断罪の時間です! ざまぁには、ざまぁを!

ぽんぽんぽん

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D エーの懊悩

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生徒総会は、未だゴールの見えない様相を呈している。

ここで王権を発動して押し切るか。
根拠の弱さで論破するか。

一部の上位貴族の子息子女は、将来を考慮して、空気となる事を選択したが、その他大勢は明らかに楽しんでいた。


「エー副会長」
「は、はいっ」

「お前は議長であろう!
先程から黙だんまりを決め込んで!
何とか申せ!」

策が無いディー殿下は、八つ当たり的にエーに丸投げた。

「……う…」

嫌な汗を背中にかいて、エーは聡明な頭脳をフル稼働させる。

ビイ、シー同様、彼にも前列で婚約者が、
例の黒革の手帖を真顔でヒラヒラさせているのだ。
今にも、某月某日、
が聞こえてきそうだ。

「…D嬢。こうはお考えになれませんか。」

「聞きましょう。」
嫣然と令嬢はエーを見上げた。


「この議論がどうあろうと、殿下が宣言した以上、貴女の立場がぜい弱である事は間違いありません。
どうか破棄を受け入れられて、次善策を講じる方向でお考え頂けませんか?」

流石エー宰相の息子であると、会場は新たな局面に集中した。

「お考え違いをなさってはいけませんわ。
わたくしは殿下が、まことの愛とやらの為にわたくしを切るのであれば、わたくしとて、恋愛の何たるかを知らない野暮ではございません。
ですが」

「断罪、ですね。」

はい。と、公爵令嬢は頷く。

「いわれのない断罪は受け入れられません」
「謂れが有るからアーディアが傷ついたのだ!」
「ちょっとお静かに出来ませんか‼︎」

頭を振るように、殿下を遮さえぎったエーに、会場はし、ん、と静まる。


「失礼いたしました。
 今は令嬢の釈明の番ですので、しばしお待ち頂けますか……」

視線を逸らし、頭を下げたまま詫びるエーに、殿下は、
悪かった、と謝罪を受け入れた。


令嬢は続ける。

「これ以上、明らかな証拠がないとすれば、公爵家の威信にかけて、嫌疑を晴らしましょう。
警察も魔術局も介入して頂き、真犯人を糾弾いたしましょう」

「私もそれが上策かと。
ですが、覆水は盆には還らない」

ええ。

「わたくしが嫁ぐ事は、もうない。
……殿下を泳がせてしまった、わたくしの油断ですわ。
婚約者に、この様な暴挙を取らせて、何が婚約者でしょう」

淑女たるもの、ふらつく男の手綱を握る手腕なしに、家を守る事などできません……
そんな事もできないわたくしでは、この先結婚は見込めないでしょう……

柔らかな声が、呟く様に言葉を紡ぐ。
その姿に、
男達は胸が締め付けられ、女達は泣いた。

「貴女は……」

「エー副会長。
それでもまだわたくしは、公爵家の長女です。為さねばならない事を申し上げて宜しいでしょうか」

「ご存分に」

ありがとうございます、
と軽く会釈をして、令嬢は顔を上げた。

晴れ晴れと。


そして、
冷たい瞳と皮肉な笑みで、
「ディー殿下」
と、呼び掛けた。

「……何だい?」

令嬢の独白に、心揺らいでいた王子は、優しく答えた。が。

「賠償金を請求致します」
「えっ?」

「A伯爵令嬢様っ!」
D嬢が振り返ると、前列のA嬢がすっと立つ。

「計算尺を!」
「いつでも。」
すちゃっとA嬢が構える。

「幼少から現在17歳までの妃教育!」

「1日5時間と見積もりまして14600時間。官吏の時給から換算しますと2190万ゼクロールです。」

「次!夜会のホステス役!」

「デビュー以降の回数が年4回。殿下とコーディネートしたドレスが12着。おそれながら妓娼の方々の時給で換算し、更に装飾品を含めまして」

カタカタカタ。
「3618万ゼクロールです。」

「次!次期妃としての公務!」

「こちらは昨年から公式になさいましたので、およそ2年間。週20時間に均しまして、2080万ゼクロール。
その公務に際しての衣装等の経費は概算で1000万ゼクロールとなります。」

カタカタカタ…
「8888万ゼクロール。
D様が婚約の義務として果たされた金額です。」

ザワザワザワ…
(王都の貴族の館が買えるぞ)
(賠償金って、そういう事?)

「次!B嬢!」
「はあい!待ってたよん♪♪」

Bはぴょこんと跳ね起きて、中空にスクリーンを張り、数字を泳がせた。

「婚約者仕様の魔術局直々のシールド代があー、
んで!
外遊に専属の魔術師が付き添ってーっと、
王子の身辺もレンタルしてたしー、
えと、えとおー!」

ピコピコと浮かんでは消える数字を皆はぼおっと見つめて、

ピコン!

「出ましたー。
ざっと計算して、S級の魔石を300グストの重さに該当いたしまーす!」


(げっ!学園の全生徒分はあるよな)
(国境警備の魔術隊、1年分かな)

唖然、とする王子をしり目に、エーは蒼白になって行く。

これは……

「次!C嬢」
「お任せ下さい。」

銀髪を今日は垂らして、C嬢は立ち上がる。

「警備は女性騎士が担当なさいました。
学園は流石に公爵家がまかなって当然。
しかし、王宮及び夜会、茶会、外遊等の警備に2名は付いております。
こちらは婚約者としての経費と考えます。
女性騎士は優秀そして淑女としても有能。彼女らの衣装、装備、寝食を相場で計算すると」

A嬢が計算尺を動かす。
「およそ9600万ゼクロールとなります。」

カタカタカタ
「総額、現金で1億8488万ゼクロールと魔石300グスト。」

公爵令嬢は、にっこりと断ずる。

「以上がわたくしへの賠償金ですわ、殿下」

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