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B&C ビイとシー離脱
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「……魔術を使った場合、術痕が残ります。アーディア嬢の怪我の場所には、確かに術痕がありました。
そして、遠隔による物理的な移動は、かなりの魔術と言えます」
「して、下手人は判明しているのだな?」
「……」
「どうしたビイ。はっきり申せ。」
下を向いて、モゴモゴとビイが言い淀んでいると、
(―――ブラックコーヒー♪)
と言う、微かな声が、
した。
「ビイ?」
「あ、……わわわっ!
いやっ!えとっ!じ、
術痕はありましたが、
だだだ誰っーとーはー」
「嘘!アディに言ってくれたじゃない!B…ふぐっ!」
すかさず言い募ろうとするアーディアの口に、何故だかリンゴが、カポッと挟まる。
「物証はございませんのね。ビイ様?」
「……っ。は、はあ」
追求するD令嬢に滝汗のビイ。
更にささやき声が
(……乖離する俺の魂♪♪)
「わ!わあっ!‼︎
ありませんありませんありません!」
ビイは、叫んで、箱男になるべくそそくさとシールドを張り、消えてしまった。
魔術師の戦線離脱である。
その有様を見たD令嬢は、意見した。
「…殿下。王族の貴方が、曖昧な証人で動かれるなど、あってはならない事ですわ…」
「……っく!私に説教するな!小賢しい女狐め!」
「まあ、口汚い事」
「五月蝿い!ならば!」
激高した殿下は、口のリンゴをようやく外したアーディアの左手を掴み、ばっ!と捲りあげた。
いやーんっ♡
と、身をよじる恋人の声に、若干赤らみながらも、殿下は声を張る。
「見よ!この痛々しい包帯を!
命があったのは、幸いであった。
だが!将来の妃を傷物にした罪!
そなたに同様の贖罪を求めようぞ!」
「妃……ああ、ディー!私を王宮の正妃にして下さるのね!」
「勿論だ。真の愛は成就する。
私の誠を受け止めておくれ」
「ああ、ディー……」
いちゃいちゃが止まらない二人ではあったが、あくまでも育ちの良い殿下はアーディアの手を取りつつも、
「シー、お前の短剣をあやつに貸せ。
自分で付ければ、誰も咎められぬ」
と、命じた。
なんと、令嬢自らその白い肌に傷をつけろと言うのか。
なんと恐ろしい。
そしてなんという恥辱。
公爵令嬢は、ルネサンスの天才が描いた女性の様な、謎めいた微笑みを崩さない。
観衆、もとい生徒達は、やり過ぎではとざわついたが、第二王子の命には逆らえまいと、固唾を飲んだ。
命じられたシーは、モジモジしつつ、会場の一角に目線を送った。
「どうした、シー。」
シーは目線の先に居る女子生徒に釘付けになっていた。
そこには、
銀髪の美女が頬杖を着いて、不敵な笑みをたたえている。
そして
「……!」
す、と、左手に握るモノをチラつかせた。
そこには、黒い、ムチがあった。
銀髪の美女は、ふっと吐息を吐いて、そのムチに
ちゅ
と、口付け、にっ、と口角を上げた。
「……あ……あ……あ」
ブルブル震える様子に気づいた殿下が、シーの視線をたどった頃には、美女は左手を下げ、窓の外を見ていた。
「で、殿下!
私には出来ません!
た、例え悪女であっても、いや、だからこそ、私の命の剣を女の血で汚す事はっ!」
「シーさんっ!私を介抱して必ず仇を打つって言ったのは嘘なのっ!騎士の誓いは!あの時貴方は、犯人は、ぐっ!」
再びアーディアの口には、今度は洋梨が挟まり、ジタバタした。
「で殿下っ!貴方のお言葉に背くお、俺をお許しくださあい!」
シーは、そのドサクサに、壇上を駆け下り、通路を上がり、扉まで突進していった。
途中、こけっと転びそうになったのは、先程の美女がウインクを飛ばしたからであるが、それは話の進行には関係がない。
ドタン!
と、再び扉の音がして、気がつけば壇上には、
死んだ様に座っているエー副会長と、洋梨をシャクシャクするアーディア、そして演台の前で呆然とするディー殿下であった。
育ちの良い殿下は、このような重なる赤っ恥は、生まれてはじめての出来事である。
しかし
生徒総会はまだ、続いているのであった―。
そして、遠隔による物理的な移動は、かなりの魔術と言えます」
「して、下手人は判明しているのだな?」
「……」
「どうしたビイ。はっきり申せ。」
下を向いて、モゴモゴとビイが言い淀んでいると、
(―――ブラックコーヒー♪)
と言う、微かな声が、
した。
「ビイ?」
「あ、……わわわっ!
いやっ!えとっ!じ、
術痕はありましたが、
だだだ誰っーとーはー」
「嘘!アディに言ってくれたじゃない!B…ふぐっ!」
すかさず言い募ろうとするアーディアの口に、何故だかリンゴが、カポッと挟まる。
「物証はございませんのね。ビイ様?」
「……っ。は、はあ」
追求するD令嬢に滝汗のビイ。
更にささやき声が
(……乖離する俺の魂♪♪)
「わ!わあっ!‼︎
ありませんありませんありません!」
ビイは、叫んで、箱男になるべくそそくさとシールドを張り、消えてしまった。
魔術師の戦線離脱である。
その有様を見たD令嬢は、意見した。
「…殿下。王族の貴方が、曖昧な証人で動かれるなど、あってはならない事ですわ…」
「……っく!私に説教するな!小賢しい女狐め!」
「まあ、口汚い事」
「五月蝿い!ならば!」
激高した殿下は、口のリンゴをようやく外したアーディアの左手を掴み、ばっ!と捲りあげた。
いやーんっ♡
と、身をよじる恋人の声に、若干赤らみながらも、殿下は声を張る。
「見よ!この痛々しい包帯を!
命があったのは、幸いであった。
だが!将来の妃を傷物にした罪!
そなたに同様の贖罪を求めようぞ!」
「妃……ああ、ディー!私を王宮の正妃にして下さるのね!」
「勿論だ。真の愛は成就する。
私の誠を受け止めておくれ」
「ああ、ディー……」
いちゃいちゃが止まらない二人ではあったが、あくまでも育ちの良い殿下はアーディアの手を取りつつも、
「シー、お前の短剣をあやつに貸せ。
自分で付ければ、誰も咎められぬ」
と、命じた。
なんと、令嬢自らその白い肌に傷をつけろと言うのか。
なんと恐ろしい。
そしてなんという恥辱。
公爵令嬢は、ルネサンスの天才が描いた女性の様な、謎めいた微笑みを崩さない。
観衆、もとい生徒達は、やり過ぎではとざわついたが、第二王子の命には逆らえまいと、固唾を飲んだ。
命じられたシーは、モジモジしつつ、会場の一角に目線を送った。
「どうした、シー。」
シーは目線の先に居る女子生徒に釘付けになっていた。
そこには、
銀髪の美女が頬杖を着いて、不敵な笑みをたたえている。
そして
「……!」
す、と、左手に握るモノをチラつかせた。
そこには、黒い、ムチがあった。
銀髪の美女は、ふっと吐息を吐いて、そのムチに
ちゅ
と、口付け、にっ、と口角を上げた。
「……あ……あ……あ」
ブルブル震える様子に気づいた殿下が、シーの視線をたどった頃には、美女は左手を下げ、窓の外を見ていた。
「で、殿下!
私には出来ません!
た、例え悪女であっても、いや、だからこそ、私の命の剣を女の血で汚す事はっ!」
「シーさんっ!私を介抱して必ず仇を打つって言ったのは嘘なのっ!騎士の誓いは!あの時貴方は、犯人は、ぐっ!」
再びアーディアの口には、今度は洋梨が挟まり、ジタバタした。
「で殿下っ!貴方のお言葉に背くお、俺をお許しくださあい!」
シーは、そのドサクサに、壇上を駆け下り、通路を上がり、扉まで突進していった。
途中、こけっと転びそうになったのは、先程の美女がウインクを飛ばしたからであるが、それは話の進行には関係がない。
ドタン!
と、再び扉の音がして、気がつけば壇上には、
死んだ様に座っているエー副会長と、洋梨をシャクシャクするアーディア、そして演台の前で呆然とするディー殿下であった。
育ちの良い殿下は、このような重なる赤っ恥は、生まれてはじめての出来事である。
しかし
生徒総会はまだ、続いているのであった―。
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