109 / 109
第三章 偽りの神子と幼馴染み
15 天然の露天は最高です
しおりを挟む
狐の団体を見かけてから、半日くらい走っているけれど、俺達はシルスの手がかりを見つけることができず、このままだと兎族のリッツアを通り越し、熊族のドーバ国方面へと抜けて、ほぼ一周してしまう勢いらしい。
辺りも暗くなってきた。森の夜は早いから、もうじき夜のとばりが下りるのではないだろうか?
俺の息も荒くなり、さすがに獣人と言えども疲れも出て来てしまったようだ。
〔そろそろ夜営の準備をしましょう。雄吾、戻ってきてください。〕
〔了解。〕
俺の心の声が聞こえたかのように、蒼士が提案してくる。こう言うところ、相変わらずの気配りさんだ。
雄吾は俺達よりもずっと広範囲に探索をしていて、蒼士と俺は最短距離を回っていた。
あれから特に危害を加えてくる団体にも、魔物にも会うことなくひたすら走っていたから、純粋に足腰に疲労がたまっている。
こんな日はお風呂に入って身体をほぐしたいところだ。
〔蒼士、こちら小さいが露天を見つけた。〕
〔露天!? お風呂!? 入れるの?〕
〔? あぁ、少し熱めだがな。〕
うわっ、うわっ。露天風呂なんて最高じゃないか。
「蒼士、蒼士! 雄吾の方へ行こうよ! 俺、頑張れる!!」
〔フフッ。了解。雄吾、そちらに合流しに行きます。そちらで夜営をしましょう。〕
〔分かった。〕
俺は蒼士の言葉を待たずに駆け出した。
〔待ちなさいシルス。雄吾の位置を把握していませんね? こちらですよ。〕
方向音痴の蒼士だけれど、不思議と俺と雄吾のいるところへは迷わずたどり着ける。案外、二人が最初はコール国を目指していたのにグルダン国へ来てしまったのも、俺がこっちに連れてこられていたからかもしれない。な-んてね。
とにかく俺は露天が楽しみで、少し受かれていたから、その後も雄吾と蒼士が二人で念話をしていても、特に不審にも思わなかった。
やがて、雄吾の待つ場所に着いた。
そこは岩地と木々が重なっている場所で、近くに沢がある。もうじき本格的な冬になるからだろうか、日が傾いてくると、気温もグッと下がるからか、露天があるだろう辺りからは湯気が沸き上がっているのが見えた。
「すっげー。ね、ね。良い感じの場所だね!。これはあれだ。人間の姿で入れたらサイコーだな!。でもでも、このままの姿でも、いけるよね。うっわ、楽しみ。早く入りたいね!」
〔ふふ、シルス、念話だけでなく、さっきから声にも出てますよ。コンコン鳴いて可愛らしいですけどね。あまり大きな声で鳴くと、周囲に悟られる危険もありますから、ほどほどにね。〕
〔あ、そうだよな。ごめんなさい。〕
〔先に蒼士と入ってこい。〕
雄吾が俺と蒼士を露天に案内してくれた。
言葉の少ない雄吾だけれど、俺の謝罪に対して、気にするなと励ましてくれているのが分かる。
岩肌の窪みに大小様々な水溜まりのような場所があって、そこから湯気がもあもあと沸き立っている。
俺は小さな湯だまりに前足を入れて入れてみた。
その温かな水温に、じんわりと解され、手足が冷えていたことを自覚した。
そのまま、身体の汚れを落として、メインと思われる大きな湯だまりに入ってみると、少し熱めな湯加減が、かじかんでいた手足の先や肩をじんわりと解してくれる。
〔ふぅー。あー、これは気持ちいい。癒されるー。解されるー。サイコーだな!。〕
〔ふふっ。確かにこれは気持ちいいですね。〕
静かに湯に浸かる蒼士の白い長毛がお湯に揺れている。
〔この北の国の温泉は、湯治効果が高いと言われています。とは言え、元来獣人は丈夫ですからね。大怪我をした軍人か生まれつき体質の弱い方が利用はしますが、あまり知られていないのが現状ですね。〕
〔へぇ、こんなに良い湯なのにもったいないね。〕
〔そうですねぇ、獣人の大半が風呂嫌いですからね。湯に浸かるという習慣のない人の方が多いように思いますね。〕
〔なるほどねぇ、だからシャワーだったり、タライだったりで、風呂屋を見かけないわけだ。〕
〔ふふ、シルスは狐族なのに風呂好きなのですね。〕
〔ん、俺は風呂大好き。こうして肩まで浸かるのも良いし、半身浴も好きだな。〕
〔なるほどね。〕
こうして俺達は、雄吾と交代しながら天然温泉をたっぷりと楽しんだ。
最初、湯から出たときに、身体をブルブル震わせてしぶきを飛ばすことがうまくできなくて、蒼士達に笑われたけれど、何度か繰り返していると尻尾の先までうまく水を弾くことができるようになった。
今はご飯も食べて、雄吾と一緒に寝ている。雄吾と蒼士が交代で見張りをしてくれるから、安心して眠ることもできた。俺も見張りをするつもりだったけれど、子どもは甘えなさいって蒼士にたしなめられてしまった。まぁ、俺的には大人なんだけれど、説明できないから引き下がるしかなかった。ごめんな。
二人のお陰で、俺は銀、狼と離ればなれになった寂しさを少しまぎらすことができる。
俺は何度めか数えられない、二人に感謝の気持ちを心の中で伝えながら、深い眠りに落ちていった。
辺りも暗くなってきた。森の夜は早いから、もうじき夜のとばりが下りるのではないだろうか?
俺の息も荒くなり、さすがに獣人と言えども疲れも出て来てしまったようだ。
〔そろそろ夜営の準備をしましょう。雄吾、戻ってきてください。〕
〔了解。〕
俺の心の声が聞こえたかのように、蒼士が提案してくる。こう言うところ、相変わらずの気配りさんだ。
雄吾は俺達よりもずっと広範囲に探索をしていて、蒼士と俺は最短距離を回っていた。
あれから特に危害を加えてくる団体にも、魔物にも会うことなくひたすら走っていたから、純粋に足腰に疲労がたまっている。
こんな日はお風呂に入って身体をほぐしたいところだ。
〔蒼士、こちら小さいが露天を見つけた。〕
〔露天!? お風呂!? 入れるの?〕
〔? あぁ、少し熱めだがな。〕
うわっ、うわっ。露天風呂なんて最高じゃないか。
「蒼士、蒼士! 雄吾の方へ行こうよ! 俺、頑張れる!!」
〔フフッ。了解。雄吾、そちらに合流しに行きます。そちらで夜営をしましょう。〕
〔分かった。〕
俺は蒼士の言葉を待たずに駆け出した。
〔待ちなさいシルス。雄吾の位置を把握していませんね? こちらですよ。〕
方向音痴の蒼士だけれど、不思議と俺と雄吾のいるところへは迷わずたどり着ける。案外、二人が最初はコール国を目指していたのにグルダン国へ来てしまったのも、俺がこっちに連れてこられていたからかもしれない。な-んてね。
とにかく俺は露天が楽しみで、少し受かれていたから、その後も雄吾と蒼士が二人で念話をしていても、特に不審にも思わなかった。
やがて、雄吾の待つ場所に着いた。
そこは岩地と木々が重なっている場所で、近くに沢がある。もうじき本格的な冬になるからだろうか、日が傾いてくると、気温もグッと下がるからか、露天があるだろう辺りからは湯気が沸き上がっているのが見えた。
「すっげー。ね、ね。良い感じの場所だね!。これはあれだ。人間の姿で入れたらサイコーだな!。でもでも、このままの姿でも、いけるよね。うっわ、楽しみ。早く入りたいね!」
〔ふふ、シルス、念話だけでなく、さっきから声にも出てますよ。コンコン鳴いて可愛らしいですけどね。あまり大きな声で鳴くと、周囲に悟られる危険もありますから、ほどほどにね。〕
〔あ、そうだよな。ごめんなさい。〕
〔先に蒼士と入ってこい。〕
雄吾が俺と蒼士を露天に案内してくれた。
言葉の少ない雄吾だけれど、俺の謝罪に対して、気にするなと励ましてくれているのが分かる。
岩肌の窪みに大小様々な水溜まりのような場所があって、そこから湯気がもあもあと沸き立っている。
俺は小さな湯だまりに前足を入れて入れてみた。
その温かな水温に、じんわりと解され、手足が冷えていたことを自覚した。
そのまま、身体の汚れを落として、メインと思われる大きな湯だまりに入ってみると、少し熱めな湯加減が、かじかんでいた手足の先や肩をじんわりと解してくれる。
〔ふぅー。あー、これは気持ちいい。癒されるー。解されるー。サイコーだな!。〕
〔ふふっ。確かにこれは気持ちいいですね。〕
静かに湯に浸かる蒼士の白い長毛がお湯に揺れている。
〔この北の国の温泉は、湯治効果が高いと言われています。とは言え、元来獣人は丈夫ですからね。大怪我をした軍人か生まれつき体質の弱い方が利用はしますが、あまり知られていないのが現状ですね。〕
〔へぇ、こんなに良い湯なのにもったいないね。〕
〔そうですねぇ、獣人の大半が風呂嫌いですからね。湯に浸かるという習慣のない人の方が多いように思いますね。〕
〔なるほどねぇ、だからシャワーだったり、タライだったりで、風呂屋を見かけないわけだ。〕
〔ふふ、シルスは狐族なのに風呂好きなのですね。〕
〔ん、俺は風呂大好き。こうして肩まで浸かるのも良いし、半身浴も好きだな。〕
〔なるほどね。〕
こうして俺達は、雄吾と交代しながら天然温泉をたっぷりと楽しんだ。
最初、湯から出たときに、身体をブルブル震わせてしぶきを飛ばすことがうまくできなくて、蒼士達に笑われたけれど、何度か繰り返していると尻尾の先までうまく水を弾くことができるようになった。
今はご飯も食べて、雄吾と一緒に寝ている。雄吾と蒼士が交代で見張りをしてくれるから、安心して眠ることもできた。俺も見張りをするつもりだったけれど、子どもは甘えなさいって蒼士にたしなめられてしまった。まぁ、俺的には大人なんだけれど、説明できないから引き下がるしかなかった。ごめんな。
二人のお陰で、俺は銀、狼と離ればなれになった寂しさを少しまぎらすことができる。
俺は何度めか数えられない、二人に感謝の気持ちを心の中で伝えながら、深い眠りに落ちていった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
157
この作品の感想を投稿する
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる