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しおりを挟む★アリーヤサイド
(ああ、またここだわ)
アリーヤは執務室であって本当の執務室ではない場所に立っている。
そして、いきなりリリアーナ様がノックもなしに部屋に入り、指輪を見せつけるのよね。分かっていて入らせる様なことはしない。アリーヤは内鍵を閉める。が、
「見て、アリーヤ様!」
リリアーナはものともせず、バンと無遠慮に執務室に入ってくる。前回はお兄様の色の指輪だった……もう見たくないわ。アリーヤはリリアーナから目を背ける。
「私オーランド様から婚約指輪を貰ったの!」
「……こん…やく?」
その言葉に思わず、振り向いてしまう。大きな新緑と海とが混ざったようなオーランドの瞳と同じパライバトルマリンの大きな石の周りに、ピンクブロンドの髪と同じ色の希少なパパラチアサファイアがそれを支えるように周囲をぐるりと囲っている。
「この石のように自分を支えて欲しいって、オーランド様に言われたのよ!」
それはとても似合って……いないはずなのに
(そう、お兄様が……)
そんなの嘘よ。二度と執務室に来ないで。ここは貴女のような人が来る場所じゃない。それに
(おめでとうなんて、絶対言いたくない。)
「おめでとう」
初めて声が出た。しかし、それは思っていた事と真逆で。アリーヤは祝福の言葉なんて言いたくなかったと涙を流す。リリアーナはそんなアリーヤを見て指輪を見せびらかすように、自分の目の前にもってくる。
(殿下……お兄様……)
いつの間にかリリアーナの両隣には二人がおとぎ話の騎士のように立っている。レオナルドはいつもと同じように自分を嘲笑する。リリアーナは、オーランドとウェディングドレスのデザインを考え、
「リリアーナ様はどれが好き?『義妹』の意見も聞いてあげなきゃ」
「リリアーナ、あんな愛想のない女は関係ないだろ」
アリーヤに勝ち誇った笑みで聞けば、オーランドがそれに優しく答えるように話す。
(嫌!どうして…なんで!お兄様……!!どうして彼女を名前で呼ぶの!?どうして私を名前で呼んでくれないの!?)
「そうね、私は二人の邪魔になるわ」
言いたくない言葉が次々と零れていく。いつしか3人は消え、アリーヤは上も下も右も左も自分がどこにいるのか分からない、黒い、重い粘つくような世界に立っていた。その中でレオナルドの嗤い声と、リリアーナの「どれが似合うと思う?」という声と一緒に、ウェディングドレスカタログがバサバサと落ちてくる。
(貴女に似合うドレスなんて一着だって無いわ!)
「これ、かしら?」
とあるドレスを指さすと同時にスプリンググリーンの靄が視界の端を這い回る。「あの時」見た色の光が自分を取り囲む。 耳の奥では不協和音のような囁きが響く。
「やめて!これは私の気持ちじゃない!」
アリーヤは耳を塞ぎながら喉が痛くなるまで泣き叫ぶ。また声が出なくなった。それどころか、叫ぶたびに喉が引き裂かれるような錯覚に陥り、霞は先程よりもを更にねっとりと喉を締めるように、頭を掴むように絡みつく。このまま殺されるのだろうか。明らかに鮮やかになっていく緑が不気味だ。
「嫌!お兄様!私を捨てないで!!なんでその人を選ぶの!?」
叫ぶ度に口からはたくさんの血が零れる。纏わりつく霞は重みを持ってさらに自分の動きを封じてくる。アリーヤとうとう立っていられずその場に倒れ込む。それでも、アリーヤはオーランドに叫ぶ。
「お兄様!お兄様は阿婆擦れって言ってたじゃない!ここにいるって言ったじゃない!!」
声にならない叫びにオーランドがこちらを向き
「二度と愛しのリリアーナを阿婆擦れなどと呼ぶな。お前よりリリアーナのそばがいいんだ」
自分には一度も向けられた事のない、真冬の氷のように冷たく突き刺さるような瞳でオーランドは反論する。
(お兄様がそんな事を言うなんて……)
ふと足元がぬるりと何かに掴まれ、引きずられるように落ちていく。得体の知れない薄気味悪い「あの緑」の色をした怪物が深淵の底から自分を飲み込もうとしていた。
「もう、好きにして……」
アリーヤは抗うこと無く怪物の中に飲み込まれていく。
アリーヤはハッと目が覚める。
「アリーヤ!」
オーランドが心配気に自分を覗き込むように見つめる。そんな目で見ないで欲しい。オーランドはリリアーナを選んだのだ。あの瞳が忘れられない。
アリーヤはオーランドに手を伸ばそうとしてやめる。振り払われるだけだと「分かっているから」だ。しかし、オーランドが構わずその手を握ってくる。
「触らないで!」
アリーヤはオーランドの手を振り払う。けれど、声は音にはならなかった。
(これも、夢??それとも現実?)
喉を抑える。痛みも何も無い。きっと夢だ。そうに違いない。だってこんなに苦しそうな顔をして涙するオーランドの顔を自分は見た事ない。だから頬に落ちてくる暖かい水も、一瞬触れた手の温もりもきっと……
(でも、これが現実なら良いな)
「泣かないで……世界一の美丈夫が台無しだわ」
そう言いたいのに声は出ない。アリーヤは静かにオーランドの瞳を拭うと微笑み瞳を閉じた。
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