女と国王陛下 ―婚約破棄を願った令嬢は、溺愛される

柴田はつみ
恋愛
幼い頃から共に育った国王アランは、私にとって憧れであり、唯一の婚約者だった。 だが、最近になって「陛下は聖女殿と親しいらしい」という噂が宮廷中に広まる。 聖女は誰もが認める美しい女性で、陛下の隣に立つ姿は絵のようにお似合い――私など必要ないのではないか。 胸を締め付ける不安に耐えかねた私は、ついにアランへ婚約破棄を申し出る。 「……私では、陛下の隣に立つ資格がありません」 けれど、返ってきたのは予想外の言葉だった。 「お前は俺の妻になる。誰が何と言おうと、それは変わらない」 噂の裏に隠された真実、幼馴染が密かに抱き続けていた深い愛情―― 一度手放そうとした運命の絆は、より強く絡み合い、私を逃がさなくなる。

王家を追放された落ちこぼれ聖女は、小さな村で鍛冶屋の妻候補になります

cotonoha garden
恋愛
「聖女失格です。王家にも国にも、あなたはもう必要ありません」——そう告げられた日、リーネは王女でいることさえ許されなくなりました。 聖女としても王女としても半人前。婚約者の王太子には冷たく切り捨てられ、居場所を失った彼女がたどり着いたのは、森と鉄の匂いが混ざる辺境の小さな村。 そこで出会ったのは、無骨で無口なくせに、さりげなく怪我の手当てをしてくれる鍛冶屋ユリウス。 村の事情から「書類上の仮妻」として迎えられたリーネは、鍛冶場の雑用や村人の看病をこなしながら、少しずつ「誰かに必要とされる感覚」を取り戻していきます。 かつては「落ちこぼれ聖女」とさげすまれた力が、今度は村の子どもたちの笑顔を守るために使われる。 そんな新しい日々の中で、ぶっきらぼうな鍛冶屋の優しさや、村人たちのさりげない気遣いが、冷え切っていたリーネの心をゆっくりと溶かしていきます。 やがて、国難を前に王都から使者が訪れ、「再び聖女として戻ってこい」と告げられたとき—— リーネが選ぶのは、きらびやかな王宮か、それとも鉄音の響く小さな家か。 理不尽な追放と婚約破棄から始まる物語は、 「大切にされなかった記憶」を持つ読者に寄り添いながら、 自分で選び取った居場所と、静かであたたかな愛へとたどり着く物語です。

【完結】転生したら悪役継母でした

入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。 その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。 しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。 絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。 記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。 夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。 ◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆ *旧題:転生したら悪妻でした

白い結婚に、猶予を。――冷徹公爵と選び続ける夫婦の話

鷹 綾
恋愛
婚約者である王子から「有能すぎる」と切り捨てられた令嬢エテルナ。 彼女が選んだ新たな居場所は、冷徹と噂される公爵セーブルとの白い結婚だった。 干渉しない。触れない。期待しない。 それは、互いを守るための合理的な選択だったはずなのに―― 静かな日常の中で、二人は少しずつ「選び続けている関係」へと変わっていく。 越えない一線に名前を付け、それを“猶予”と呼ぶ二人。 壊すより、急ぐより、今日も隣にいることを選ぶ。 これは、激情ではなく、 確かな意思で育つ夫婦の物語。

処理中です...