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二賀斗が葉奈の住む小屋に居候し始めてから、すでに一ヵ月以上が過ぎていた。季節も移ろい、いつの間にか秋色に模様替えし始めていた。
この日の晩も夕食を終えた二人は縁側に仲良く並んで座り、取り止めのない話を交わしていた。
「……にっかどさんって、やっぱ変わってるよ。その歳になってもまだ誰ともつきあったことないなんて。……うーん。なんだろね、見た目悪くないんだけどなァ……」
葉奈は目を細めてちょっとバカにしたような顔つきで二賀斗を茶化していた。
「俺のことはいいんだよ! ……別に、この顔で得したことなんかないんだから。それより自分はどうなんだよ。ちょうどいいや、ちょっと聞かせなよ、君の武勇伝を。十や二十じゃ済まないんだろォ?」
二賀斗が腕を組んで聞く準備を始めると、葉奈は目を伏せ、急に膝を抱え込んだ。
「……わたしは、ないよ」
「ない? 振られたことが、だろォ」
二賀斗はすかさずニヤけた顔で茶々を入れた。
「……付き合ったことが、ないの」
葉奈はすました顔で答えた。
「おいおい。そんな、俺に合わせなくたっていいよ」
「……私だって、好きでこんな顔になったわけじゃないからね、こんな。……街に出ても、どこに行っても、いつもいつも知らない人がうるさい位に寄ってくるし……」
葉奈は膝に顔を乗せると視線を遠くに落とした。
「……ぜいたくな悩みだなァ、それって」
二賀斗は、丸まった葉奈の背中を見つめた。
「私は砂糖。……蟻が群がってくる砂糖。……昔ね、中学生の時にカッターナイフで自分の顔にキズを付けようとした事があったの。そしたらお母さんに見つかっちゃって。……どうなったと思う?」
「ええッ? ……ぶん殴られたとか?」
葉奈は冷めた顔で答えた。
「お母さん、何も言わずに寂しそうに微笑んでたの。……お母さんもきれいな顔してたからさ、もしかしたら私と同じ思いをしてたのかもね……」
そう言うと、葉奈も寂しそうに微笑んだ。
「学校に行ったって、なんか見えない壁があったんだよね、みんなとは。……私はみんなの中に入ろうとがんばったんだけどさ。……もしかしたら、空回りしてたのかなぁ」
葉奈は物憂げな顔でつぶやいた。
「おーい、葉奈ちゃん。言っちゃなんだけど、そりゃしょーがないよ! だって葉奈ちゃん顔整いすぎてるんだもん。クラスに芸能人がいるような状態じゃさァ、みんなだって緊張しちまうって! 勘弁してやってくださいよー。姉さーん!」
二賀斗は何とか葉奈を励まそうとハエのように揉み手をしまくった。葉奈はそれを見ると子供のような笑顔を見せた。
「あはははは! ……にっかどさん、お互い顔のことで苦労するね」
葉奈は二賀斗の肩に手を回し、はしゃぎ出した。
「え? あ、ああ。……な、何、俺も入れてくれんの?」
予想だにしなかった葉奈の行動に、二賀斗は思わずぎこちない言葉を出してしまった。
「うん、いいよ。除け者にされたんじゃ寂しいでしょ?」
葉奈は嬉しそうに二賀斗に顔を寄せた。
「あは、ははは……」
二賀斗は照れ笑いをしながら、何とか話題を変えようとした。
「……し、しっかし、ここから見る星ってすごいきれいだよなぁ。こんなところで暮らせるって、ある意味ぜいたくだな」
「……」
葉奈は、肩に回した手を急にひっこめた。
「? ……どした」
二賀斗は葉奈の方に視線を向けた。
「……うん。……でもね、ここでしか生きられない人も、いるかもよ」
葉奈はそう言うと、夜空を見上げた。
「ここに住んでいた人のこと? 君のおばあさんとか?」
「……にっかどさん。宇宙人って、いると思う?」
葉奈は二賀斗を見てそう言った。
「宇宙人? ……いないと思うね」
二賀斗は冷ややかな表情で即答した。
「どうして?」
「まぁ、見たことがないからって言うのも理由だけどさ、俺たち人間は他の生き物からすれば宇宙人のようなものじゃないのかな。……人間は他の生き物を殺して、捕えて、食料にして。……この地球に来れるほどの科学力を持つ生物がホントにいるんならさ、俺たちゃ他の生き物同様に今ごろペットか食料になってるよ」
二賀斗はつまらなそうに答えた。
「ふふっ。にっかどさんらしいね、理由が。……じゃあさ、ネッシーっているのかな?」
葉奈は愛くるしい表情で質問した。
「……前にネットニュースで見たなぁ。あれトリックじゃなかったんだっけ。まぁ、そんなもんだと思ってたけどさ。……そもそも宇宙人にしろネッシーにしろ、だいたい現実的じゃないんだよ、そんなの。超能力のたぐいだってそうだ。そういう話題って結局、ヒトの弱みに付け込む道具にしかならないんだよ」
二賀斗は腕を組んでそう答えた。
「ふうん。……ねえ、私ってどんな感じ? なんか感じる?」
葉奈は突然、二賀斗に顔を近づけた。
「な、なんだよ。俺は未亡人しか……」
「それは置いといてよ!」
葉奈は真面目な顔つきで二賀斗を見つめた。
「はあ? ……あ、いや。と、整ってるよ。目が大きくて……な、なんなの」
二賀斗は顔を真っ赤にして目を泳がせながら答えた。
「顔じゃなくて雰囲気、……ってゆうかオーラってゆうか」
「ええっ。……わ、わっかんないよ、そんなの。……何があるの? ヒントはないの?」
二賀斗は上体を後ろに反らしながらどうしていいのかわからない顔で答えた。
「なんにも感じない? ほんとに何にも感じない?」
「……はい。すいません」
二賀斗は上目遣いで答える。
「……ならいいわ」
そう言うと、葉奈は夜空を見上げた。
「……星、キレイね」
二賀斗は星空を見上げた葉奈の横顔をジッと見つめた。
「……なんなんだよ、もう。……まぁいいや。さってと、今日も先生に喝を入れられたからよく眠れるぞォ。おやすみ」
二賀斗は縁側から腰を上げると、車の方に歩き出した。
「おやすみなさい。にっかどさん」
二賀斗の後ろ姿をしばらく見つめると、やるせない表情のまま葉奈も部屋の中に入っていった。
小屋の南側には、そこから一段降りたところに四十㎡ほどの小さな棚田がある。その棚田は長年に渡り耕作がされていなかったが、しばらく前から二賀斗と葉奈でその棚田を耕し始めていた。
青い空には、綿のような雲がいくつも浮かんでゆっくりと流れている。
「あー、もうへとへとォ」
体操着に麦わら帽子をかぶった葉奈は、畑に腰を落とした。
「ちょっと休むか」
いい色に焼けた二賀斗がキャップを脱ぎ、額の汗を腕で拭う。
「ほんと、お百姓さんには感謝しなくちゃだね」
「まったくだ。昔は半分以上お代官様に年貢として取られていたんだからなぁ」
葉奈は肩を落としてあきれ顔で二賀斗に言った。
「もぅ。……ちょっとお兄さん。過去さかのぼりすぎ。……ほんと、笑ってくれるの私ぐらいしかいないよ」
突然、二賀斗のスマホが鳴った。手に取り画面を見る。……知らない電話番号。二賀斗は葉奈から距離を取って電話に出た。
「もしもし」
「あー、にかどさんでよろしいですか?」
二賀斗は眉をひそめて答えた。
「ああ、はい。……どちらさまで?」
「南台警察署の者ですが」
「はぁ?」
二賀斗は一瞬、仕事の件かと考えたが最近警察関係の仕事はしていなかったため、頭の中であれこれと思いを巡らせてしまった。
「すいませんねぇ、だんなさん。如月明日夏さんのことで電話しました」
「……はあ?」
二賀斗は皆目見当がつかなかった。
葉奈は立ち上がると、電話している二賀斗の後ろ姿を不安そうに見つめた。
数分間の電話でのやり取りの後、二賀斗は神妙な面持ちで葉奈の所に歩み寄った。
「……は、葉奈ちゃん。悪いんだけどさ、ちょっと急ぎの用事ができちゃったよ。……まずいな。ええと、今から急いで出かけないと」
二賀斗は心許ない表情でスマホの画面を見る。
「……今、昼か。なるべく早くもどるからさ、ホントごめん。……まったく」
そう言うと、急ぎ縁側に置いてあった靴に履き替えるために斜面を駆け上ろうとした。
「にっかどさん!」
葉奈が叫んだ。
二賀斗は葉奈のその叫び声を聞くと、急いで後ろを振り返った。
葉奈がじっと二賀斗を見つめる。
「ど、どした?」
二賀斗は心配そうに葉奈を見た。
「……私ね、生きててつまんなかった。いつも窮屈で、なにかに囚われてるみたいだった。……楽しくなかった。でもね、今とっても楽しいの! こんなところでこんな生活してるのに、今すごい生きてて楽しいの!」
葉奈は生き生きとした笑顔で声を上げた。
「だからね、このままにっかどさんとのコンビが解消しちゃったら、……すごく、寂しいよ」
葉奈は笑顔でそう話したが、二賀斗にはその表情が散り際の花びらのように美しくも儚く見えた。二賀斗は、今までに見たこともない葉奈のその表情を目の当たりにして何とも言えない沸き立つ思いを憶えた。……が、唇を噛みしめてその思いを抑え込んだ。
「……葉奈ちゃん。俺はいつ君から愛想つかされるのかって、いつもビクビクしてた。……ビクビクしてた。俺から解消なんて絶対しない。君が俺に愛想つかすまでは俺たちはずっとコンビだよ」
「……うん!」
葉奈は笑ってうなずいた。
二賀斗は葉奈の笑顔を確かめると、靴を履き替え、忙しく車に乗り込み勢いよく山を下って行った。
この日の晩も夕食を終えた二人は縁側に仲良く並んで座り、取り止めのない話を交わしていた。
「……にっかどさんって、やっぱ変わってるよ。その歳になってもまだ誰ともつきあったことないなんて。……うーん。なんだろね、見た目悪くないんだけどなァ……」
葉奈は目を細めてちょっとバカにしたような顔つきで二賀斗を茶化していた。
「俺のことはいいんだよ! ……別に、この顔で得したことなんかないんだから。それより自分はどうなんだよ。ちょうどいいや、ちょっと聞かせなよ、君の武勇伝を。十や二十じゃ済まないんだろォ?」
二賀斗が腕を組んで聞く準備を始めると、葉奈は目を伏せ、急に膝を抱え込んだ。
「……わたしは、ないよ」
「ない? 振られたことが、だろォ」
二賀斗はすかさずニヤけた顔で茶々を入れた。
「……付き合ったことが、ないの」
葉奈はすました顔で答えた。
「おいおい。そんな、俺に合わせなくたっていいよ」
「……私だって、好きでこんな顔になったわけじゃないからね、こんな。……街に出ても、どこに行っても、いつもいつも知らない人がうるさい位に寄ってくるし……」
葉奈は膝に顔を乗せると視線を遠くに落とした。
「……ぜいたくな悩みだなァ、それって」
二賀斗は、丸まった葉奈の背中を見つめた。
「私は砂糖。……蟻が群がってくる砂糖。……昔ね、中学生の時にカッターナイフで自分の顔にキズを付けようとした事があったの。そしたらお母さんに見つかっちゃって。……どうなったと思う?」
「ええッ? ……ぶん殴られたとか?」
葉奈は冷めた顔で答えた。
「お母さん、何も言わずに寂しそうに微笑んでたの。……お母さんもきれいな顔してたからさ、もしかしたら私と同じ思いをしてたのかもね……」
そう言うと、葉奈も寂しそうに微笑んだ。
「学校に行ったって、なんか見えない壁があったんだよね、みんなとは。……私はみんなの中に入ろうとがんばったんだけどさ。……もしかしたら、空回りしてたのかなぁ」
葉奈は物憂げな顔でつぶやいた。
「おーい、葉奈ちゃん。言っちゃなんだけど、そりゃしょーがないよ! だって葉奈ちゃん顔整いすぎてるんだもん。クラスに芸能人がいるような状態じゃさァ、みんなだって緊張しちまうって! 勘弁してやってくださいよー。姉さーん!」
二賀斗は何とか葉奈を励まそうとハエのように揉み手をしまくった。葉奈はそれを見ると子供のような笑顔を見せた。
「あはははは! ……にっかどさん、お互い顔のことで苦労するね」
葉奈は二賀斗の肩に手を回し、はしゃぎ出した。
「え? あ、ああ。……な、何、俺も入れてくれんの?」
予想だにしなかった葉奈の行動に、二賀斗は思わずぎこちない言葉を出してしまった。
「うん、いいよ。除け者にされたんじゃ寂しいでしょ?」
葉奈は嬉しそうに二賀斗に顔を寄せた。
「あは、ははは……」
二賀斗は照れ笑いをしながら、何とか話題を変えようとした。
「……し、しっかし、ここから見る星ってすごいきれいだよなぁ。こんなところで暮らせるって、ある意味ぜいたくだな」
「……」
葉奈は、肩に回した手を急にひっこめた。
「? ……どした」
二賀斗は葉奈の方に視線を向けた。
「……うん。……でもね、ここでしか生きられない人も、いるかもよ」
葉奈はそう言うと、夜空を見上げた。
「ここに住んでいた人のこと? 君のおばあさんとか?」
「……にっかどさん。宇宙人って、いると思う?」
葉奈は二賀斗を見てそう言った。
「宇宙人? ……いないと思うね」
二賀斗は冷ややかな表情で即答した。
「どうして?」
「まぁ、見たことがないからって言うのも理由だけどさ、俺たち人間は他の生き物からすれば宇宙人のようなものじゃないのかな。……人間は他の生き物を殺して、捕えて、食料にして。……この地球に来れるほどの科学力を持つ生物がホントにいるんならさ、俺たちゃ他の生き物同様に今ごろペットか食料になってるよ」
二賀斗はつまらなそうに答えた。
「ふふっ。にっかどさんらしいね、理由が。……じゃあさ、ネッシーっているのかな?」
葉奈は愛くるしい表情で質問した。
「……前にネットニュースで見たなぁ。あれトリックじゃなかったんだっけ。まぁ、そんなもんだと思ってたけどさ。……そもそも宇宙人にしろネッシーにしろ、だいたい現実的じゃないんだよ、そんなの。超能力のたぐいだってそうだ。そういう話題って結局、ヒトの弱みに付け込む道具にしかならないんだよ」
二賀斗は腕を組んでそう答えた。
「ふうん。……ねえ、私ってどんな感じ? なんか感じる?」
葉奈は突然、二賀斗に顔を近づけた。
「な、なんだよ。俺は未亡人しか……」
「それは置いといてよ!」
葉奈は真面目な顔つきで二賀斗を見つめた。
「はあ? ……あ、いや。と、整ってるよ。目が大きくて……な、なんなの」
二賀斗は顔を真っ赤にして目を泳がせながら答えた。
「顔じゃなくて雰囲気、……ってゆうかオーラってゆうか」
「ええっ。……わ、わっかんないよ、そんなの。……何があるの? ヒントはないの?」
二賀斗は上体を後ろに反らしながらどうしていいのかわからない顔で答えた。
「なんにも感じない? ほんとに何にも感じない?」
「……はい。すいません」
二賀斗は上目遣いで答える。
「……ならいいわ」
そう言うと、葉奈は夜空を見上げた。
「……星、キレイね」
二賀斗は星空を見上げた葉奈の横顔をジッと見つめた。
「……なんなんだよ、もう。……まぁいいや。さってと、今日も先生に喝を入れられたからよく眠れるぞォ。おやすみ」
二賀斗は縁側から腰を上げると、車の方に歩き出した。
「おやすみなさい。にっかどさん」
二賀斗の後ろ姿をしばらく見つめると、やるせない表情のまま葉奈も部屋の中に入っていった。
小屋の南側には、そこから一段降りたところに四十㎡ほどの小さな棚田がある。その棚田は長年に渡り耕作がされていなかったが、しばらく前から二賀斗と葉奈でその棚田を耕し始めていた。
青い空には、綿のような雲がいくつも浮かんでゆっくりと流れている。
「あー、もうへとへとォ」
体操着に麦わら帽子をかぶった葉奈は、畑に腰を落とした。
「ちょっと休むか」
いい色に焼けた二賀斗がキャップを脱ぎ、額の汗を腕で拭う。
「ほんと、お百姓さんには感謝しなくちゃだね」
「まったくだ。昔は半分以上お代官様に年貢として取られていたんだからなぁ」
葉奈は肩を落としてあきれ顔で二賀斗に言った。
「もぅ。……ちょっとお兄さん。過去さかのぼりすぎ。……ほんと、笑ってくれるの私ぐらいしかいないよ」
突然、二賀斗のスマホが鳴った。手に取り画面を見る。……知らない電話番号。二賀斗は葉奈から距離を取って電話に出た。
「もしもし」
「あー、にかどさんでよろしいですか?」
二賀斗は眉をひそめて答えた。
「ああ、はい。……どちらさまで?」
「南台警察署の者ですが」
「はぁ?」
二賀斗は一瞬、仕事の件かと考えたが最近警察関係の仕事はしていなかったため、頭の中であれこれと思いを巡らせてしまった。
「すいませんねぇ、だんなさん。如月明日夏さんのことで電話しました」
「……はあ?」
二賀斗は皆目見当がつかなかった。
葉奈は立ち上がると、電話している二賀斗の後ろ姿を不安そうに見つめた。
数分間の電話でのやり取りの後、二賀斗は神妙な面持ちで葉奈の所に歩み寄った。
「……は、葉奈ちゃん。悪いんだけどさ、ちょっと急ぎの用事ができちゃったよ。……まずいな。ええと、今から急いで出かけないと」
二賀斗は心許ない表情でスマホの画面を見る。
「……今、昼か。なるべく早くもどるからさ、ホントごめん。……まったく」
そう言うと、急ぎ縁側に置いてあった靴に履き替えるために斜面を駆け上ろうとした。
「にっかどさん!」
葉奈が叫んだ。
二賀斗は葉奈のその叫び声を聞くと、急いで後ろを振り返った。
葉奈がじっと二賀斗を見つめる。
「ど、どした?」
二賀斗は心配そうに葉奈を見た。
「……私ね、生きててつまんなかった。いつも窮屈で、なにかに囚われてるみたいだった。……楽しくなかった。でもね、今とっても楽しいの! こんなところでこんな生活してるのに、今すごい生きてて楽しいの!」
葉奈は生き生きとした笑顔で声を上げた。
「だからね、このままにっかどさんとのコンビが解消しちゃったら、……すごく、寂しいよ」
葉奈は笑顔でそう話したが、二賀斗にはその表情が散り際の花びらのように美しくも儚く見えた。二賀斗は、今までに見たこともない葉奈のその表情を目の当たりにして何とも言えない沸き立つ思いを憶えた。……が、唇を噛みしめてその思いを抑え込んだ。
「……葉奈ちゃん。俺はいつ君から愛想つかされるのかって、いつもビクビクしてた。……ビクビクしてた。俺から解消なんて絶対しない。君が俺に愛想つかすまでは俺たちはずっとコンビだよ」
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