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第二章
第十五話
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教えてもらった場所は、都市の大通りから一本外れた路地にある、洒落た喫茶店だった。
内装は白で統一され、ところどころに花や小物が置かれ、明らかに女性がターゲットのお店だ。
実際、店内には俺を除いて男性の姿はない。そんなわけで、とても居心地が悪い空間だった。
「で? あんたはどれにするの?」
「うーん、そうだな……」
渡されたメニューを見て考えるが、どれも美味そうなケーキだ。
定番のショートケーキ。ガトーショコラ、ミルフィーユ生地に生クリームをたっぷりホイップして、ふんだんに果物を乗せたものなど、目移りし始めるときりがない。
「私は、これにするわ」
そう言ってセレナが選んだのはガトーショコラだった。
「ああ、それも美味そうだよな」
「でしょ? あんたは?」
「俺は、これかな」
結局選んだのはミルフィーユ生地の物だった。
あのサクサクした触感が好きで、タルトなんかも大好物だ。もちろん、フィル姉のパイに及ぶとは思っていないが。
「あっ、それ一口頂戴。私、それも気になってたのよ」
「じゃあ、お前のも一口くれ」
「いいよ。じゃあ、約束ね」
そう言ったセレナの顔は、満面の笑みだった。
なんだ、普通に笑えるんじゃねーか。
今日見た表情は、謝った時に見せたショボン、とした表情と、俺との会話で怒った表情だけだった。
だから、セレナの笑顔を見て、少しだけ。こいつに対して感じていた壁というか、なんというか。そういったものがなくなった気がした。
「その、さ。さっきは素直になれなかったけど、これで最後にするから。本当に、ありがとね」
ケーキと飲み物を注文して少し。セレナが口を開いた。
「ああ、気にするな」
が、それ以降会話がなくなる。
どうにも、先ほどの事が尾を引いているらしい。
「お待たせしました!」
そんな空気を壊すかのように、明るい店員さんの声が届く。
やっと来たか。と、内心で安堵する俺だったが。
「キャッ」
その時、何かに躓いたのか女性店員がよろめく。
同時に、手に持っていたトレイが宙を舞い。
ボトン。と言う音と共に、セレナの上に落ちた。
「おい、大丈夫か?」
店員は転んだりしておらず、特に心配はなさそうだったので、セレナに駆け寄る。マントには紅茶が染み込んでしまい、少し染みになっていた。
「とりあえず、これ脱げ」
紅茶が染みたままでは、セレナの体が冷えてしまう。そう判断して顔を上げて伝えたのだが。
「あっ……」
セレナの呟きが聞こえる。
俺の顔と、セレナの顔は、至近距離にあった。
セレナの顔が、よく見える。今なら、まつ毛の数だって数えられそうだ。
肩口で切りそろえられた、カールのかかった髪。透き通った黒い瞳。テーブルに乗るほどの大きな胸。更に女の子特有の甘い香りが鼻孔を擽る。
なんだよ、普通にかわいいじゃん……。
この状況で、猛烈にセレナを女として認識してしまい、俺の頬が、耳が、熱を持つのが感じられる。
「あ、えっと……」
どうしようか、判断ができずにいると。
「申し訳ありません! お怪我はありませんか⁉」
という、駆け寄ってきた店員さんの声で我に返る。
「は、はい! 平気です。心配しないでください」
「ですが、お召し物が! すぐに着替えを用意いたします。後、今日のお代は結構です。後でクリーニング代もお渡しいたしますので」
「あ、はい。わかりました」
店員さんの真剣な謝罪に、セレナは押されて頷くしかできないようだった。
「彼氏さんも、申し訳ありません。折角のデートを邪魔してしまいまして」
「はっ? 彼氏?」
「ん? 違うのですか? 遠目から見ていても、お似合いのお二人でしたので、てっきりそうかと……」
「あ、えっと……」
なんて答えればいいんだ?
と考えているうちに、店員さんが呼ばれてその場を去っていく。残されたのは、何とも言えない空気と、恋人に勘違いされて真っ赤になった俺とセレナだった。
内装は白で統一され、ところどころに花や小物が置かれ、明らかに女性がターゲットのお店だ。
実際、店内には俺を除いて男性の姿はない。そんなわけで、とても居心地が悪い空間だった。
「で? あんたはどれにするの?」
「うーん、そうだな……」
渡されたメニューを見て考えるが、どれも美味そうなケーキだ。
定番のショートケーキ。ガトーショコラ、ミルフィーユ生地に生クリームをたっぷりホイップして、ふんだんに果物を乗せたものなど、目移りし始めるときりがない。
「私は、これにするわ」
そう言ってセレナが選んだのはガトーショコラだった。
「ああ、それも美味そうだよな」
「でしょ? あんたは?」
「俺は、これかな」
結局選んだのはミルフィーユ生地の物だった。
あのサクサクした触感が好きで、タルトなんかも大好物だ。もちろん、フィル姉のパイに及ぶとは思っていないが。
「あっ、それ一口頂戴。私、それも気になってたのよ」
「じゃあ、お前のも一口くれ」
「いいよ。じゃあ、約束ね」
そう言ったセレナの顔は、満面の笑みだった。
なんだ、普通に笑えるんじゃねーか。
今日見た表情は、謝った時に見せたショボン、とした表情と、俺との会話で怒った表情だけだった。
だから、セレナの笑顔を見て、少しだけ。こいつに対して感じていた壁というか、なんというか。そういったものがなくなった気がした。
「その、さ。さっきは素直になれなかったけど、これで最後にするから。本当に、ありがとね」
ケーキと飲み物を注文して少し。セレナが口を開いた。
「ああ、気にするな」
が、それ以降会話がなくなる。
どうにも、先ほどの事が尾を引いているらしい。
「お待たせしました!」
そんな空気を壊すかのように、明るい店員さんの声が届く。
やっと来たか。と、内心で安堵する俺だったが。
「キャッ」
その時、何かに躓いたのか女性店員がよろめく。
同時に、手に持っていたトレイが宙を舞い。
ボトン。と言う音と共に、セレナの上に落ちた。
「おい、大丈夫か?」
店員は転んだりしておらず、特に心配はなさそうだったので、セレナに駆け寄る。マントには紅茶が染み込んでしまい、少し染みになっていた。
「とりあえず、これ脱げ」
紅茶が染みたままでは、セレナの体が冷えてしまう。そう判断して顔を上げて伝えたのだが。
「あっ……」
セレナの呟きが聞こえる。
俺の顔と、セレナの顔は、至近距離にあった。
セレナの顔が、よく見える。今なら、まつ毛の数だって数えられそうだ。
肩口で切りそろえられた、カールのかかった髪。透き通った黒い瞳。テーブルに乗るほどの大きな胸。更に女の子特有の甘い香りが鼻孔を擽る。
なんだよ、普通にかわいいじゃん……。
この状況で、猛烈にセレナを女として認識してしまい、俺の頬が、耳が、熱を持つのが感じられる。
「あ、えっと……」
どうしようか、判断ができずにいると。
「申し訳ありません! お怪我はありませんか⁉」
という、駆け寄ってきた店員さんの声で我に返る。
「は、はい! 平気です。心配しないでください」
「ですが、お召し物が! すぐに着替えを用意いたします。後、今日のお代は結構です。後でクリーニング代もお渡しいたしますので」
「あ、はい。わかりました」
店員さんの真剣な謝罪に、セレナは押されて頷くしかできないようだった。
「彼氏さんも、申し訳ありません。折角のデートを邪魔してしまいまして」
「はっ? 彼氏?」
「ん? 違うのですか? 遠目から見ていても、お似合いのお二人でしたので、てっきりそうかと……」
「あ、えっと……」
なんて答えればいいんだ?
と考えているうちに、店員さんが呼ばれてその場を去っていく。残されたのは、何とも言えない空気と、恋人に勘違いされて真っ赤になった俺とセレナだった。
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