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第一章 災厄の神子と呪われた王子

6 やっぱりおなかから? 

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「あ、あ、も、や。」
 野犬に舐められた首が熱い。
 背中のバックパックが嵩になり、俺の頭部が沈んだ分だけ喉が伸びる。

 あれから、俺は野犬に首や喉仏、顎や耳下辺りまで何度も舐められた。
 喉仏の下から顎に向かってねっとりと舐め上げられると、背中がぞくぞくして、俺は反射的に身をよじる。

 頭の中は「逃げろ」の文字で埋め尽くされているけれど、野犬にのしかかられた状態では逃げることもできない。生を諦めたからか、もう、力も入らない。

 昔、男性は死の危機に陥ると、生殖本能で子孫を残そうとすると聞いたことがあるけれど、だからだろうか? 俺、ちょっと身体が熱くて、あそこに熱がこもる。

 野犬は俺の首をひとしきり舐めたあと、今度はおなかを喰いちぎろうと、俺のシャツに頭を突っ込みシャツをたくしあげた。

「なんだよ、やっぱりおなかからかよ。」

 俺の薄手のインナーも野犬は退けようとしたみたいだけど、ピッチリしているから野犬の頭は入らない。

「へ、ざまぁ。」
 野犬のくせにシャツなんて気にしないで、喰いつけよ。

「嘘だろ…。」
 野犬は左の前足で俺の右肩を押さえつけたまま、右の前足の爪をインナーに引っ掻けて、布地を破いた。俺のおなかが見えてしまう。

「や、やめて。」
 野犬は俺のおなかを舐め、みぞおちを舐め、左胸を舐める。舐められたところが熱くて、俺の息があがる。

「あ、あ。」
 身体が熱い。舐められるごとに、背中がぞわぞわして、おへその奥が熱くなって、俺はたまらず両ひざを折り、腰を浮かして身をよじる。

 両ひざの間には野犬が陣取っていて、足を閉じることができない。
 膝と太ももに野犬の体毛が当たる。
 腰を浮かすと野犬のおなかが当たり、その体温の熱さに、ますますおへその奥が熱くなり、身をよじる。

「ん、ん、んぁ。」
 両乳首を舐められ、鳥肌がたつ。
 腰が浮いて、おへその奥が更に熱くなる。

 乳首がだんだん硬くなり、より野犬の舌の感触を拾う。乳首の先が熱くて、舐められるごとに声があがる。
 辺りには、あの、清涼感のある、少し甘くて優しい匂いが立ち込めている。

「あ、い、ゃ、も、ゃめ。」
 執拗な野犬の行為をやめさせたくて、野犬の頭を震える両手でそっとつ挟むと、野犬は嫌がることなく顔を上げ、俺の顔を見る。
 いつでも喰い殺せる余裕からか、最初の頃の怒気は野犬から感じられなかった。

 そして野犬は身を乗り出すと、今度は俺の顔を舐めてきた。

「うー、や、やら。」
 頬を舐められ、鼻を舐められ、唇を舐められ、口の中を舐められる。
 背中のぞわぞわ感が跳ね上がると共に、俺の腰もさらに上がり、野犬のおなかとぶつかる。

 野犬の舌の侵入を阻止したくて、頭を振って舌を押し返そうとするけど、野犬の力は強くて、口蓋を舐められると下半身は力が入るのに、上半身の力が抜ける。

「ん、んぁ、ゃ、ら。」
 野犬の舌は長く、喉の奥の方も舐められた。
 反射的にえずいてしまうが、野犬はやめてくれない。

 えずくと喉がしまり、野犬の舌を強く感じてしまう。擦れる舌に背中が震え、下半身に熱がたまる。

「ん、ん、ん、ゃ、ん。」
 口の中に俺の唾液と野犬の唾液がたまる。

 飲みたくないのに、息をするために唾液を飲むしかなく、何度も喉を上下させるが、野犬の舌に邪魔されて飲み込みきれない唾液が、口の中から溢れてくる。

「ふぇ、ん、ゃ、も、や。」
 息苦しさと恐怖とぞわぞわから涙がこぼれ、涙と唾液と鼻水で俺の顔はぐちゃぐちゃだ。

 身体が熱い。野犬の顔を遠ざけたいのに、腕に力が入らない。俺の両手は野犬の顔の毛をつかんだまま離すこともできない。
 
「あっ、あっ、やら!、もう、や!。」
 野犬が顔を上げて、俺と目が合う。

「もう、や、こわ、こわいよっ。」
 俺は野犬にしがみついていた指の力を抜き、震えながら野犬の頭から首筋に向かって撫でた。
 どうしてそうしたのか分からないけれど、野犬の銀色の体毛は、案外スベスベとして柔らかく、触り心地はとても良かった。

「も、もふもふ?」
 俺は全身の力が抜けていくのを感じた。力が抜けるのと同時に目の前も暗くなっていき、これ以上なにかを考えることができなくなり、今度こそ、身体の全ての力を抜いてしまった。




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