陰キャでオタクな修行僧とキャビンアテンダント

藤咲レン

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修行1日目

1フライト目:羽田→那覇(1)

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ピピッ!ピピッ!ピピッ!

スマホのアラームが鳴る。

現在の時刻は早朝4時。
1月上旬ということで築40年を超えたアパートは完全に冷え切っている。布団も何年使ったか分からないくらい使い古しており、最近購入した大手家具チェーン店の機能性毛布を使っているが、それでも朝は底冷えするような寒さだ。

僕はエアコンのスイッチを入れる。

そして、蛍光灯の紐を引っ張り、暗い部屋に明かりをつける。
グロースターターがチカッと点滅し続いて蛍光灯が点灯した。

エアコンがガタガタを振動しながら温かい空気を埃と共に出し始める。

「うぅ・・・寒いな」

僕は思わず呟く。
ただ、部屋には俺一人しかいない。

現在35歳の独身。
年齢=彼女いない歴という典型的なモブキャラだ。


部屋が温まりきらない状態で俺は布団から出てトイレに向かう。
トイレはバストイレ共用のユニットタイプで、昨夜のシャワーの雫が足元に残っており、触れるだけで凍りそうなくらい冷たい。用を済ませてそそくさと温かさの残る布団に戻り、着替えを始める。

平日は会社にはスーツで出勤しているのでファッションに気を使う必要がない。
一方で困るのは休日の服装だ。
ひとまず、今日も大手ファストファッションで何年も前に購入したシャツとジーンズに着替え、洗面を始める。冷水のまま顔を洗うと冬であることを一層感じる。
更に、寝癖を直すためにそのまま髪を水で濡らす。これが一番冬場に堪える。

ドライヤーで髪を乾かした後は髭をシェーバーで剃り、自分なりの身だしなみを整えた。

時計の針を見ると4時30分。

「そろそろ出発するか」

部屋の蛍光灯の紐を数回引っ張り消灯し、玄関の明かりのスイッチを押す。
スニーカーに左足を通した時点で、スマホの充電器を忘れていることに気が付き、再び部屋に戻り、布団脇のコンセントに差し込まれた充電器を取り外し、肩掛けカバンに入れる。

うっかりモノの性格は子供の頃から治らないものだ。

一応、忘れ物がないか肩掛けカバンをチェックする。

財布、スマホ、替えの靴下、パンツ、Tシャツ。念のため、財布の中に入れている航空会社のクレジットカードを有無もチェックする。ちゃんとある。ヨシッ。

このクレジットカードは今日のために作ったといっても過言ではない大切なもの。
確認のために一度財布から取り出したものの、再度財布の中にしっかりと仕舞った。

家の鍵を掛け、俺は自宅アパートを後にした。

最寄り駅までは徒歩20分。
1月ということで気温は氷点下まで下がっているようで、空は完全にまだ星がキラキラと輝いている。

こんな星空を機内から見るとどんなに綺麗なんだろう。
一瞬そう思いつつ、時計に目をやり、始発電車に間に合うように小走りで駅へ向かう。

自宅アパートのある最寄駅から羽田空港までは2回乗り替えをして約2時間掛かる。
始発電車を乗り過ごすと機内で食べるおにぎりやパンを購入する時間が無くなってしまう。

僕は小走りに駅へと急いだ。




駅へ着きしばらくすると普通電車が入線した。

幸いにして土曜の始発ということで車内の人はまばらで、俺は肩掛けカバンを座席に下ろす。ひとまず始発電車には間に合ったので、このまま順調に羽田空港まで迎える安堵感で俺はしばしの仮眠についた。

車内では数十分ほど目を閉じて仮眠をしたり、イヤホンで好きなアイドルの音楽を聴いたりしながら過ごし、2回目の乗り換えで東京モノレールに乗り込んだ。ちょうど天王洲アイル駅を通過したあたりで太陽が少しずつ上り始め、空がオレンジ色に染まり始める。

いよいよ今日から”修行生活”の始まりだ。

羽田空港に近づくにつれ、着陸する様々なエアラインの航空機が見え始める。

僕は窓の外に修行という名の新たな挑戦に胸を躍らせ、乗っている東京モノレールは地下区間へと入っていった。
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