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婚約破棄して下さい 3

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 三人の間に、沈黙が少しの間流れた。

 『こいつ、追い出すか?』

 突然凄い事を言うワンちゃんをランゼーヌは見て、『ダメ』と口パクをする。

 「ダメ? 誰に言ったのですか」

 ランゼーヌは、パレルモの言葉にギョッとした。まさか口パクがバレるとは思っていなかったランゼーヌはどうしたものかと焦る。
 チラッと、パレルモはワンちゃんを見た。正確には、ランゼーヌが見た方角を見つめる。

 「あなたはたまに不可解な行動をとりますね」
 「え……」
 (この人、洞察力が鋭い?)

 ワンちゃんを見たりしていた行動をパレルモは、観察していたのだ。

 「まあいいでしょう。それより彼との婚約を考え直す気はありませんか?」
 「え?」
 「何を言い出すのですか。パレルモ様」

 リラが驚いて言う。

 「確かに彼は優秀です。でも優秀さでいえば、自分で言うのもなんですが私もですよ。それに私は伯爵家の息子。失礼ですが、少し調べさせて頂きました。かなり借金がおありですよね」
 「調べたのですか! な、なぜ」
 「別に意味などありません。ただお仕えれする方の調査です。私なら返せますよ、謝金」
 「べ、別に聖女の給料で返すので問題ありません」
 「それは無理でしょう。一年分も出ませんよ。彼の方からのお金の援助はないでしょうから、借金地獄になりますよ」
 「お、脅しですか!?」

 リラが驚きの声を上げた。
 ランゼーヌもパレルモの変わりように驚く。

 「脅しではなく、現実を申しているだけです。それとも爵位を捨て借金をチャラにしますか? でもパラキードは名乗れないと思いますよ。言っておきますが、騎士であって家名を名乗れないのは恥です。肩身の狭い思いをしますよ」

 ランゼーヌは、驚いた顔でパレルモを見つめた。

 (この人、どこまで知っているの? まるでクレイ様が家名を名乗れない理由を知っているような素振りだわ。それに私が家名を継ぐ事も知っていた。本当に調べたのね)

 「だから、あなたと婚約すれと言うのですか?」
 「えぇ。それが賢明な判断だと申しています。彼と婚約破棄して下さい。あなたが申し出れば、できますから」
 「……わ、私は、クレイ様との婚約破棄などしません!」
 「私なら婿にもなれるし、あなたを嫁に迎える事も出来るのに」
 「え? 嫁に迎える?」
 「えぇ。次男ですが、まだ兄は爵位を継いでいないのです。聖女であるあなたを娶れば、爵位を継ぐ事が可能でしょう。そうすれば、伯爵夫人ですよ?」

 普通の令嬢なら心動く話なのかもしれないが、ランゼーヌは嫌な気分にしかならない。

 『こいつ、ランゼをいじめやがって!』
 「!」

 パレルモが、ぱっと後ろを振り向いた。ワンちゃんが、背中を蹴ったからだ。
 ランゼーヌはアワアワするが、パレルモは剣に手をかけ部屋全体に視線を巡らせる。
 その行動に、リラだけが突然なんだと目をぱちくりとさせていた。

 「………」
 「あ、あの、どうかしましたか?」

 恐る恐るランゼーヌは、話しかける。
 ランゼーヌを振り返ったパレルモの視線は、彼女に突き刺さった。

 「いえ。別に。よくお考え下さい。ランゼーヌ様。私は、あなたの秘密を握っています」
 「……ひ、秘密なんてないわ」
 「聖女に選ばれたのは、果たして偶然なのか……」
 「!」

 ランゼーヌは、青ざめる。

 (この人は、どこまで知っているの? もしかしてワンちゃんの事も……。私が、偽聖女だって事も知っている!?)

 「彼との婚約破棄、お願いしますね」
 「ちょっと、何を言っているのですか! ランゼーヌ様は、正真正銘の聖女ですからね! あなたの事、枢機卿に言いますよ!」
 「どうそお勝手に。ただ、事を大きくしたくなければ、言わない方が賢明だと思いますよ」
 「どういう意味ですか?」
 「どういうって、世間に知られるって事ですよ」

 冷ややかな瞳で見つめるパレルモに、ランゼーヌはゾクっとした。

 (何が世間に知られるの? 少なくともパレルモ様は私を好きだから婚約したいのではないのね。聖女の肩書がある私を手に入れる為……。そのせいで、クレイ様に迷惑がかかるかもしれない。私の事だけではなく、クレイ様の事も色々暴露する気なのかも)
 「返事はそうですね。ディナー後でどうでしょう。あぁ、彼に相談してもいいですが、事が大きくなりますよ。あなたが身を引けばいいだけです」

 パレルモの言葉に、二人はどうしたらいいかわからない。彼が本気で言っているのが二人にはわかったからだ。

 「そんなに構えなくても、ここでは何もしませんよ。何となく監視されている様な気がしますからね。おや? 随分早いお帰りだ」

 パレルモが部屋に来る合図を見て言った。
 二人は、それに安堵する。
 ドアをノックする音に、素直にパレルモはドアを開けた。

 「おっと。何をそんなに殺気だっている?」
 「なんともないか!?」

 パレルモの言葉を無視し、クレイが部屋の奥に、ランゼーヌの傍に向かう。

 「ク、クレイ様……」

 クレイの顔を見たら安堵したのか、ランゼーヌの頬に涙が伝う。

 「な、何をした!」

 パレルモに振り返り、クレイが叫ぶ。

 「特段なにも。少し込み合った話をしただけです。ではのちほど。ランゼーヌ様、よい返事を期待してますよ」

 パレルモは、ぱたんとドアを閉め出て行った。

 「大丈夫ですか」

 大丈夫だと頷く事しか出来ないランゼーヌだった。
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