いざゆけ乙女通信!瓶底メガネの令嬢は美形婚約者をざまぁ出来るか?

ぽんぽんぽん

文字の大きさ
12 / 24

おとつー攻める!

しおりを挟む
「ぐっ」
上品に鹿肉を口に入れたまま、キャロラインが硬直する。
「け、けっと、う、ぐぐっ」

「だって、腹が立ったんですもの」
しれっと美人の変人は、サラダをしゃくしゃく片付ける。

「うふっ。負ける喧嘩をザビーネがする訳ないじゃない。
大方親衛隊のアッカーマン様とか、ベッカー様とか、ザビーネのお・友・達・あたりが、代わりにコテンパンにのしちゃうし」
この話を切り出したビアンカが、まあまあとキャロラインをなだめる。

「そんな大事件起こしてもらっちゃ困るわよ。ただですらおとつーは目立ってるのに」

シャロンは不思議な気持ちでこのやりとりの中にいた。

昨日の今頃は、孤独を噛み締めていたのに。
婚約の行く末を案じて、暗い気持ちを持て余していたのに。

人は愛されていると感じると、こんなにも穏やかな気持ちになれるのか。

「で、如何でしょう。この草稿で大丈夫?」
その言葉が自分に向いている事にはっとして、シャロンはモードを切り替える。

「はい。良いと思います。
第一に、情報は両家からではなくコール様の従兄弟様からである事。
第二に、通信の記載による誹謗中傷があった事。
第二に関しては、今後、特集や追跡取材を通して、掲載していく旨。
コール様も、納得かと」

理路整然の平常モードに、キャロラインはにこりと笑い、草稿を受け取った。

「良かったわ。で、次の企画がね」

キャロラインが先を続けようとした時、賑やかな声と集団がランチルームに入ってきた。

「ローラン様、お隣いいでしょう?」
「あら、コール様はいつも順番にお座り下さるのよ?」
「私は向かい側でよろしくてよ、素敵な笑顔を独り占めしますわ、」
「まあ!」
キャイキャイとさえずる中等部の女子生徒達と、その中央で少し垂れ目で嬉しげなコールが目に入る。

「げ。色男とお取り巻き」
「ザビーネ、下品よ」

聞こえる由もないが、見回してコール・ローランは柔らかな笑顔をシャロン達に向けて、そのまま、凍りついた。

そして、女子生徒たちに何やら告げて、スタスタと近づいてくる。
歩を進めるにつれ、ザビーネの表情が朝の戦闘モードに変貌する。

「やあ、婚約者殿。
 怪しげな者たちとご一緒とはね」
「ご機嫌様、コール様」
シャロンは立ち上がって、礼をとる。

「皆さま、乙女通信の方々ですわ」
そして、にっこりと微笑むシャロンに、ローランは、僅かに目を見開く。

「シャロン。今日の君は少し、
……垢抜けてるね」
「お褒め頂き光栄です。キャロライン様のところで支度させていただいたのです」
ローランを真っ直ぐ見る事ができる。そんな事にも、シャロンは嬉しく感じる。

なんたって美男子なのだ。
柔らかな金髪
形の良い額にかかる癖っ毛
彫像のような鼻梁と唇……
性格はともかく、見た目は本当にシャロンのど真ん中では、ある。

「うん。いいと思うよ。やっぱり女の子は身綺麗にすべきだ。
……でも、友達は選んで欲しいね。
良からぬ通信で悪口を広めるような者には近づかないで欲しい」

コールは、他所行きで穏やかな物の言いながらも、ストレートにキャロライン達に嫌味を入れる。

「あらっ、すっぱぬきはしたけど、貴方の事はいつも褒めてるつもりよ?」
ザビーネがすかさず返す。

「ザビーネ。今日も綺麗だね。
 午前は履修が違うから会わなかったけど、午後は一緒かい?」
「残念ながらね。大丈夫よ、グループが違うから」
それは残念、と、わざとらしく肩をすくめる。

「ローラン様」
キャロラインがバトンタッチ。
「今シャロン嬢に、謝罪記事の草稿を読んで頂いたの。勝手に載せた事への了解は取れました。貴方もお読みになる?」

「謝罪?僕に恥をかかせた事に?」
(恥。)
シャロンはつきんと胸が痛む。

「事実しか書かせて頂かなかったわ。あの記事のどこに中傷がありましたか?」
キャロラインが刺々しい声で挑む。
が、
「あらっ、恥よねえー」
ザビーネがさらった。

「自分から自慢したかったわよね!なんたって、お相手がシャロンちゃんだもの!
どうせ子爵家の次男じゃあ、ちっぽけな分領か資産分けしか頂けないでしょうし、見目の良さで近衛兵あたりを狙っても、所詮は宮仕え。お給金もたかが知れてるわ。
それが、今や名門伯爵家の婿養子!
よっぽど自分で自慢したかったわよね、おめでとうー!」
パチパチパチと拍手を贈るザビーネに、面白がってビアンカも拍手する。

「くっ」
文字通り、ぐうの音も出ないローランに援護射撃が飛ぶ。

「何を仰ってるの!そこのお嬢様じゃ、ローラン様には不釣り合いだわ」
「そうよ。私たちのコール様の傍らには、やはり美しい令嬢でなくては」
「ローラン様じゃ、高嶺の花というものよ、貴女ならともかく、そのちびっ子じゃあー」

ピーチクパーチク隊の定番の応酬である。

「なんと単純な」
「「はあ?」」

キャロラインが受けて立つ。
「成長期の美醜なんてアテにはならないわ。バランスを崩して、ピークが思春期という人もいるのよ?
無論、誕生日を過ぎて15歳におなりのローラン様なら、ご成人の姿は今とお変わりなく美丈夫でしょうね。
あ、ザビーネ、貴女も同年だっけ。美人よ」

「取ってつけなくてもいいわよ。
 そうね、この私とて、2、3年の頃はバランスが悪かったわ。あ、貴女方よりは、モテたわよ?」

そう言って、ピーチク隊にしっしっと無礼をする。キーキー唸る女生徒を無視して、

「それに」
と、美女は続ける。

「容貌なんて皮一枚じゃない。そんなものの価値しか考えられない貴女達って、下品だし浅ましいわ。
そんなきゃあきゃあと好きな男に纏わりつかずに、、女の価値を磨いたら如何?」

ふふ、と笑って、ちらりとローランを見遣るザビーネに、シャロンは思う。

この人は、この人達は自立している。
階級や美醜などに囚われず、己が考えを貫くのだ。基準を他人に求めない。
強い。

(でも、ここに至るまでに、どれほどの辛苦があっただろう)

シャロンとて、純粋理論に没頭する事で、周りの物差しを見ないようにしてきた。けれど、それでは逃げでしかない事を昨日、キャロラインの言葉で思い知った。

彼女達は逃げない。
そして、したたかだ。

「でも!」
その声に思考が途切れる。

「内面は外ににじみ出るのでは?
 美しい心や優しい心は、自ずとその方を美しくしますわ。人が美しい方に心寄せるのは、その方の振る舞いやお言葉に、心根を感じるからではないでしょうか」

そう言ったのは、キャロラインと同じクラスの女生徒だ。

「失礼ですが、そちらの伯爵令嬢は、身嗜みを構わず、人とも合わせず、およそ淑女らしからぬ方と聞き及んでおります。そのような方に心寄せようとしても、いかにお優しいローラン様でも、お辛いのではと察します」

「おー、これも正論」

シャロンが耳の痛い言葉に頬を染めているのを承知でザビーネは拍手しながら受けて立つ。

「もともとの素材はいいのよ、シャロンちゃん。それを素直に伸ばせば良かったんだけど、深瀬を足掻いて自分が助かりたいからと、人を押さえ込む学校という器の中で、この子の人の良さとか聡明さとかが表に出てこなかったのよねー。
でも!今日からは違うわよ?」

(かいかぶりです、ザビーネ……)

大きく広げた風呂敷でたらめをどうやってたたむのか、と、はらはらし出したその時、

「シャロンちゃん」
「はい?」
キャロラインに振り向いた瞬間に、眼鏡をぱっと取られた。

「……え?」
パチパチと見えない目を瞬きして、状況を掴めずにキョトンとすると

「あ」
「ま」
と、近くから間抜けな声がした。

今私の目は、バッテンになっているのではなかろうか……

「ねっ。素地はいいのよ。そしてこれからの成長が楽しみですわ。
私たち乙女通信は、心より中等部イチの美丈夫と、眼鏡に隠れた美少女とが、愛を育む様子を見守って参ります」

「ハードル上がったでしょ、コール。
 シャロンちゃんが見目好い貴婦人となるよう努めるかどうかは、あんたの手腕にかかってるのよ?
せいぜい、シャロンちゃんの魅力を引き出して育てて頂戴」

唖然とするローランとピーチク隊。
遠くの席から
(可愛い……)
と聞こえたのは、空耳だろうか。昨夜ザビーネにいっぱい言われて耳についてしまったのかも。

「もっとも」
それまで、黙って成り行きを見ていた(楽しんでいた?)ビアンカさんが発言。

「私達が、シャロンさんのお友達である以上、本日のような彼女への誹謗中傷は、私達おとつーへの挑戦と受け取りますわ。ビアンカ・アズーロも、アズーロ情報網も、敵に回すとお考えなさってね」

ざわざわと小声の言葉が波立つ中、
「さー!ごはん食べちゃわないと!」
と、あっさり切り替えしたザビーネさんのおかげで、この修羅場はお開きとなった。

「キャロラインさん、メガネ、見えない」
「ごめんごめん」

ようやくピントが合った視界に、コールの目線がバチッと合う。

「……連絡する」

いつもの言葉を残して踵を返すコールの目は、昨日より柔らかかった気がする。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢の逆襲

すけさん
恋愛
断罪される1年前に前世の記憶が甦る! 前世は三十代の子持ちのおばちゃんだった。 素行は悪かった悪役令嬢は、急におばちゃんチックな思想が芽生え恋に友情に新たな一面を見せ始めた事で、断罪を回避するべく奮闘する!

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

貧乏人とでも結婚すれば?と言われたので、隣国の英雄と結婚しました

ゆっこ
恋愛
 ――あの日、私は確かに笑われた。 「貧乏人とでも結婚すれば? 君にはそれくらいがお似合いだ」  王太子であるエドワード殿下の冷たい言葉が、まるで氷の刃のように胸に突き刺さった。  その場には取り巻きの貴族令嬢たちがいて、皆そろって私を見下ろし、くすくすと笑っていた。  ――婚約破棄。

真実の愛は水晶の中に

立木
恋愛
学園の卒業を祝うパーティーの最中、レイシア・マレーニ侯爵令嬢は第三王子とピンク髪の女、その取り巻きたちによって断罪されようとしていた。 しかし断罪劇は思わぬ方向へ進んでいく。 ※「なろう」にも重複投稿しています。

悪役令嬢ですが、兄たちが過保護すぎて恋ができません

由香
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢・セレフィーナに転生した私。 破滅回避のため、目立たず静かに生きる――はずだった。 しかし現実は、三人の兄による全力溺愛&完全監視生活。 外出には護衛、交友関係は管理制、笑顔すら規制対象!? さらに兄の親友である最強騎士・カインが護衛として加わり、 静かで誠実な優しさに、次第に心が揺れていく。 「恋をすると破滅する」 そう信じて避けてきた想いの先で待っていたのは、 断罪も修羅場もない、安心で騒がしい未来だった――。

乙女ゲームの断罪シーンの夢を見たのでとりあえず王子を平手打ちしたら夢じゃなかった

恋愛
気が付くとそこは知らないパーティー会場だった。 そこへ入場してきたのは"ビッターバター"王国の王子と、エスコートされた男爵令嬢。 ビッターバターという変な国名を聞いてここがゲームと同じ世界の夢だと気付く。 夢ならいいんじゃない?と王子の顔を平手打ちしようと思った令嬢のお話。  四話構成です。 ※ラテ令嬢の独り言がかなり多いです! お気に入り登録していただけると嬉しいです。 暇つぶしにでもなれば……! 思いつきと勢いで書いたものなので名前が適当&名無しなのでご了承下さい。 一度でもふっと笑ってもらえたら嬉しいです。

婚約破棄された王太子妃候補ですが、私がいなければこの国は三年で滅びるそうです。

カブトム誌
恋愛
王太子主催の舞踏会。 そこで私は「無能」「役立たず」と断罪され、公開の場で婚約を破棄された。 魔力は低く、派手な力もない。 王家に不要だと言われ、私はそのまま国を追放されるはずだった。 けれど彼らは、最後まで気づかなかった。 この国が長年繁栄してきた理由も、 魔獣の侵攻が抑えられていた真の理由も、 すべて私一人に支えられていたことを。 私が国を去ってから、世界は静かに歪み始める。 一方、追放された先で出会ったのは、 私の力を正しく理解し、必要としてくれる人々だった。 これは、婚約破棄された令嬢が“失われて初めて価値を知られる存在”だったと、愚かな王国が思い知るまでの物語。 ※ざまぁ要素あり/後半恋愛あり ※じっくり成り上がり系・長編

毒姫の婚約騒動

SHIN
恋愛
卒業式を迎え、立食パーティーの懇談会が良い意味でも悪い意味でもどことなくざわめいていた。 「卒業パーティーには一人で行ってくれ。」 「分かりました。」 そう婚約者から言われて一人で来ましたが、あら、その婚約者は何処に? あらあら、えっと私に用ですか? 所で、お名前は? 毒姫と呼ばれる普通?の少女と常に手袋を着けている潔癖症?の男のお話し。

処理中です...