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第1話 皇国の聖騎士。女になる?!
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あらすじ
皇国そばにある、教会をアジトにしていた魔族幹部たちを名乗るものたちは、どう見ても、魔族の端くれだった。それでも、魔族の端くれ。魔術の使い手でもあった敵に、ラント。セリア。エリスの三人が対峙していた。
**
森林の合間から見える、かつて教会として名を馳せたであろう建物が、半分だけ朽ちた様子で佇んでいる。セントレアの中心からは離れ、郊外に存在するそこでは、聖騎士団に寄せられた情報を元に、三人が駆けつけていた。
「いいか? セリア、エリス。息を合わせて突入するぞ?」
「はい! ラント団長」
「はい。準備はできてます」
教会の中へと続く入口の両側を囲むようにして、ラントとセリアが並ぶ。そして、セリアの後ろに控えるようにしてエリスが、魔法を展開する。
月明かりを浴びながら展開される魔法陣は、中のターゲットに気づかれないようにと、静かに詠唱がなされていた。150cmもない、小さな体から繰り出される魔法は見事で、ふわりと彼女の特徴的な金色のツインテールがなびく。そして、詠唱が終わったのを知らせるように、パッ!と目が見開かれる。翡翠の瞳が輝くようにして、魔法が解き放たれる。
「ウィンドブレイク......」
静かに詠唱された魔術回路と共に、つむじ風のような風がおこる。しかしそれはそばにいるラントやセリアの髪を靡かせた程度で、その多くが扉を開けるために使われていく。扉を突破するようにして流れた風は、根城を構えていた男たちに終りを知らせていた。
「なんだ! ちっ! 聖騎士!」
「そこまでだ! おとなしく投降してもらおう!」
「そうよ! 魔族側からも通達が来てるわ!」
「そうです。とっとと捕まってくださーい」
所々がボロボロになり、月明かりが室内に差し込む場所で、ローブを目深に被った男たちが威勢よくたむろしていた。身なりこそ良いものの、ガラも悪く、落ちぶれた様子は魔族でありながらも、どこか貴族のような気品すら感じる。
しかし、それとこれとは別で、今や協定を結んだ魔族と人間族の間でいざこざが起きられては困るのは、どちらも同じだった。
「逃げましょう! あ、あれっ? 開かねぇ......なんでだ?」
「あ、この建物ごと魔術結界で覆ってるので、無理ですよ~?」
「はぁ?! お前、魔術師なのか!」
「はーい。だからぁ。とっとと、降参してね~」
金色のツインテールを揺らしながらも、甲冑に身を包んだラントやセリアの後ろからひょっこりと現れる、聖騎士のローブを身に纏っている翡翠色の瞳は、ニヤニヤと不敵な笑みを浮かべる。つかつかと前に出るエリスに凄んでくる男たち......。
「エリス......」
「......大丈夫ですよ? セリア先輩」
「......えぇ、任せたわ」
つかつかと取り巻きの男二人の前に出るエリス。見上げるほどに大柄な魔族ふたりは、明らかに小さい体など、ひと捻りにしてしまいそうなほど。しかし、彼女の振る舞いは余裕すら見えていた。
その一方で、ラントとセリアも、残っている幹部であろう三人の方へとにじり寄っていく。双剣の柄に手を乗せながらも、距離を縮める。
「......いい加減、降参してくれますかね?」
「そうよ......」
魔法陣を囲むようにしてラントたちと向かい合う男たちは、聖騎士ふたりを相手にしても、一向に怯むことはなく、むしろ威勢が強くなる。
「あんたらがどんだけ強いのか知らないが」
「魔族の俺達に叶うと思ってんのか?」
「それより、向こうの方を気にしたほうがいいんじゃねぇか?」
男たちが指差す方向では、両腕を掴まれたエリスの姿があり、窮地を知らせていた。しかし、ラントやセリアは動じなかった。
「聖騎士団とは笑えますね。仲間を放っておくなんて......」
「慈悲も何もない......」
「はは。そうだ......」
ケラケラと笑う様子は、ひとりの魔族の貴族に追従したガラの悪い魔族のようで、品位が知れるようなものだった。そんなふたりの煽りにラントとセリアのふたりは、焦る。というより、呆れていた。
「ふふっ、こちらのほうがおかしいです。技量もわきまえずに、見た目に捕らわれて...」
「セリア、それを言ったらおしまいだ......数を上回るものだってあるのを知らないんだ」
「そうですね...」
「......なにを!」
そう言い男の一人がセリアに掴みかかろうとしたその時だった。
“ドシーン!!”
教会の中に響き渡るほどに、男のひとりが転げている。その様子はあまりに滑稽で、エリスを覆い隠してあまりあるほどの男が、コロッと横になっているのだから。
「何した! おめぇ!」
そうして、もうひとりの男が掴みかかろうとする。その刹那......。
「......転べ」
「!!!!」
刹那の詠唱と共に、男がドシーンと足元に崩れ落ちる。その瞬間、男が見上げるようにして、エリスを驚きの目と共に、睨む......
「お、お前、呪言......」
「黙れ......」
「ぐっ!......」
『やべぇ!!』
澄んだ翡翠色の瞳が見下げるほどに、どんな相手ですらひざまずき、黙ってしまう。そのあまりに強すぎる能力を持つことで、不遇の過去を受けていたこともある彼女は今、聖騎士として活躍している。
「呪言? そう言われてた時期もあったわね」
「それ以外のなんだよ!」
「......支配よ」
「支配だぁ?」
「どんな気持ち? 凄んでたのに、ひざまずく気持ちはぁ......」
「あはは......」
エリスの周りで起きていることに、呆気に取られる男たちに、セリアが切り込む。床を蹴る音と共に、その姿は男の目の前に移動している。瞬速を超えたその姿は、テレポートでもしたかのように男の目に映る。
「......は?」
風に揺れる髪が遅れて香りを運ぶようにして、澄んだ青い瞳と甲冑の音も後から鼓膜を震わせる。
「ごほっ!」
「峰打ちよ......」
「......ぐはっ!」
『それ、峰じゃねぇ!!』
崩れ落ちる男が見ていたセリアの使っていた武器には、峰などなく。レイピアの鋭い切っ先の横にあるガードの部分で小突かれていた。ただ、彼女の移動速度が尋常ではないため、それだけでも破壊力が十分だった。
“どさっ!”
「......ふぅ、エリス......は、心配なさそうね......」
「えっ? はーい!」
レイピアを腰におさめてエリスの様子を眺めると、足元に伸びた男ふたりを突いて遊んでいる。その姿は背格好も相まって、純粋な子供が遊んでいるようにしか見えなかった。
「こっちも、終わったぞ。セリア......まったく、幹部という情報は何だったのか......」
双剣を抜くまもなく、男と魔族の落ちぶれ貴族を倒していたラントは、襟元を掴みながら、拘束をしていた。
「そうね、身なりからするに、幹部なのは間違いないんじゃない?」
「そうかもな......」
そう言いながら、ラントの元に近づくその刹那。
「......魔族に栄光あれ......」
「ん?!」
不意に意識を取り戻した落ちぶれ貴族は、手に小さい魔法式で組んだ魔法陣を浮かべると、ラントの腹部に押し当ててぶっ放す!
“ばしゅっ!”
「ふぐっ! お前......」
「ふふっ、油断するお主が悪いのだ......」
「くっ! お前!!」
キッ!と鋭く睨んだセリアは、倒れ込むラントから離れた落ちぶれ貴族を仕留めんばかりに詰め寄る。しかし、意識をかろうじて保っていたその口から、止める言葉がでる。
「だ、だめだ。セリア、任務は強制送還だ......」
「でも! ラント! その傷......」
「あぁ、魔力弾か、それに関するものだろう、体にはダメージは......ぐっ!」
「そんな事......」
そんなラントの様子を見た、エリス本気の魔術が飛ぶ。
「......沈め!!」
『よくも、ラント団長を!!』
その思いを込めた魔術は、貴族を従えるほどの効力をだし、床にめり込む位の破壊力をもたらしていた。
「ぐ、ぐっ......!! 凄まじいな、この力は......」
「黙れ! 黙れ!!」
「ぐぐっ!!」
怒りの頂点をゆうに超えていたエリスは、相手にした男以上に、その幹部に能力を使っていた。それは、セリアが止めるまで続いてしまった。それでも、彼女は聖騎士団のひとり。討伐任務ではないことは、理解していた。
「......エリス」
「......せんぱい。悔しいです。ラント団長が......」
「私もよ」
「あ、あぁ、ありがとな。エリス......ぐっ......」
「本当に大丈夫? ラント......」
「あ、あぁ。肉体的には大丈夫だ......傷もない......」
「なら良いけど......」
しかし、エリスの回復魔術や支配を使っても、ラントに施された魔術が解けることはなく、むしろ苦しむ一方だった。任務として成功はしたものの、あとに後悔を残す結果となってしまった。
『くっ、俺としたことが......油断が過ぎたか......』
それから聖騎士団の部屋へと戻っていく間、ラントの体は熱く火照り、全身が燃えるように熱かった。汗ばむ体に抱えているセリアは、血の気が引くようにして心配を続けていた。柔らかく熱い体に支えられるほどに、心強さを感じていた。
**
結果からすれば、ラントの様態は時間を追うごとに悪化していく。セントレア皇国の地下牢に監禁された魔貴族に、いくら尋問しても“魔族に栄光あれ”というばかりで、全く要領を得る答えが返ってくることはなかった。
「ぐっ!」
「......苦しむといい。きっと、お前らは魔族に頼ることになる。未来永劫にな!」
「......なにを......」
つかつかと地下牢に続く石畳の廊下を歩きながらも、セリアは煮えくり返る感情を抑えながら、こみ上げる衝動を整理していた。
『......こちらは、手を取ろうとしている』
『なぜ、優劣をつけたがる。支え合えばいいのに......』
『それに、戦争になったら、困るのは魔族のほうだろうに......』
モヤモヤとした感情が脳裏を占めては、振り払うようにして冷静をたもつセリア。そこに、エリスも問い詰めようとしたのか、地下牢から上がってくる階段で出会う。
「どうでした? 先輩......」
「だめよ。口を割ろうとしない。彼が組んだのだから、解除の方法も......」
「こうなったら、支配で吐かせましょうか?」
セリアの横を抜け、地下牢に向かおうとするエリスの襟元を掴んで止める。
「だめよ。エリス......」
“ぎゅむ”
「あぅっ......」
「先輩! いかせてくださいよ~」
「だめに決まってるでしょ。スキルを使って自白させたことに、政治的効力があると思う?」
「それは......でも、団長が......」
「ほら、行くわよ」
「あうぅっ......」
襟元を掴みながら引くセリアと、ズルズルと引きずられてしまうエリスだった。
一方その頃。ラントの寝室には、まさかのひとが駆けつけていた。
長く垂れ下がるウェーブがかかった綺麗な銀髪と、三つ編で一部を纏めて後ろで止めている綺麗な髪と、澄んだ藤色の瞳はすっかり女王の威厳などどこへやら、ひとりの乙女になってしまっている姿だった。
「ラントさまぁぁ~」
「い、イザリア王女様?! ぐっ......」
「あぁ。急に起き上がってはいけませんわ! お命に別状がなくて......」
「本当に良かった......」
「は、はい。不覚を負いましたが」
ベッドに体を預けるラントの傍らに寄り添うようにして、手を握っていのる。その姿だけでも癒やされる。
「王女様、こちらでも、魔族と連絡を取っておりますので......」
「カエリクス。どうなっているの? 向かっているはずよね?」
恭しく、頭を垂れながら説明する静観な紳士。
先代から陰ながら支え、子息でもあるイザリアを献身的に支えている。動揺している彼女を支える紳士がいてこそ、皇国が成り立つというものだった。
「はい、こちらに医師と助手が、向かわれてるとのことで......」
「すみません。カエリクス殿のお手を煩わせてしまって......」
「いいえ、良いのですよ。それに、イザリア様からの申し出でしたので......」
「そうなんですか?」
「......カエリクス?! どうしてバラすのですかぁ!!」
エリスと同じくらいの身長と年齢、お年頃とは思えないほどにしっかりとしていて、理知的な若き女王としても知られている。ただ、ラントの目の前では、その特徴的なアホ毛がピコピコと動いているかのように、忙しなく動き回る年頃の乙女になっていた。
その滑稽な様子を見ているほど、痛みが少しだけ和らいだ様に感じていた。そこに、魔術通信がもたらされ、現状を伝えていた。
『......こちら側でも、秘匿されているようでな。尻尾が掴めぬ』
『どこの、おいぼれ貴族だよ。こんな妙な研究してるやつぁ......』
『姉さん。これじゃないかしら?』
『あん? 違うなぁ、魔族式が違う......』
『もぅ、誰よ。こんなに立て直しで忙しいのに、バカする魔族は......!』
『イレイナス。一応、セントレアの方も聞いてるのよ?』
『知らねぇよ、うちの魔族も多いんだ。それに、姉さまの手を煩わせるとか!』
『極刑にしていいんじゃね?』
何やら通信の向こう側で、物騒なやり取りをしているのが、ラントの鼓膜を震わせる。その場に居合わせたカエリクスも、苦い顔をしていた。
『と、とにかくだ。こちらからは魔族医師、エリオンと助手。メリッサを派遣する』
『それで、手を打ってくれるか?』
「はい。かしこまりました」
通信を切りながらも、呆れた様子で話を整理しながら続けて口にしていく。
「えっと、ドラクシオン、現国王であり魔王のマルケス様は...」
「魔族医師を派遣されるとのことで......」
「魔族医師?! そんな、重要人物を......俺のために......」
「いいえ、その方は、人種と魔族との間に生をなしたハーフなのです」
「そうなんですね」
「はい、その上、人と魔族。双方を平等に扱う、稀有な医師でもあります」
「なるほど......」
そんな説明を受けながらも、ラントの体は未だ熱く効力が効き続けているようだった。イザリアと会話をしながらも、時折。その痛みが体を襲い、その華奢な手を強く握ってしまう。
「いっ......」
「す、すみません......痛く......ぐっ!」
「えぇ、これくらい。平気ですわ......」
「ラント様が頼ってくれているのですもの......」
「そんな......ぐっ......」
体を横たわらせながら、心配する藤色の瞳を眺める。なおも危篤な様相を呈する姿に、いても立ってもいられなくなる。
「カエリクス。医者の先生はまだなの?」
「こちらに向かっていると......」
「それなら、転移魔法を使えばいいじゃないの!」
「それでですが、どうやら、近郊を訪問されていたようで......」
「それなら、もう到着してもいいのでは? カエリクス!」
ラントの手を握りながらも、顧問でもあるカエリクスに詰め寄る。凛々しさと共に、心配するのが上回っているのを感じる。
「......行ってください。あなたは、王女です。俺のそばにいては......」
「お出迎えが成り立ちません。それは、セントレアとしてもだめです」
「しかし......うん。分かったわ......必ず連れて戻るわ!」
「はい。お待ちしてます......」
「必ずよ! 必ず、生きていなさい! 分かったわね!」
「えぇ......」
名残惜しさと共に、ゆっくりとその小さな手が離れると、後ろ髪を引かれる表情と共に、カエリクスをけしかけるようにして、魔族領から派遣された医師と助手を迎えにいくイザリア。
『......ちゃんと、生きていなさいよ! うっかりやられたら、承知しないんだから!!』
「カエリクス! 出迎えるわよ。王妃として!」
「はっ!」
薄暗くなり始めている廊下を歩きながらも、出迎えに向かうイザリア。努めてひとりの聖騎士に肩入れする王女ではないことを胸に秘めながらも、エリオンとメリッサを出迎える。馬車での到着するのだと思っていたものの、その予想がすっかり外れることになる。
「おまたせしました!」
「あら、イザリア様。自らお出迎えとは、これは急いだ介がありましたね? 先生......」
「メリッサ。言葉が過ぎるぞ...」
「......そうでしたね」
ふわりと飛行魔法で来訪したエリオンとメリッサは、若き王女の前に着地すると、恭しく片膝をつく。
「......お、驚きましたわ。まさか、飛行魔法で来られるとは......」
「はい。この方が馬車を使うより早く馳せ参じることができるので......」
「そうですのね」
戸惑いの中で、挨拶もそこそこに済ませるイザリア。ひと呼吸を起きながらも、強く自分を律してから、ふたりを招き入れる。
**
見慣れた天井を眺めながらも、さすがに息苦しさを感じてくるラント。呼吸をしっかりと保とうとしても、次第に呼吸が浅くなる。
『......これは、まずいかもな』
『イザリア様、あなたの騎士は、先に旅立つかもしれません......』
『ですが、俺の後輩たち、セリアやエリスがきっと、守るでしょう......』
その脳裏で走馬灯でも見るかのように、幼い時にイザリアを支え、騎士として誓いをしたあの頃が懐かしく思えるほど、聖騎士として大成を果たしていたラント。体中が熱く、燃えだしそうな体に抗うものの、息苦しさには対応できずにいた。
一歩づつ、寝室に意思と助手。そしてイザリアとかイエスが向かっているものの、それを待つことすら、辛くなり始めていた。まして、セリアやエリスは、皇国にある書庫でラントの体に起こったことを調べていた。
『......ラント! 必ず、元に戻すわ!』
『団長! 元気になってくださいっす!!』
そんな思いがひとりの青年に向けられていた。そして、その体は変化を見せていく。
「ぐっ! んはっ!!」
『これは、まずいっ!!』
痛みの波がピークを迎えるのと共に、走馬灯が駆け巡る。
『すまない。セリア、エリス。カエリクス殿。そして、イザリアさま......』
そうして、意識が遠のいた瞬間。
“ぼんっ!!”
部屋の中から小さな爆発のような音が聞こえる。それは、親しい間柄の人物にも同様に届いたようで、地下牢の魔族がほくそ笑んでいた......。
「せいぜい苦しむが良い。異なる体でな! 聖騎士様よ!」
「ふははは......!!」
地下牢での高笑いが他の部屋にも響き渡る頃。ラントに近しい人物も寝室に駆けつけ始める。
「エリス、今の気がついた? 魔力の流れが変わった......」
「はい、しかも......その方向って......」
「えぇ、ラントの部屋......」
「まずいですね......行きましょう!!」
そうして、セリアやエリスが部屋の前にたどり着くと、イザリアとカエリクス。そして、医師とその助手が、様態を見ていた。
「何かあったの? 魔力の流れが......」
「おふた方も、気づかれました?」
「あんなの、誰だって分かるわ。何があったのラントに......」
「それが......」
「いいから、教えて。イザリア......」
「......エリス」
あとから来たふたりに立ちはだかるようにしていたイザリアの手を、エリスが掴む。その手を感じながら、ゆっくりと横にずれるイザリア。
「みんな、騒がしいよ。オレ。どうなたんだ......?」
「......?! は、はぁ?」
聞き慣れない声と共に、ベッドに横たわってってた姿に目を奪われる。そこには男のラントの容姿を残しつつ、髪は長くなり、胸は大きくなり、それでいて、凛々しい目元に赤い瞳というラントの特徴をそのまま残した“女の子”がそこにいた。
「あ、エリスにセリア! オレ。どうなったんだ?」
「っっっ!!!!」
「っっ!! かわいいっ♡」
「か、可愛い?! お、オレが?」
「うんうん! すごいかわいい!!」
「えぇっ......」
翡翠色の瞳を爛々と輝かせながら、ラントの元に駆け寄るエリス。そして、動揺して固まってしまったセリアという状態になってしまった。
『......オレ、どうなったんだ? 生きては......いるみたいだけど......?』
そして、完全に体を固定されるような状態で横になることしかできなかったラントは、自身の体に起きた違和感を感じられたのは、声が変わった程度だった。
皇国そばにある、教会をアジトにしていた魔族幹部たちを名乗るものたちは、どう見ても、魔族の端くれだった。それでも、魔族の端くれ。魔術の使い手でもあった敵に、ラント。セリア。エリスの三人が対峙していた。
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森林の合間から見える、かつて教会として名を馳せたであろう建物が、半分だけ朽ちた様子で佇んでいる。セントレアの中心からは離れ、郊外に存在するそこでは、聖騎士団に寄せられた情報を元に、三人が駆けつけていた。
「いいか? セリア、エリス。息を合わせて突入するぞ?」
「はい! ラント団長」
「はい。準備はできてます」
教会の中へと続く入口の両側を囲むようにして、ラントとセリアが並ぶ。そして、セリアの後ろに控えるようにしてエリスが、魔法を展開する。
月明かりを浴びながら展開される魔法陣は、中のターゲットに気づかれないようにと、静かに詠唱がなされていた。150cmもない、小さな体から繰り出される魔法は見事で、ふわりと彼女の特徴的な金色のツインテールがなびく。そして、詠唱が終わったのを知らせるように、パッ!と目が見開かれる。翡翠の瞳が輝くようにして、魔法が解き放たれる。
「ウィンドブレイク......」
静かに詠唱された魔術回路と共に、つむじ風のような風がおこる。しかしそれはそばにいるラントやセリアの髪を靡かせた程度で、その多くが扉を開けるために使われていく。扉を突破するようにして流れた風は、根城を構えていた男たちに終りを知らせていた。
「なんだ! ちっ! 聖騎士!」
「そこまでだ! おとなしく投降してもらおう!」
「そうよ! 魔族側からも通達が来てるわ!」
「そうです。とっとと捕まってくださーい」
所々がボロボロになり、月明かりが室内に差し込む場所で、ローブを目深に被った男たちが威勢よくたむろしていた。身なりこそ良いものの、ガラも悪く、落ちぶれた様子は魔族でありながらも、どこか貴族のような気品すら感じる。
しかし、それとこれとは別で、今や協定を結んだ魔族と人間族の間でいざこざが起きられては困るのは、どちらも同じだった。
「逃げましょう! あ、あれっ? 開かねぇ......なんでだ?」
「あ、この建物ごと魔術結界で覆ってるので、無理ですよ~?」
「はぁ?! お前、魔術師なのか!」
「はーい。だからぁ。とっとと、降参してね~」
金色のツインテールを揺らしながらも、甲冑に身を包んだラントやセリアの後ろからひょっこりと現れる、聖騎士のローブを身に纏っている翡翠色の瞳は、ニヤニヤと不敵な笑みを浮かべる。つかつかと前に出るエリスに凄んでくる男たち......。
「エリス......」
「......大丈夫ですよ? セリア先輩」
「......えぇ、任せたわ」
つかつかと取り巻きの男二人の前に出るエリス。見上げるほどに大柄な魔族ふたりは、明らかに小さい体など、ひと捻りにしてしまいそうなほど。しかし、彼女の振る舞いは余裕すら見えていた。
その一方で、ラントとセリアも、残っている幹部であろう三人の方へとにじり寄っていく。双剣の柄に手を乗せながらも、距離を縮める。
「......いい加減、降参してくれますかね?」
「そうよ......」
魔法陣を囲むようにしてラントたちと向かい合う男たちは、聖騎士ふたりを相手にしても、一向に怯むことはなく、むしろ威勢が強くなる。
「あんたらがどんだけ強いのか知らないが」
「魔族の俺達に叶うと思ってんのか?」
「それより、向こうの方を気にしたほうがいいんじゃねぇか?」
男たちが指差す方向では、両腕を掴まれたエリスの姿があり、窮地を知らせていた。しかし、ラントやセリアは動じなかった。
「聖騎士団とは笑えますね。仲間を放っておくなんて......」
「慈悲も何もない......」
「はは。そうだ......」
ケラケラと笑う様子は、ひとりの魔族の貴族に追従したガラの悪い魔族のようで、品位が知れるようなものだった。そんなふたりの煽りにラントとセリアのふたりは、焦る。というより、呆れていた。
「ふふっ、こちらのほうがおかしいです。技量もわきまえずに、見た目に捕らわれて...」
「セリア、それを言ったらおしまいだ......数を上回るものだってあるのを知らないんだ」
「そうですね...」
「......なにを!」
そう言い男の一人がセリアに掴みかかろうとしたその時だった。
“ドシーン!!”
教会の中に響き渡るほどに、男のひとりが転げている。その様子はあまりに滑稽で、エリスを覆い隠してあまりあるほどの男が、コロッと横になっているのだから。
「何した! おめぇ!」
そうして、もうひとりの男が掴みかかろうとする。その刹那......。
「......転べ」
「!!!!」
刹那の詠唱と共に、男がドシーンと足元に崩れ落ちる。その瞬間、男が見上げるようにして、エリスを驚きの目と共に、睨む......
「お、お前、呪言......」
「黙れ......」
「ぐっ!......」
『やべぇ!!』
澄んだ翡翠色の瞳が見下げるほどに、どんな相手ですらひざまずき、黙ってしまう。そのあまりに強すぎる能力を持つことで、不遇の過去を受けていたこともある彼女は今、聖騎士として活躍している。
「呪言? そう言われてた時期もあったわね」
「それ以外のなんだよ!」
「......支配よ」
「支配だぁ?」
「どんな気持ち? 凄んでたのに、ひざまずく気持ちはぁ......」
「あはは......」
エリスの周りで起きていることに、呆気に取られる男たちに、セリアが切り込む。床を蹴る音と共に、その姿は男の目の前に移動している。瞬速を超えたその姿は、テレポートでもしたかのように男の目に映る。
「......は?」
風に揺れる髪が遅れて香りを運ぶようにして、澄んだ青い瞳と甲冑の音も後から鼓膜を震わせる。
「ごほっ!」
「峰打ちよ......」
「......ぐはっ!」
『それ、峰じゃねぇ!!』
崩れ落ちる男が見ていたセリアの使っていた武器には、峰などなく。レイピアの鋭い切っ先の横にあるガードの部分で小突かれていた。ただ、彼女の移動速度が尋常ではないため、それだけでも破壊力が十分だった。
“どさっ!”
「......ふぅ、エリス......は、心配なさそうね......」
「えっ? はーい!」
レイピアを腰におさめてエリスの様子を眺めると、足元に伸びた男ふたりを突いて遊んでいる。その姿は背格好も相まって、純粋な子供が遊んでいるようにしか見えなかった。
「こっちも、終わったぞ。セリア......まったく、幹部という情報は何だったのか......」
双剣を抜くまもなく、男と魔族の落ちぶれ貴族を倒していたラントは、襟元を掴みながら、拘束をしていた。
「そうね、身なりからするに、幹部なのは間違いないんじゃない?」
「そうかもな......」
そう言いながら、ラントの元に近づくその刹那。
「......魔族に栄光あれ......」
「ん?!」
不意に意識を取り戻した落ちぶれ貴族は、手に小さい魔法式で組んだ魔法陣を浮かべると、ラントの腹部に押し当ててぶっ放す!
“ばしゅっ!”
「ふぐっ! お前......」
「ふふっ、油断するお主が悪いのだ......」
「くっ! お前!!」
キッ!と鋭く睨んだセリアは、倒れ込むラントから離れた落ちぶれ貴族を仕留めんばかりに詰め寄る。しかし、意識をかろうじて保っていたその口から、止める言葉がでる。
「だ、だめだ。セリア、任務は強制送還だ......」
「でも! ラント! その傷......」
「あぁ、魔力弾か、それに関するものだろう、体にはダメージは......ぐっ!」
「そんな事......」
そんなラントの様子を見た、エリス本気の魔術が飛ぶ。
「......沈め!!」
『よくも、ラント団長を!!』
その思いを込めた魔術は、貴族を従えるほどの効力をだし、床にめり込む位の破壊力をもたらしていた。
「ぐ、ぐっ......!! 凄まじいな、この力は......」
「黙れ! 黙れ!!」
「ぐぐっ!!」
怒りの頂点をゆうに超えていたエリスは、相手にした男以上に、その幹部に能力を使っていた。それは、セリアが止めるまで続いてしまった。それでも、彼女は聖騎士団のひとり。討伐任務ではないことは、理解していた。
「......エリス」
「......せんぱい。悔しいです。ラント団長が......」
「私もよ」
「あ、あぁ、ありがとな。エリス......ぐっ......」
「本当に大丈夫? ラント......」
「あ、あぁ。肉体的には大丈夫だ......傷もない......」
「なら良いけど......」
しかし、エリスの回復魔術や支配を使っても、ラントに施された魔術が解けることはなく、むしろ苦しむ一方だった。任務として成功はしたものの、あとに後悔を残す結果となってしまった。
『くっ、俺としたことが......油断が過ぎたか......』
それから聖騎士団の部屋へと戻っていく間、ラントの体は熱く火照り、全身が燃えるように熱かった。汗ばむ体に抱えているセリアは、血の気が引くようにして心配を続けていた。柔らかく熱い体に支えられるほどに、心強さを感じていた。
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結果からすれば、ラントの様態は時間を追うごとに悪化していく。セントレア皇国の地下牢に監禁された魔貴族に、いくら尋問しても“魔族に栄光あれ”というばかりで、全く要領を得る答えが返ってくることはなかった。
「ぐっ!」
「......苦しむといい。きっと、お前らは魔族に頼ることになる。未来永劫にな!」
「......なにを......」
つかつかと地下牢に続く石畳の廊下を歩きながらも、セリアは煮えくり返る感情を抑えながら、こみ上げる衝動を整理していた。
『......こちらは、手を取ろうとしている』
『なぜ、優劣をつけたがる。支え合えばいいのに......』
『それに、戦争になったら、困るのは魔族のほうだろうに......』
モヤモヤとした感情が脳裏を占めては、振り払うようにして冷静をたもつセリア。そこに、エリスも問い詰めようとしたのか、地下牢から上がってくる階段で出会う。
「どうでした? 先輩......」
「だめよ。口を割ろうとしない。彼が組んだのだから、解除の方法も......」
「こうなったら、支配で吐かせましょうか?」
セリアの横を抜け、地下牢に向かおうとするエリスの襟元を掴んで止める。
「だめよ。エリス......」
“ぎゅむ”
「あぅっ......」
「先輩! いかせてくださいよ~」
「だめに決まってるでしょ。スキルを使って自白させたことに、政治的効力があると思う?」
「それは......でも、団長が......」
「ほら、行くわよ」
「あうぅっ......」
襟元を掴みながら引くセリアと、ズルズルと引きずられてしまうエリスだった。
一方その頃。ラントの寝室には、まさかのひとが駆けつけていた。
長く垂れ下がるウェーブがかかった綺麗な銀髪と、三つ編で一部を纏めて後ろで止めている綺麗な髪と、澄んだ藤色の瞳はすっかり女王の威厳などどこへやら、ひとりの乙女になってしまっている姿だった。
「ラントさまぁぁ~」
「い、イザリア王女様?! ぐっ......」
「あぁ。急に起き上がってはいけませんわ! お命に別状がなくて......」
「本当に良かった......」
「は、はい。不覚を負いましたが」
ベッドに体を預けるラントの傍らに寄り添うようにして、手を握っていのる。その姿だけでも癒やされる。
「王女様、こちらでも、魔族と連絡を取っておりますので......」
「カエリクス。どうなっているの? 向かっているはずよね?」
恭しく、頭を垂れながら説明する静観な紳士。
先代から陰ながら支え、子息でもあるイザリアを献身的に支えている。動揺している彼女を支える紳士がいてこそ、皇国が成り立つというものだった。
「はい、こちらに医師と助手が、向かわれてるとのことで......」
「すみません。カエリクス殿のお手を煩わせてしまって......」
「いいえ、良いのですよ。それに、イザリア様からの申し出でしたので......」
「そうなんですか?」
「......カエリクス?! どうしてバラすのですかぁ!!」
エリスと同じくらいの身長と年齢、お年頃とは思えないほどにしっかりとしていて、理知的な若き女王としても知られている。ただ、ラントの目の前では、その特徴的なアホ毛がピコピコと動いているかのように、忙しなく動き回る年頃の乙女になっていた。
その滑稽な様子を見ているほど、痛みが少しだけ和らいだ様に感じていた。そこに、魔術通信がもたらされ、現状を伝えていた。
『......こちら側でも、秘匿されているようでな。尻尾が掴めぬ』
『どこの、おいぼれ貴族だよ。こんな妙な研究してるやつぁ......』
『姉さん。これじゃないかしら?』
『あん? 違うなぁ、魔族式が違う......』
『もぅ、誰よ。こんなに立て直しで忙しいのに、バカする魔族は......!』
『イレイナス。一応、セントレアの方も聞いてるのよ?』
『知らねぇよ、うちの魔族も多いんだ。それに、姉さまの手を煩わせるとか!』
『極刑にしていいんじゃね?』
何やら通信の向こう側で、物騒なやり取りをしているのが、ラントの鼓膜を震わせる。その場に居合わせたカエリクスも、苦い顔をしていた。
『と、とにかくだ。こちらからは魔族医師、エリオンと助手。メリッサを派遣する』
『それで、手を打ってくれるか?』
「はい。かしこまりました」
通信を切りながらも、呆れた様子で話を整理しながら続けて口にしていく。
「えっと、ドラクシオン、現国王であり魔王のマルケス様は...」
「魔族医師を派遣されるとのことで......」
「魔族医師?! そんな、重要人物を......俺のために......」
「いいえ、その方は、人種と魔族との間に生をなしたハーフなのです」
「そうなんですね」
「はい、その上、人と魔族。双方を平等に扱う、稀有な医師でもあります」
「なるほど......」
そんな説明を受けながらも、ラントの体は未だ熱く効力が効き続けているようだった。イザリアと会話をしながらも、時折。その痛みが体を襲い、その華奢な手を強く握ってしまう。
「いっ......」
「す、すみません......痛く......ぐっ!」
「えぇ、これくらい。平気ですわ......」
「ラント様が頼ってくれているのですもの......」
「そんな......ぐっ......」
体を横たわらせながら、心配する藤色の瞳を眺める。なおも危篤な様相を呈する姿に、いても立ってもいられなくなる。
「カエリクス。医者の先生はまだなの?」
「こちらに向かっていると......」
「それなら、転移魔法を使えばいいじゃないの!」
「それでですが、どうやら、近郊を訪問されていたようで......」
「それなら、もう到着してもいいのでは? カエリクス!」
ラントの手を握りながらも、顧問でもあるカエリクスに詰め寄る。凛々しさと共に、心配するのが上回っているのを感じる。
「......行ってください。あなたは、王女です。俺のそばにいては......」
「お出迎えが成り立ちません。それは、セントレアとしてもだめです」
「しかし......うん。分かったわ......必ず連れて戻るわ!」
「はい。お待ちしてます......」
「必ずよ! 必ず、生きていなさい! 分かったわね!」
「えぇ......」
名残惜しさと共に、ゆっくりとその小さな手が離れると、後ろ髪を引かれる表情と共に、カエリクスをけしかけるようにして、魔族領から派遣された医師と助手を迎えにいくイザリア。
『......ちゃんと、生きていなさいよ! うっかりやられたら、承知しないんだから!!』
「カエリクス! 出迎えるわよ。王妃として!」
「はっ!」
薄暗くなり始めている廊下を歩きながらも、出迎えに向かうイザリア。努めてひとりの聖騎士に肩入れする王女ではないことを胸に秘めながらも、エリオンとメリッサを出迎える。馬車での到着するのだと思っていたものの、その予想がすっかり外れることになる。
「おまたせしました!」
「あら、イザリア様。自らお出迎えとは、これは急いだ介がありましたね? 先生......」
「メリッサ。言葉が過ぎるぞ...」
「......そうでしたね」
ふわりと飛行魔法で来訪したエリオンとメリッサは、若き王女の前に着地すると、恭しく片膝をつく。
「......お、驚きましたわ。まさか、飛行魔法で来られるとは......」
「はい。この方が馬車を使うより早く馳せ参じることができるので......」
「そうですのね」
戸惑いの中で、挨拶もそこそこに済ませるイザリア。ひと呼吸を起きながらも、強く自分を律してから、ふたりを招き入れる。
**
見慣れた天井を眺めながらも、さすがに息苦しさを感じてくるラント。呼吸をしっかりと保とうとしても、次第に呼吸が浅くなる。
『......これは、まずいかもな』
『イザリア様、あなたの騎士は、先に旅立つかもしれません......』
『ですが、俺の後輩たち、セリアやエリスがきっと、守るでしょう......』
その脳裏で走馬灯でも見るかのように、幼い時にイザリアを支え、騎士として誓いをしたあの頃が懐かしく思えるほど、聖騎士として大成を果たしていたラント。体中が熱く、燃えだしそうな体に抗うものの、息苦しさには対応できずにいた。
一歩づつ、寝室に意思と助手。そしてイザリアとかイエスが向かっているものの、それを待つことすら、辛くなり始めていた。まして、セリアやエリスは、皇国にある書庫でラントの体に起こったことを調べていた。
『......ラント! 必ず、元に戻すわ!』
『団長! 元気になってくださいっす!!』
そんな思いがひとりの青年に向けられていた。そして、その体は変化を見せていく。
「ぐっ! んはっ!!」
『これは、まずいっ!!』
痛みの波がピークを迎えるのと共に、走馬灯が駆け巡る。
『すまない。セリア、エリス。カエリクス殿。そして、イザリアさま......』
そうして、意識が遠のいた瞬間。
“ぼんっ!!”
部屋の中から小さな爆発のような音が聞こえる。それは、親しい間柄の人物にも同様に届いたようで、地下牢の魔族がほくそ笑んでいた......。
「せいぜい苦しむが良い。異なる体でな! 聖騎士様よ!」
「ふははは......!!」
地下牢での高笑いが他の部屋にも響き渡る頃。ラントに近しい人物も寝室に駆けつけ始める。
「エリス、今の気がついた? 魔力の流れが変わった......」
「はい、しかも......その方向って......」
「えぇ、ラントの部屋......」
「まずいですね......行きましょう!!」
そうして、セリアやエリスが部屋の前にたどり着くと、イザリアとカエリクス。そして、医師とその助手が、様態を見ていた。
「何かあったの? 魔力の流れが......」
「おふた方も、気づかれました?」
「あんなの、誰だって分かるわ。何があったのラントに......」
「それが......」
「いいから、教えて。イザリア......」
「......エリス」
あとから来たふたりに立ちはだかるようにしていたイザリアの手を、エリスが掴む。その手を感じながら、ゆっくりと横にずれるイザリア。
「みんな、騒がしいよ。オレ。どうなたんだ......?」
「......?! は、はぁ?」
聞き慣れない声と共に、ベッドに横たわってってた姿に目を奪われる。そこには男のラントの容姿を残しつつ、髪は長くなり、胸は大きくなり、それでいて、凛々しい目元に赤い瞳というラントの特徴をそのまま残した“女の子”がそこにいた。
「あ、エリスにセリア! オレ。どうなったんだ?」
「っっっ!!!!」
「っっ!! かわいいっ♡」
「か、可愛い?! お、オレが?」
「うんうん! すごいかわいい!!」
「えぇっ......」
翡翠色の瞳を爛々と輝かせながら、ラントの元に駆け寄るエリス。そして、動揺して固まってしまったセリアという状態になってしまった。
『......オレ、どうなったんだ? 生きては......いるみたいだけど......?』
そして、完全に体を固定されるような状態で横になることしかできなかったラントは、自身の体に起きた違和感を感じられたのは、声が変わった程度だった。
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