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婚約破棄して下さい 2
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パレルモは、にっこりとほほ笑んでいる。
今までそんな素振りを見せなかったというのに、いきなり婚約してほしいと言われ、ランゼーヌは頭が真っ白になった。
「もしかして、好きな方でもおられますか?」
「………」
パレルモに問われ、ランゼーヌの頭にはもちろんクレイの顔が浮かぶ。頬を染めるランゼーヌを見て、パレルモは掴んでいる手に力をこめる。
「クレイを好きになったのですか?」
「は、はい!?」
なぜわかったと、ランゼーヌは顔を真っ赤に染めた。
「あなたは、箱入り娘だったようですね。初めてずっといた異性にときめいた。なら、私にもチャンスをくれませんか? あなたが聖女としている数か月の間でいいです。無理なら諦めますので」
「えーと……」
「おや、タイムリミットですね」
どうしらたと考えている間に、パレルモがランゼーヌの手を離し立ち上がる。
訪問を知らせるライトがついたのだ。クレイが戻って来る。
(びっくりしたわ。まさか婚約してくれという人が現れるなんて……)
「凄いです。聖女マジックです」
リラがボソッと呟いた。
(聖女マジック……そうか。私が聖女だから。納得だわ)
「あぁ、そうそう。私の事は、マテウスと呼んで頂けると嬉しいです」
「え!?」
無理だと、ランゼーヌは首を横に振った。
「ただいま戻りました」
クレイが、部屋へと入って来る。
「では交代です。負けませんよ」
「え……」
帰り際にパレルモにそう言われ驚くクレイだが、何の事だかわからない。
「あの、何かありましたか?」
「ううん。別に何も! ねえ、リラ」
「あ、はい。そうですね」
二人がよそよそしいと思うも、そうですかとクレイは頷いた。
◇
「ランゼーヌ様、モテ期ですかね」
寝室に入ると嬉しそうにリラが言うが、ランゼーヌは暗い顔だ。
「嬉しくないわ」
「そうなんですか? パレルモ様は好みではないと」
「そうではなくて、パレルモ様は私自身を選んだのではなく、聖女を選んだという事でしょう?」
「まあ、そうですが。でも貴族なら爵位で選んだりしますよね? クレイ様と婚約なさっていなかったら、パレルモ様も考えてみてはとお薦めするところです」
「……そうね。男爵の婿になる人がいないからどうしようと悩んでいたのですものね。でもそんなに聖女って魅力的なのかしら?」
「そりゃそうですよ。選ばれた人ですもの」
(選ばれた、か。それだけの価値ある事なのだろうけど、私は聖女ではない。たまたま精霊が見えたというだけで選ばれ、あの呪いの箱庭の結界を壊す役割をしただけ。私が聖女ではないと知ってもパレルモ様は、私と婚約をしたがるのかしら?)
「ランゼーヌ様。そう難しく考えなくてもよろしいかと。身分は関係ないなら断然クレイ様を私も推します」
「うん。ありがとう、リラ」
「おやすみなさいませ。ランゼーヌ様」
「おやすみなさい、リラ」
布団に入るとランゼーヌは目を瞑ったが、なかなか寝付けない。
『眠れないか? あ、俺っちが子守唄を歌ってやろうか』
「子守唄? 私、もうお子様ではないわよ。でも、ワンちゃんの子守唄聞くと、何だか穏やかな気持ちになるのよね」
『そうなのか? ティーゼが歌っていた歌だからかな? 俺っちでも効果あったんだ』
「え? お母様が歌っていた歌?」
(そうか。記憶はないけど、体は覚えていたのね)
「歌ってワンちゃん」
『任せておけ。~♪』
(ふふふ。お母様と違う声なのに、何となくお母様の声が聞こえるような気がするわ)
いつの間にか、ランゼーヌは安らいだ顔つきで眠りについていたのだった。
◇
「では、行ってきます」
「留守は任せておいてくれ」
クレイが、約束通り本を買いに出かける。
まさか、言った次の日には買いに出かけると思っていなかったランゼーヌは、緊張気味だ。
朝食と昼食は、クレイが立って一緒に食べてくれる事になっていたから、交代せずにジャナの付き添いで来るだけだったが、まさか一、二時間も一緒にいる事になるなんてと、ランゼーヌは困っていた。
「そんなに緊張しなくても宜しいですよ。ただ私の話に少し耳を傾けてくれるだけでいいのですから」
「は、話ですか?」
「あ、では、お茶入れますね」
リラが三人分のティーを用意する。
パレルモが毒味を終えると、ランゼーヌはそのティーを一口飲んだ。
「まず私は、あなたが聖女だから婚約の申し出をしたわけではありません」
「え?」
突然そう言われ、あやうくティーをこぼすところだった。
「こうやって、私たちの事も思いやれる方だからです。ですので、全力で口説かせて……」
「待って下さい!」
ランゼーヌは、絞り出すような声で言うと、パレルモが驚いた顔をしてランゼーヌを見る。
「き、昨日は突然すぎて言えなかったのですが、私はクレイ様と婚約しています」
「……え」
「す、すみません」
「いや、そんなはずはない」
「本当です。枢機卿も知っています」
「それって、聖女になってから婚約をしたという事ですか?」
「えーと。そうなります……」
「なるほど……そうですか。彼もやりますね」
「誤解のないように言っておきますが、婚約自体は聖女になる前から話があったのです」
リラが、少し低い声音で呟くパレルモに言った。
「そうですか。だからあなたの騎士になったと」
「そ、そういう訳では。成り行きで精霊の騎士にはなったけど……」
「普通は聖女の騎士になりたいと申請しても選ばれるのは、それなりのものです。その中に年齢も含まれます。なぜ私ぐらいの年齢からでないとなれないかわかりますか? 騎士としての熟練が必要だからです。それを飛び越えあなたの聖女の騎士となった。特別以外のなにものでもない!」
「………」
二人は、少し興奮気味に言うパレルモに何も言い返せない。
あれよあれよと気が付けば聖女になったランゼーヌは、クレイの申し出が通ったのでそういうモノだと思っていた。
だが、騎士側から見れば、クレイは棚から牡丹餅だったのだ。
今までそんな素振りを見せなかったというのに、いきなり婚約してほしいと言われ、ランゼーヌは頭が真っ白になった。
「もしかして、好きな方でもおられますか?」
「………」
パレルモに問われ、ランゼーヌの頭にはもちろんクレイの顔が浮かぶ。頬を染めるランゼーヌを見て、パレルモは掴んでいる手に力をこめる。
「クレイを好きになったのですか?」
「は、はい!?」
なぜわかったと、ランゼーヌは顔を真っ赤に染めた。
「あなたは、箱入り娘だったようですね。初めてずっといた異性にときめいた。なら、私にもチャンスをくれませんか? あなたが聖女としている数か月の間でいいです。無理なら諦めますので」
「えーと……」
「おや、タイムリミットですね」
どうしらたと考えている間に、パレルモがランゼーヌの手を離し立ち上がる。
訪問を知らせるライトがついたのだ。クレイが戻って来る。
(びっくりしたわ。まさか婚約してくれという人が現れるなんて……)
「凄いです。聖女マジックです」
リラがボソッと呟いた。
(聖女マジック……そうか。私が聖女だから。納得だわ)
「あぁ、そうそう。私の事は、マテウスと呼んで頂けると嬉しいです」
「え!?」
無理だと、ランゼーヌは首を横に振った。
「ただいま戻りました」
クレイが、部屋へと入って来る。
「では交代です。負けませんよ」
「え……」
帰り際にパレルモにそう言われ驚くクレイだが、何の事だかわからない。
「あの、何かありましたか?」
「ううん。別に何も! ねえ、リラ」
「あ、はい。そうですね」
二人がよそよそしいと思うも、そうですかとクレイは頷いた。
◇
「ランゼーヌ様、モテ期ですかね」
寝室に入ると嬉しそうにリラが言うが、ランゼーヌは暗い顔だ。
「嬉しくないわ」
「そうなんですか? パレルモ様は好みではないと」
「そうではなくて、パレルモ様は私自身を選んだのではなく、聖女を選んだという事でしょう?」
「まあ、そうですが。でも貴族なら爵位で選んだりしますよね? クレイ様と婚約なさっていなかったら、パレルモ様も考えてみてはとお薦めするところです」
「……そうね。男爵の婿になる人がいないからどうしようと悩んでいたのですものね。でもそんなに聖女って魅力的なのかしら?」
「そりゃそうですよ。選ばれた人ですもの」
(選ばれた、か。それだけの価値ある事なのだろうけど、私は聖女ではない。たまたま精霊が見えたというだけで選ばれ、あの呪いの箱庭の結界を壊す役割をしただけ。私が聖女ではないと知ってもパレルモ様は、私と婚約をしたがるのかしら?)
「ランゼーヌ様。そう難しく考えなくてもよろしいかと。身分は関係ないなら断然クレイ様を私も推します」
「うん。ありがとう、リラ」
「おやすみなさいませ。ランゼーヌ様」
「おやすみなさい、リラ」
布団に入るとランゼーヌは目を瞑ったが、なかなか寝付けない。
『眠れないか? あ、俺っちが子守唄を歌ってやろうか』
「子守唄? 私、もうお子様ではないわよ。でも、ワンちゃんの子守唄聞くと、何だか穏やかな気持ちになるのよね」
『そうなのか? ティーゼが歌っていた歌だからかな? 俺っちでも効果あったんだ』
「え? お母様が歌っていた歌?」
(そうか。記憶はないけど、体は覚えていたのね)
「歌ってワンちゃん」
『任せておけ。~♪』
(ふふふ。お母様と違う声なのに、何となくお母様の声が聞こえるような気がするわ)
いつの間にか、ランゼーヌは安らいだ顔つきで眠りについていたのだった。
◇
「では、行ってきます」
「留守は任せておいてくれ」
クレイが、約束通り本を買いに出かける。
まさか、言った次の日には買いに出かけると思っていなかったランゼーヌは、緊張気味だ。
朝食と昼食は、クレイが立って一緒に食べてくれる事になっていたから、交代せずにジャナの付き添いで来るだけだったが、まさか一、二時間も一緒にいる事になるなんてと、ランゼーヌは困っていた。
「そんなに緊張しなくても宜しいですよ。ただ私の話に少し耳を傾けてくれるだけでいいのですから」
「は、話ですか?」
「あ、では、お茶入れますね」
リラが三人分のティーを用意する。
パレルモが毒味を終えると、ランゼーヌはそのティーを一口飲んだ。
「まず私は、あなたが聖女だから婚約の申し出をしたわけではありません」
「え?」
突然そう言われ、あやうくティーをこぼすところだった。
「こうやって、私たちの事も思いやれる方だからです。ですので、全力で口説かせて……」
「待って下さい!」
ランゼーヌは、絞り出すような声で言うと、パレルモが驚いた顔をしてランゼーヌを見る。
「き、昨日は突然すぎて言えなかったのですが、私はクレイ様と婚約しています」
「……え」
「す、すみません」
「いや、そんなはずはない」
「本当です。枢機卿も知っています」
「それって、聖女になってから婚約をしたという事ですか?」
「えーと。そうなります……」
「なるほど……そうですか。彼もやりますね」
「誤解のないように言っておきますが、婚約自体は聖女になる前から話があったのです」
リラが、少し低い声音で呟くパレルモに言った。
「そうですか。だからあなたの騎士になったと」
「そ、そういう訳では。成り行きで精霊の騎士にはなったけど……」
「普通は聖女の騎士になりたいと申請しても選ばれるのは、それなりのものです。その中に年齢も含まれます。なぜ私ぐらいの年齢からでないとなれないかわかりますか? 騎士としての熟練が必要だからです。それを飛び越えあなたの聖女の騎士となった。特別以外のなにものでもない!」
「………」
二人は、少し興奮気味に言うパレルモに何も言い返せない。
あれよあれよと気が付けば聖女になったランゼーヌは、クレイの申し出が通ったのでそういうモノだと思っていた。
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